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【episode4】はじめまして、私のクラス

 学校に着いた私は、昇降口で上履きに履き替え、教室へと向かった。廊下には、友達同士で楽しそうに話している生徒や、慌てて教室へ駆け込んでいく生徒の姿があった。そんな光景を眺めながら歩いていると、少しずつ緊張してきた。


 ……そういえば、私、このクラスでどんな子だったんだろう。


 昨日は自分が転生したという事実を受け入れるだけで精一杯で、クラスメイトの名前もほとんど確認していなかった。スマートフォンに届いていたメッセージも、ちゃんと読めていない。今まで普通に学校生活を送っていたはずなのに、私にとっては初めての場所も同然だった。


 教室の前まで来ると、私は一度深呼吸をしてから扉を開けた。


 「おはよー!」


 「おはよう、萌花ちゃん!」


 何人かのクラスメイトが声をかけてくれたので、私も笑顔で挨拶を返しながら、自分の席へ向かった。すると、隣の席に座っていた女の子が、机に頬杖をついたままこちらを振り向いた。


 「萌花、おはよ。ねえ、昨日送ったメッセージ見た?」


 「えっ?」


 思わず固まってしまった。


 昨日のメッセージ……。そういえば、スマートフォンに知らない名前からの通知がいくつも届いていた。転生したばかりで頭がいっぱいだった私は、ほとんど確認していなかったのだ。


 「あ、ごめん! 昨日ちょっとバタバタしてて、まだ見てないんだ」


 「えー、そうなの? まあいいや。今日の放課後、みんなで新しくできたお店に行こうって話してたんだけど、萌花も来ない?」


 「新しいお店?」


 「駅前のところ! クレープとか飲み物とか売ってるんだって。まだ行ったことないから、みんなで行こうって」


 クレープ。甘いものは好きだし、せっかくならクラスメイトとも仲良くなりたい。けれど、今日は帰ったら確認したいこともある。少し考えてから、私は申し訳なさそうに笑った。


 「ごめんね、今日はちょっと用事があるんだ。また今度誘って!」


 「そっか、了解! じゃあ、また今度ね」


 女の子はあっさり頷くと、再び友達との会話に戻っていった。


 ……よかった。普通に話せた。


 そんなことを考えながら鞄を机の横に掛けていると、今度は前の席の男の子が振り返った。


 「なあ、萌花。今日の数学の宿題って、最後の問題どうやって解いた?」


 「えっ、宿題?」


 今度は数学か。


 慌てて教科書とノートを取り出すと、確かに昨日の宿題らしい問題が書かれていた。私はノートを開き、最後の問題を確認する。幸い、問題そのものは難しくなさそうだった。


 「えっとね、ここを先に計算してから、こっちに代入するんだよ」


 「うわ、そういうことか! 俺、ずっと反対にやってたわ。ありがと!」


 「どういたしまして」


 男の子は納得した様子で前を向いた。私はほっと胸を撫で下ろした。どうやら、勉強のことならなんとかなりそうだ。


 やがてチャイムが鳴り、先生が教室に入ってきた。


 午前中の授業は、国語と数学、それから英語だった。黒板に書かれた文字をノートに写し、先生の話を聞きながら問題を解いていく。途中、教科書のページを間違えて慌てる場面もあったけれど、隣の席の女の子が小声で教えてくれたおかげで、なんとか乗り切ることができた。


 「ありがと」


 小声でお礼を言うと、彼女はにこっと笑った。


 「いいよー。私もたまに間違えるし!」


 その自然な笑顔を見て、私もつられて笑ってしまった。


 授業が終わると、教室の中は一気に賑やかになった。私はノートを片づけていると、さっきの女の子が椅子を持って近くにやってきた。


 「ねえ萌花、ちょっと聞いてもいい?」


 「うん、なに?」


 「最近、K-POP聴くようになったんだけど、グループが多すぎて、誰から聴けばいいのか分かんなくてさ。萌花って詳しい?」


 その質問を聞いた瞬間、私は思わず顔を輝かせてしまった。


 「好きだよ! 私、K-POP大好き!」


 「やっぱり! じゃあ、おすすめ教えて!」


 「えっとね、まずは自分の好きな曲を見つけるのがいいと思う! ダンスがかっこいいグループもあるし、歌声が魅力的なグループもあるし、曲の雰囲気もそれぞれ違うから!」


 気づけば、私は身を乗り出して話していた。


 好きな音楽について話すのは楽しい。相手が興味を持ってくれていると思うと、ついあれもこれも教えたくなってしまう。


 「へえー! 萌花って、本当に好きなんだね」


 「あっ、ごめん! ちょっと話しすぎた?」


 「全然! むしろ、もっと聞きたい!」


 女の子が笑いながらそう言ってくれたので、私は安心して話を続けた。好きな曲の話から、ミュージックビデオの演出やダンスの話にまで広がり、気がつけば休み時間が終わる直前になっていた。


 「やばっ、次の授業始まる!」


 「ほんとだ!」


 二人で慌てて席に戻ると、ちょうど先生が教室へ入ってきた。


 午後の授業も無事に終わり、帰りのホームルームが始まった。先生から明日の持ち物や提出物について説明があり、最後に日直の号令で一日が締めくくられた。


 「起立、礼!」


 「ありがとうございました!」


 挨拶が終わると、教室は再び賑やかになった。机を寄せて話し始める子もいれば、部活動へ急いで向かう子もいる。


 私は鞄に教科書をしまっていると、隣の席の女の子が声をかけてきた。


 「萌花、今日は帰るの?」


 「うん、今日はまっすぐ帰るよ」


 「そっか! じゃあ、また明日ね。今度K-POPのおすすめ、もっと教えて!」


 「うん、もちろん!」


 私は笑顔で手を振った。


 教室を出て、昇降口で靴を履き替える。校門を出ると、午後の光が道路に長い影を落としていた。朝は緊張でいっぱいだったのに、今は少しだけ気持ちが軽くなっている。


 クラスメイトと話して、宿題のことを聞かれて、好きな音楽の話で盛り上がって。特別なことがあったわけではないけれど、普通の学校生活というものが、なんだか新鮮に感じられた。


 「……明日も、こんなふうに話せるといいな」


 小さく呟き、私は家へ向かって歩き出した。


 家に帰ったら、まず宿題を終わらせよう。それから、これからのことも考えたい。


 まだ始まったばかりの新しい生活。焦らず、一つずつ慣れていけばいい。


 そんなことを考えながら、私は夕方の道を歩いていった。

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