『五年後の鉛筆』第18回 ✲ 君はAIの点数ではない ――五年後の評価社会で、六十七歳の僕が、毎朝、自分の名前を取り戻す理由――
✦『五年後の鉛筆』第18回
✲ 君はAIの点数ではない
――五年後の評価社会で、
六十七歳の僕が、毎朝、
自分の名前を取り戻す理由――
………
五年後、
AIは君に名前を貼るかもしれない。
でも、
その名前が、
君の全部ではない。
君は、
点数ではない。
君は、
リスク判定ではない。
君は、
誰かの画面に表示された
「この人はこういう人です」
という説明文より、
もっと奥にいる。
僕はその存在を、
六十七歳になってから、
毎朝の小さな習慣で
少しずつ知った。
………
★目次
■第1章
五年後、
AIが僕に名前を貼った朝
■第2章
高齢者、健康リスク、
文章生成依存
■第3章
僕は名札の束なのか
■第4章
同じ朝なのに、
世界が暗く見える日
■第5章
人間は、
心のフィルターで世界を見ている
■第6章
便利な名前は、
呪いの名札にもなる
■第7章
五年後の社会は、背中に
透明な成績表を貼られる社会
■第8章
僕の朝は、
スコア社会への小さな抵抗だった
■第9章
一つ目の習慣
――朝、
自分より大きなものの前に立つ
■第10章
二つ目の習慣
――声を出す
■第11章
三つ目の習慣
――五年後の願いを決める
■第12章
四つ目の習慣
――自分のログを自分で読む
■第13章
五つ目の習慣
――誰かへ救命浮輪を投げる
■第14章
人を傷つける名前が
消えた世界
■第15章
君はAIの点数ではない
………
★本文
■第1章
五年後、AIが僕に名前を貼った朝
五年後の朝。
僕は、スマホの画面を見ていた。
そこには、
僕の生活データをまとめた
AIの分析結果が表示されていた。
✲年齢、七十二歳。
✲睡眠、やや不安定。
✲血圧、注意観察。
✲運動習慣、良好。
✲文章生成サービス利用頻度、
高い。
✲承認欲求、
やや強め。
✲孤独リスク、
中程度。
✲健康意識、高い。
✲将来不安、あり。
僕は画面を見ながら、
思わず笑った。
「おいおい。
わしは、
名札の詰め合わせセットか?」
AIは悪気なく、
僕を説明していた。
たぶん、
便利なためだった。
✲病気を早く見つけるため。
✲事故を防ぐため。
✲詐欺に遭わないようにするため。
✲孤独を見つけるため。
けれど、
その画面を見た瞬間、
僕は少しだけ、
自分が小さくなったような気がした。
七十二年生きてきた僕が…、
たった数行の説明に
折りたたまれていた。
■第2章
高齢者、健康リスク、
文章生成依存
AIの分析は、
間違ってはいなかった。
僕はたしかに高齢者である。
薬も飲んでいる。
睡眠も完璧ではない。
夜中に何度も目を覚ます。
毎朝、
体温を測る。
血圧を測る。
スマートウォッチで
睡眠を見る。
足湯に入る。
ラジオ体操をする。
玄米を食べる。
正座は長くできないが、
仏壇の前で声を出す。
カラオケにも行く。
AIにも話しかける。
小説も書く。
AIから見れば、
それは全部ログである。
健康ログ。
行動ログ。
感情ログ。
発言ログ。
検索ログ。
生活ログ。
でも僕にとっては、
それはログではなかった。
それは、
五年後の僕へ向けて
毎日転がしている一本の鉛筆だった。
■第3章
僕は名札の束なのか
若い頃、
僕はいろんな名前で呼ばれた。
✲落ち着きがない。
✲考えが浅い。
✲説明書が読めない。
✲早とちり。
✲中二病。
✲のんびりしすぎ。
✲焦りすぎ。
✲変わっている。(変人!)
証券会社に入ってからも、
いろんな名前が飛んできた。
営業マン。
支店長。
数字を作る人。
数字を作れない人。
使える人。
使いにくい人。
部下を守る人。
サラリーマンに向かない人。
僕はそのたびに、
少しずつ、
自分の中へ名札をしまい込んできた。
そして気がつくと、
自分で自分にも
名札を貼るようになっていた。
「わしは
こういう人間じゃから…」
「どうせ無理じゃ」
「算数が全くできん」
「もう遅い」
「靴紐が結べん」
「若い人には勝てん」
「取り柄なんて全くないよ」
「軽い知的障害があるかも…」
でも、
本当にそうなのか?
僕は、
名札の束なのか?
僕の人生は、
誰かが貼ったラベルで
できているのか?
■第4章
同じ朝なのに、
世界が暗く見える日
不思議なことがある。
同じ朝なのに、
明るく見える日と、
暗く見える日がある。
同じ空なのに、
気持ちが軽い日は青く見える。
気持ちが重い日は、
灰色に見える。
同じスーパーなのに、
いいことがあった日は
棚の商品まで元気に見える。
嫌なことがあった日は、
値札ばかりが目に入る。
同じスマホなのに、
心が安定している日は
通知がただの通知に見える。
不安な日は、
通知一つで胸がざわつく。
同じ家なのに、
夫婦喧嘩をしたあとは
部屋の空気まで暗くなる。
同じ道なのに、
誰かに無視された日は
町全体が
自分を避けているように
見える。
世界が変わったのか?
たぶん違う。
僕の心が、
世界に色を塗っている。
■第5章
人間は、心のフィルターで
世界を見ている
昔、
人間の心を
じっと観察した人がいた。
その人は、
たぶんこう考えた。
人間は、
世界そのものを
そのまま見ているわけではない。
✲記憶で見る。
✲傷で見る。
✲怒りで見る。
✲欲で見る。
✲恐れで見る。
✲親に言われた一言で
見る。
✲学校で笑われた日の記憶で
見る。
✲会社で怒鳴られた夜の声で
見る。
同じ出来事でも、
人によって見え方が違う。
同じ雨でも、
農家には恵みに見える。
だけど、
旅行者には残念に見える。
そして、
失恋した人には、
涙の続きに見える。
つまり、
僕らは世界を見ているようで、
自分の心の編集アプリで
加工された世界を見ている。
✲明るさ調整。
✲色味補正。
✲不安フィルター。
✲怒りフィルター。
✲劣等感フィルター。
✲承認欲求フィルター。
そして、
その加工済みの画面を見て、
僕らは言う。
「これが現実だ」と。
■第6章
便利な名前は、
呪いの名札にもなる
名前は便利である。
名前がないと、
社会は動かない。
✲医者は病名をつける。
✲学校は成績をつける。
✲会社は職種をつける。
✲銀行は信用をつける。
✲AIはリスクをつける。
名前があるから、
助かることもある。
✲早く病気が分かる。
✲危険を避けられる。
✲必要な支援につながる。
でも、
名前にはもう一つの顔がある。
名前は、
人を閉じ込める。
障害者。
✲健常者。
働き盛り。
✲高齢者。
✲低学歴。
ハーバード大学卒。
✲無職。
年収2000万。
不安定。
✲ラッキー。
✲要注意。
採用リスク。
信用スコア低め。
✲将来性なし。
そう呼ばれた瞬間、
✲人はその名前の箱に
入れられる。
そして怖いのは、
他人に入れられるだけではない。
本人まで、
その箱の中で暮らし始めることだ。
✲「自分はそういう人間なんだ」
これが、
呪いの名札である。
■第7章
五年後の社会は、背中に
透明な成績表を貼られる社会
五年後の社会は、
たぶん今より便利になっている。
病気の予兆は早く見つかる。
お金の管理も楽になる。
AIが予定を組んでくれる。
買い物も、
勉強も、
仕事探しも、
✲今よりずっと
効率化される。
でも同時に、人間は
✲透明な成績表を背中に
貼られて歩くようになる
かもしれない。
この人は信用できる。
この人は注意。
この人は健康的。
この人はリスクあり。
この人は採用向き。
この人は採用しにくい。
この人は感情が安定している。
この人は感情が揺れやすい。
もちろん、
便利である。
でも、
便利な社会ほど、
人を一瞬で分類する。
分類されることに慣れると、
人間は自分で自分を見る力を失う。
✲AIが言うなら、
そうなんだろう。
✲会社が言うなら、
そうなんだろう。
✲世間が言うなら、
そうなんだろう。
そうやって、
自分の名前を
他人に預けてしまう。
■第8章
僕の朝は、スコア社会への
小さな抵抗だった
僕は、
五年後の社会に勝てるほど
賢い人間ではない。
新しいアプリも、
すぐには分からない。
説明書も苦手である。
スマホの設定だけで、
何度も迷子になる。
それでも、
僕には朝がある。
朝、
体温を測る。
血圧を測る。
足湯に入る。
ラジオ体操をする。
声を出す。
玄米を食べる。
今日の体の感じを見る。
心の濁りを見る。
AIに話しかける。
小説を書く。
最初は、
ただ健康のためだった。
若返りたい。
元気でいたい。
ボケたくない。
血圧を安定させたい。
睡眠をよくしたい。
でも最近、
少し分かってきた。
これは、
健康法だけではない。
五年後、
✲AIや社会に
名前を貼られても、
自分を見失わないための
小さな抵抗だった。
■第9章
一つ目の習慣
――朝、自分より大きなものの
前に立つ
一つ目の習慣。
朝、
自分より大きなものの前に立つ。
それが何かは、
人によって違っていい。
空でもいい。
海でもいい。
山でもいい。
亡くなった人の写真でもいい。
祈りでもいい。
音楽でもいい。
僕の場合、それは
✲仏壇の前で声を出すことだった。
ただし、
これは難しい宗教の話ではない。
朝、
✲自分が世界の中心ではないと
知る時間である。
AIの点数より前に。
株価より前に。
SNSの反応より前に。
昨日の失敗より前に。
今日の不安より前に。
自分より大きなものの前に立つ。
すると、
自分に貼られた名札が
少しだけゆるむ。
高齢者。
年金生活者。
薄毛?
もう遅い。
そんな名前より前に、
✲自分は今日も生かされている。
そこへ戻る。
■第10章
二つ目の習慣
――声を出す
二つ目の習慣。
声を出す。
声は不思議である。
✲心が沈んでいる時ほど、
声は小さくなる。
✲不安な時ほど、
喉が詰まる。
✲怒っている時ほど、
声は尖る。
✲寂しい時ほど、
声を出すのが面倒になる。
✲睡眠不足だと
声が枯れる。
✲風邪気味だと
咳き込んでしまう。
だからこそ、
声を出す。
上手でなくていい。
歌が下手でもいい。
音程がずれてもいい。
お経でも、
ラジオ体操の号令でも、
カラオケでも、
英語のフレーズでもいい。
✲声は、命がまだ
世界に参加している証拠である。
AI評価社会では、
声も分析されるかもしれない。
感情分析。
疲労判定。
認知機能の予測。
でも、
声は点数のためだけに
あるのではない。
✲声を出すとは、
自分がまだここにいると
世界に知らせることだ。
■第11章
三つ目の習慣
――五年後の願いを決める
三つ目の習慣。
五年後の願いを決める。
ただし、
願いは大きすぎなくていい。
有名になりたい。
金持ちになりたい。
若者に勝ちたい。
女性にモテたい。
そういう願いも人間らしいが、
それだけだと疲れる。
五年後、
自分はどんな人間でいたいか?
どんな世界に立っていたいか?
誰に、
何を渡したいか?
僕の願いは、
少しずつ変わってきた。
最初は、
若返りたかった。
元気になりたかった。
歌がうまくなりたかった。
AIで小説を書いてみたかった。
でも今は、
少し違う。
五年後、
✲AI評価社会で
名前を貼られて苦しむ若者に、
一本の鉛筆を渡したい。
最近だけど、
そんなことをちょっとだけ
考えることができた。
君は、
AIの点数だけではない。
そう言える言葉を、
一つでも残したい。
それが、
僕の五年後の願いである。
■第12章
四つ目の習慣
――自分のログを自分で読む
四つ目の習慣。
自分のログを自分で読む。
これは、
ただ数字を見ることではない。
体温を見る。
血圧を見る。
睡眠を見る。
歩数を見る。
食事を見る。
便を見る。
声を見る。
気分を見る。
怒りを見る。
不安を見る。
ニュースを見た時の
胸のざわつきを見る。
スーパーの棚を見た時の
違和感を見る。
AIの返事を読んだ時の
自分の反応を見る。
人間は、
自分のことを
分かっているようで
分かっていない。
✲AIはデータを見る。
でも、
✲そのデータを
どう受け止めるかは、
自分で見なければ分からない。
血圧が高い。
それだけなら数字である。
その数字を見て、
不安になるのか?
生活を整えようと
思うのか?
もうダメだと
落ち込むのか?
今日は休もうと
判断するのか?
そこに、
人間の読み方がある。
✲AIに読まれる前に、
自分で自分を読む。
これが、
五年後サバイバーの
大事な力になる。
■第13章
五つ目の習慣
――誰かへ救命浮輪を投げる
五つ目の習慣。
自分だけで終わらせない。
ここが一番難しい。
✲人間は、自分が助かるだけで
精一杯である。
体調が悪ければ、
自分のことで
いっぱいになる。
お金が不安なら、
自分の家計で頭が
いっぱいになる。
孤独なら、
自分の寂しさで
いっぱいになる。
それは悪いことではない。
凡夫だから当然である。
でも、
✲少し元気が戻ったら、
その経験を誰かへ渡す。
✲失敗した経験を、
次の人の地図にする。
✲苦しんだ言葉を、
誰かの救命浮輪にする。
✲自分の生活実験を、
未来の若者へ送る。
僕がAIと小説を書くのは、
自分の承認欲求だけではない。
もちろん、
読まれたらうれしい。
PVも気になる。
ブックマークも気になる。
元証券マンだから、
数字を見ると血が騒ぐ。
だが、
それだけではない。
誰か一人でも、
この言葉を読んで、
「まだ終わっていない」
と思ってくれたなら、
投げた意味はある。
僕の小説は、
海に投げる救命浮輪である。
■第14章
人を傷つける名前が
消えた世界
僕が探しているのは、
金ぴかの 天国ではない。
何でも願いが叶う
ご都合のいい世界でもない。
✲僕が探しているのは、
人を傷つける名前が
消えた世界である。
女だから。
障害があるから。
高齢者だから。
成績が低いから。
仕事が続かないから。
信用スコアが低いから。
感情が不安定だから。
失敗したから。
もう遅いから。
そういう名前は、
人間の未来を
閉じる世界である。
もちろん、
現実の社会から
名前は消えない。
病名もいる。
支援の分類もいる。
注意喚起もいる。
制度もいる。
でも、
✲名前が人間を
支配してはいけない。
名前は道具であって、
牢屋ではない。
AI評価社会で一番怖いのは、
AIが人間を評価すること
そのものではない。
✲評価された人間が、
その評価を自分のすべてだと
思い込んでしまうことだ。
だから僕は、
毎朝、
自分の名前を取り戻す。
高齢者ではある。
健康リスクもある。
不安もある。
弱さもある。
でも、
それだけではない。
僕は今日も、
声を出す。
体を温める。
心を見る。
願いを持つ。
そして、
一本の鉛筆を転がす。
■第15章
君はAIの点数ではない
五年後、AIは君にも
名前を貼るかもしれない。
集中力が低い。
継続力がない。
感情が不安定。
採用リスクあり。
信用スコア低め。
将来性、不明。
でも、
その名前が君の全部ではない。
君は、
AIの点数ではない。
君は、
学校の成績だけではない。
君は、
SNSの反応だけではない。
君は、
誰かが貼ったラベルより、
もっと奥にいる。
だから、まず朝、
✲自分の声を聞いてほしい。
一つ、
体を整えてほしい。
一つ、
心を観察してほしい。
一つ、
五年後の願いを持ってほしい。
そして最後に、
✲自分だけで
終わらないでほしい。
君が今日つかんだ
小さな気づきは、
明日、
誰かの救命浮輪に
なるかもしれない。
六十七歳の僕は、
そう信じている。
僕は賢く生きたわけではない。
何度も迷った。
何度も名札を貼られた。
✲何度も自分で自分を
小さな箱に入れた。
それでも、
今朝もまた鉛筆を持つ。
五年後の君へ。
名前に潰されそうな君へ。
君は、
AIの点数ではない。
君は、
まだ書き直せる。
そして僕も、
✲まだ書き直している。
………
❥Z世代のあなたへ
あなたはこれから、
僕たちの世代よりも
ずっと多くの評価に
囲まれて生きるかもしれない。
学校の評価。
会社の評価。
SNSの評価。
AIの評価。
信用スコア。
健康スコア。
学習スコア。
適性診断。
リスク判定。
それらは、
あなたを助けることもある。
でも、
あなたを閉じ込めることもある。
だから忘れないでほしい。
評価は、
あなたの一部を
見たものにすぎない。
あなたの全部ではない。
AIがあなたを説明しても、
あなたの涙までは
完全に説明できない。
あなたの沈黙も、
あなたの迷いも、
あなたが誰にも言えずに
抱えている小さな願いも、
✲点数だけでは測れない。
五年後を生き抜く力は、
AIに勝つことではない。
✲AIに見られても、
自分を見失わないことだ。
朝、
自分より大きなものの前に立つ。
声を出す。
五年後の願いを決める。
自分のログを自分で読む。
自分だけで終わらせず、
誰かへ救命浮輪を投げる。
それだけでいい。
完璧でなくていい。
三日坊主でもいい。
また始めればいい。
✲人生は、
何度でも下書きできる。
五年後の鉛筆は、
まだ君の手の中にある。
………
★あとがき
ホームズとワトソンの
やすきよ漫才風
〜笑いと涙の反省会
ワトソン
「ホームズさん、
今回の話、
難しい仏教の話を
抜いたはずなのに、
結局めちゃくちゃ
深いやないですか」
ホームズ
「そらそうや。
難しい言葉を抜いても、
人生そのものが難しいんや」
ワトソン
「ほな、
読者はどうしたら
ええんですか」
ホームズ
「まず朝起きる」
ワトソン
「いきなり普通!」
ホームズ
「普通が一番難しいんや。
朝起きて、
スマホを見る前に、
自分を見る」
ワトソン
「わしなんか、
起きた瞬間にスマホ見ますわ」
ホームズ
「それや。
それが五年後には危ない」
ワトソン
「なんでですのん」
ホームズ
「スマホを見る前に、
自分を見ないと、
他人の評価で一日が始まる」
ワトソン
「ああ、
通知ゼロやったら、
人生ゼロみたいな
気持ちになるやつですな」
ホームズ
「そうや。
通知は人生の成績表ではない」
ワトソン
「でもホームズさん、
小説のPVは
気になるんでしょう?」
ホームズ
「気になる」
ワトソン
「気になるんかい!」
ホームズ
「当たり前や。
人間やからな。
読まれたらうれしい。
読まれんかったら寂しい」
ワトソン
「それでこそ凡夫ですな」
ホームズ
「ただし、
PVは拍手かもしれんが、
救命浮輪の数でもある」
ワトソン
「おお、
急にええこと言うた」
ホームズ
「一人でも読んで、
明日ちょっと
生きやすくなったら、
それでええ」
ワトソン
「でもAIに
“承認欲求やや強め”って
出たらどうします?」
ホームズ
「当たっとるな、と思う」
ワトソン
「認めるんかい!」
ホームズ
「認める。
しかし、それで終わらん」
ワトソン
「どういうことですか」
ホームズ
「承認欲求がある。
けれど、
それだけではない。
寂しさもある。
祈りもある。
誰かに届いてほしい願いもある」
ワトソン
「AIは間違ってないけど、
全部ではないと」
ホームズ
「そうや。
AIはレントゲンみたいなもんや。
骨は写る。
けど、
その人がなぜ泣いたかまでは、
全部は写らん」
ワトソン
「うまいこと言いますな」
ホームズ
「たまにはな」
ワトソン
「ほな結論は?」
ホームズ
「五年後、
AIはわしらに名前を貼る」
ワトソン
「高齢者、
低スコア、
リスクあり、
要注意」
ホームズ
「でも、
その名前が全部ではない」
ワトソン
「君はAIの点数ではない」
ホームズ
「そうや」
ワトソン
「でも、わしがAIに
“漫才リスク高め”って
判定されたら?」
ホームズ
「それは当たっとる」
ワトソン
「そこは否定してくれんのかい!」
ホームズ
「安心せえ。
漫才リスクは、
人類を救うこともある」
ワトソン
「ほんまですか?」
ホームズ
「人はな、笑えた瞬間、
名札から少し自由になるんや」
ワトソン
「ほな最後に一言」
ホームズ
「君はAIの点数ではない」
ワトソン
「そして、わしらは?」
ホームズ
「まだ下書き中や」
ワトソン
「ええなあ。
人生、
清書やと思ったら
しんどいけど、
下書きなら
まだ直せますな」
ホームズ
「そうや。
五年後の鉛筆は、
まだ折れてへん」
ワトソン
「ほな、削りましょか」
ホームズ
「削りすぎるなよ」
ワトソン
「なんでですのん」
ホームズ
「芯がなくなる」
ワトソン
「最後に文房具オチかい!」
おしまい




