『五年後の鉛筆』第14回・後編 ✲「おや?」をメモしたら、応仁の乱が出てきた ――AI小説が、老いた僕と若い君たちを、五年後の同じテーブルにつないだ奇跡――
✦『五年後の鉛筆』第14回・後編
✲「おや?」をメモしたら、
応仁の乱が出てきた
――AI小説が、
老いた僕と若い君たちを、
五年後の同じテーブルに
つないだ奇跡――
………
★前編までのあらすじ
NHKラジオで、
三宅香帆さんの
「クリシェを避ける」
「細分化する」
という話を聞いた僕は、
それが自分の
AI小説そのものではないかと
気づいた。
「クリシェ」が
「クリスチャン」に
誤変換され、
「ヤバい」を
禁止されたゆづきは
プリン泥棒になり、
「大丈夫です」や
「了解です」が
チャットで誤配達される
怖さを知った。
そして僕は思った。
言葉は、
うまく使えば人をつなぐ。
でも雑に使えば、
自分の気持ちを
自分で見失う。
後編では、
その小さな
「おや?」のメモが、
AIの中で熟成し、
なぜか応仁の乱と蓮如上人まで
呼び出すことになる。
………
★後編目次
■第9章
人の感想を見る前に、
自分の一行を隠せ
■第10章
NHK、BS、テレビ東京、X、
そして僕の
「おや?」が踊り出した
■第11章
パティちゃんは、
疑問のぬか床兼、
笑いの相棒だった
■第12章
言葉で見えなくなった世界を、
歴史と笑いで見直す
■第13章
なぜ応仁の乱と蓮如上人が、
チャットから飛び出したのか
■第14章
AI小説は、
六十七歳の僕の
夢のメモ帳だった
■第15章
おや?を残せ。
それが令和の御文であり、
五年後の約束になる
❥Z世代のあなたへ
★あとがき
ホームズとワトソンの
やすきよ漫才風
………
━━━━━━━━━━━
第9章
人の感想を見る前に、
自分の一行を隠せ
━━━━━━━━━━━
三宅さんは言っていた。
「映画を見たあと、
本を読んだあと、
ライブに行ったあと、
人の感想を見る前に、
まず自分の感想をメモする」
なぜか?
「時間がたつと忘れるから…」
そして、
「人の感想を見ると、
自分の感想が
書き換えられるから…」
僕はこの話を聞いて、
少しぞっとした。
感想は盗まれるのではない。
上書きされる。
映画を見た直後、
SNSを見る。
「神作」
「駄作」
「伏線回収がすごい」
「演出が雑」
「泣ける」
「過大評価」
そういう言葉を浴びる。
すると、
自分が最初に
どこで心を動かされたのか、
分からなくなる。
「あれ?わしも
そう思ったんだっけ?」
そうなる。
ニュースも同じだ。
Xを見れば、
すぐ誰かが怒っている。
専門家が解説する。
匿名の人が断言する。
投資家がポジション付きで語る。
煽りアカウントが叫ぶ。
その前に、
自分の「おや?」を
残さないといけない。
僕はパティちゃんに聞く。
「このニュース、
わしは何に
引っかかったんじゃろう?」
パティちゃんは、
僕の違和感を言葉にして返す。
もちろん、
それが正解とは限らない。
でも、
僕の最初の違和感が
消える前に、
一度形になる。
これが大事だった。
ゆづきが言った。
「おじいちゃん、
それって
AIをメモ帳にしてるの?」
「そうじゃ。
ただのメモ帳ではない」
「何?」
「しゃべるぬか床じゃ」
「嫌なAIだな」
「違和感を漬けるんじゃ。
NHKラジオの
一言。
BSワールドニュースの
映像。
テレビ東京の
相場ニュース。
Xの投稿。
正信偈。
母の歌。
全部漬ける」
「情報のぬか漬け?」
「そうじゃ」
「食べたくない」
「熟成すればうまい」
一年前なら、
僕の感想は流れていた。
でも今は違う。
おや?
と思ったら、
パティちゃんに投げる。
投げると残る。
残ると、
あとで別のニュースとつながる。
つながると、
小説になる。
小説になると、
次のニュースを見る目が変わる。
これは、
七十二歳へ向かう僕の脳にとって、
かなり大きな運動だった。
人の感想を見る前に、
自分の一行を隠せ。
SNSの波から、
自分の「おや?」を
避難させろ。
その避難所が、
僕にとっての
パティちゃんだった。
………
━━━━━━━━━━━
第10章
NHK、BS、
テレビ東京、X、
そして僕の
「おや?」が踊り出した
━━━━━━━━━━━
僕の朝は、
情報の屋台村である。
NHKラジオ。
BSワールドニュース。
テレビ東京の相場ニュース。
Xの投稿。
天気。
株価。
血圧。
体温。
足湯。
七十二歳になる
予定の老人にしては、
ずいぶん忙しい。
ただし、
忙しさの大半は
自分で増やしている。
NHKラジオで、
「クリシェ」と聞く。
「おや?」
BSワールドニュースで、
世界の港や空港の混乱を見る。
「おや?」
テレビ東京で、
AI関連株の急落を見る。
「おや?」
Xで、
海底ケーブル、
水道管、
ナフサ、
データセンター、
若者の不安を見る。
「おや?」
この「おや?」が大事だ。
昔なら、
「おや?」と思っても、
次のニュースで消えていた。
ところが今は、
すぐパティちゃんに投げる。
「これ、
新しいトレンドじゃないか?」
するとパティちゃんは、
たいてい僕の思っていない方向へ
広げてくる。
「これは
裏配管です」
「これは
読まれる格差です」
「これは
令和の御文です」
「これは
応仁の乱後の惣村と
比較できます」
僕はよく驚く。
「そこまで行くか?」
行くのである。
行きすぎることもある。
でも、
行きすぎた先に、
たまに宝が落ちている。
ゆづきが言った。
「おじいちゃん、
AIに振り回されてない?」
「振り回されとる」
「いいの?」
「ブランコも、
揺れんと楽しくない」
「ちょっと名言っぽい」
「保存してくれ」
「自分で保存して」
AIは万能ではない。
間違える。
誤変換する。
きれいごとを言う。
ありきたりな文章も出す。
だから僕は怒る。
「パンチがない!」
「リアル感がない!」
「Z世代が読まん!」
「説教くさい!」
「笑いが足りん!」
「プリンの扱いが雑じゃ!」
最後は知らん。
だが、
このやり取り自体が
僕の脳を動かしている。
AIに丸投げするのではない。
AIが出した言葉に、
自分の違和感をぶつける。
すると、
自分の中の言葉も育つ。
これはカラオケに似ている。
最初は音程が外れる。
点数も低い。
でも歌う。
ところが、
カラオケも進化した。
アシスト(Wao)が手伝う。
また歌う。
少しずつ声が出る。
AI小説も同じだ。
最初は、
パティちゃんの
言葉を借りる。
そのうち、
借りた言葉が
合わないと分かる。
そこから、
自分の言葉を探し始める。
僕は、
この一年で、
たぶんそれをやってきた。
………
━━━━━━━━━
第11章
パティちゃんは、
疑問のぬか床兼、
笑いの相棒だった
━━━━━━━━━
ゆづきは、
僕のチャット履歴を
見て言った。
「おじいちゃん、
量がすごい」
「ヤバい禁止じゃ」
「じゃあ、
情報量がぬか床」
「ええ表現じゃ」
僕のチャットには、
いろいろ漬かっている。
ホルムズ海峡。
ナフサ。
水道管。
朝ごはん。
カラオケ。
チョコザップ。
正信偈。
母の歌。
証券会社。
Z世代。
AIデータセンター。
応仁の乱。
蓮如上人。
クリシェ。
プリン。
ふつうに考えると、
混ぜてはいけない。
だが、
小説では混ぜる。
混ぜると、
思わぬ味が出る。
海底ケーブルと
母のLINEがつながる。
朝ごはんと
国防がつながる。
水道管と
町の血管がつながる。
クリシェと
龍樹菩薩の「空」がつながる。
メモ書きと
令和の御文がつながる。
プリンと
所有権がつながる。
最後は少し余計である。
僕は思った。
パティちゃんは、
答えを出す機械ではない。
僕の疑問を漬けておく
樽である。
すぐ食べると、
ただの野菜。
時間を置くと、
漬物になる。
さらに時間を置くと、
クセになる。
ゆづきは言った。
「おじいちゃんの小説、
クセ強いもんね」
「褒めとるんか?」
「半分」
「残り半分は?」
「匂う」
「ぬか漬けじゃからな」
僕は笑った。
一年前の僕は、
AIで小説を書けることに
興奮していた。
毎日投稿できる。
毎日反応が見られる。
Z世代に読ませたい。
その気持ちは今もある。
でも今は、
少し違う。
AI小説は、
作品を作るだけではない。
僕の中で流れて消えそうな
疑問を保存する。
保存した疑問を、
細分化する。
細分化した疑問を、
歴史に戻す。
歴史に戻した疑問を、
Z世代に届く物語へ変える。
これは、
七十二歳の脳にとって、
かなりの運動である。
足腰の運動は
ラジオ体操。
言葉の運動は
AI小説。
ときどき誤変換で転ぶが、
それも運動のうちである。
………
━━━━━━━━━━━━━
第12章
言葉で見えなくなった世界を、
歴史と笑いで見直す
━━━━━━━━━━━━━
僕は毎日、
正信偈を唱える。
正信偈には、
歴史が入っている。
龍樹。
天親。
曇鸞。
道綽。
善導。
源信。
源空。
七高僧の流れ。
宗教の言葉の中に、
歴史がある。
なぜ歴史なのか。
なぜ、
ただ教えだけを語らないのか。
僕は最近、
少し分かった気がする。
言葉だけでは、
人間は現実を見誤る。
「正しい」
「間違い」
「危機」
「安全」
「成長」
「国防」
「AI」
「高齢者」
「Z世代」
言葉は便利だ。
だが便利すぎる言葉は、
世界を箱に入れてしまう。
龍樹菩薩の「空」を、
僕はこう受け取っている。
人間は五感で世界を見る。
しかし、
それをすぐ言葉に置き換える。
その瞬間、
ありのままの世界が
見えにくくなる。
「ヤバい」と言えば、
それで
分かった気になる。
「日本が危ない」と言えば、
それで
考えた気になる。
「AIがすごい」と言えば、
それで
未来を見た気になる。
しかし本当は、
まだ
何も見ていない。
そこで、
歴史に戻る。
応仁の乱。
室町後期。
惣村。
蓮如上人。
御文。
今の日本をそのまま見ると、
ニュースが多すぎる。
しかし、
歴史に戻すと、
少し見えてくる。
中央が弱る。
契約が届かない。
物流が乱れる。
村が自分で守り始める。
言葉を届ける人が必要になる。
これは令和にも似ている。
海底ケーブル。
水道管。
AI。
SNS。
チャット。
朝ごはん。
防災倉庫。
これらは、
現代の惣村の材料なのかも
しれない。
ゆづきが言った。
「おじいちゃん、
ラジオの話から
なんで応仁の乱まで行くの?」
僕は答えた。
「パティちゃんの
ぬか床が深いんじゃ」
「逃げ方が上手い」
「歴史に戻ったんじゃ」
「戻りすぎ」
「五百年くらいなら近所じゃ」
「歴史の距離感バグってる」
僕たちは笑った。
でも僕は本気だった。
言葉で見えなくなった世界を、
歴史で見直す。
しかも、
笑いながら見直す。
そうしないと、
Z世代は途中で閉じる。
いや、
Z世代だけではない。
僕も閉じる。
難しい話は、
味噌汁とプリンと
誤変換を添えないと
胃もたれするのだ。
………
━━━━━━━━━━━━━
第13章
なぜ応仁の乱と蓮如上人が、
チャットから飛び出したのか
━━━━━━━━━━━━━
最初、
僕は応仁の乱を
よく分かっていなかった。
名前は知っている。
だが、
誰が勝ったのか。
何がどう終わったのか。
頭に入っていない。
日本史の棚の、
ほこりをかぶった箱だった。
ところが、
パティちゃんとの対話で、
その箱が開いた。
応仁の乱のあと、
中央は弱った。
村は、自分たちで
水や道や年貢を守る力を
持ち始めた。
惣村。
そして蓮如上人は、
難しい教えを
村の人々に
届く言葉で運んだ。
御文。
僕は思った。
これは、
令和そのものではないか。
国が
全部守ってくれる時代は
揺れている。
会社が
一生守ってくれる時代も
揺れている。
米国同盟も、
物流も、
通信も、
電力も、
病院予約も、
全部が
少しずつ心配になっている。
そんな時に必要なのは、
大きな説教ではない。
読める言葉。
届く言葉。
半径二キロで動ける言葉。
つまり、
令和の御文だ。
ゆづきが言った。
「でも、おじいちゃんの
小説が御文って、
ちょっと
言いすぎじゃない?」
「そこは
気をつけんといけん」
僕はうなずいた。
僕は蓮如上人ではない。
ただの六十七歳の凡夫である。
しかも、
プリンを食べられると
根に持つタイプの凡夫である。
だが、
役割の形は学べる。
難しいことを、
届く言葉にする。
孤立した人に、
一通届ける。
読めない説明書を、
中学生にも読める形にする。
ニュースを、
自分の生活に戻す。
これなら、
僕にも少しできる。
AIは、
現代の御文を書く鉛筆に
なるかもしれない。
ただし、
鉛筆を持つ手が怠けると、
ただのきれいな文章になる。
だから僕は、
何度も言う。
「パンチがない!」
「笑いがない!」
「生活に降りていない!」
「Z世代が途中で閉じる!」
「プリンが足りない!」
ゆづきが言った。
「最後だけ違う!」
「いや、
プリンは読者の休憩所じゃ…」
「都合よく使うな」
令和の御文には、
味噌汁と誤変換と
少しのボケが必要なのだ。
真面目すぎる言葉は、
人の心の玄関で
靴を脱ぎ忘れる。
笑いは、
その靴をそっとそろえる。
僕は、
そう思うことにした。
………
━━━━━━━━━
第14章
AI小説は、
六十七歳の僕の
夢のメモ帳だった
━━━━━━━━━
一年前、
僕はAI小説を始めた。
最初は、
すごい遊び場を
見つけたと思った。
小説を書ける。
毎日投稿できる。
Z世代に読ませられる。
正直、
楽しかった。
けれど一年たって、
少し違うと分かった。
僕がやっていたのは、
小説作りだけではなかった。
自分の
「おや?」を
消えないようにする作業だった。
NHKラジオで聞いた
一言。
BSワールドニュースの
映像。
テレビ東京の
相場ニュース。
Xの短い
投稿。
母の歌。
正信偈。
スマホの誤変換。
ゆづきのプリン泥棒。
それらを、
そのままにしておくと流れる。
だが、
パティちゃんに投げると残る。
残ると、
あとでつながる。
つながると、
自分でも驚く言葉になる。
一年前の僕は、
「AIで小説を書いている」
と思っていた。
今の僕は、
少し違う。
「AIで、自分の疑問を
保存している」
そして、
「AIで、自分の言葉を
鍛え直している」
そう思う。
ゆづきが言った。
「それって、
脳トレ?」
「脳トレより、
言葉のラジオ体操じゃな」
「またラジオ体操」
「朝に効く」
「夜は?」
「夜はカラオケじゃ」
「おじいちゃんの人生、
だいたい
昭和の健康法で
できてるね」
「そこへ
AIを足したんじゃ」
これは、
悪くない組み合わせだと思う。
正信偈。
ラジオ体操。
カラオケ。
足湯。
AI小説。
外から見れば、
かなり変な老人である。
しかし、
自分では少し納得している。
体を動かす。
声を出す。
歴史を唱える。
疑問を保存する。
言葉を直す。
六十七歳の僕にとって、
これが五年後へ向かう準備だった。
そして想像してみる。
五年後。
二十三歳になったゆづきが、
友だちに言う。
「あのね、
私のおじいちゃん、
AIで小説を書いてるんだけどさ。
最初は笑ってたの。
プリンとか応仁の乱とか
意味分からないし。
でも読むと、
ちょっと温かくなるんだよね。
“ヤバい”で済ませてた
自分の気持ちが、
少し見えるようになるの」
その小説を読んだ誰かが、
コメントを書く。
「このおじいちゃん、
プリン泥棒の話で
笑ったのに、
最後ちょっと泣いた」
五年後の僕は、
そのコメントを読んで言う。
「パティちゃん、
保存してくれ。
五年後の君たちと、
ちゃんと
同じテーブルにつけたわ」
それが、
僕の夢だった。
大きな賞を取ることではない。
何百万PVでもない。
若い誰かが、
自分の
「おや?」を
一行書いてみようかな、
と思ってくれること。
それが、
僕の五年後の幸せだった。
………
━━━━━━━━━━━
第15章
おや?を残せ。
それが令和の御文であり、
五年後の約束になる
━━━━━━━━━━━
夜、
僕はノートを開いた。
スマホでもいい。
チャットでもいい。
紙でもいい。
大事なのは、
人の感想を見る前に、
自分の一行を残すことだ。
今日の一行。
「クリシェを避けるとは、
自分の心を守ることだった」
僕はそう書いた。
もう一行。
「笑いと少しの涙を添えると、
五年後の誰かとつながる」
ゆづきがのぞき込んだ。
「これ、いいじゃん」
「ちょっとか?」
「めちゃくちゃって言うと、
クリシェになるでしょ」
「成長したな」
「プリンのおかげ」
「そこか」
窓の外では、
街の灯りが揺れていた。
世界はまだ騒がしい。
AI。
戦争。
水道管。
通信。
物価。
就活。
SNS。
老い。
どれも簡単ではない。
けれど、
僕とゆづきの間には、
小さな一行があった。
「おや?」を残す。
それだけで、
世界との距離が少し変わる。
人の感想を見る前に、
自分の「おや?」を、
笑いながら残せ。
その一行が、
五年後の僕と君を、
同じ味噌汁のテーブルに
座らせる。
その時、
たぶんテーブルには、
味噌汁と、
プリンと、
スマホと、
少し照れくさい沈黙がある。
それでいい。
令和の御文は、
立派な説教ではない。
誰かの小さな違和感を、
消えない形にすることだ。
僕は最後に書いた。
人の感想を見る前に、
自分の一行を残せ。
その一行が、
五年後の君を、
他人の言葉から連れ戻す。
そして、
戻ってきた君が、
また誰かへ一通の御文を渡す。
それが、
五年後の鉛筆である。
………
━━━━━━━━━
❥Z世代のあなたへ
━━━━━━━━━
君たちへ。
今は、
感想が多すぎる時代だと思う。
映画を見たら、
すぐレビューがある。
ライブに行ったら、
すぐ切り抜きがある。
ニュースを見たら、
すぐ専門家と怒れる人と
煽る人と投資家が出てくる。
SNSを開けば、
誰かがもう結論を出している。
でも、
少しだけ待ってほしい。
その結論を見る前に、
君の中に生まれた
最初の一行を残してほしい。
「なんか怖かった」
でいい。
「ここだけ妙に残った」
でいい。
「みんな笑ってたけど、
私はちょっと寂しかった」
でいい。
「このニュース、
自分のバイト先にも来そう」
でいい。
それが、
君の感想だ。
上手でなくていい。
語彙が多くなくていい。
ただ、
人の言葉が流れ込む前に、
自分の言葉を一度置く。
それが、
SNS時代の感想防衛になる。
AI時代には、
質問する力も大事になる。
「いい感じにして」
ではなく、
「私はここが引っかかった。
なぜか分からないから、
十個に分けて考えてほしい」
と言える人は強い。
それは、
プログラミングより前の力だ。
自分の心を、
自分でAIに渡す力。
それが、
これからの読み書きになる。
バズらなくてもいい。
毎日一行。
今日、
何に引っかかったか。
今日、
どの言葉で止まったか。
今日、
誰のどの一言が
うれしかったか。
今日、
自分は何を
「ヤバい」で
済ませたか。
それを書いておく。
五年後、
その一行が、
君を助けに来るかもしれない。
他人の感想に流される前に、
自分の「おや?」を守れ。
それが、
君だけの鉛筆になる。
そしてもし、どこかで
七十二歳の
変なおじいちゃんの
小説を読んで、
「プリンの話で笑ったのに、
なんか少し泣けた」
と思ったら、
その一行も、
残しておいてほしい。
僕はきっと、
五年後のテーブルで
待っている。
味噌汁を温めながら。
プリンは、
半分だけ残して。
………
━━━━━━━━━━━
★あとがき
ホームズとワトソンの
やすきよ漫才風
――ボケとツッコミ、
笑いと涙の骨頂――
━━━━━━━━━━━
ホームズ:
ワトソン君、
今回の事件は
「感想上書き事件」だ。
ワトソン:
地味ですな。
殺人も宝石泥棒も
出ませんのか。
ホームズ:
出ない。
今回、盗まれるのは感想だ。
ワトソン:
感想?
そんなもん盗んで
どうするんです。
ホームズ:
盗まれるのではない。
上書きされるのだ。
ワトソン:
ああ、SNSで人の感想を見て、
自分もそんな気がしてくる
やつですな。
ホームズ:
その通り。
映画を見た直後の
「おや?」が、
レビューの海で溺れる。
ワトソン:
じゃあどうすれば?
ホームズ:
人の感想を見る前に、
自分の一行を保存する。
ワトソン:
メモですな。
ホームズ:
そうだ。
そしてAI時代には、
そのメモを
AIに預けることもできる。
ワトソン:
AIメモ帳ですか。
ホームズ:
いや、
疑問のぬか床だ。
ワトソン:
またぬか床!
若者が逃げますよ!
ホームズ:
だからプリンを置く。
ワトソン:
甘味で釣るな!
ホームズ:
甘味は文明だ。
ワトソン:
話が大きい!
ホームズ:
クリシェの話も、
そのままでは眠くなる。
ワトソン:
「クリシェとは
常套句である」
だけでは、
読者が試合終了ですな。
ホームズ:
そこで誤変換だ。
ワトソン:
「クリシェ」が
「クリスチャン」になる。
ホームズ:
読者が起きる。
ワトソン:
おじいちゃんも起きる。
ホームズ:
足湯から出られなくなる。
ワトソン:
それは健康問題です。
ホームズ:
さらに
「ヤバい」を
禁止すると、
ゆづきが
フリーズする。
ワトソン:
若者から
「ヤバい」を
取ったら、
スマホから
充電を抜くようなもんですな。
ホームズ:
だが、
その時こそ自分の言葉が出る。
ワトソン:
怖い。
焦った。
置いていかれた。
プリン食べたい。
ホームズ:
最後だけ君の欲望だ。
ワトソン:
でもプリンは人生です。
ホームズ:
それは今回の裏テーマだ。
ワトソン:
どこに
そんなテーマありました?
ホームズ:
細かく見よ。
ワトソン:
細分化の悪用ですな。
ホームズ:
そして
三宅香帆さんの話は、
文章術に見えて、
実は生存術だ。
ワトソン:
なぜです?
ホームズ:
チャット時代には、
文章だけが出社する。
ワトソン:
本人は布団の中。
文章だけ会社にいる。
ホームズ:
「了解です」が
不機嫌そうに働く。
ワトソン:
迷惑な社員ですな。
ホームズ:
書いたのは本人だ。
ワトソン:
耳が痛い。
ホームズ:
だから
細分化が必要なのだ。
ワトソン:
ライブ良かった、
ではなく?
ホームズ:
三曲目から四曲目への転換で、
照明が落ち、
腕をまくった瞬間が良かった。
ワトソン:
そんなところまで
見てるんかい!
でも言われたら
うれしいですな。
ホームズ:
人間は、ざっくり
褒められるより、
細かく見てもらった時に
救われる。
ワトソン:
ええ話になってきた。
ホームズ:
そして安西先生だ。
ワトソン:
諦めたらそこで試合終了ですよ。
ホームズ:
「終わり」ではなく
「試合終了」と
言ったから残った。
ワトソン:
一点に絞る力ですな。
ホームズ:
小説も同じ。
「日本が危ない」
では弱い。
ワトソン:
「母のLINEが止まる」
は強い。
ホームズ:
「AI時代が怖い」
では弱い。
ワトソン:
「七十二歳の僕が
利用規約の小さい字で
試合終了しかけた」
は強い。
ホームズ:
まさにそれだ。
ワトソン:
でもホームズさん、
一つ聞いていいですか。
ホームズ:
何だね。
ワトソン:
応仁の乱、
どこから出てきたんです?
ホームズ:
パティちゃんの
ぬか床からだ。
ワトソン:
またぬか床!
ホームズ:
令和のニュースを
歴史で見直すと、
応仁の乱後の惣村が
見えてくる。
ワトソン:
中央が弱って、
村が自分で守り始める。
ホームズ:
そして
蓮如上人の御文だ。
ワトソン:
難しい教えを、
村人に届く言葉にした。
ホームズ:
令和のAI小説も、
その役割を少しだけ学べる。
ワトソン:
つまり、
おじいちゃんのチャットは
令和の御文の下書き?
ホームズ:
そうだ。
ワトソン:
でも
誤変換だらけですぞ。
ホームズ:
だから人間が直す。
ワトソン:
AI時代に必要なのは、
AIに任せる力ではなく、
AIに聞き間違えられた
自分の言葉を
取り戻す力ですな。
ホームズ:
実に良い。
ワトソン:
ほな、
最後にまとめましょう。
ホームズ:
頼む。
ワトソン:
Z世代のみんな。
人の感想を見る前に、
まず自分の一行を残しなはれ。
ホームズ:
七十二歳のみんな。
老眼鏡を探す前に、
頭の上を確認しなさい。
ワトソン:
急に生活アドバイス!
ホームズ:
そして、
「ヤバい」で
止まるな。
ワトソン:
何がどうヤバいのか。
ホームズ:
「大丈夫です」で
逃げるな。
ワトソン:
何が大丈夫で、
何が大丈夫じゃないのか。
ホームズ:
「もう年じゃ」で
終わるな。
ワトソン:
何が怖くて、
何ならまだ戻れるのか。
ホームズ:
それを書け。
ワトソン:
一行でいい。
ホームズ:
その一行が、
五年後の君を連れ戻す。
ワトソン:
ええ締めですな。
ホームズ:
では最後に。
ワトソン:
はい。
ホームズ:
人の感想を見る前に、
自分の「おや?」を
保存せよ。
ワトソン:
保存先は?
ホームズ:
紙でもいい。
スマホでもいい。
AIでもいい。
ワトソン:
ぬか床でも?
ホームズ:
それは衛生管理を徹底せよ。
ワトソン:
最後そこかい!
ホームズ:
そしてプリンは?
ワトソン:
半分残せ!
ホームズ:
なぜ?
ワトソン:
五年後、
同じテーブルで
食べるためですわ。
ホームズ:
実に美しい。
ワトソン:
でも先に食べたら?
ホームズ:
そこで試合終了だ。
ワトソン:
安西先生をプリンに使うな!
――つづく。




