↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
6/29

【episode6】夢への一歩

 翌日の放課後、私は家に帰ると、制服のままリビングへ向かった。昨日、両親にダンスと歌を習いたいとお願いして、教室を探してみようと言ってもらえたことが、朝からずっと頭の中に残っていた。


 「ただいまー!」


 「おかえり、萌花」


 リビングに入ると、母がソファに座ってスマートフォンを見ていた。画面を見つめているところを見ると、何かを調べているらしい。


 「お母さん、もしかして……」


 「ああ、昨日のこと? ちょうど調べてたところよ」


 そう言って、母がスマートフォンの画面をこちらに向けてくれた。


 そこには、いくつかのダンススクールの名前が表示されていた。K-POPのダンスを中心に教えているところや、初心者向けのクラスがあるところ、歌のレッスンも受けられるところなど、それぞれ特徴が違うらしい。


 「わあ……結構あるんだ」


 「うん。駅から近いところもあれば、少し遠いところもあるみたい」


 私は母の隣に座り、画面を覗き込みながら一つずつ見ていった。どんな先生がいるのか、どんなレッスンをしているのか、初心者でも大丈夫なのか。気になるところを確認していくうちに、だんだん真剣になっていく。


 前の人生では、私はダンスも歌も何年も練習してきた。でも、今の私はまだ十三歳の身体で、前の人生とは身体の感覚も違う。これから本格的に練習していくなら、最初から自分に合った環境を選んだほうがいい。


 「ここ、体験レッスンがあるよ」


 母が一つの教室を指差した。


 「体験?」


 「そう。実際にレッスンを受けてみて、続けられそうかどうか決められるみたい」


 画面を見てみると、初心者向けのK-POPダンスクラスがあり、歌のレッスンについても書かれていた。


 「ここ……いいかも」


 思わず画面に顔を近づけてしまう。


 「行ってみる?」


 「行きたい!」


 気づけば、私は即答していた。


 母がくすっと笑う。


 「そんなに楽しみ?」


 「だって、初めてちゃんと習えるんだもん!」


 前の人生でも、レッスンを始めたときは嬉しかった。けれど、今は少し違う。何も知らないところから始めるわけではない。前の人生で経験したことを知識として持ったまま、もう一度最初から挑戦できるのだ。


 それが、たまらなく嬉しかった。


 「じゃあ、体験レッスン申し込んでみようか」


 「うん!」


 母が申し込み画面を開き、空いている日を確認する。


 「土曜日なら行けそうだけど、どう?」


 「土曜日なら大丈夫!」


 いくつか必要事項を入力して、最後に申し込みボタンを押す。


 画面に申し込み完了の表示が出た瞬間、私は思わず両手を握った。


 「……決まった」


 「うん。土曜日ね」


 体験レッスンの日が決まった。


 たったそれだけのことなのに、胸の奥がどきどきしてくる。


 どんな先生なんだろう。どんな子が来るんだろう。ちゃんと踊れるかな。それとも、今の身体にまだ慣れていなくて、思ったように動けないかもしれない。


 いろんなことが頭に浮かんできたけれど、不安よりも楽しみのほうが大きかった。


 「お母さん、ありがとう!」


 「どういたしまして。でも、始めたらちゃんと続けるのよ?」


 「もちろん!」


 私は笑顔で頷いた。


 部屋に戻ると、机の上に置いてあったノートを開いた。昨日書いた『ダンス・ボーカル教室を探す』という項目の横に、今日の日付を書き込む。


 そして、その下に新しく書いた。


 『体験レッスンに行く』


 書き終わった文字を見つめていると、自然と笑顔になった。


 まだオーディションを受けたわけでもない。ステージに立ったわけでもない。それどころか、レッスンすらまだ始まっていない。


 それでも、昨日までとは何かが違っていた。


 夢に向かうための最初の予定が、ちゃんと決まったのだ。


 私はペンを置き、ノートを閉じた。


 「土曜日か……楽しみだな」


 そう呟いてから、私はベッドに座った。


 前の人生では、夢を追いかけることが当たり前になっていて、練習することも、失敗することも、いつの間にか日常の一部になっていた。でも今は、その一つ一つが新鮮に感じられる。


 もう一度、夢を追いかけられる。


 その事実が、何より嬉しかった。


 「今度こそ……」


 私は小さく呟き、窓の外を見た。


 夕方の空は、少しずつオレンジ色に染まっている。


 体験レッスンまで、あと数日。


 私はその日が来るのを楽しみにしながら、ゆっくりとノートを鞄にしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。