【episode13】余韻
翌日。
私はいつもより少し早く目を覚ました。カーテンの隙間から差し込む朝の光を見ながら、昨日の出来事を思い出す。R&M entertainmentの社長さんが来ていたこと。そして、私自身も評価を受けたこと。
『今の年齢でここまでできるなら、デビューしてもおかしくありません』
『今後どう成長するのかが楽しみです』
『あなたの名前は覚えておきます』
何度思い返しても、嬉しくなる言葉だった。前世では、どれだけ練習しても最後に言われたのは――『ビジュアルがダメです』だった。だからこそ、今回の評価は私にとって特別だった。
だけど、私は鏡の前に立って、自分の顔を見つめる。「……まだ、ここからだよね」
褒められたからといって、そこで満足するわけにはいかない。むしろ、昨日の評価で自分がどこまでできるのかが分かったからこそ、もっと上を目指したくなった。
私は学校へ行く準備をしながら、今日やることを頭の中で整理していく。ダンス、歌、表情、姿勢、そして韓国語。今の私は、日本の中学生としてはかなり練習している方だと思う。でも、本当にK-POPアイドルになるなら、それだけでは足りない。
韓国のオーディションを受けるなら、韓国語はできた方がいい。ステージに立つなら、カメラにどう映るかも知っておきたい。歌って踊るだけじゃない。話すこと、表情を作ること、ファンに自分を知ってもらうことだって、アイドルには必要になる。
「……やること、多いなぁ」
思わず小さく笑った。でも、不思議と嫌ではなかった。
前世の私は、ただひたすらダンスと歌を練習していた。もちろん、それは無駄ではなかった。むしろ昨日の評価につながったのは、前世で積み重ねてきたものがあるからだ。だから今度は、それに足りなかったものを一つずつ足していけばいい。
学校ではいつも通り授業を受け、休み時間には友達と話した。そして放課後になると、私はそのままプリマスK-POP Studioへ向かった。
スタジオに着くと、昨日のこともあって少しだけ周りの視線が気になった。昨日の評価を受けていたのは私だけではない。当然、他の生徒たちも結果を聞いている。
「音羽さん、昨日すごかったよね」
「ダンスも歌も上手かった」
そんな声が聞こえてきて、私は少しだけ照れながら笑った。
「ありがとう。でも、まだまだだよ」
本当にそう思っている。昨日、社長さんから高い評価をもらった。だからこそ、ここからはその評価に恥じない実力を身につけたい。
レッスンが始まると、私は昨日言われたことを思い出しながら踊った。大きく動く。強くするところと、力を抜くところを作る。音を正確に取る。そして、ただ振り付けをこなすのではなく、見ている人にどう見えるのかを考える。
以前なら、振り付けを完璧に覚えることだけを意識していたかもしれない。でも今は違う。同じ振り付けでも、身体の角度や視線、表情、力の入れ方を少し変えるだけで印象は変わる。
曲が終わると、先生が音楽を止めた。
「音羽さん、昨日からさらに良くなってない?」
「え?」
「昨日のチェックでも十分上手だったけど、今日は特に表情が自然。何か意識してる?」
私は少し考えてから答えた。
「昨日、他の人の評価を見ていて、もっと自分でも意識しないといけないところが分かったので……」
「なるほどね」
先生は頷いた。
「人の評価を見て、自分の練習に活かせるのはいいことだよ。上手い人ほど、そういうところをちゃんと見てるからね」
その言葉を聞いて、私は嬉しくなった。昨日の評価は、ただ褒められて終わりじゃない。他の人が指摘されていたことも含めて、自分の成長につなげることができる。それなら、まだまだ伸びる。
レッスンが終わって家に帰ると、私は机に向かった。ノートを開き、昨日までとは少し違うページを作る。
『これから伸ばすもの』
その下に、思いつくものを書いていった。
『韓国語』
『表情・演技力』
『カメラ映り』
『ステージ経験』
『体力』
『自分の魅せ方』
そして、一番下に大きく書く。
『現状に満足しない』
ペンを置いて、私はその文字をじっと見つめた。昨日、私は『デビューしてもおかしくない』と言ってもらえた。前世の私からすれば、夢みたいな言葉だ。
だけど――ここで満足したら、また同じことになる。
前世の私は、最後まで夢を諦めなかった。だからこそ、今度は同じことを繰り返したくない。ダンスも、歌も、ビジュアルも。そして、まだ持っていない武器も。全部、少しずつ増やしていく。
私はノートの最後に、今日の日付を書いた。その横に、短く一言だけ付け加える。
『昨日より、今日の私の方が強い。』
そして私は、明日の練習内容を考え始めた。
――もっと上へ。
昨日、褒められたからこそ。私は、さらに上を目指すことにした。




