【episode16】カースト?
翌朝、教室に入った瞬間、いつもより少しにぎやかな声が聞こえてきた。
「えー! それ絶対かわいいじゃん!」
「でしょ!? 今度一緒に見に行こーよ!」
教室の窓際に、女子が三人集まっていた。
一人目は、明るい茶色の髪をゆるく巻いた瑠夏。誰とでもすぐに仲良くなれる、クラスの中心的な存在だ。二人目は、さらさらの黒髪が印象的な澪音。おしゃれに詳しく、周りの空気を読むのが上手い。そして三人目は、少し大人っぽい雰囲気の麗奈。落ち着いた話し方をするけれど、言いたいことははっきり言うタイプだった。
三人ともかわいくて、明るくて、友達も多い。クラスではいわゆる「一軍女子」と呼ばれるグループだった。
「おはよー!」
瑠夏が教室全体に聞こえるくらいの声で挨拶すると、あちこちから「おはよ!」「瑠夏、昨日のあれ見た?」と返事が飛んでくる。澪音と麗奈も、自然とみんなの会話の中心にいた。
私は自分の席に鞄を置きながら、三人をちらりと見た。
前世でも、こういう華やかな子たちはいた。クラスの中心にいて、いつも誰かに囲まれている。私自身はアイドルの夢を追いかけることに必死で、あまり関わる機会がなかったけれど。
「萌花ちゃん、おはよ!」
友達に声をかけられ、私はすぐに笑顔を返した。
「おはよう!」
そのときだった。
「ねえ、あの子って音羽さんだよね?」
瑠夏の声が聞こえた。思わず顔を上げると、三人がこちらを見ていた。
「そうそう。ダンス習ってる子でしょ?」と澪音。
「この前、先生にめっちゃ褒められてたって聞いた」と麗奈が続けた。
……えっ。私のこと?
急に話題にされて、少しだけ背筋が伸びる。
すると瑠夏が、にこっと笑いながらこちらへ歩いてきた。
「音羽さん、おはよ! ねえねえ、ちょっと聞きたいことあるんだけど!」
「お、おはよう。どうしたの?」
「K-POPアイドル目指してるって本当?」
「あ、うん! 本当だよ」
「えーっ、すごい! ほんとにアイドルになりたいんだ!」
瑠夏は目を丸くした。隣にいた澪音も興味津々といった様子で、私の顔をのぞき込む。
「ダンスだけじゃなくて、歌もやってるの?」
「うん。歌もダンスもレッスンに通ってるよ」
「すごっ! 私、ダンスとか全然できないんだけど。振り付け覚えるのも大変そう!」
「最初は難しかったけど、練習すると少しずつできるようになるよ!」
つい、いつもの調子で答えてしまう。すると瑠夏は「へえー!」と感心したように声を上げた。
「ね、今度なんか踊ってるところ見せてよ!」
「えっ!? い、いいけど……ちょっと恥ずかしいかも」
「なんでー? 将来アイドルになるんでしょ? 今から慣れとかなきゃ!」
瑠夏が楽しそうに笑う。私もつられて笑った。
その様子を、麗奈は少し離れたところから眺めていた。
「でもさ」
麗奈が口を開く。
「アイドルって、歌とダンスが上手いだけじゃなれないんじゃない?」
空気がほんの少しだけ変わった。
「ビジュアルとか、人気とか、いろいろあるじゃん。韓国の事務所って厳しそうだし」
「……うん。そうだね」
私は頷いた。
もちろん、そんなことは分かっている。前世で何度も思い知らされたことだ。どれだけ練習を重ねても、実力だけでは越えられない壁がある。
だけど、それを知っているからといって、夢を諦める理由にはならない。
「だから、歌もダンスも、ほかのことも頑張りたいと思ってるんだ」
私がそう答えると、麗奈は一瞬だけ目を見開いた。
「ふーん。そっか」
それ以上は何も言わず、麗奈は澪音の方へ視線を戻した。
「まあ、頑張ってね」
「ありがとう!」
私は笑顔で答えた。
三人が自分たちの席へ戻っていくと、隣にいた友達が小声で話しかけてきた。
「萌花ちゃん、すごいね。瑠夏ちゃんたちに話しかけられるなんて」
「そうなの?」
「うん。あの三人、クラスでも目立つからさ。あんまり話したことない子も多いよ」
「へえ……」
私は三人の方を見た。
瑠夏はすでに別の子と楽しそうに話している。澪音はスマホで何かを見せながら笑い、麗奈は二人の会話に相槌を打っていた。
同じクラスにいても、今までほとんど接点がなかった人たち。そんな三人が、私の夢に興味を持ってくれた。
少し緊張したけれど、話してみると瑠夏は思った以上に気さくだったし、澪音も話をよく聞いてくれた。麗奈の言葉は少し厳しかったけれど、言っていること自体は間違っていない。
「……よし」
私は小さく呟いて、教科書を机の上に出した。
誰に何を言われても、私がやることは変わらない。
K-POPアイドルになる。
その夢を叶えるために、今日も一歩ずつ進んでいこう。
そう思いながら、私は一時間目の授業の準備を始めた。




