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【episode15】恋愛には疎いよ、私

 翌朝、教室に入ると、仲のいい友達が私を見つけて手を振ってくれた。


「萌花ちゃん、おはよー!」


「おはよう!」


席に着いて鞄を片づけていると、友達が机に身を乗り出してきた。


「ねえねえ、昨日もダンスのレッスンだったんでしょ? 毎日通ってるなんてすごいね!」


「えへへ、ありがとう! でも、好きなことだから全然苦じゃないよ」


「私だったら、学校終わったらお菓子食べてゴロゴロしちゃうなあ」


「それも楽しそうだけどね!」


二人で笑っていると、横から「何の話?」と声がした。振り向くと、朝比奈蓮くんが立っていた。


「萌花ちゃんがダンス習ってるんだって!」


友達が答えると、蓮くんは「ああ、昨日聞いたやつか」と頷いた。


「そういえば、音羽ってK-POPアイドルになりたいんだよな?」


「うん! 絶対なりたい!」


私が即答すると、蓮くんは思わず笑った。


「おお、すごい自信。そんなに好きなんだ?」


「大好き! 歌もダンスも、ステージでの表情とか見せ方も、全部かっこいいんだよね。見るたびに『私もこんなふうになりたい!』って思うの!」


気づけば、いつもより少し早口になっていた。好きなことの話になると、どうしても止まらなくなってしまう。前世でも、Cherry popの話を始めると何時間でも語れたくらいだ。


「あ、ごめん! 私ばっかり話しちゃった」


慌てて口を押さえると、蓮くんはきょとんとしたあと、楽しそうに笑った。


「いや、別にいいけど。音羽って、好きなことの話になるとめっちゃ楽しそうだな」


「そ、そうかな?」


「うん。さっきまで普通に話してたのに、急に目がキラキラし始めたし」


「ええっ、そんなに!?」


隣で聞いていた友達まで笑い出した。私は恥ずかしくなって頬を押さえる。そんなに顔に出ていたなんて、自分では気づかなかった。


「でもさ、なんでそこまでアイドルになりたいんだ?」


蓮くんの声が少し真面目になった。


「歌ったり踊ったりするのが好きだから?」


「それもあるよ。でも、それだけじゃないかな」


私は少し考えてから、自分の気持ちを言葉にした。


「初めてK-POPアイドルのステージを見たとき、すごく感動したの。みんな本当に楽しそうで、歌もダンスもすごくて……見ているだけで元気をもらえたんだ。だから、今度は私が誰かに元気を届けられる人になりたいなって思ったの」


前世の私は、何度もアイドルのパフォーマンスに救われた。練習がうまくいかなくて落ち込んだ日も、オーディションに落ちて悔しかった日も、好きな曲を聴けばもう一度頑張ろうと思えた。だから今度は、私がステージの向こう側に立ちたい。


「もちろん、アイドルになるのは簡単じゃないって分かってるよ。でも、だからって諦めたくない。せっかく目指すなら、本気で叶えたいんだ!」


話し終えると、蓮くんは少し黙って私を見ていた。それから、ふっと笑う。


「……音羽って、思ってたより熱いんだな」


「えっ、どういう意味!?」


「いや、いつもニコニコしてるから、もっとふわふわした感じなのかと思ってた」


「ふわふわって何!?」


「ははっ、ごめんごめん!」


蓮くんが笑い、私もつられて笑ってしまった。夢の話をこんなふうに真剣に聞いてもらえるのは、やっぱり嬉しい。少し照れくさいけれど、話してよかったと思った。


ちょうどそのとき、先生が教室に入ってきて、朝のホームルームが始まった。私は慌てて教科書を机に出す。蓮くんも自分の席へ戻っていった。


昼休み、友達とお弁当を食べていると、また蓮くんが近くにやってきた。今度はスマホを片手に持っている。


「音羽、ちょっと聞きたいんだけど」


「ん? どうしたの?」


「昨日言ってたK-POPの動画、どれから見ればいいか分かんなくてさ。いろいろあって迷った」


「えっ、もう見てくれたの!?」


思わず身を乗り出してしまった。蓮くんは少し驚きながらも、スマホの画面を見せてくれる。


「うん。昨日送ってくれたやつ、何個か見た。正直、グループの名前とか全然分かんないけど」


「わあ、ありがとう! じゃあね、まずはこのパフォーマンスを見てほしい! ダンスがすごくきれいだし、フォーメーションもかっこいいの。それから、こっちは表情の作り方が本当に上手でね……!」


「お、おう。なるほど?」


私は夢中で説明し始めた。振り付けの細かいところや、歌いながら踊るときの技術、メンバーごとの魅力まで話していると、蓮くんは最初こそ戸惑っていたものの、途中から画面を見ながら「へえ、そうなんだ」と相槌を打ってくれた。


「……あっ、ごめん。また語りすぎちゃった!」


「いや、面白かったよ。音羽、ほんと詳しいんだな」


「好きだからね!」


胸を張って答えると、蓮くんは笑った。


「じゃあ、もうちょっと見てみるわ。おすすめ、また教えてよ」


「もちろん! いつでも聞いて!」


嬉しくなって、私は思わず満面の笑みを浮かべた。好きなものに興味を持ってもらえるって、こんなに嬉しいんだ。


放課後はプリマスK-POP Studioでレッスンを受けた。今日は歌いながら踊る練習が中心だったので、呼吸の配分や表情にも気を配りながら、何度も繰り返し練習した。先生からアドバイスをもらうたびにノートへ書き留め、次の練習で試してみる。まだまだ改善できるところはあるけれど、それを見つけるたびに成長できると思うと、練習がますます楽しくなった。


家に帰り、夕食を終えてから練習ノートを開いていると、スマホが震えた。蓮くんからメッセージが届いている。


『さっきの動画、見た。確かにダンスすごかったわ』


続けて、もう一通。


『音羽があんなに熱く語る理由、ちょっと分かった気がする』


私は思わず笑顔になった。


『でしょ!? まだまだおすすめあるからね!』


送信してから、少しだけ考えて付け加える。


『見てくれてありがとう!』


すぐに『おう!』と返信が来た。


私はスマホを置き、ノートに向き直った。今日も楽しかった。学校で好きなものの話ができて、レッスンでも新しいことを学べた。こういう一日があると、明日も頑張ろうと思える。


ノートの最後に、私は今日の練習で気づいたことを書き込んだ。夢に近づくためにやることは、まだまだたくさんある。でも、焦らず一つずつ積み重ねていこう。


「よし、明日も頑張るぞ!」


私はノートを閉じて、明日の準備を始めた。

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