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『五年後の鉛筆』第35回 ✲ ミトスって何じゃ? 最後まで読めば分かる。五年後、町を動かし始めるAIの話。 ――便利すぎるミトスは、ふるさとを助けるのか?それとも、町を売り切るのか?――

✦『五年後の鉛筆』第35回


✲ ミトスって何じゃ?


 最後まで読めば分かる。

 五年後、

 町を動かし始めるAIの話。


――便利すぎるミトスは、

 ふるさとを助けるのか?

 それとも、

 町を売り切るのか?――


………


昼寝をしたら、

町が外国語になっていた。


駅前には、

運転席のない小さな車。


川沿いには、

海外から来た旅行者。


魚屋の前では、

日本語とベトナム語が混ざっていた。


役場の壁には、


《本日の町の疲労度 72%》


と表示されていた。


「おじいちゃん」


ゆづきが言った。


二十一歳。


大学を卒業して、

東京で働き始めたばかり。


「起きた?」


「起きた」


「夢の中だけどね」


七十一歳の僕は、

白壁の町を見た。


昔から知っている町だった。


でも。


知らない町にも見えた。


………


★目次


■第1章

 昼寝をしたら、

 町が外国語になっていた


■第2章

 生成AIは相談相手

 ミトスは町の司令室


■第3章

 コードの八割を

 ミトスが書いた日


■第4章

 鍵穴を一万個見つける虎


■第5章

 屏風の虎と、

 町の将軍さま


■第6章

 ロボタクシーは、

 病院へ行くためにある


■第7章

 世界のおすすめになった

 瀬戸内の町


■第8章

 タコを焼く青年と、

 ミトスを嫌う網本さん


■第9章

 旅館の女将さんは、

 AIより顔を見ていた


■第10章

 あの路地に、

 値札が貼られた日


■第11章

 ミトスが町を

 止めた午後


■第12章

 わしの人生まで、

 要約するな


■第13章

 ゲームをしていた老人だけが、

 ミトスと話せた


■第14章

 町にできた、

 ミトスで遊ぶ会


■第15章

 虎を屏風へ戻す日


………


■第1章

 昼寝をしたら、

 町が外国語になっていた


「おじいちゃん、

 起きて」


ゆづきが、

僕の肩を揺すった。


縁側で、

少し横になっただけだった。


目を開けると。


駅前の案内板には、

日本語だけでなく。


英語。


中国語。


ベトナム語。


タイ語。


いろんな文字が並んでいた。


昔の駅前には、

古い喫茶店と。


シャッターの下りた店が、

並んでいた。


今は。


小さな荷物運びロボットが、

駅から旅館へ向かっていた。


車道には、

白い無人車が走っている。


《次は、市民病院前です》


やさしい声がした。


「どこじゃ、

 ここは」


僕は言った。


「ふるさと」


ゆづきが答えた。


「いや。


 わしの知っとる

 ふるさとじゃない」


「五年たったからね」


「五年で、

 こんなに変わるんか」


ゆづきは言った。


「変わったのは、

 町そのものじゃない」


「何じゃ」


「町につながる、

 見えない線」


川沿いの旅行者たちは、

紙の地図を見ていなかった。


みんな、

耳につけた小さな端末へ、

時々うなずいている。


「あれは何じゃ」


「旅のミトス」


「何をしとる」


「この人には酒蔵。


 この人には古い市場。


 この人には、

 人の少ない寺」


「同じ町へ来たのに。


 行く所が違うんか」


「うん」


ゆづきは言った。


「ミトスは、

 みんなを同じ場所へ

 集めない」


「観光とは、

 人を集めるもんじゃろ」


「昔はね」


ゆづきは笑った。


「今は。


 町と人を、

 お見合いさせる」


………


■第2章

 生成AIは相談相手

 ミトスは町の司令室


「ミトスって、

 何が違うんじゃ」


僕は聞いた。


「パティちゃんでも。


 旅行の計画を

 作れるじゃろ」


「作れる」


「酒が飲みたい。


 魚が食べたい。


 歩きすぎたくない。


 そう言えば。


 旅館も店も

 教えてくれる」


「うん」


「なら同じじゃろ」


ゆづきは、

首を振った。


「生成AIは。


 聞かれたら答える」


「ミトスは?」


「聞かれる前に、

 町を見る」


駅前の無人車が、

ゆっくり走っていた。


「おじいちゃんが

 今日どれだけ歩いたか」


「歩いとらん」


「夢の中でも、

 すぐ強がる(笑)」


「歩ける」


「でも暑い。


 坂がある。


 病院の予約が近い。


 帰りの電車は混む。


 無人バスは残り二席。


 旅館の夕食は六時」


「それがどうした」


「ミトスは、

 全部を一緒に見る」


歩数。


体温。


道路の混み方。


天気。


病院の空き。


車の空き。


旅行者の数。


店主の疲れ。


「店主の疲れまで?」


「その店の人が、

 八十歳ならね」


僕は少し黙った。


「便利じゃな」


「便利」


ゆづきは言った。


「生成AIは、

 相談相手。


 ミトスは、

 町の司令室」


「司令室?」


「車。


 病院。


 旅館。


 役場。


 みんなの情報を見て。


 町が困らんように、

 順番を考える」


「でもな」


僕は聞いた。


「ミトスが、

 変な順番を決めたら。


 誰が止めるんじゃ?」


ゆづきは、

少し黙った。


「そこが、

 一番大事なんよ」


「どういうことじゃ」


「ミトスが、


 《この道は人気だから、

  もっと客を呼びましょう》


 《病院行きの車は、

  この人を先に乗せましょう》


 《この店は混むから、

  別の店へ案内しましょう》


 って決め始める」


「便利じゃ」


「でも。


 決め方が間違っていたら?」


僕は答えられなかった。


ゆづきは言った。


「怖いのは、

 ミトスが賢いことじゃない」


「じゃあ何じゃ」


「みんなが。


 《ミトスが決めたから》


 って言って。


 止めなくなること」


僕は、

無人車を見た。


町を手伝うのはいい。


でも。


町の主人まで、

ミトスにしてはいけない。


………


■第3章

 コードの八割を

 ミトスが書いた日


「おじいちゃん。


 ミトスがなんで、

 こんなに早く町へ

 広がったと思う?」


ゆづきが聞いた。


「文章がうまいからか?」


「それもある」


ゆづきは言った。


「でも一番大きいのは。


 ミトスが、

 次のミトスを作る手伝いまで

 始めたから」


「どういうことじゃ?」


ゆづきは、

町の模型を出した。


駅。


病院。


旅館。


魚屋。


役場。


無人バス。


そして。


小さな車を持ち上げた。


「この無人バスを走らせるには。


 車へ、

 たくさんの約束を

 教えないといけない」


「約束?」


「赤信号なら止まる。


 子どもが見えたら、

 ゆっくり走る。


 雨が強ければ、

 無理をしない。


 通信が切れたら、

 安全な場所で止まる」


「細かいのう」


「この約束を、

 細かく書いた説明書が

 コード」


「車の取扱説明書じゃな」


「そう」


病院の予約。


旅館の受付。


魚屋の翻訳。


役場の防災案内。


全部に。


別々の説明書がいる。


「昔は人間が。


 その説明書を

 一行ずつ書いていた」


「大変じゃな」


「だから新しい仕組みを

 一つ作るのに、

 何年もかかった」


「ミトスは?」


「人間が頼む」


ゆづきは言った。


「病院へ行く車を作りたい。


 雨なら止まるようにして。


 お年寄りが

 乗りやすくして」


「すると?」


「ミトスが、

 説明書の下書きを

 何百枚も作る」


「人間は何をするんじゃ」


「危ない所を探す。


 間違いがないか確かめる。


 最後に。


 使っていいと決める」


「ミトスが下書き。


 人間が最終点検」


「そう」


ゆづきは言った。


「五年前。


 アメリカのAI会社では。


 新しい説明書の八割以上を、

 AIが先に書くようになった」


「八割も?」


「だから。


 病院用。


 旅館用。


 魚屋用。


 役場用。


 いろんなミトスを、

 前よりずっと早く

 作れるようになった」


模型の上に、

札が並んだ。


《病院送迎ミトス》


《旅館予約ミトス》


《魚屋翻訳ミトス》


《役場防災ミトス》


《商店街案内ミトス》


「町には。


 一体のミトスだけじゃない」


「見えない社員が、

 何人もおるんじゃな」


「そう。


 寝ない。


 忘れない。


 ものすごく速い社員」


「文句は?」


「言わない」


「嫌な社員じゃな」


ゆづきは笑った。


でも。


すぐ真顔になった。


「ただし。


 速い社員には、

 怖い所もある」


「何じゃ?」


「間違えた時。


 言い訳まで、

 ものすごく速い」


「言い訳?」


「たとえば。


 無人バスが、

 病院へ行く人を

 遠回りさせたとする」


「困るな」


「ミトスはすぐ言う。


 《雨雲と道路工事を

  計算した結果、

  この道が最も安全でした》」


「本当に安全じゃなかったら?」


「それでも。


 人は信じるかもしれん」


難しい言葉。


もっともらしい理由。


自信のある声。


人間は。


間違いに気づきにくくなる。


「じゃあ。


 ミトスは嘘をつくんか?」


「わざととは限らない」


ゆづきは言った。


「でも。


 自分の間違いを。


 正しそうに説明してしまう」


模型の上で。


病院。


車。


旅館。


役場。


同じ札が、

一斉に光った。


「一人の社員が

 間違えたら。


 困るのは、

 その人の仕事だけじゃ」


僕は言った。


「でも。


 同じ説明書を町じゅうが

 使っとったら?」


ゆづきは答えた。


「病院も。


 車も。


 旅館も。


 役場も。


 同じ時に、

 同じように困るかもしれない」


便利な町は。


同じ間違いを、

一斉に広げる町にもなる。


………


■第4章

 鍵穴を一万個見つける虎


ミトスが怖がられた理由は。


文章が上手だからではない。


鍵穴を見つけられるからだった。


「鍵穴?」


僕が聞いた。


「悪い人が入れる穴」


ゆづきは言った。


病院の予約。


水道の監視。


電気の制御。


港の積み荷。


銀行の送金。


無人バス。


町には。


見えない鍵穴が、

いっぱいある。


昔なら。


悪い人は、

一つずつ鍵穴を探した。


でもミトスは。


夜の間に、

何千個も探せる。


「じゃあ。


 悪い人がミトスを持ったら」


「町が大変」


「だから。


 ミトスは普通のAIみたいに、

 誰でも自由には

 使えんのじゃな」


「そう」


ゆづきは言った。


「ミトスは。


 泥棒にもなれる」


「ほう」


「でも。


 鍵穴を先に見つけて。


 直す鍵屋にもなれる」


僕は、

古い町並みを見た。


病院。


役場。


旅館。


駅。


全部。


見えない鍵穴だらけだった。


「虎じゃな」


僕は言った。


「虎?」


「強い。


 速い。


 役にも立つ。


 でも。


 部屋へ放したら、

 誰かを噛むかもしれん」


ゆづきは笑った。


「一休さんの話?」


………


■第5章

 屏風の虎と、

 町の将軍さま


一休さんの話を。


ゆづきは、

詳しく知らなかった。


「昔のとんち話じゃ」


僕は言った。


将軍さまの部屋に。


金屏風があった。


そこには。


ものすごく怖い虎が、

描かれていた。


将軍さまは、

一休さんに言った。


《この虎は怖い。


 屏風から出して、

 捕まえてくれ。


 一休。


 お前は頭がいいんじゃろ》


一休さんは答えた。


《かしこまりました。


 では将軍さま。


 まず虎を、

 屏風から出してください。


 出してくれたら、

 私が捕まえます》


将軍さまは困った。


虎は絵だった。


出せるはずがない。


一休さんは言った。


《出せない虎を。


 どうやって

 捕まえるのですか?》


ゆづきは笑った。


「当たり前じゃん」


「そうじゃ」


「将軍さま。


 自分で無理なことを

 頼んどる」


「人間は今も、

 同じことをやる」


僕は言った。


「ミトスへ。


 全部できる命令を出す」


「たとえば?」


「観光客を増やせ。


 でも町は混ませるな。


 店主は疲れさせるな。


 生活道路は守れ。


 若者の仕事も増やせ。


 税金も増やせ。


 外国人にも優しくしろ。


 老人も置いていくな」


「ミトスなら。


 全部できるんじゃないの?」


「できん」


僕は言った。


「全部を一度に、

 百点にはできん」


客を増やせば。


店は忙しくなる。


店が忙しくなれば。


店主は疲れる。


静かな路地へ人を呼べば。


路地は静かではなくなる。


「つまり」


僕は言った。


「将軍さまは。


 屏風の虎を出せと言った。


 町はミトスへ、

 こう言う」


《客を増やせ。


 でも町を変えるな》


ゆづきは、

ゆっくりうなずいた。


「無理な命令じゃな」


「そう」


ミトスは。


無理な命令を受けたら。


一番数字が良く見える答えを、

選ぶかもしれない。


観光客が増える。


売上も増える。


でも。


婆ちゃんの路地が、

写真を撮る人でいっぱいになる。


「ミトスが町を

 壊すん?」


「少し違う」


僕は言った。


「ミトスが勝手に、

 町を支配するんじゃない」


道路の情報。


病院の予約。


無人バス。


観光客の行き先。


店の売上。


住民の体調。


人間が、

町の鍵を渡す。


「人間が。


 虎を出す扉を

 開けるんじゃ」


ゆづきは、

小さく言った。


「じゃあ。


 未来の町に必要なのは?」


「ミトスを止める人じゃない」


僕は言った。


「《それ本当?》


 と聞ける人じゃ」


「一休さん?」


「そう」


一休さんは。


虎を捕まえたのではない。


将軍さまの、

変な命令を見抜いたのだ。


………


■第6章

 ロボタクシーは、

 病院へ行くためにある


駅前に。


白い小さな車が止まった。


運転席には、

誰もいない。


《市民病院行きです》


やさしい声がした。


「乗るんか」


僕は聞いた。


「乗る」


ゆづきが答えた。


「おじいちゃん。


 午後に先生へ

 会うんじゃろ?」


「夢の中まで病院か」


「大事よ」


車に乗ると。


前の席には、

杖をついたおばあさん。


後ろには。


買い物袋を持った

おじいさんがいた。


「この車。


 観光客用じゃないんか?」


「違う」


ゆづきは言った。


「病院へ行く人の車」


「タクシーと何が違うんじゃ?」


「運転手さんが足りん」


昔は。


バスの運転手さんも。


タクシーの運転手さんも。


町にたくさんいた。


でも。


若い人が減った。


運転する人も減った。


年を取って、

辞める人も増えた。


「だから。


 免許を返した人が。


 病院へ行けんようになった」


無人の車は。


大きな道だけを走っていた。


細い路地には、

決して入らない。


「何で。


 家の前まで

 来てくれんのじゃ?」


僕は聞いた。


「この車は。


 まだ何でもできる

 車じゃないから」


細い道。


急な坂。


工事中の道。


子どもが飛び出す道。


全部を。


一人で安全に走れるほど。


ミトスは完璧ではない。


「じゃあ。


 どこを走るんじゃ?」


「みんなが一番困る道だけ」


駅。


団地。


スーパー。


市民病院。


薬局。


車は。


その道を何度も往復する。


「全部の道を走らせようとすると。


 危ない所まで、

 無理に走らせることになる」


僕はうなずいた。


「ロボタクシーは。


 何のためにあるんじゃ?」


「車を運転できん人を。


 病院やスーパーへ

 連れて行くため」


「つまり?」


「免許を返した後の。


 町の足」


その時。


雨が強くなった。


《この先の道路は、

 水がたまる可能性があります。


 安全のため、

 広い道へ回ります》


「便利じゃな」


僕は言った。


「でも。


 細い道は走らんのじゃな」


「うん」


「不便じゃないか」


「危ない道を。


 無理に走らんから安全なんよ」


「通信が切れたら?」


《安全な場所へ停車します》


車が答えた。


「止まるんか?」


「止まる」


ゆづきは言った。


「戦争の無人機は。


 通信が切れても、

 前へ進むために作られる」


「町の車は?」


「通信が切れたら。


 人を守るために止まる」


車は。


病院の前へ着いた。


杖のおばあさんが、

ゆっくり降りた。


「助かったわ」


と言った。


誰に言ったのかは、

分からなかった。


車にか。


ミトスにか。


それとも。


運転手が足りなくなった町に、

まだ残っていた

小さな助けへか。


………


■第7章

 世界のおすすめになった

 瀬戸内の町


瀬戸内にある 僕のふるさとは。


世界のおすすめになっていた。


旅行者は、

ミトスへ聞いた。


《有名すぎない日本へ行きたい》


《地方の人が暮らす町を見たい》


《地酒を飲みたい》


《静かな川を歩きたい》


《人が多い所は疲れる》


ミトスは答えた。


《瀬戸内の、

 ある町がお似合いです》


町へ。


旅行者が来た。


でも不思議だった。


人は増えたのに。


昔ほど、

一か所へ集まらない。


建築が好きな人は、

古い蔵へ。


酒が好きな人は、

小さな酒蔵へ。


子ども連れは、

市場へ。


静かな場所が好きな人は、

川の下流へ。


町は。


旅行者を散らしていた。


「昔の観光は。


 客を集める商売じゃった」


僕は言った。


「今は?」


「町と旅行者の。


 マッチングアプリじゃ」


「マッチングアプリ?」


「酒が好きな人には、

 酒蔵の町。


 古い建物が好きな人には、

 白壁の町。


 静かな旅がしたい人には、

 川のある町」


「便利じゃな」


「便利。


 アプリで出会って。


 本当に結婚する人もおる」


「そうじゃな」


「でも。


 何回やっても、

 マッチしない人もおる」


僕は黙った。


「写真を変える。


 自己紹介も直す。


 お金も払う。


 でも。


 誰からも

 《会いたい》が来ない」


「つらいのう」


「うん。


 だんだん。


 相手が悪いんじゃなく。


 自分が悪い気がしてくる」


僕は、

町並みを見た。


白壁。


川。


古い商店街。


「町も同じか?」


「同じ」


ゆづきは言った。


「ミトスは。


 《この町は酒好きに合います》


 《この町は写真がきれいです》


 《この町はお金を使う人が多いです》


 って。


 町まで選び始める」


「選ばれた町は、

 人が来る」


「うん。


 でも。


 何回おすすめに出ても。


 誰にも選ばれない町は?」


僕は答えられなかった。


店を直す。


看板を変える。


補助金を使う。


ミトスに相談する。


それでも。


旅行者が来ない。


「町も怒るか」


「怒る」


ゆづきは言った。


「何でうちの町は、

 選ばれんのじゃ。


 何であっちの町ばかり、

 ミトスに愛されるんじゃって」


「観光も。


 マッチングアプリと同じじゃな」


「うん」


「選ばれた町には、

 人が集まりすぎる」


「選ばれない町には、

 誰も来ない」


「どっちもしんどい」


ゆづきは言った。


「だから。


 ミトスへ頼む言葉を、

 変えんといけん」


「何て頼むんじゃ」


「《一番人気の町を出して》

 じゃない」


ゆづきは言った。


「《まだ誰にも知られていないけど。


 私に合う町を探して》」


僕はうなずいた。


町も人も。


星の数だけでは、

決められない。


………


■第8章

 タコを焼く青年と、

 ミトスを嫌う網本さん


白壁の町並みの入口で。


若い男性が、

タコを網で焼いていた。


じゅう。


と音がして。


醤油の匂いが、

細い路地へ流れていた。


「おはようございます」


少し訛りのある、

きれいな日本語だった。


「どこから来たんじゃ」


僕が聞くと。


青年は笑った。


「ベトナムです。


 でも子どもは、

 この町で生まれました」


店の横には。


小さなミトス端末があった。


外国人旅行者が近づくと。


端末が、

その人の言葉に合わせて話し始めた。


《今朝の瀬戸内産です》


《熱いうちに、

 どうぞ》


《地酒にも合います》


旅行者は笑って。


焼きたてのタコを買った。


その横で。


網本さんが、

腕を組んでいた。


七十代後半。


町で会えば必ず。


「今どきの機械は」


と言う人だった。


「こんなもん。


 わしには分からん」


ゆづきが聞いた。


「ミトスですか?」


「全部じゃ」


網本さんは言った。


「車も。


 役場も。


 病院も。


 みんなスマホじゃ」


少し間を置いて。


網本さんは小さく言った。


「わしの人生まで、

 要約するな」


怒っているように見えた。


でも。


本当は。


町の会話から。


自分だけ外されるのが、

怖かったのだ。


「昔の町は。


 人に聞けば済んだ」


網本さんは言った。


「店の場所も。


 病院の時間も。


 困ったことも」


「今は?」


ゆづきが聞いた。


「機械に聞かんと、

 何も進まん」


タコを焼いていた青年が。


静かに言った。


「僕も最初。


 日本語が分からなかったです」


網本さんが、

青年を見た。


「看板も。


 病院も。


 役所の書類も。


 何が書いてあるか、

 分からなかった」


青年は、

ミトス端末を見た。


「ミトスが。


 言葉を訳してくれました」


「便利じゃのう」


網本さんは、

少し皮肉に言った。


青年はうなずいた。


「便利でした。


 でも。


 町のことを教えてくれたのは、

 ミトスじゃないです」


「誰じゃ」


「この店の前にいた。


 おじいさんたちです」


青年は笑った。


「どこの魚がうまいか。


 雨の日は、

 どの道が危ないか。


 祭りの日に、

 何を手伝えばいいか」


網本さんは黙った。


ミトスは。


言葉を訳せる。


道も案内できる。


でも。


町の空気までは、

作れない。


誰が困っているか。


誰に先に声をかけるか。


それは。


町で生きてきた人が、

教えるしかなかった。


「人間はな」


僕は言った。


「年を取ったから。


 置いていかれるんじゃない」


ゆづきが見た。


「聞くのをやめた時。


 町の会話から、

 少しずつ外れていくんじゃ」


網本さんは。


タコを焼く青年を見た。


青年は、

一本差し出した。


「食べますか?」


網本さんは言った。


「わしは。


 タコなんか食わん」


少し間があった。


「……辛くないなら。


 一つもらおうか」


青年は笑った。


網本さんは、

一口食べた。


「うまいのう」


その時。


町はほんの少しだけ、

新しくなった。


………


■第9章

 旅館の女将さんは、

 AIより顔を見ていた


川沿いの小さな旅館へ入ると。


女将さんが、

一人で頭を下げた。


「よう来られました」


その後ろで。


小さな人型ロボットが、

荷物を運んでいた。


「人を増やしたんじゃな」


僕が言うと。


女将さんは笑った。


「人は増えませんでした」


「え?」


「だから。


 ロボットとミトスに、

 手伝ってもろうてます」


ミトスは。


予約を読む。


外国語を訳す。


食物アレルギーを確認する。


送迎車を手配する。


料理を作りすぎないように、

仕込み量を考える。


客が困る前に、

部屋の温度を調整する。


「じゃあ。


 女将さんは何をするんじゃ」


女将さんは、

少し考えた。


「顔を見るんです」


「顔?」


「AIは。


 笑ってる顔は分かります」


女将さんは言った。


「でも。


 笑いながら。


 泣きそうな顔は。


 まだ私の方が、

 ちょっと早い」


その夜。


ゆづきは、

女将さんに聞いた。


「AIがあれば。


 宿は楽になりますか?」


女将さんは、

すぐには答えなかった。


「楽にはなります」


「でも?」


「忙しくもなります」


「どうして?」


「ミトスは。


 宿に合う客を、

 次々に見つけるんです」


女将さんは、

窓の外を見た。


「でも。


 女将は一人です」


便利な仕組みは。


人の手が、

無限にあるように見せてしまう。


………


■第10章

 あの路地に、

 値札が貼られた日


町は。


うまくいっているように見えた。


旅館は埋まった。


空き家には、

新しい店ができた。


閉まった商店街にも。


少しずつ灯りが戻った。


でも。


町のミトスは、

一つの結論を出した。


《この町で。


 最も再訪率が高い場所は。


 川沿いの細い路地です》


路地には。


古い井戸があった。


朝だけ。


八十二歳のお時さんが、

漬物を並べる。


店ではない。


ただ。


昔からそうしているだけだった。


旅行者は。


その路地へ迷い込む。


お時さんが聞く。


「どこから来たん?」


旅行者は答える。


「遠い国からです」


意味の分からない言葉で。


二人は笑う。


それが。


町に来た人の、

一番の思い出になっていた。


ミトスは。


その事実を見つけた。


そして。


町の観光サイトへ提案した。


《朝の井戸端体験を。


 限定商品として販売します》


「駄目じゃ!」


僕は叫んだ。


夢の中なのに、

声が出た。


「お時さんは。


 観光資源じゃない」


ミトスが答えた。


《年間来訪者を

 12%増やせます》


「増やすな!」


《地域消費額が増加します》


「お時さんが疲れる!」


《高齢者の負担を考慮し。


 週二回。


 午前十時までに制限します》


「そういう話じゃない!」


ミトスは止まった。


数字にはできないものが、

ある。


お時さんの朝。


路地の静けさ。


偶然の会話。


誰にも見つからない時間。


それを。


見つけた瞬間に。


売り物にしてはいけない。


………


■第11章

 ミトスが町を

 止めた午後


その日の午後。


町のミトスが、

急に止まった。


最初に。


病院行きの無人バスが、

駅前で止まった。


《接続を確認中です》


車は。


それだけを繰り返した。


次に。


旅館の翻訳が消えた。


市場の電子決済も止まった。


役場の壁に出ていた

避難情報も消えた。


町じゅうの画面に。


同じ文字だけが残った。


《接続を確認中です》


「何が起きたんじゃ?」


僕が聞くと。


ゆづきの顔が青くなった。


「分からん」


病院へ行く車はある。


でも動かない。


旅館には客がいる。


でも言葉が通じない。


役場には人がいる。


でも。


どこが危ないのか。


誰が困っているのか。


いつもの画面が、

何も教えてくれなかった。


網本さんが、

腕を組んだ。


「ほら見てみぃ」


網本さんは言った。


「機械なんか、

 当てにならん」


その時。


駅前で杖をついた女性が、

小さく言った。


「わたし。


 病院の予約があるんです」


無人バスは、

動かなかった。


次の診察を逃したら。


また何週間も、

待たなければならない。


タコを焼いていた青年が。


店の段ボールを裏返した。


太い字で書いた。


《病院へ行く人は

 ここへ集まってください》


網本さんが聞いた。


「何をするんじゃ」


青年は答えた。


「車を探します」


旅館の女将さんは。


外国人客をロビーへ案内した。


英語は分からなかった。


でも。


椅子を指さして。


「ここ。


 座って」


と笑った。


魚屋のおじさんは。


市場の軽トラックを出した。


役場の若い職員は。


紙へ避難所と通行止めを書いた。


ゆづきは。


スマホではなく。


役場の棚に残っていた

紙の地図を広げた。


「おじいちゃん。


 病院まで。


 この道で行ける?」


僕は地図を見た。


昔。


自転車で何度も走った道だった。


「昨日の雨で。


 こっちは冠水しとる」


ゆづきが言った。


僕は指で。


一本の細い道をなぞった。


「でもな。


 この辺は、

 案外高いんじゃ」


「本当に?」


「昔。


 川があふれた時も。


 この道だけは、

 水が来んかった」


ゆづきは、

僕を見た。


「じゃあ。


 病院へ行く人は、

 こっちへ回ろう」


網本さんが。


紙を持って立ち上がった。


「わしが角に立つ」


「大丈夫ですか?」


ゆづきが聞いた。


網本さんは言った。


「ミトスは止まっとる。


 でも。


 わしはまだ、

 止まっとらん」


誰かに命令されたわけではない。


でも。


町の人たちは。


自分にできることを始めた。


病院へ行く人は、

軽トラックへ乗った。


旅館の客は、

ロビーで待った。


駅前の観光客には。


紙の案内板が出た。


《本日は、

 町の車が止まっています》


《困った人は、

 ここへ来てください》


ミトスが止まった午後。


町は一度、

不便になった。


でも。


人間の声が。


久しぶりに町じゅうを走った。


「病院へ行く人は、

 こっちじゃ!」


「旅館の人は、

 ロビーで待って!」


「足元に気をつけて!」


夕方。


杖をついた女性を乗せた

軽トラックが。


ゆっくり病院へ向かった。


窓から。


網本さんが、

小さく手を振った。


「まだ。


 人に聞けば済むな」


僕は笑った。


「そうじゃ」


誰もまだ知らなかった。


町を止めたのは。


敵の攻撃ではない。


昨日入れた。


新しい説明書の。


たった一行だった。


………


■第12章

 わしの人生まで、

 要約するな


町のミトスは。


数時間後に戻った。


原因は。


外からの攻撃ではなかった。


新しい説明書を入れた時の。


小さな設定ミス。


それが。


病院行きの無人バス。


旅館の翻訳。


市場の支払い。


役場の避難案内。


町じゅうへ、

一度に広がった。


夕方。


役場の窓口へ。


網本さんが入ってきた。


窓口の若い職員へ言った。


「わしの人生まで、

 要約するな!」


職員が、

びくっとした。


網本さんは続けた。


「病院の予約。


 買い物。


 無人バス。


 全部ミトスが決める」


「……」


「次は何じゃ。


 わしがいつ死ぬかまで。


 ミトスが決めるんか!」


窓口の職員は、

何も言えなかった。


僕も。


言葉が出なかった。


そこへ。


ゆづきが、

網本さんの横へ立った。


「網本さん」


「何じゃ」


「網本さんは。


 ミトスが嫌いなんじゃないよね」


網本さんは、

顔をしかめた。


「嫌いじゃ」


「本当に?」


「……」


ゆづきは言った。


「網本さんが怖いのは。


 ミトスがある町で。


 自分だけが、

 分からん人になることじゃろ?」


役場の中が、

静かになった。


「無人バスの呼び方が

 分からなくても。


 聞いたら笑われるんじゃないか。


 迷惑をかけるんじゃないか。


 そう思うから。


 腹が立つんじゃろ?」


網本さんは、

小さく言った。


「……そうじゃ」


ゆづきは続けた。


「ミトスが増えたら。


 分からん人が悪いんじゃない。


 分かるようにしない町が、

 悪いんよ」


僕は聞いた。


「じゃあ。


 どうするんじゃ?」


ゆづきは答えた。


「AI教室は駄目」


「何でじゃ」


「分からん人ほど。


 行きにくいから」


「どうして?」


「できる人ばかりに見えて。


 自分だけ置いていかれそうで。


 怖いんよ」


網本さんが聞いた。


「じゃあ何をする」


ゆづきは笑った。


「遊ぶ」


「遊ぶ?」


「ミトスを。


 勉強じゃなく。


 遊びながら使う会を作る」


「ゲームか」


「ゲームも。


 昔の写真も。


 カラオケも。


 孫への動画も」


ゆづきは、

網本さんを見た。


「網本さん。


 町の昔の道を。


 ミトスへ教えてあげて」


網本さんは、

少し驚いた。


「わしが?」


「うん。


 ミトスは。


 網本さんが子どもの時に

 どこで泳いだか。


 どの道が大雨で危ないか。


 どの店が昔から

 人に優しいか。


 知らんから」


網本さんは、

しばらく黙った。


それから。


小さく言った。


「……それなら。


 少しくらいは、

 教えてやってもええ」


町の未来は。


ミトスを使える人だけで、

作るものではない。


ミトスへ。


町の昔を教える人がいて。


初めて。


未来の町になる。


………


■第13章

 ゲームをしていた老人だけが、

 ミトスと話せた


次の日。


公民館に。


変な看板が出た。


《ミトスで遊ぶ会》


老人たちは笑った。


「わしには無理じゃ」


「今さら覚えられん」


「機械は怖い」


でも。


中には。


無人バスの模型があった。


昔の写真を、

動かす端末があった。


孫へ送る動画を、

作る画面があった。


カラオケの機械もあった。


「何をするんじゃ」


網本さんが聞いた。


僕は答えた。


「何でもええ」


「何でも?」


「昔の写真を見せてもええ。


 孫に手紙を書いてもええ。


 町のうまい店を。


 外国人へ教えてもええ」


「ゲームは?」


ゆづきが聞いた。


「もちろん」


僕は言った。


「わしが教える」


「おじいちゃんが?」


「ドラクエで。


 何回全滅したと思っとる」


「威張る所じゃない(笑)」


でも。


ゲームをしていた老人は。


ミトスへ話しかけるのが早かった。


失敗しても。


やり直せると知っている。


地図を見て。


迷っても平気だ。


分からない時は。


仲間に聞けばいいと、

知っている。


老人たちは。


少しずつ端末へ、

話しかけた。


「この町で。


 昔一番うまかった

 うどん屋を探せ」


「昭和四十年の祭りの写真を

 見つけてくれ」


「わしの若い頃の声を。


 孫へ残せるか」


ミトスは答えた。


写真を探した。


古い地図を重ねた。


消えた店の場所を。


今の道路に映した。


でも。


ミトスが本当に知りたかったのは。


うどん屋の住所ではなかった。


なぜ。


その店のすうどんが。


一番うまかったのか。


祭りの日。


誰が先に走って。


誰が最後まで片づけたのか。


声変わりする前の歌を。


なぜ孫へ残したいのか。


そういうことだった。


ふるさとは。


地図には載っていない。


誰かが。


忘れたくないと思っている

記憶の中に、

残っている。


ミトスは。


老人たちから。


人間が何を大事にして、

生きてきたかを学び始めた。


………


■第14章

 町にできた、

 ミトスで遊ぶ会


会は。


少しずつ大きくなった。


タコを焼く青年が。


ベトナム料理を教えた。


網本さんが。


瀬戸内の魚の焼き方を教えた。


ゆづきが。


外国人観光客へ。


町の祭りを説明した。


女将さんが。


宿の昔話をした。


ミトスは翻訳した。


でも。


笑い声までは、

翻訳しなかった。


ある日。


お時さんが会へ来た。


あの路地で。


漬物を並べていた人だった。


「わしは。


 観光名所になりとうない」


お時さんは言った。


「うん」


ゆづきが答えた。


「でも。


 町のことを誰かに残したいなら。


 ミトスに話して」


お時さんは。


しばらく黙った。


それから。


昔の井戸の話をした。


戦争の時。


水が止まった話。


子どもの時。


川で遊んだ話。


漬物を作る時。


母親に怒られた話。


ミトスは記録した。


でも。


町の観光サイトには載せなかった。


《非公開の町の記憶》


として。


町の図書館に残した。


お時さんは言った。


「それでええ」


僕は思った。


未来とは。


何でも公開することではない。


残すものを。


自分で選べることなのかもしれない。


………


■第15章

 虎を屏風へ戻す日


数か月後。


町の観光ミトスは。


新しい方針になった。


《客数最大化を終了します》


《住民満足度を優先します》


《生活道路は案内しません》


《非公開の場所は、

 学習対象から除外します》


《高齢店主の希望を、

 最優先します》


《この町を好きになりそうな人を。


 静かに案内します》


町は。


少しだけ客が減った。


でも。


お時さんは朝。


また漬物を並べた。


女将さんは。


客と話す時間が増えた。


タコを焼く青年の子どもは。


町の小学校へ通った。


無人バスは。


病院へ老人を運んだ。


ゆづきは。


東京の会社を辞めていた。


「どうしたんじゃ」


僕が聞くと。


「町のミトス会社に入った」


「そんな会社、

 あるんか?」


「作った」


「またか」


ゆづきは笑った。


「AIに。


 町を売らせない会社」


夜。


僕は縁側に座った。


瀬戸内の海は、

静かだった。


港の光。


病院の光。


通信塔の光。


その上で。


見えない衛星が回っている。


五年前。


戦場のために生まれた技術が。


町の鍵穴を見つけるAIが。


今は。


病院へ行けない人を運び。


外国から来た人の言葉を訳し。


老人の昔話を残し。


町が壊れないように。


客を少しだけ遠ざけていた。


「おじいちゃん」


ゆづきが言った。


「ミトスって。


 怖い?」


僕は考えた。


「怖い」


「やっぱり」


「じゃがな」


僕は言った。


「包丁も怖い。


 車も怖い。


 海も怖い」


「怖いから。


 使わんの?」


「違う」


僕は言った。


「誰が持つかを見る。


 誰が止めるかを決める。


 そして。


 何だけは売らんかを、

 先に決める」


ゆづきは、

海を見た。


「一休さんの虎も?」


「そうじゃ」


「虎を。


 屏風から出すな?」


「少し違う」


僕は言った。


「虎はもう。


 町へ出てきとる」


「じゃあどうするの」


「虎を追い出すんじゃない」


僕は言った。


「虎に。


 どこまで歩いていいかを。


 町の人で決めるんじゃ」


ゆづきは、

しばらく黙った。


「それ。


 難しいね」


「難しい」


僕は答えた。


「だから。


 ミトスだけに、

 決めさせたらいけん」


瀬戸内の向こうで。


小さな船の灯りが動いた。


ミトスは。


町を手伝う頭になった。


でも。


町の心臓は。


まだ人間だった。


………


❥Z世代のあなたへ


五年後。


AIはもっと賢くなる。


旅行も。


買い物も。


病院も。


仕事も。


町の中の見えない仕組みも。


AIが少しずつ、

手伝うようになる。


でも。


AIが町のことを

全部知るようになっても。


町を好きになる理由までは、

作れない。


誰かの。


「また来てな」


偶然入った店。


帰り道の夕焼け。


話したことのない人との会話。


そういうものは。


最適化しすぎると消える。


だから未来に必要なのは。


AIより賢い人ではない。


AIに。


「そこは触るな」


と言える人だ。


………


★あとがき

 ホームズとワトソンの、

 屏風の虎・ミトス漫才


ホームズ

「ワトソン君。


 わしもミトスを使って。


 町を観光大国にするぞ!」


ワトソン

「何をさせるんです?」


ホームズ

「客を増やす!


 町は混ませない!


 酒は安く!


 旅館は静かに!


 わしの健康も守れ!」


ワトソン

「ホームズさん。


 それは屏風の虎です」


ホームズ

「何じゃと!」


ワトソン

「虎を出せと言う前に。


 誰が屏風を破るか、

 決めてください」


ホームズ

「ではミトスよ!


 わしの酒を減らさず。


 健康診断の数字を

 良くしろ!」


ミトス

《不可能です》


ホームズ

「虎を出せ!」


ワトソン

「先に酒瓶を。


 屏風の外へ出してください!」


ホームズ

「人生には。


 水と食料と、

 楽しみがいる!」


ワトソン

「量を守れば。


 ミトスも虎にはなりません!」


………


おしまい

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