ジアディスト公爵家
要約。
婚約者が前世から好きだった子だと判明し、色々テンパった結果、「変な人」という評されました。
前世は駄目だったから今世こそこの恋を成就させる!とか宣言したはいいが、駄目かもしれません俺は。
以上。
「さてメアリ嬢との顔合わせはどうだった、ギルド」
メアリと別れた後、ラ=モンヴォレット侯爵邸を出てから、馬車の中で父親であるフェリクス=ジアディスト、つまりジアディスト公爵は俺にそう尋ねて来た。
満面の笑みだ。
俺がメアリと2人で話をしていた間、父さんはメアリの父であるラ=モンヴォレット侯爵と話をして待っていたらしい。
父親組が何を話していたのかは、父さんの興味津津な目から大体想像はつく。おおかた、俺とメアリの婚約がどうなるかおもしろがってたに違いなかった。
恐らく貴族の勢力図から逆算して、俺の婚約相手にラ=モンヴォレット家を選んだ父さんが、俺とメアリを引き会わせた張本人になるわけだ。
面白がるのも無理はないのだが。
父さんの目は見なかった。馬車から外の景色を見た。ああうんそう、綺麗だなやっほー世界。
俺はフ……と笑った。
「……ま、まあ?人間さ第一印象が全てじゃないから?まだまだこれからだからな?!まあ俺的に?今日は顔と名前を売り込めただけで上出来ってゆーかですね!?」
「お?珍しいな、普段何でもそつなくこなすお前が失敗するなんて」
「ちょ、まっ、ししし、失敗とか言わないでくれますおい父さん!?」
「はは!ほんと珍しいな」
父さんはおかしそうにヒィーヒィー笑っている。普段静かな俺が取り乱しているのがよほどツボに入ったらしい、馬車のシートをバンバン叩いて腹を抱えて笑った。息子の失敗笑ってひどいじゃないですか父さん?
「んふ、い、いや……すまん。お前は婚約の話にあまり乗り気でない様子だったからな。てっきり『まあそれなりに』とか無難に答えるとか思ってたんだよ。それがこんなに慌てるから、いやぁ驚いたんだ」
「まあ、確かに…」
婚約相手がラ=モンヴォレット家の令嬢って情報しか与えられてなかったから、俺も当初はあまり乗り気でなかった。
政略的な婚約自体が嫌だったわけではない。
それは貴族の家に生まれた以上、俺の務めだと思っていたし。
そうではなくて、何せ俺は前世は人間にことごとく嫌われていた魔王だ。転生してからこの通り両親には恵まれたんだが、婚約相手もそうだとは限らないだろ。
若干人間不信というか、未知の婚約者に拒絶されるのが怖かった。
一番の理由は、メアリへの恋心が心の中にどこか残ったままだったことかもしれないけど。
それがいざ婚約者と顔を合わせてみたら、ずっと好きだったメアリだったのだ。
嬉しかった結果、色々やらかし発言が飛び出した気がするが、仕方なかったとしか言えない。
「お前はメアリ嬢みたいなのがタイプだったか」
「タイプというか、俺の好みの起源です」
「好みの起源?」
「父さん、起源とは始まりです。つまりすべてはメアリ嬢から始まったという意味です」
「いや待て、たった1時間ぽっちで何があった。メアリ嬢はどんだけお前を骨抜きにしたんだ」
「違うんだ父さん!たった1時間ぽっちじゃない…!」
片想い歴1015年なんだぞ!転生できなかったから、1000年は眠ってたけど!
「お、おお。メアリ嬢がお前を落とすには、1時間で十分だったってか……。いやはや、ギルドがこんなになるなんて、大人しい小動物みたいなのに意外とやるんだなメアリ嬢」
「え?あいや、ハハ…」
なんか勘違いされたけど、そういうことにしておこう。両親には前世や転生のこと、何も話してないし。
だって昔魔王やってましたとか言えないよなぁ……。
父さんも母さんもそれで俺を嫌うような人でないのは分かってるけど。
前世の両親とは違いすぎて、2人には未だに拍子抜けさせられることが多い。頭はいいんだろうけど、なんか能天気なんだよな、随所で。
人間不信の俺にはありがたい環境ではあるが。
計算で動いて腹の内が見えない人が、俺は苦手だ。
父さんはうむと頷いて、顎を引いた。
「まあこの調子なら心配ないな。お前も大層メアリ嬢を気に入ったようだ。となれば、正式にラ=モンヴォレット侯爵家にうちから婚約の打診を───」
およ?
「今、何と」
「ん?だから正式にお前とメアリ嬢の婚約を結ぶように打診を……」
「まだ正式じゃなかったんですかっ!?」
俺めっちゃくちゃ浮かれてましたけど!前世から好きな子が婚約者だったって、俺心の中で喜びの舞をしてたってのに!?
何をおかしなことを言ってるんだとばかりに、父さんは首を傾げた。
「当たり前だ。お前は私たちの大切な息子であるし、その息子の婚約者にはできるだけ相性の良い令嬢を探したいと思っていたんだ。お前とメアリ嬢の今の婚約はまだ仮の決定。お前がまだ様子を見たいというなら、私はお前にメアリ嬢との交流の場を用意してやるし、別の令嬢と見合いをしてみてもいい───」
「………てください」
「ん?」
俺はゆらゆらと顔を上げた。俺の顔を見た父さんが、ちょっとだけギョッとしていた。
今なら立派に悪役をつとめられそうな悪い笑顔が浮かんでいる気がする。
先ほどの言葉は少し訂正しておこうと思う。
計算で動いて腹の内が見えない人が、俺は苦手だ。
なぜなら、俺は俺自身がそんな人間に近いと自覚しているからだ。
同族は嫌いなのだ。
「俺はもう腹に覚悟を決めました。メアリ嬢がいいです。それはもう可及速やかに、うちに帰ったらすぐに、なんなら今すぐにでも、俺とメアリ嬢の正式な婚約の打診をしてください父さん!今すぐでいいですよ。いや今すぐがいいです!!!紙とペンが必要なら、いますぐ俺が魔法で取り寄せしますからさあどうぞ!!ていうか取り寄せました!なので書いてください!」
「いつの間に!?」
<転移>の応用で、馬車と父さんの書斎を魔法陣越しに繋いで手をつっこむと、父さん愛用の羽ペンがあら不思議、俺の手に。
「さあ、お願いしますね!俺の親愛なるお父様!」
「……ギルド、お前…ほんとにどうしたんだ…、?あの短時間でメアリ嬢に特殊な魔法でもかけられたか……?」
「いいえ」
まさか。
そんなの、1015年前からとっくにかかってますよ。
自分でも時々、末恐ろしくなるくらいに。




