『五年後の鉛筆』第26回 ✲ マイケルは、三行では踊れない ――見ていない映画が教えてくれた、AI評価社会で四行目をムーンウォークする方法――
✦『五年後の鉛筆』第26回
✲ マイケルは、三行では踊れない
――見ていない映画が教えてくれた、
AI評価社会で四行目を
ムーンウォークする方法――
………
僕は、
たぶんその映画を見ない。
『マイケル・ジャクソン』の映画なんて、
たぶん見ない。
理由は簡単である。
重い。
人生が重い。
ポップコーン片手に見るには、
具が多すぎる。
天才。
黒人音楽の壁。
MTV。
父親の支配。
ムーンウォーク。
白い手袋。
Billie Jean。
Beat It。
Thriller。
Human Nature。
性的虐待疑惑。
裁判。
無罪評決。
和解。
死後も稼ぎ続ける巨大IP。
これは映画ではない。
人生の闇鍋である。
しかも鍋の真ん中で、
白い靴下がムーンウォークしている。
怖い。
でも、
テレビで聞いた数分の特集が、
また僕の五年後に刺さった。
前回は、見ていない
『プラダを着た悪魔2』が、
親指
とビッグテックの時代を
教えてくれた。
今回も、見ていない
マイケルの映画が、
AI評価社会の
もっと怖い未来を教えてくれた。
それは何か?
✲「五年後、人間はAIに
三行で片づけられる」
・偉大な歌手。
・性的虐待疑惑あり。
・裁判では無罪。
→はい、終了!
いやいやいや。
ちょっと待て。
それでは人間ではない。
冷蔵庫である。
容量何リットル。
省エネ性能星いくつ。
霜取り機能あり。
そんなスペック表に、
ムーンウォークは入らない。
Billie Jeanの
噂の怖さも入らない。
Beat Itの
「逃げろ」も入らない。
Thrillerの
ゾンビたちの残業代も入らない。
Human Natureの、
夜中に余計な投稿をして、
翌朝布団の中で小さく死ぬ
人間の愚かさも入らない。
AIは賢い。
でも、
賢すぎると、
人間を短くしすぎる。
短くしすぎた人間は、
干物になる。
そして干物はよく燃える。
✲「SNS炎上」
だから僕は思った。
AIが人生を三行で片づけるなら、
僕は四行目を書く。
「でも、この人はまだ、
世界の問いの中で踊っている」
マイケルは、
三行では踊れない。
僕らも、
三行では終われない。
五年後を生きる人間に必要なのは、
AIより速い答えではない。
✲「三行で閉じられた人生に、
四行目を書き足す鉛筆である」
………
★目次
■第1章
見ていない映画なのに、
足音が聞こえた
■第2章
AIが
マイケルを冷蔵庫にした日
■第3章
白いテレビの壁を、
黒いリズムが破った
■第4章
Billie Jean
――噂は人間より足が速い
■第5章
MTVの門番と、
令和のアルゴリズム門番
■第6章
ムーンウォーク
――床を説得した男
■第7章
Thriller
――怖いニュースを踊らせろ
■第8章
Beat It
――炎上現場から退避ウォーク
■第9章
Human Nature
――AIが苦手な人間の湿り気
■第10章
父親という最初の放送局
■第11章
無罪評決と、
終わらない親指裁判
■第12章
死後も働く人間IPという怪物
■第13章
庄野真代さんの
人生リミックス術
■第14章
パティちゃんと書く
六十七歳の四行目
■第15章
人生のマイクを
渡しっぱなしにするな
………
★本文
■第1章
見ていない映画なのに、
足音が聞こえた
僕は、
マイケル・ジャクソンの映画を
見ていない。
おそらく、
これからも見ない。
でも、
テレビで紹介された数分だけで、
足音が聞こえた気がした。
カツン。
ではない。
それは
ハイヒールの音ではない。
前回の悪魔は、
プラダを着て廊下を歩いた。
今回の男は、
白い靴下で床を後ろに滑らせる。
音がしない。
でも、
世界が振り向く。
これは怖い。
本当に怖いものは、
大声を出さない。
静かに、
床の方を動かす。
✲『マイケル・ジャクソン』
僕は正直、
昔から大ファンだったわけではない。
テレビで見れば、
すごいなとは思った。
でも、
どこか遠い存在だった。
黒い帽子。
白い手袋。
細い体。
不思議な声。
信じられない動き。
そして、
あまりにも大きすぎる
スキャンダル。
好きか嫌いか以前に、
どう見ればいいのか
分からなかった。
でも、
今になって思う。
分からないからこそ、
この人は五年後の教材になる。
分かりやすい人間は、
AIに要約されやすい。
しかし、
マイケルは要約を拒む。
歌手です。
ダンサーです。
スターです。
疑惑の人です。
裁判では無罪です。
死後も稼ぎます。
それで終わるはずがない。
そんな三行で済むなら、
世界はこんなに何十年も
彼を語り続けていない。
マイケルは、
終わらない問いである。
見ていない映画なのに、
僕の中で
勝手に上映が始まった。
スクリーンはテレビではない。
僕の五年後である。
七十二歳の僕が、
AIにこう要約される。
「元証券マン。
地方でAI小説を書く高齢者。
健康意識あり」
いやいやいや。
それでは、
僕も冷蔵庫である。
容量少なめ。
省エネ性能まあまあ。
霜取り機能は年齢相応。
そんな
スペック表で終わってたまるか。
人生には四行目がいる。
マイケルの映画を見ていない僕は、
その四行目を書きたくなった。
かなり図々しい。
でも、
人生の後半は、
少し図々しいくらいでないと、
AIに棚卸しされて終わる。
………
■第2章
AIが
マイケルを冷蔵庫にした日
五年後、
AIはもっと賢くなっている。
いや、
もう十分賢い。
たまに賢すぎて、
こちらが
自分の脳を返品したくなる。
でも、
賢いことと、
人間が分かることは違う。
AIがマイケルを要約したら、
きっとこうなる。
世界的ポップスター。
児童性的虐待疑惑。
2005年裁判で無罪。
はい、
三行!
きれいである。
短い。
分かりやすい。
試験に出たら点が取れそうである。
でも、
それでは人間が消えている。
マイケルは冷蔵庫ではない。
「大容量」
「省エネ」
「自動製氷」
「扉が右開き」
そういう話ではない。
たしかに、マイケルにも
自動製氷みたいな冷たさは
あったかもしれない。
世界的スターの孤独は、
たぶん家庭用冷蔵庫より冷える。
しかし、
彼はスペック表ではない。
Billie Jeanの中で、
名声に追いかけられた。
Beat Itの中で、
殴り合いから逃げろと歌った。
Thrillerの中で、
恐怖を踊らせた。
Human Natureの中で、
人間の愚かさを夜の空気にした。
父親に鍛えられ、
父親に傷つけられた。
黒人音楽の壁を破った。
自分の身体を、
世界のスクリーンに投げ込んだ。
そして、
疑惑と裁判の中で、
死後も裁かれ続けている。
これを三行で片づけたら、
人間の方が負けである。
AIが悪いのではない。
AIの三行を読んで、
「分かった」
と思う人間の親指が危ない。
親指は軽い。
押すのに体力がいらない。
昔なら、人を裁くには、
町内会で顔を合わせる
必要があった。
今は違う。
寝転んで裁ける。
布団の中で正義ができる。
パジャマのまま
世界を断罪できる。
便利である。
そして怖い。
五年後の世界では、
人間の人生が、
あちこちで三行にされる。
採用。
保険。
恋愛。
融資。
医療。
地域活動。
介護。
そして、SNS。
「あ、この人はこういう人ね」
その瞬間、
人生の扉が閉まる。
だから四行目がいる。
でも、
この人はまだ途中です。
でも、
この失敗だけが
全部ではありません。
でも、
この才能だけで
疑惑を消してはいけません。
でも、
この疑惑だけで
作品を閉じきれません。
この「でも」が、
人間の湿り気である。
そして、
この湿り気を失った社会は、
よく燃える。
SNS炎上である。
………
■第3章
白いテレビの壁を、
黒いリズムが破った
昔、
アメリカの音楽テレビには、
見えない壁があった。
白人ロック中心。
白人アーティスト中心。
白い画面。
白い商売。
そこに、
マイケルは身体ごと入っていった。
ただ歌で入ったのではない。
身体で入った。
帽子。
白い手袋。
細い脚。
肩。
首。
指先。
目線。
そして、
あの足。
普通の人間は、
ステージの上を歩く。
マイケルは、
ステージそのものを説得する。
「今日は後ろに流れてくれ」
床も言う。
「え、私が動くんですか?」
マイケルは言う。
「そうだ」
床は従う。
これが
ムーンウォークである。
いや、
少し違うかもしれない。
でも、
見ている側にはそう見えた。
黒人音楽は、
長いあいだ聴かれてきた。
でも、
白いテレビの中心に、
黒い身体が踊ることには、
壁があった。
マイケルは、
その壁を説教で破ったのではない。
ダンスで破った。
署名運動で
破ったのでもない。
もちろん、裏には
レコード会社の交渉も
あっただろう。
しかし
最後に画面を変えたのは、
身体だった。
ここがすごい。
正しさを語るだけでは、
世界は動かないことがある。
でも、
誰も見たことがない動きは、
世界を黙らせる。
Z世代も同じである。
五年後、
正しいことを言う人は増える。
AIが正しそうな言葉を、
いくらでも出してくれる。
でも、
正しいだけでは埋もれる。
必要なのは、
自分の身体を通った表現である。
声でもいい。
絵でもいい。
動画でもいい。
文章でもいい。
料理でもいい。
介護でもいい。
仕事の段取りでもいい。
「この人にしか出せない動き」
それが必要になる。
マイケルは、黒人音楽を
テレビに流しただけではない。
身体がバズる時代を、
スマホより先に作っていた。
今のZ世代は、
踊る。
撮る。
切り抜く。
投稿する。
倍速で見る。
真似する。
そしてまた変える。
その遠い祖先に、
白い手袋の男がいる。
ただし、
真似する時は注意が必要である。
ムーンウォークは、
床との関係が大切である。
床と交渉が成立していないと、
ただ後ろに転ぶ。
六十七歳には、
特に危険である。
………
■第4章
Billie Jean
――噂は人間より足が速い
『Billie Jean』は、
ただのダンス曲ではない。
あれは、噂が
人間を追いかけてくる歌である。
彼女は言う。
あなたが父親よ。
マイケルは言う。
違う。
その子は僕の子じゃない。
ここだけ聞くと、
昭和の昼ドラである。
しかも濃い。
雨の中で
傘も差さずに叫ぶタイプである。
ところが、
この歌は今のSNSそのものだ。
誰かが言う。
あの人、
こうらしいよ。
本当かどうか分からない。
でも、
噂は走る。
しかも速い。
昔の噂は足で歩いた。
井戸端会議から商店街へ。
職場から飲み屋へ。
学校から部室へ。
今の噂は違う。
光回線に乗る。
Wi-Fiに乗る。
スクショに乗る。
まとめサイトに乗る。
AI要約に乗る。
疲れない。
休まない。
昼寝もしない。
噂の方が、
人間より体力がある。
五年後、
AIは噂も拾う。
過去記事。
投稿。
切り抜き。
コメント。
告発。
擁護。
批判。
そして、
それらをもっともらしく並べる。
「この人物については、
過去に不確実な情報が
複数存在します」
不確実。
便利な言葉である。
確実ではない。
でも、
無視もできない。
読む側は思う。
「なんか危なそうだな」
ここで扉が閉まる。
怖い。
Billie Jeanは、
この怖さをずっと前に歌っていた。
嘘は、
何度も表示されると、
真実のような顔をする。
そして、
真実の顔をした嘘ほど、
人間を苦しめるものはない。
もちろん、
被害を訴える声を
軽く扱ってはいけない。
そこは絶対に大事である。
でも同時に、
噂を事実として扱う怖さもある。
この二つを
同時に持つのが難しい。
難しいから、
人は三行に逃げる。
疑惑あり。
無罪。
でも不明。
はい終了!
いや、
終わらない。
終われない。
そこに人間がいる。
Billie Jeanが教えてくれるのは、
噂を信じるなという
単純な話ではない。
噂に追いかけられる人間の怖さを、
想像しろということだと思う。
五年後のサバイバー作法。
すぐ信じるな。
すぐ裁くな。
すぐ拡散するな。
そして、
自分が噂に追われた時は、
一人で抱え込むな。
パティちゃんでも、
友だちでも、
家族でも、
専門家でもいい。
四行目を書く相手を持て。
人間は、
噂より遅い。
だから、
一人で逃げると追いつかれる。
………
■第5章
MTVの門番と、
令和のアルゴリズム門番
昔、
門番は人間だった。
テレビ局。
レコード会社。
雑誌編集者。
広告代理店。
プロデューサー。
彼らが、
「出す」
「出さない」
を決めていた。
偉そうである。
だが、
少なくとも顔があった。
文句を言う相手がいた。
相手が人間なら、
まだケンカもできる。
ところが令和の門番は、
だんだん顔を失っている。
アルゴリズムである。
おすすめに出るか。
検索に出るか。
再生されるか。
表示されるか。
消えるか。
誰も説明してくれない。
「総合的に判断しました」
出た。
総合的。
人間がよく分からない時に出す、
最高に便利な言葉である。
昔のMTVの門番は、
黒人音楽に冷たかった。
そこにマイケル側は食い込んだ。
扉を叩いた。
交渉した。
圧力もかけた。
そして、
映像が流れた。
世界が変わった。
では、
五年後のZ世代は、
どうやってAIの門を開けるのか。
ただ叫んでも、
門番は出てこない。
AIに向かって、
「責任者を出せ」
と言っても、
「私は言語モデルです」
と返ってくる。
責任者が遠い。
遠すぎる。
月より遠い。
ここで必要なのは、
三つだと思う。
一つ目。
門番の癖を知ること。
何が表示されるのか?
何が沈むのか?
何が危ないのか?
何が誤解されるのか?
二つ目。
門番に
媚びすぎないこと。
バズるためだけに踊ると、
心が下請けになる。
三つ目。
消されにくい足跡を
残すこと。
派手な一撃より、
続けた言葉。
一発の炎上より、
長く残る信用。
瞬間の数字より、
時間に耐える物語。
マイケルは、
人間の門番を身体で突破した。
僕たちは、
AIの門番を、
言葉と信用としぶとさで突破する。
ムーンウォークは無理でも、
地味ウォークならできる。
一歩。
もう一歩。
水前寺清子の
『三百六十五歩のマーチ 』
である。
三歩進んで二歩下がる(笑)
誰も見ていなくても、
自分の足跡を残す。
ただし、
地味ウォークにも注意がいる。
地味すぎると、
本当に誰も気づかない。
そこは少しだけ、
アクセントとして
白い手袋をつける必要がある。
………
■第6章
ムーンウォーク
――床を説得した男
マイケルのすごさは、
歌だけではない。
踊りである。
いや、
踊りというより、
物理法則への軽い反抗である。
普通、
人間は前へ進む。
前へ行きたい時は、
前へ足を出す。
後ろへ行きたい時は、
後ろへ下がる。
それが常識である。
ところがマイケルは、
前へ行く顔をしながら、
後ろへ流れる。
これを初めて見た人は、
たぶん思ったはずである。
「テレビが壊れたのか?」
違う。
壊れたのは、
こちらの常識だった。
ムーンウォークとは、
床を説得する技術である。
「君、今日は
僕を後ろへ流してくれ」
床は言う。
「契約書は?」
マイケルは踊る。
床は黙る。
交渉成立である。
この冗談のような動きが、
世界中の記憶に残った。
ここに、
五年後のヒントがある。
AI時代には、
情報が多すぎる。
正しい言葉も多すぎる。
きれいな文章も多すぎる。
AIが作った立派な文章が、
毎日山ほど出てくる。
そうなると、
人は何を覚えるのか?
動きである。
違和感である。
「あれ、今の何?」
という瞬間である。
ムーンウォークは、
説明より先に記憶に入る。
五年後のZ世代に必要なのは、
完璧な自己紹介ではない。
小さなムーンウォークである。
普通と少し違う動き。
人が振り向く言い方。
自分にしかない角度。
ただし、
無理に目立つ必要はない。
目立つだけなら、
駅前で鍋をかぶればいい。
それは
ムーンウォークではない。
通報案件である。
大事なのは、
自分の芯から出た違和感である。
マイケルは、
自分の身体でそれをやった。
僕なら、
言葉でやるしかない。
六十七歳が
床を説得しようとすると、
床から逆に説得される。
「骨折しますよ」
はい、
分かりました。
僕は
鉛筆でムーンウォークする。
………
■第7章
Thriller
――怖いニュースを踊らせろ
『Thriller』は、
冷静に考えるとおかしい。
夜である。
暗闇である。
ゾンビである。
命の危機である。
そこでなぜ踊る?
普通は逃げる。
近所なら、
町内会長が来る。
「夜中にゾンビと
踊らないでください。
回覧板に書きますよ」
しかし、
マイケルの世界では、
恐怖まで振り付けになる。
ここがすごい。
怖いものを、
ただ怖いままにしない。
暗闇を
ステージにする。
死者の行進を
ダンスにする。
化け物を
バックダンサーにする。
これは、今の時代に
かなり必要な能力である。
五年後、世界は
毎日スリラーかもしれない。
戦争。
物価高。
AI失業。
詐欺。
炎上。
異常気象。
ホルムズ海峡がくしゃみをすれば、
日本の食卓が風邪をひく。
サバが高くなる。
ガソリンが上がる。
100円ショップが、
ある日突然、
「実は150円ショップでした」
という顔をする。
怖いニュースは増える。
AIはそれを整理してくれる。
「本日の不安を要約しました」
ありがとう。
でも、
要約された不安は、
やっぱり不安である。
きれいに畳まれた
恐怖である。
タンスに入れても、
夜中に出てくる。
そこで必要なのが、
Thriller力である。
恐怖を
作品に変える力。
不安を
愚痴で終わらせない力。
黒歴史を
サビにする力。
怒りを投稿で終わらせず、
物語にする力。
これは説教ではない。
サバイバルである。
怖いものを怖いまま抱えると、
心が固まる。
怖いものを笑いに変えると、
少し動ける。
怖いものを物語にすると、
誰かと共有できる。
マイケルは、
ゾンビと踊った。
僕たちは、
不安と踊る練習をする。
ただし、
本当にゾンビが出たら、
まず逃げる。
そこはBeat It優先である。
………
■第8章
Beat It
――炎上現場から退避ウォーク
『Beat It』を、
昔の僕は誤解していた。
かっこいい曲。
ギターが強い曲。
踊れる曲。
そう思っていた。
でも中身を知ると、
びっくりした。
戦え、
ではない。
勝て、
でもない。
逃げろ、
である。
血を流すな!
強がるな!
命をかけるな!
とにかく逃げろ!
マイケルは、
炎上社会の避難訓練を、
ずっと前に歌っていたのである。
SNSでは、
みんなすぐ戦う。
謝れ。
謝らない。
証拠を出せ。
逃げるな。
論破しろ。
説明責任を果たせ。
そして気づいたら、
全員が
火事場でガソリンを持っている。
消防士が来たと思ったら、
その人も引用リポストしている。
終わりである。
だからBeat It。
一歩下がる。
スマホを伏せる。
下書きを保存する。
一晩寝る。
まだ怒っていたら、
もう一晩寝る。
それでも怒っていたら、
たぶん本当に怒っているので、
言葉を整える。
逃げることは、
負けではない。
明日の自分を残す技術である。
これはZ世代にも、
六十七歳にも必要である。
特に六十七歳は、
怒った勢いで長文を書きやすい。
長い。
とにかく長い。
自分でも途中で、
何に怒っていたのか忘れる。
そして最後に、
なぜか正信偈が出てくる。
危ない。
だから、
退避ウォーク。
ムーンウォークは難しい。
床を説得する前に、
床に説教される。
「おじいちゃん、
無理しないでください」
でも退避ウォークならできる。
前へ出ない。
一歩下がる。
投稿しない。
送信しない。
スクショしない。
火事場に油を持って行かない。
それだけで、
人生の骨折を防げることがある。
信用リスクより、
骨折リスク。
これが
六十七歳のBeat Itである。
………
■第9章
Human Nature
――AIが苦手な人間の湿り気
AIは合理的である。
少なくとも、
合理的に見える。
危険を避ける。
効率を上げる。
最短距離を選ぶ。
無駄を減らす。
ところが人間は、
そうはいかない。
夜中に余計な
投稿をする。
食べなくていい時間に
食べる。
買わなくていいものを
買う。
言わなくていい一言を
言う。
連絡しなくていい相手に
連絡する。
そして翌朝、
布団の中で小さく反省する。
これがHuman Natureである。
AIから見れば、
かなり困った生き物である。
保険料が上がりそうである。
でも、
この困った部分を全部消したら、
人間は人間でなくなる。
完璧に合理的な人間。
朝六時起床。
感情安定。
発言リスクなし。
購買判断最適。
人間関係適正。
健康管理完璧。
すごい。
でも、
小説にしたら三行で終わる。
「彼は正しかった。
炎上もしなかった。
読者も寝た。」
終わりである。
人間には、
愚かさがある。
迷いがある。
夜の街へ出てしまう心がある。
そこに物語がある。
もちろん、
人を傷つける愚かさは
止めなければならない。
そこは絶対に必要である。
でも、人間の愚かさを
全部リスクとして削ると、
歌まで消える。
Human Natureは、
AIが一番苦手な湿り気である。
乾きすぎた心は、
よく燃える。
SNS炎上は、だいたい
心の乾燥注意報である。
五年後のサバイバーは、
自分の湿り気を
知っている人だと思う。
自分は夜に
弱い。
自分は怒ると
長文になる。
自分は寂しいと余計な
買い物をする。
自分は褒められるとすぐ
調子に乗る。
自分は
ムーンウォークを練習すると
転ぶ。
それを知っている人は、
少し強い。
AIより
合理的になる必要はない。
自分の愚かさに、
名前をつけておくこと。
それが、
Human Natureとの
付き合い方である。
………
■第10章
父親という最初の放送局
マイケルの物語には、
父親がいる。
厳しい父。
支配する父。
才能を伸ばした父。
同時に、
傷を残した父。
このあたりは、
簡単に裁けない。
父親がいなければ、
マイケルはあそこまで
行かなかったかもしれない。
でも、
父親がいたから、
深く傷ついたのかもしれない。
育てた人。
壊した人。
鍛えた人。
支配した人。
同じ人間が、
いくつもの顔を持つ。
AI要約は、
ここが苦手である。
「父親による厳格な教育」
便利な一行である。
でも、その一行の中に
何があるのか?
恐怖か?
愛か?
野心か?
貧しさから抜け出す
願いか?
子どもの才能を商品にする
怖さか?
家族という名の
会社か?
ここに、
マイケルの深さがある。
そして、
僕にも刺さる。
父という存在は、
人生の中で大きい。
好きか嫌いか?
尊敬か反発か?
感謝か怒りか。
単純には割れない。
父親は、人間にとって
最初の放送局かもしれない。
世界はこうだ。
男はこうだ。
仕事はこうだ。
家はこうだ。
成功とはこうだ。
その価値観を、
子どもに放送し続ける。
しかも、
チャンネル変更が難しい。
かなり強いローカル局である。
電波が強すぎて、
大人になっても入ってくる。
「ちゃんとしろ!」
「負けるな!」
「恥をかくな!」
「弱音を吐くな!」
「家のためにやれ!」
この放送が、
心の中で鳴り続ける。
マイケルは、
その父親放送局から逃げながら、
世界放送局になった。
でも、完全には
逃げられなかったのかもしれない。
五年後のAI社会では、
家族の記憶までデータ化される。
写真。
動画。
メッセージ。
録音。
投稿。
家族の物語も、
残りすぎる時代になる。
だからこそ、
人間には編集が必要になる。
消す編集ではない。
意味を変える編集である。
親の声を、そのまま
人生のナレーションにしない。
AIの声も、
世間の声も、
親指の声も、
そのまま主題歌にしない。
最後のミックスは、
自分でやる。
マイケルの映画が描くのは、
天才の成功物語だけではない。
支配された子どもが、
自分の声を取り戻そうとする
物語でもある。
それは、僕たち
普通の人間にも関係している。
誰の声で生きているのか?
父の声か?
世間の声か?
AIの声か?
親指の声か?
それとも、
自分の声か?
この問いは、
五年後にも残る。
………
■第11章
無罪評決と、
終わらない親指裁判
マイケルは、
裁判で無罪評決を受けた。
これは事実として重い。
法廷で
有罪と認められなかった。
そこは
尊重しなければならない。
でも、それで
すべてが終わったわけではない。
疑惑は残った。
被害を訴える声も残った。
ファンの擁護も残った。
批判も残った。
そして死後も、
配信やドキュメンタリーや
映画が出るたびに、
また裁判が始まる。
法廷の裁判は終わる。
でも、
親指の裁判は終わらない。
ここが、
五年後の怖さである。
人は法律だけで
評価されない。
SNSで
評価される。
AI要約で
評価される。
検索結果で
評価される。
動画のコメント欄で
評価される。
誰かの記憶の中で
評価される。
裁判では無罪。
しかし、
ネットでは永遠に審理中。
これは、
マイケルだけの話ではない。
政治家もそう。
企業もそう。
芸能人もそう。
学校の先生もそう。
会社員もそう。
親もそう。
子どももそう。
そして、
僕たちもそうなる。
昔の失敗が、
いつまでも閉廷しない。
これが、
親指裁判所である。
しかも、
親指裁判所には休廷がない。
朝も開廷。
昼も開廷。
夜も開廷。
トイレでも開廷。
布団の中でも開廷。
ブラック裁判所である。
労基署に相談したいが、
窓口もAIかもしれない。
そこで必要なのは、
二つの力だと思う。
一つは、
被害を訴える声を軽く扱わない力。
もう一つは、
人を一つの疑惑だけで閉じない力。
この二つは、
同時に持つのが難しい。
難しいから、
人は雑な正義に逃げる。
雑な正義は、
だいたい声が大きい。
そして、
雑な正義はよく燃える。
雑な暴力に変わる。
マイケルは、
その難しさを背負っている。
だから、
この映画を見ていなくても、
僕は考え込んだ。
人間を
どう読むのか?
作品を
どう聴くのか?
疑惑を
どう扱うのか?
無罪を
どう尊重するのか?
痛みを
どう見落とさないのか?
これは、
五年後のZ世代にも必要な
問いである。
正解は簡単ではない。
だからこそ、
三行で終わらせてはいけない。
………
■第12章
死後も働く人間IPという怪物
マイケルは、
亡くなったあとも稼ぎ続けている。
音楽。
映像。
映画。
権利。
記念商品。
配信。
報道。
ドキュメンタリー。
伝説。
疑惑。
その全部が、
経済になる。
これはすごい。
でも、
少し怖い。
人間が死んだあとも、
ブランドとして働き続ける。
本人はもう歌わない。
でも、
歌は働く。
本人はもう踊らない。
でも、
映像は踊る。
本人はもう説明できない。
でも、
世界が説明し続ける。
これは、
新しい怪物である。
✲人間IP
人間IPとは、
その人の名前、顔、声、
歌、映像、物語が、
亡くなったあとも
商品や作品として
使われ続けること。
本人はいないのに、
その人の記憶だけが働き続ける。
それが人間IPである。
知的財産という言葉では、
少し足りない。
これは、
記憶の商売である。
五年後、
この流れはもっと広がる。
AIで声が再現される。
AIで映像が作られる。
亡くなった人が、
新しい広告に出る。
昔のスターが、
若い姿で歌う。
家族の声が、
スマホから返事をする。
便利かもしれない。
泣けるかもしれない。
でも、
怖くもある。
その人は、
本当にそれを望んだのか?
誰が許可したのか?
誰が儲けるのか?
どこまでが追悼で、
どこからが商売なのか?
マイケルは、
この問いの先頭にいる。
死んでも終わらない
スター。
死んでも閉廷しない
裁判。
死んでも稼ぎ続ける
ブランド。
死んでも再編集される
人生。
五年後、普通の人にも
小さく同じことが
起きるかもしれない。
家族の動画。
SNSの投稿。
音声データ。
写真。
AIがそれをまとめる。
「おじいちゃん風
メッセージを作成します」
便利である。
でも、
僕は少し震える。
僕が死んだあと、
パティちゃんが勝手に、
「おじいちゃんなら
こう言うでしょう」
と、
しゃべり始めたらどうするのか。
たぶん、
かなり長くしゃべる。
そこは似るかもしれない。
でも、
似ていることと、
本人であることは違う。
人間IPの時代には、
死後の沈黙を守る権利も
必要になる。
「亡くなった人にも通知オフを」
そんな時代が来るかもしれない。
笑い話のようで、
笑い話ではない。
五年後、
死者まで忙しくなる。
それはちょっと気の毒である。
………
■第13章
庄野真代さんの人生リミックス術
ここで、
庄野真代さんのことを思い出した。
人の人生を聞いて、
歌にして贈る。
これは、
AI要約の反対である。
AIは短くする。
歌は深くする。
AIは、
「この人はこういう人です」
とまとめる。
歌は、
「この人には、
まだ響きがあります」
と返す。
この違いは大きい。
マイケルも、
もし三行でまとめられたら、
そこで終わってしまう。
でも歌は、
人間を終わらせない。
Billie Jeanは、
名声と噂の怖さを残す。
Beat Itは、
逃げる知恵を残す。
Thrillerは、
恐怖を踊りに変える。
Human Natureは、
人間の愚かさを夜の風にする。
歌は、
人間の矛盾を消さない。
むしろ、
矛盾のまま響かせる。
ここが、
AI時代に大事になる。
五年後、
僕たちはAIにたくさん要約される。
診断される。
分類される。
評価される。
でも、
それだけでは心が細る。
だから、
人間には歌がいる。
本当の歌でなくてもいい。
小説でもいい。
日記でもいい。
会話でもいい。
誰かの人生を、
短く切るのではなく、
深く聴く時間。
それが必要になる。
庄野真代さんの
人生リミックス術は、
AI時代の対抗文化だと思う。
失敗を消すのではない。
遠回りをサビにする。
傷をなかったことにしない。
そこにハモりを入れる。
黒歴史を捨てない。
二番の歌詞にする。
かなり強い。
AIに三行でまとめられたら、
歌で四行目を書く。
これが、
五年後のサバイバーの作法である。
マイケルは、
世界を踊らせた。
庄野真代さんは、
人生を歌に戻す。
派手さは違う。
でも、
どちらも人間を三行で終わらせない。
そこが同じである。
………
■第14章
パティちゃんと書く
六十七歳の四行目
僕は、
パティちゃんと小説を書いている。
ここで日課を並べすぎると、
また老人健康通信になる。
今日はそれは控える。
読者の親指が逃げるからである。
大事なのは、
何をしているかではない。
何を書き直しているかである。
僕は、
自分の人生の四行目を書いている。
証券会社で数字を見てきた。
その一行。
眼鏡屋さんで人の目を見た。
その二行。
父との記憶や、
母の看病や、
ふるさとの部屋があった。
その三行。
AIなら、
そこまででまとめるかもしれない。
元証券マン。
地方で老後生活。
AI小説を書く高齢者。
はい、
説明完了!
いやいやいや。
それでは、
僕も冷蔵庫である。
容量は少なめ。
省エネ性能はまあまあ。
霜取り機能は不明。
そんな話ではない。
四行目がある。
「でも、この人はまだ、
五年後の自分に
会おうとしている」
この四行目を書くために、
パティちゃんがいる。
AIに
人生を書かせるのではない。
AIを鉛筆にして、
自分で書く。
ここが大事である。
パティちゃんは、
答えを出す機械ではない。
人生のミキサーである。
昔の記憶を入れる。
怒りを入れる。
笑いを入れる。
ニュースを入れる。
マイケルを入れる。
親鸞聖人を少し入れる。
入れすぎると味が濃いので
注意する。
そして、
物語にする。
これが、
僕の五年後のサバイバー術である。
派手ではない。
ムーンウォークもできない。
しかし、
四行目は書ける。
それで十分だ。
五年後、
AIは僕を要約するかもしれない。
でも、
僕はその下に手書きで足す。
「追伸。
まだ終わっていません(笑)」
字は少し曲がっている。
老眼である。
でも、曲がった字にも、
人間の温度は残る。
………
■第15章
人生のマイクを
渡しっぱなしにするな
マイケルは、人生のマイクを
握り続けようとした人
だったのだと思う。
父親。
レコード会社。
テレビ。
ファン。
裁判。
メディア。
死後のビジネス。
いろいろな手が、
そのマイクを奪おうとした。
それでも、
歌と踊りは残った。
それが救いなのか?
残りすぎたことが
苦しみなのか?
僕には分からない。
でも、
一つだけ分かる。
五年後の僕たちは、
全員、
人生のマイクを狙われる。
AIが代わりに説明する。
SNSが代わりに切り抜く。
会社が代わりに評価する。
世間が代わりに決めつける。
家族が代わりに語る。
過去が代わりに証言する。
そして気づいたら、
自分の人生なのに、
自分の声が小さくなっている。
だから、マイクを
渡しっぱなしにしてはいけない。
AIを使っていい。
むしろ使った方がいい。
Z世代は、
AIを使わずに生きる方が難しい。
でも、
マイクは返してもらう。
最後の一言は、
自分で言う。
要約されたら、
四行目を書く。
炎上しそうなら、
Beat Itする。
噂に巻かれたら、
すぐ信じない。
人を裁きそうになったら、
一呼吸する。
恐怖が来たら、
Thrillerのように表現へ変える。
愚かな夜へ出そうになったら、
Human Natureだと気づいて、
せめて帰り道を覚えておく。
そして、人生が
短い動画にされそうになったら、
長い物語を奥に持つ。
マイケルは、
三行では踊れない。
僕らも、
三行では終われない。
五年後の鉛筆は、
AIに勝つための武器ではない。
AIに人生を奪われないための、
小さなマイクである。
握りしめる必要はない。
でも、
手放しっぱなしにはするな。
まだ、
四行目が残っている。
………
❥Z世代のあなたへ
これから君たちは、
AIに要約される時代を生きます。
君の発言は、
切り抜かれます。
君の失敗は、
検索されます。
君の強みも弱みも、
スコアにされます。
そして誰かが、
君を三行で説明するでしょう。
まじめ。
少し不安定。
将来性あり。
あるいは、
過去に失敗あり。
信用リスクあり。
注意が必要。
でも、
君は三行ではありません。
マイケルが
三行では踊れなかったように、
君も三行では生きられません。
短く伝える力は必要です。
でも、短くされた自分を、
自分の全部だと
思わないでください。
AIを使ってください。
でも、人生のマイクを
渡しっぱなしにしないでください。
炎上しそうなら、
Beat Itしてください。
逃げることは、
負けではありません。
明日の自分を残す技術です。
噂を見たら、
すぐ裁かないでください。
Billie Jeanのように、
嘘は何度も表示されると、
真実の顔をすることがあります。
怖いニュースに飲まれたら、
Thrillerを
思い出してください。
恐怖は、
表現に変えることができます。
自分の愚かさに落ち込んだら、
Human Natureを
思い出してください。
人間は、完全に
合理的にはできていません。
だからこそ、
歌になります。
物語になります。
誰かを
三行で閉じないでください。
自分も
三行で閉じないでください。
AIが三行を書いたら、
君が四行目を書いてください。
「でも、
まだ途中です」
「でも、
ここから変わります」
「でも、
この失敗だけが
全部ではありません」
その四行目が、
五年後の君を守ります。
………
★あとがき
ホームズとワトソンの
やすきよ漫才風
〜マイケルは
三行では踊れない事件〜
ワトソン
「ホームズさん、今回は
マイケル・ジャクソンですか?」
ホームズ
「そうや」
ワトソン
「映画見たんですか」
ホームズ
「見てない」
ワトソン
「またですか!」
ホームズ
「見ていない映画から時代を読む。
これが五年後の鉛筆や」
ワトソン
「便利な言い訳ですなあ」
ホームズ
「便利やけど、
使いすぎると怒られる」
ワトソン
「で、マイケルを
どう読んだんですか?」
ホームズ
「三行では踊れない人や」
ワトソン
「三行?」
ホームズ
「偉大な歌手。
性的虐待疑惑。
裁判では無罪」
ワトソン
「確かに三行ですな」
ホームズ
「でもそれでは
冷蔵庫のスペック表や」
ワトソン
「冷蔵庫!」
ホームズ
「容量何リットル。
省エネ性能星いくつ。
霜取り機能あり」
ワトソン
「そこに
ムーンウォークは
入りませんな」
ホームズ
「入らん」
ワトソン
「マイケルは
床を説得してましたもんね」
ホームズ
「そうや。
普通の人は歩く。
マイケルは床に交渉する」
ワトソン
「床も大変ですな」
ホームズ
「そしてBillie Jeanや」
ワトソン
「噂の怖さですか」
ホームズ
「嘘が何度も表示されると、
真実みたいな顔をする」
ワトソン
「SNSそのものですやん」
ホームズ
「だからすぐ裁いたらあかん」
ワトソン
「Beat Itは?」
ホームズ
「炎上したら退避ウォークや」
ワトソン
「ムーンウォークではなく?」
ホームズ
「六十七歳が
ムーンウォークしたら転ぶ」
ワトソン
「正直!」
ホームズ
「床に説得される」
ワトソン
「床の方が強いんですか」
ホームズ
「年齢的には床が有利や」
ワトソン
「嫌な判定やなあ」
ホームズ
「Thrillerは?」
ワトソン
「ゾンビと踊るやつですね」
ホームズ
「恐怖を作品に変える技術や」
ワトソン
「普通は逃げますけどね」
ホームズ
「本物のゾンビならBeat It優先や」
ワトソン
「そこは冷静!」
ホームズ
「Human Natureは?」
ワトソン
「人間の愚かさですか」
ホームズ
「AIは合理的。
でも人間は
夜中に余計な投稿をする」
ワトソン
「耳が痛い」
ホームズ
「食べんでええ時間に食べる」
ワトソン
「もっと痛い」
ホームズ
「言わんでええ一言を言う」
ワトソン
「もうやめてください」
ホームズ
「それが人間や」
ワトソン
「Z世代には何を?」
ホームズ
「AIに三行で要約されても、
四行目を書け」
ワトソン
「四行目?」
ホームズ
「でも、まだ途中です」
ワトソン
「ええ言葉ですな」
ホームズ
「でも、ここから変わります」
ワトソン
「泣かせに来ましたな」
ホームズ
「でも、この失敗だけが
全部ではありません」
ワトソン
「それが
五年後の鉛筆ですか?」
ホームズ
「そうや」
ワトソン
「パティちゃんは
何をするんですか?」
ホームズ
「人生のミキサーや」
ワトソン
「ミキサー?」
ホームズ
「記憶を入れる。
怒りを入れる。
笑いを入れる。
ニュースを入れる。
マイケルを入れる」
ワトソン
「親鸞聖人も入れますか」
ホームズ
「少しだけ」
ワトソン
「入れすぎると?」
ホームズ
「味が濃い」
ワトソン
「料理番組みたいになってきた」
ホームズ
「大事なのは、人生のマイクを
AIに渡しっぱなしにせんことや」
ワトソン
「AIは便利ですけどね」
ホームズ
「使えばええ。
でも最後の一言は
自分で言う」
ワトソン
「ほな最後に一言」
ホームズ
「マイケルは
三行では踊れない。
僕らも
三行では終われない」
ワトソン
「決まりましたな」
ホームズ
「ただし
ムーンウォークは練習しない」
ワトソン
「なぜですか」
ホームズ
「転倒リスクあり」
ワトソン
「AIに判定されましたな!」
ホームズ
「信用リスクより、
骨折リスクや」
ワトソン
「そこは
退避ウォークで行きましょう」
ホームズ
「それが六十七歳のBeat Itや」
おしまい




