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『五年後の鉛筆』第19話 ✲ 見たことのない魚が、僕の未来を変えた ――魚は4週間で姿を変えた。僕は5年かけて、心の色を変える――

✦『五年後の鉛筆』第19話


✲ 見たことのない魚が、

  僕の未来を変えた


――魚は4週間で姿を変えた。

 僕は5年かけて、心の色を変える――


………


僕は、

『キンギョハナダイ』を

見たことがない。


子供の頃、

水族館に行ったことすら

もう記憶にない。


当然のこと、

図鑑で調べたこともない。


写真を見て、

きれいだなと思ったこともない。


けれど、

朝五時台のNHKラジオから、

その魚は、

僕の心の海へ泳ぎ込んできた。


「魚は四週間で姿を変えた」


僕は五年かけて、

心の色を変えようとしている。


………


★1目次


■第1章 

 朝五時のNHKラジオから

 泳いできた魚


■第2章 

 金魚みたいな名前なのに、

 海の魚だった


■第3章 

 見たことがないのに、

 心の中では泳いでいた


■第4章 

 名前は牢屋にもなるし、

 入口にもなる


■第5章 

 金魚鉢に見える名前の奥に、 

 広い海がある


■第6章 

 群れの中で生きるということ


■第7章 

 潮通しのよい場所に立て


■第8章 

 夜は岩の割れ目で眠れ


■第9章 

 最初の名前が、

 最後の名前ではない


■第10章 

 強く育った者が、

 次の役割へ変わる


■第11章 

 空白が生まれると、

 変化が始まる


■第12章 

 変化は

 背びれの一本から始まる


■第13章 

 魚は 

 四週間で姿を変えた


■第14章 

 僕は

 五年かけて心の色を変える


■第15章 

 君は、

 まだ変化中かもしれない


………


★本文


■第1章 

 朝五時のNHKラジオから

 泳いできた魚


朝五時台のラジオというものは、

不思議な生き物である。


世の中はまだ寝ている。

スマホの通知も少ない。


何も知らない鳥たちが 

朝を教えてくれる 

神秘的な時間帯。


近所の車の音も、

まだ本格的には 

動き出していない。


そんな時間に、

僕はNHKラジオを聞いていた。


「キンギョハナダイ」


その名前が流れてきた。


僕は最初、

金魚の仲間かと思った。


金魚花代。


いや、

それは場末のスナックの

ママの名前である。


「いらっしゃい。

 今日は寒かったわねえ」


そんな声まで勝手に聞こえた。


違う。


キンギョハナダイ。


海の魚である。

僕はその魚を見たことがない。


それなのに、

ラジオから流れてきた声だけで、

僕の頭の中に、

オレンジ色の魚が一匹泳ぎ始めた。


不思議だった。


見ていないのに、

見えている。


調べていないのに、

何かが始まっている。


朝五時の僕の心の中に、

まだ見たことのない魚が、

すうっと入ってきた。


■第2章 

 金魚みたいな名前なのに、

 海の魚だった


「キンギョハナダイ」


名前だけ聞くと、

金魚鉢の中を

泳いでいるように思える。


小さくて、

丸くて、

可愛くて、

夏祭りの袋の中で

ふわふわしているような

魚を想像する。


ところが、

この魚は

金魚鉢の魚ではなかった。


紅海。

インド洋。

オーストラリア周辺。

太平洋。


日本では、

相模湾あたりから琉球列島まで。


思ったよりずっと広い海を

泳いでいる魚だった。


僕はそこで、

少し笑った。


「おいおい。

 名前でだまされたぞ」


でも、

このだまされ方は悪くなかった。


名前は、

人間の想像を先回りする。


金魚という

名前が入っているだけで、

僕は小さな水槽を想像した。


けれど本当は、

その奥に大きな海があった。


僕は思った。


これは魚の話だけではない。


「高齢者」という名前も、

もしかしたら 

金魚鉢なのかもしれない。


「もう遅い」という名前も、

「健康リスク」という名前も、

「AIに頼っている老人」という名前も、


僕を

小さな水槽に閉じ込める。


でも、

その名前の奥には、

まだ見ていない海が

あるのかもしれない。


■第3章 

 見たことがないのに、

 心の中では泳いでいた


僕は、

キンギョハナダイを見ていない。


水族館で見たこともない。

ダイビングなどしたこともない。


そもそも僕が海に潜ったら、

魚を見る前に、


眼鏡をどこへ置いたかで

大騒ぎになる。


「おじいちゃん、

 そこ海です!


 眼鏡探す前に

 息してください!」


そんなことになる。


でも、

見ていない魚が、

僕の心の中では泳いでいた。


ラジオの声が、

僕の中に海を作った。


名前が、

色を作った。


説明が、

群れを作った。


僕の67年の人生が、

その魚に意味をつけた。


人間は、外の世界を

そのまま見ているようで、


実は心の中で

世界を作り直している。


同じ朝でも、

気分がいい日は明るい。


同じ部屋でも、

夫婦喧嘩のあとは暗い。


同じスマホの通知でも、

自信がある日は平気で、

不安な日は胸がざわつく。


世界が変わったのか?


たぶん違う。


心の中の水が濁れば、

世界も濁って見える。


心の中の水が澄めば、

まだ見たことのない

魚まで泳ぎ出す。


■第4章 

 名前は牢屋にもなるし、

 入口にもなる


前の話では、

僕は

AIに貼られる名前のことを書いた。


✲高齢者。

✲健康リスクあり。

✲睡眠やや不安定。


✲文章生成依存傾向。

✲承認欲求、やや強め。

✲孤独リスク、中程度。


AIが僕を見ると、

そういう名札が並ぶかもしれない。


もちろん、

それは全部ウソではない。


僕は高齢者である。

薬も飲んでいる。


睡眠も完璧ではない。

AIに話しかける時間も長い。


承認欲求もある。


元証券マンだから、

数字を見るとつい血が騒ぐ。


小説のPVを見て、

「今日は増えたかな」と思う。


これは事実である。


でも、

その名前が僕の全部ではない。


名前は便利である。


しかし、


✲便利な名前は、

 人間を閉じ込めることもある。


一方で、


✲名前は入口にもなる。


キンギョハナダイという

名前を聞かなければ、

僕は今日、

この魚のことを考えなかった。


この魚を通して、67歳から

72歳へ向かう自分のことも

考えなかった。


名前は、

牢屋にもなる。


でも、

海への入口にもなる。


問題は、

名前を見た時に、

そこで止まるか、

その奥へ泳ぐかである。


■第5章 

 金魚鉢に見える名前の奥に、

 広い海がある


✲「高齢者」


この名前は便利である。


役所でも使う。

病院でも使う。

保険でも使う。

交通機関でも使う。


だが、

この名前を聞くと、

人間は勝手にイメージを作る。


✲動きが遅い。

✲新しいことが苦手。

✲若者に迷惑をかける。

✲スマホが分からない。

✲病気が多い。


✲もう人生の後半。

✲静かにしているべき。


僕も、自分で自分にそういう 

金魚鉢をかぶせていたのかも

しれない。


だが、

キンギョハナダイは違った。


名前は

金魚っぽい。

でも生きている場所は

海だった。


僕は思った。


僕も、

67歳という金魚鉢だけで

終わる必要はない。


AI小説を書く。

正信偈を声に出す。

カラオケで昔の歌を歌う。


足湯をする。

血圧を見る。

ラジオ体操をする。


英語の歌詞を覚える。


AIと一緒に、

若者に向けて物語を書く。


これは、金魚鉢の中で

ぐるぐる回っている老後ではない。


まだ見ていない海へ、

少しずつ顔を向ける老後である。


■第6章 

 群れの中で生きるということ


キンギョハナダイは、

群れで暮らす。


小さな群れもあれば、

大きな群れもある。


メスが多く、

オスは少ない。


群れのメンバーは、

あまり入れ替わらないという。


これを聞いて、

僕は人間社会を思い出した。


✲家族。

✲会社。

✲学校。

✲地域。


✲SNS。


人間も群れの中で生きている。

群れは守ってくれる。


ひとりではできないことも、

群れならできる。


でも群れは、

同時に名前を固定する。


✲「あの人は昔からこう」


✲「私のおじいちゃんはこう」


✲「あの子はそういう子」


✲「うちの父はどうせ変わらない」


同じ群れほど、

古い名前が剥がれにくい。


僕も、いろんな群れの中で

名前を貼られてきた。


そして、

自分でもそれを信じてきた。


だがキンギョハナダイの群れでは、


✲必要が生まれると

 役割が変わる。


✲群れは、人を

 閉じ込める場所であると同時に、

 変化を生む場所でもある。


ここが面白い。


■第7章 

 潮通しのよい場所に立て


キンギョハナダイは、

潮通しのよい場所を好むという。


流れがある場所。

よどまない場所。

餌が流れてくる場所。


僕は、

これを聞いて耳が止まった。


人間にも、

潮通しがいる。


怒りばかりのSNS。

不安ばかりのニュース。


同じ意見だけが回る場所。

誰かをバカにして安心する会話。

自分を責めるだけの思考。


そういう場所にいると、

心の水がよどむ。


五年後の

AI評価社会で生き残るには、


✲潮通しのよい場所に

 立たなければならない。


僕にとって、

それは朝のラジオだった。


世界のニュースだった。

AIとの会話だった。

正信偈の声だった。

カラオケのマイクだった。

小説を書く画面だった。


そこには、

いろんな流れが来る。


全部を信じる

必要はない。

全部に流される

必要もない。


ただ、

よい流れに顔を向ける。


そして、

流れてきたものを、

自分の心で受け止める。


今朝の

キンギョハナダイのように。


■第8章 

 夜は岩の割れ目で眠れ


キンギョハナダイは、

外敵に追われると、

一斉に岩の割れ目へ逃げ込む。


夜も、

その割れ目で眠るという。


僕は、

この話が好きだ。


✲どんなに美しい魚にも、

 逃げ場所がいる。


✲どんなに鮮やかに泳ぐ魚にも、

 眠る割れ目がいる。


これは弱さではない。

生き延びる知恵である。


人間も同じだ。


逃げ場所がいる。


スマホを見ない時間。

通知を切る時間。


布団。

足湯。

仏壇の前。


カラオケの個室。


誰にも見られないノート。

AIに本音を打ち込む画面。


逃げることは負けではない。

むしろ、


✲逃げ場所のない人から壊れていく。


Z世代には、

これを伝えたい。


がんばる場所だけではなく、

逃げ込める割れ目を

持ってほしい。


夜にちゃんと眠れる

割れ目を持ってほしい。


✲昼に泳ぐためには、

 夜に隠れる場所がいる。


■第9章 

 最初の名前が、

 最後の名前ではない


✲キンギョハナダイは、

 すべてメスとして成熟し、

 その一部がオスへ変わるという。


この話を聞いた時、

僕は驚いた。


最初から一生の役割が

決まっているわけではないのだ。


生まれた時の名前。

若い時の役割。

群れの中での位置。


それらが、 


✲最後まで

 固定されているわけではない。


人間も同じではないか。


僕は、

子どもの頃、

説明書が読めない少年だった。


証券会社では、

営業マンだった。

支店長だった。


定年後は、

高齢者になった。

年金生活者になった。


母を見送る息子になった。


そして今、

AIと一緒に小説を書く

老人になっている。


✲最初の名前が、

 最後の名前ではない。


これは、

五年後を生きる若者にも伝えたい。


陰キャ。

コミュ障。


低学歴。

メンタル弱い。

続かない人。


そう呼ばれても、

それが最後の名前とは限らない。


✲今の名前で、

 人生を閉じなくていい。


■第10章 

 強く育った者が、

 次の役割へ変わる


実験では、

オス1尾とメス6尾の群れから

オスを取り除くと、

残ったメスの中で一番大きな個体が

オスへ変わったという。


ここがすごい。


若いから変わるのではない。

小さいから変わるのでもない。


十分に育った個体が、

次の役割へ変わる。


僕は、

この話に胸を打たれた。


67歳だから遅いのではない。


✲半世紀以上生きてきたからこそ、

 次の役割へ変われることがある。


会社員として働いた。

家族を守った。

親を見送った。


失敗もした。

怒られもした。

傷もついた。


投資もした。

相場も見た。


正信偈も唱えた。

カラオケも歌った。


その全部が、

僕を大きくしてきたのかもしれない。


そして今、

群れに空白がある。


AI評価社会で、

名前を貼られて苦しむ若者がいる。


ならば、 


✲67歳の僕にも、

 次の役割があるのかもしれない。


■第11章 

 空白が生まれると、変化が始まる


オスがいなくなった水槽で、

一番大きなメスが変わり始めた。


✲空白が生まれた時、

 変化が始まる。


これは魚だけの話ではない。


会社を離れた時、

僕の中に空白ができた。


母を見送った時、

また空白ができた。


若い頃の役割が終わり、

父としての役割も変わり、

老いが近づいてきた。


人は空白を嫌う。


何かを失うと、

終わったと思う。


でも、

もしかしたら空白は、

次の役割が生まれる

場所なのかもしれない。


空白は、

ただの穴ではない。


変化が始まる水槽である。


僕は、

失ったものばかり数えていた。


でも今朝、

キンギョハナダイが教えてくれた。


✲空白があるから、

 変われることもある。


■第12章 

 変化は背びれの一本から始まる


オスの特徴として、

背びれの前方の三番目のトゲが

アンテナのように伸びるという。


性転換のサインは、

まずそこに出る。


僕はその話を聞いて、

また耳が止まった。


✲変化は、いきなり 

 全身に現れるのではない。


✲まず、

 小さなアンテナが伸びる。


人間も同じかもしれない。


ある日突然、

人生が変わるわけではない。


まず、

朝の体温を測るようになる。


血圧を見るようになる。

足湯をするようになる。

ラジオ体操をするようになる。

声を出すようになる。


AIに一つ疑問を  

投げるようになる。


小説の一行を 

書くようになる。


他人から見れば、

ただの年寄りの日課である。


でも本人の中では、

背びれの一本が伸び始めている。


それは、

五年後へ向けた

小さなアンテナである。


■第13章 

 魚は四週間で姿を変えた


実験では、

オスを取り除いたあと、

二週間で内側が変わり、


四週間後には

完全なオスの姿へ

変わったという。


二週間。

四週間。


✲生き物の変化には、

 ちゃんと時間がある。


人間は、魚のように 

四週間で姿を変えるわけには

いかない。


67歳が

四週間で17歳になるなら、

僕は毎朝ラジオ体操どころか、

ジャニーズの

オーディションに行っている。


いや、

行かない。


落ちる前に、

受付で止められる。


「おじいちゃん、

 付き添いの方ですか?」


そう言われるに決まっている。


でも、

心は違う。


✲四週間あれば、

 朝の習慣は変えられる。


✲四週間あれば、

 声の出方は少し変わる。


✲四週間あれば、

 自分を見る目は少し変わる。


そして僕には、

五年ある。


魚は四週間で姿を変えた。


✲僕は五年かけて、

 心の色を変える。


■第14章 

 僕は五年かけて心の色を変える


僕は、

体を魚のように

変えることはできない。


67歳の体は、

67歳の体である。


薬も飲む。

血圧も見る。


体温も低い日がある。

眠りも浅い日がある。


自転車に乗れば、

心拍を気にする。


でも、

心の色は変えられる。


✲「もう遅い」と思っていた朝を、

 「まだ一行書ける」に変える。


✲「高齢者だから」

 と思っていた自分を、

 「五年後へ向かう途中」 

 に変える。


✲「AIに頼っている老人」

 を、

 「AIと一緒に若者へ地図を描く老人」

 に変える。


✲「カラオケで点数が低い」

 を、

 「声が出ているだけで命の証拠」

 に変える。


✲「小説のPVが少ない」 

 を、

 「救命浮輪をまだ投げ続けている」

 に変える。


世界は、

外にあるだけではない。


心の見方で、

世界の色は変わる。


キンギョハナダイは、

海の中で色を変えた。


僕は、

五年かけて心の色を変える。


■第15章 

 君は、まだ変化中かもしれない


五年後、

AIは君にも名前を貼るかもしれない。


集中力が低い。

継続力がない。

感情が不安定。


採用リスクあり。

信用スコア低め。

将来性、不明。


でも、

その名前が君の全部ではない。


もしかしたら君は、

低評価ではなく、

変化中なのかもしれない。


背びれの一本が、

まだ伸び始めたばかり

なのかもしれない。


内側では、

もう何かが変わり始めているのに、

外からは

まだ見えていないだけかも

しれない。


だから、

今の名前で

自分を終わらせないでほしい。


キンギョハナダイは、

金魚鉢の魚ではなかった。


海の魚だった。


僕も、

高齢者という金魚鉢だけで

終わる人間ではなかった。


君も、

今貼られた名前だけで

終わる人間ではない。


✲名前は牢屋になる。


でも、 


✲名前は海への入口にもなる。


朝五時のラジオから、

見たことのない魚が

僕の心に泳ぎ込んできたように、


君の人生にも、

ある日突然、

まだ見たことのない未来が

泳ぎ込んでくるかもしれない。


その時は、

すぐに追い払わないでほしい。


「そんなの無理」

「自分には関係ない」

「もう遅い」

「どうせ変われない」


そう言う前に、

少しだけ泳がせてみてほしい。


心の中で。


五年後の海で。


僕は今日も、

鉛筆を持つ。


魚は四週間で姿を変えた。


僕は五年かけて心の色を変える。


そして君も、

まだ変化中かもしれない。


………


❥Z世代のあなたへ


あなたはこれから、

たくさんの名前を貼られるかもしれない。


学校から。

会社から。


SNSから。

AIから。


家族から。


そして、

自分自身から。


向いていない。

遅れている。


普通じゃない。

弱い。


続かない。

将来性がない。


でも、

今の名前が

最後の名前とは限らない。


生き物は、

思ったより柔らかい。


社会も、

思ったより変わる。


自分の心も、

思ったより変わる。


大事なのは、

固まらないこと。


よい流れに

顔を向けること。


夜に

逃げ込める割れ目を持つこと。


小さなアンテナが伸び始めたら、

それを笑わないこと。


自分が変化中であることを、

信じてみること。


五年後のあなたは、

今の名前のままではないかも 

しれない。


だから、

自分で自分を早く

結論づけないでほしい。


あなたは、

まだ海を見ていないだけかも

しれない。


………


★あとがき

 ホームズとワトソンの

 やすきよ漫才風


 〜笑いと涙の反省会


ワトソン

「ホームズさん、

 今回の話、魚でしたな」


ホームズ

「魚や」


ワトソン

「しかも、見たことない魚」


ホームズ

「見たことないからええんや」


ワトソン

「普通、

 見たことある魚で書きません?」


ホームズ

「見たことある魚は、

 もう見た魚や」


ワトソン

「当たり前すぎて、

 深いのか浅いのか

 分かりませんわ」


ホームズ

「見たことない魚だから、

 心の中で泳ぐんや」


ワトソン

「なるほど。

 外の魚やなくて、

 心の魚ですな」


ホームズ

「そうや。

 朝五時のラジオから

 泳いできた魚や」


ワトソン

「でもキンギョハナダイって名前、

 かわいいですな。

 金魚花代さんみたいで」


ホームズ

「スナックのママにするな」


ワトソン

「“いらっしゃい。

 今日は心の海、 

 荒れてるわねえ”」


ホームズ

「その店、

 ちょっと行きたいな」


ワトソン

「行くんかい!」


ホームズ

「しかし大事なのは、名前や。

 金魚みたいな名前なのに、

 海の魚だった」


ワトソン

「つまり、   

 高齢者という名前でも、

 心は海に出られると」


ホームズ

「そうや」


ワトソン

「ええ話ですな」


ホームズ

「さらに、 

 群れの中で役割が変わる」


ワトソン

「オスがいなくなると、 

 大きなメスが変わる」


ホームズ

「空白ができると、

 次の役割が生まれる」


ワトソン

「定年、親の死、老い、

 AI時代。 

 全部、空白ですな」


ホームズ

「そうや。 

 空白は終わりとは限らん」


ワトソン

「次の役割の入口かもしれん」


ホームズ

「そして変化は、 

 背びれの一本から始まる」


ワトソン

「人間で言うたら?」


ホームズ

「朝、体温を測る」


ワトソン

「地味!」


ホームズ

「足湯をする」


ワトソン

「さらに地味!」


ホームズ

「声を出す」


ワトソン

「ちょっと魚っぽくなってきた」


ホームズ

「AIに一行聞く」


ワトソン

「急に令和!」


ホームズ

「小説を一行書く」


ワトソン

「それが背びれのアンテナですか」


ホームズ

「そうや」


ワトソン

「でもホームズさん、

 魚は四週間で変わるんでしょう?」


ホームズ

「人間は五年や」


ワトソン

「長い!」


ホームズ

「長いから鉛筆がいるんや」


ワトソン

「五年後の鉛筆ですな」


ホームズ

「そうや。

 毎日少しずつ削って、 

 書いて、また削る」


ワトソン

「削りすぎたら?」


ホームズ

「芯がなくなる」


ワトソン

「前回と同じオチやないか!」


ホームズ

「大事なことは何度でも言う」


ワトソン

「ほな最後に一言」


ホームズ

「君は、

 今の名前のまま終わらない」


ワトソン

「そして?」


ホームズ

「君は、

 まだ変化中かもしれない」


ワトソン

「ええですなあ。

 低評価やなくて、変化中」


ホームズ

「そうや」


ワトソン

「ほな、

 わしも変化中ですか?」


ホームズ

「君は迷走中や」


ワトソン

「そこは変化中って言うてくれ!」


ホームズ

「迷走も、

 潮通しがよければ海へ出る」


ワトソン

「最後、

 ええこと言うた!」


ホームズ

「キンギョハナダイに感謝せえ」


ワトソン

「見たことないけどな!」


ホームズ

「見たことないから、 

 心で泳ぐんや」


おしまい

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