【episode20】曲決め
文化祭のステージ発表を引き受けた翌日。私は学校へ向かう途中から、ずっと披露する曲について考えていた。
せっかくのチャンスなんだから、ただ好きな曲を踊るだけじゃもったいない。ガールクラッシュ系でかっこよさを見せて、かわいい系でギャップを作って、爽やかな曲で観客を魅了して、最後はもう一度かっこよく締める。そんな構成にしたら、いろいろな自分を見せられるんじゃないかな。
教室に着くと、文化祭の話題で盛り上がっているクラスメイトたちの姿が目に入った。
「ねえ、萌花! 昨日のステージ発表のことなんだけど、曲ってもう決めた?」
声をかけてきたクラスメイトに、私は鞄を机に置きながらうなずいた。
「うん、いくつか考えてきたよ! せっかくだから、違うコンセプトの曲を四曲やりたいなって!」
「四曲!? 一人で全部!?」
「そう! かっこいい系もかわいい系も、爽やかな曲も、いろいろやりたいんだよね」
「へえ、四曲もやるんだ!」
その声を聞きつけた瑠夏たち三人も、私たちのところへやってきた。
「何の話してるの?」
「文化祭の曲! 萌花、一人で四曲やるんだって!」
「あ、そうなんだ!」
瑠夏は驚いたように目を丸くしてから、にっこり笑った。
「すごいね、萌花ちゃん! でも、四曲って結構大変じゃない? 全部ちゃんと踊れるの?」
心配してくれているような口調だった。けれど、最後の一言には、ほんの少しだけ引っかかるものがあった。
「うん。これから練習するよ!」
「そっかぁ。頑張ってね!」
瑠夏は笑顔でそう言った。澪音も私のノートをのぞき込みながら、興味深そうに首をかしげる。
「どんな曲にするの? 萌花ちゃんに似合う曲だといいね!」
「いろいろ考えてきたよ!」
私はノートを開き、まず一曲目のタイトルを見せた。
「一曲目は『BLACK VENOM』! ガールクラッシュ系の曲で、強気な表情とか鋭いダンスとか、圧倒的なカリスマ性を見せる感じにしたいんだ!」
「ガールクラッシュ系?」
瑠夏が不思議そうに聞き返す。
「うん! かっこいい系だよ。堂々としていて、見ている人が圧倒されるようなパフォーマンスにしたいんだ!」
「あー、なるほどね!」
瑠夏はうなずいたあと、少し考えるように私を見た。
「でも、萌花ちゃんって普段はおとなしい感じじゃん? そういう強気な雰囲気、出せるのかな?」
「え?」
「いや、悪い意味じゃないよ! 普段の萌花ちゃんと全然違うから、どんな感じになるのかなーって!」
そう言って、瑠夏は楽しそうに笑った。
澪音も「確かに、かっこいい系って表情とか難しそうだよね」と続ける。
「ダンスもキレが必要なんでしょ? 四曲もあるのに、そんなに難しい振り付けまで覚えられるの?」
「練習すれば大丈夫だと思うよ」
私はできるだけ普通の調子で答えた。
もちろん、簡単だとは思っていない。ガールクラッシュ系のパフォーマンスでは、動きを大きくするだけではなく、力の入れ方や目線、表情まで細かく考える必要がある。でも、だからといって、最初から無理だと決めつける理由にはならない。
「そっかぁ。まあ、頑張ってね!」
瑠夏は笑顔のまま引き下がった。
私は次のタイトルを指さした。
「二曲目は『Cherry♡Magic』! 王道のかわいい系で、甘い笑顔とか、キュートな振り付けとか、愛嬌たっぷりのパフォーマンスにしたいなって!」
「えー、かわいい系?」
麗奈が少し首をかしげた。
「それも萌花に合うのかな? かわいい系って、ただ笑って踊ればいいわけじゃないんでしょ?」
「うん。表情とか仕草も、曲に合わせて変えるつもりだよ」
「へえー。なんか難しそう!」
澪音が口元に手を当てる。
「かっこいい系もかわいい系も、両方ちゃんとできなきゃいけないんだもんね。しかも一人でしょ? 途中で疲れちゃわない?」
「体力も含めて練習するよ!」
「そっか! すごいねぇ、四曲も!」
瑠夏は感心したように言った。けれど、その声には、どこか面白がっているような響きが混ざっていた。
私は気づかないふりをして、三曲目のタイトルを見せる。
「三曲目は『STARLIGHT』! 爽やかで華やかな曲にしたいんだ。伸びやかな歌声と軽やかなダンスで、希望を感じられるようなステージにしたい!」
「へえ、歌も踊りながら歌うんだよね?」
瑠夏が尋ねた。
「うん、そのつもりだよ!」
「ダンスしながら歌うのって、結構大変そう。息切れしたりしないの?」
「だから、歌いながら踊る練習もするよ」
「なるほどねぇ」
瑠夏はうなずいたけれど、すぐに澪音の方を見た。
「ねえ、私だったら絶対途中で息切れしちゃう! 萌花ちゃん、すごいね。そんなに自信あるんだ?」
褒めているようにも聞こえる。でも、わざわざ自信があるのかと聞いてくるあたり、素直に受け取る気にはなれなかった。
「自信があるというより、できるように練習するだけだよ」
私はそう答えた。
できるかどうかなんて、やってみなければわからない。最初から完璧にできる人なんて、きっといない。大切なのは、難しいことを理由に諦めるのではなく、どうしたらできるようになるのかを考えることだ。
そして、最後の四曲目。
「ラストは『NO LIMIT』! 力強いパフォーマンスで締めたいんだ。最後まで観客を惹きつけて、印象に残るステージにしたくて!」
「またかっこいい系なんだ!」
瑠夏は少し驚いたように声を上げた。
「最初もかっこいい系で、最後もかっこいい系ってこと? 途中でかわいい系も爽やかな曲もあるし……全部、雰囲気が違うんだね」
「うん! 曲ごとに違う魅力を見せたいから!」
「でもさ、四曲全部を違う雰囲気で踊るって、かなり難しくない?」
澪音が心配そうな顔をする。
「振り付けを覚えるだけじゃなくて、表情も変えなきゃいけないんでしょ? 全部中途半端になっちゃったら、もったいないよね」
「そうだね。だからこそ、ちゃんと練習するつもり!」
私は笑顔で答えた。
三人の言葉は、どれも一見すると心配やアドバイスに聞こえる。けれど、話を聞いているうちに、なんだか少しずつ気分が悪くなってきた。
できるの?
似合うの?
難しいんじゃない?
途中で疲れない?
……いや、心配してくれてるのかもしれないけどさ。
なんで、そんなにできない前提なの?
もちろん、四曲を一人で披露するのは簡単ではない。失敗する可能性だってあるし、練習が思うように進まないこともあるだろう。でも、それは私が自分で考えて、努力して乗り越えることだ。
「まあ、萌花ちゃんがやるって決めたんだもんね!」
瑠夏は明るく笑った。
「私たち、楽しみにしてるから! ね、澪音、麗奈!」
「うん、楽しみー!」
「本番、頑張ってね!」
三人はそう言い残して、自分たちの席へ戻っていった。
私はノートに並んだ四つの曲名を見つめた。
『BLACK VENOM』。
『Cherry♡Magic』。
『STARLIGHT』。
『NO LIMIT』。
かっこいい、かわいい、爽やか、そしてもう一度かっこいい。
四曲を通して、いろいろな自分を見せる。それが、今の私が考える理想のステージだった。
ホームルームが始まると、先生にも四曲の構成を説明した。準備することを整理しながら進めるという話になり、文化祭のステージ発表は、この四曲を軸に準備を進めることになった。
クラスメイトたちは「楽しみ!」「本当に四曲やるんだね」と盛り上がっていた。瑠夏たちも、ほかの子たちと一緒に笑顔で話している。
私はノートを閉じ、心の中で小さく息をついた。
……まあ、いいや。
何を言われたって、やることは変わらない。
前世では、夢を追いかけて努力していたのに、最後は見た目を理由に夢を断たれた。だからこそ、今度こそ、自分の力で夢に近づきたい。
文化祭のステージが、直接デビューにつながるわけではない。それでも、人前で歌って踊る経験は、きっと私の力になる。観客の反応を感じながらパフォーマンスすることも、ステージ上で自分をどう見せるか考えることも、これからの私に必要な経験だ。
私はノートを開き、四曲のタイトルをもう一度見つめた。
四曲すべて、妥協せずに仕上げる。
かっこいい私も、かわいい私も、爽やかな私も。そして最後に、観客の心に残る私を見せる。
文化祭まで、まだ時間はある。
だったら、その時間を使って、最高のステージを作り上げるだけだ。




