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【episode21】バズ?

文化祭で披露する四曲が決まってから、私は毎日、学校から帰ると練習に取り組んでいた。『BLACK VENOM』の鋭い視線と力強いダンス、『Cherry♡Magic』の自然な笑顔とかわいらしい振り付け、『STARLIGHT』の伸びやかな歌声、そして最後を飾る『NO LIMIT』の圧倒的な迫力。それぞれの曲で求められる表情も、体の使い方も違う。四曲をただ踊れるようにするだけじゃ意味がない。見ている人に、それぞれの曲の魅力を届けたい。


前世でも、私は何度も同じ振り付けを繰り返し練習していた。鏡の前で細かい動きを確認して、動画を撮って、自分の癖を見つけて直していく。今の体は前世とは違うけれど、体の使い方を覚えさせる感覚は残っている。だからこそ、今回も妥協するつもりはなかった。


そして、文化祭まであと二週間となった頃、思いがけないことが起きた。


「……え?」


夕食を終え、自分の部屋でスマホを確認していた私は、思わず画面を二度見した。


文化祭の宣伝をしている学校の公式SNSアカウント。そこには、私が四曲を練習している様子を短く編集した動画が投稿されていた。撮影したのは、文化祭の宣伝担当の生徒たちだ。私のダンスを見て、ぜひ紹介したいと言ってくれたので、学校側の許可を取って投稿してもらったのだった。


最初は、せいぜいクラスメイトや学校関係者が見てくれるくらいだと思っていた。


ところが、動画には予想以上の反応が集まっていた。


《え、普通にダンス上手くない!?》

《曲ごとに雰囲気変わるのすごい》

《最後の表情、めっちゃかっこいい!》

《文化祭でこれ見られるの? 行きたい!》

《この子、アイドル目指してるのかな?》


コメント欄には、知らない人からの感想が次々と増えている。再生回数も、私が想像していた数字をとっくに超えていた。特に『BLACK VENOM』の短いパートは、鋭い表情とダンスの迫力が目を引いたらしく、何度も再生されているようだった。


「うそ……こんなに見てくれてるの?」


嬉しくて、画面をスクロールする指が止まらない。もちろん、すべてのコメントが好意的なわけじゃない。それでも、私のパフォーマンスを見て、文化祭に行きたいと思ってくれた人がいる。それだけで、練習してきてよかったと思えた。


翌朝、教室に入ると、いつもより周囲が騒がしかった。


「ねえ、あの動画見た!?」

「見た見た! 文化祭の宣伝に出てる子、同じ学校なんでしょ?」

「音羽さんだよね? 昨日、動画が回ってきたんだけど!」


自分の名前が聞こえて、私は思わず足を止めた。クラスメイトたちがスマホを見せ合いながら、昨日の動画について話している。


「おはよう、萌花ちゃん!」


瑠夏が、いつもの明るい笑顔で近づいてきた。隣には澪音と麗奈もいる。


「昨日の動画、すごかったね! あんなに再生されるなんて思わなかった!」


「うん、私もびっくりしたよ」


「コメントもいっぱいついてたよね。文化祭、見に行きたいって人もいたし!」


澪音も笑顔で続けた。だけど、その目は私ではなく、私の周りに集まっているクラスメイトたちを気にしているようだった。


「でも、動画って実際より上手に見えることもあるしね。本番で同じようにできたらいいよね」


麗奈がさらりと言った。


「そうだね。本番も頑張るよ!」


私は素直に答えた。今の動画がよく見えたとしても、それで満足するつもりはない。むしろ、これだけ期待してくれる人がいるなら、もっと練習しなきゃと思った。


その日の昼休み、宣伝担当の子が興奮した様子で教室に駆け込んできた。


「音羽さん、ちょっと聞いて! 学校の公式アカウント、フォロワーが一万人超えたんだって!」


「えっ、一万人!?」


思わず大きな声が出た。


「そう! 動画が広がって、学校のアカウントまでフォローしてくれる人が増えてるの! 文化祭の告知も見てもらえてるみたい!」


一万人。数字の大きさに、すぐには実感が湧かなかった。私が練習している姿を見て、知らない人たちが学校のアカウントをフォローしてくれた。しかも、その人たちの中には、文化祭を見に来ようとしてくれている人もいるらしい。


「すごいね、萌花ちゃん!」


近くにいたクラスメイトが声をかけてくれる。私は照れくさくなって笑った。


「ありがとう。でも、まだ本番じゃないからね。ちゃんと期待に応えられるように練習するよ」


その言葉に、クラスメイトたちが「頑張って!」と声をかけてくれた。


一方、少し離れたところで瑠夏たちは、私たちの様子を眺めていた。


「……なんか、すごいことになってるね」


澪音が小さな声で呟く。


「たかが文化祭の動画じゃん。そんなに騒ぐこと?」


麗奈は不機嫌そうにスマホを操作していた。画面には、学校の公式アカウントの投稿と、増え続けるコメントが映っている。


「でも、これだけ見られてたら、本番で失敗したら大変だよね」


瑠夏はそう言って笑った。口調はいつもと変わらない。でも、スマホを握る指には力が入っていた。


最初は、私が四曲も踊り切れるはずがないと思っていたのかもしれない。少なくとも、こんなにたくさんの人が私のパフォーマンスを楽しみにするとは、考えていなかったのだろう。


私は三人の視線に気づかないふりをして、練習用のノートを開いた。


文化祭まで、あと二週間。


注目されることが増えたからといって、私のやるべきことは変わらない。ダンスの細かい部分を直して、歌の安定感を上げて、四曲それぞれの魅力をもっと引き出す。


フォロワーが一万人を超えたのは、確かにすごいことだ。でも、私が本当に見せたいのは数字じゃない。


ステージの上で、最高のパフォーマンスをすること。


そのために、私は今日も練習を続ける。

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