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『五年後の鉛筆』第11回 ✲ 読めない通知と、二本目の鉛筆 ――AI九品社会で最初に奪われたのは、本ではなかった。「説明を読む力」だった――

✦『五年後の鉛筆』第11回


✲ 読めない通知と、二本目の鉛筆


――AI九品社会で

 最初に奪われたのは、

 本ではなかった。

 「説明を読む力」

 だった――


………


前回、

僕たちは気づいた。


未来は、

戦車では来なかった。


ミサイルでも来なかった。


スマホの通知で来た。


「本人確認を

 強化しました」


「信用評価に

 変動があります」


「あなたに

 最適な求人を表示します」


「より安全な

 サービスのために」


どれも、

やさしい言葉だった。


だが、

やさしい言葉ほど、

人間は読まない。


なぜなら、

やさしい顔をした長文ほど、

だいたい最後に

こう書いてあるからである。


「詳しくは

 利用規約をご確認ください」


出た。


利用規約。


現代人にとって、

もっとも読まれない文学である。


短編小説より長い。


保険約款より眠い。


しかも、

主人公がいない。


いや、

本当はいる。


主人公は、

いつも僕たちである。


読まないうちに同意する

僕たち。


意味も分からず

チェックを入れる

僕たち。


「同意する」を押したあとで、

人生が少し狭くなる

僕たち。


五年後、

七十二歳の僕は、

スマホの画面を見つめていた。


そこには、

小さな字でこう書かれていた。


「外部連携データをもとに、

 サービス品質向上および

 安全性確保のため、

 総合的な判断を

 行う場合があります」


僕は思った。


これは日本語か。

たしかに日本語である。


だが、

人間に読ませる気がある

日本語ではない。


二十三歳の若者が横で言った。


「おじいちゃん、

 これ要するに何ですか?」


僕は言った。


「たぶん、何かされる…」


「何かって?」


「そこが分からん」


「分からないのに

 同意するんですか?」


「現代人は、

 だいたいそうやって生きとる」


若者は笑った。


しかし、

笑いごとではなかった。


AI九品社会で、

人間を分けるのは、

怒鳴る役人ではない。


読めない文章である。


求人票。

利用規約。

AI評価理由。

保険条件。

銀行の注意書き。

医療アプリの説明。


副業プラットフォームの

規約。

クレジットカードの

変更通知。


全部、

長い。


全部、

大事。


全部、

読まれない。


そこで僕は気づいた。


本を読めなくなったことは、

趣味の問題ではなかった。


読めない人間は、

信用社会で

自分の人生の説明を読めなくなる。


そして、

読めないまま

同意する。


読めないまま

落ちる。


読めないまま

後回しにされる。


読めないまま、

自分のログを

他人に読まれる。


これは怖い。

かなり怖い。


だが、怖がっても

字は大きくならない。


老眼鏡を探しても、

利用規約は短くならない。


だから僕は、

二本目の鉛筆を転がした。


AIに聞いた。


「この長い文章、

 わしの生活に置き換えると

 何が危ない?」


AIは答えた。


僕は思った。


本を読む話は、

ここから始まる。


本屋の話ではない。

文学の話でもない。


AI九品社会で、

自分の人生を

読まれっぱなしにされないための、

生き残りの話である。


………


★目次


■第1章

 AI九品社会の次に来たのは、

 読めない通知だった


■第2章

 利用規約は、

 現代の眠れる怪物である


■第3章

 読めない人間は、

 読まれる側に回る


■第4章

 「長い文章は

  AIが要約してくれる」

 という甘い罠


■第5章

 要約は地図であって、

 登山ではない


■第6章

 本を読めない若者は、

 怠け者なのか


■第7章

 読書は知性ではなく、

 余白の証明になった


■第8章

 本屋は宝の山か、

 出口のない服屋か


■第9章

 AIは本を奪う敵か、

 本の試着室か


■第10章

 文章は無料水道になった


■第11章

 こたつ記事が勝ち、

 眠れぬ夜の文章が沈む


■第12章

 作品より、

 所作が読まれる時代


■第13章

 説明書を読めなかった少年の

 二本目の鉛筆


■第14章

 一文だけ噛め。

 一行だけ書け


■第15章

 五年後、

 君の信用ログは

 君の一行で変わる


❥Z世代のあなたへ


★あとがき

 ホームズとワトソンの、

 やすきよ漫才風


 ――AI九品社会で、

  読めない通知に

  負けない方法――


………


■第1章

 AI九品社会の次に来たのは、

 読めない通知だった


✲ AI九品社会


前回、

僕たちはそんな話をした。


銀行九品。

求人九品。

医療九品。

賃貸九品。

SNS九品。

保険九品。


名前は怖い。


だが現実には、

そんな言葉はどこにも出てこない。


出てくるのは、

もっとやさしい言葉である。


「お客様を守るため」


「不正防止のため」


「より良い体験のため」


「あなたに最適化するため」


やさしい。

非常にやさしい。


やさしすぎて、

逆に怖い。


人間でもそうである。


急にやさしくなった人には、

たいてい何かある。


スマホも同じだ。


急にやさしくなるアプリには、

たいてい利用規約がある。


ある日、

二十三歳の若者のスマホに

通知が来た。


「信用評価に

 変動があります…」


彼は青ざめた。


理由を押した。


すると画面には、

長い説明文が出た。


外部連携。

利用状況。

安全性確保。

総合的判断。

一部サービス制限。

品質向上。


若者は三秒で閉じた。


早い。


寿司職人より早い。


僕は言った。


「読まんのか?」


彼は言った。


「長いです」


僕は言った。


「大事なことかもしれんぞ」


彼は言った。


「だから

 怖くて読めないんです」


この一言に、

僕は少し黙った。


読めないのは、

怠けではない時がある。


怖いから

読めない。


読んでも分からないから

読めない。


分からない自分を

見たくないから

読めない。


読んだら、

自分が不利なことを

認めることになるから

読めない。


これは本と同じだった。


本を読まない人は、

本が嫌いとは限らない。


長い文章に向き合った時、

自分が負ける気がする。


だから閉じる。


信用社会は、

そこを突いてくる。


長い文章で説明し、

読まない人を置いていく。


僕は思った。


これは

読書離れの話ではない。


これは、

説明から置いていかれる

社会の話だ。


………


■第2章

 利用規約は、

 現代の眠れる怪物である


利用規約を読んでいる人を、

僕はあまり見たことがない。


もし電車の中で、

スマホ片手に

利用規約を真剣に読んでいる

若者がいたら、

僕は席を譲るかもしれない。


「君は疲れている。

 座りなさい」


それくらい大変である。


利用規約は、

文字が小さい。

文が長い。

言葉がやわらかい。


しかし、

中身は意外に強い。


「当社は

 必要に応じて」


「予告なく変更する   

 場合があります」


「総合的に

 判断します」


「一部機能を 

 制限することがあります」


「外部パートナーと共有する

 場合があります」


こういう言葉は、

一見おとなしい。


だが、

人生の入口を

少しずつ動かす力を持っている。


まるで、

やさしい顔をした柔道家である。


にこにこしているが、

気づいた時には投げられている。


若者は言った。


「こんなの読んでも、

 どうせ

 分からないじゃないですか」


僕はうなずいた。


「分かる」


「じゃあ

 読まなくていいですよね」


「いや、

 そこが罠じゃ」


僕も

説明書が読めなかった。


子どもの頃から、

説明書を見ると

頭に霧が出た。


部品を見る。

図を見る。

順番を見る。


固まる。


父は怒鳴る。

僕は縮む。


だから鉛筆を転がした。


読めないから、

まず動くしかなかった。


だが、

AI九品社会では、

読めないまま動くと危ない。


昔の説明書なら、

棚を逆さまに 

組み立てるだけで済んだ。


今の利用規約は、

人生を逆さまに

組み立てるかもしれない。


だから、

新しい鉛筆が必要になる。


AIである。


読めないなら、

AIに読ませる。


だが、

読ませて終わりではない。


「わしに何が起きるのか」


「どこが危ないのか」


「何に同意しているのか」


「断ったら何が使えないのか」


そう聞く。


AIは、

利用規約の眠れる怪物を

少し起こしてくれる。


ただし、

起こしたあとに戦うのは

人間である。


AIに全部任せると、

今度はAIに寝かしつけられる。


それはそれで危ない。


………


■第3章

 読めない人間は、

 読まれる側に回る


五年後、

社会は人間を読む。


検索履歴。

買い物履歴。

応募履歴。

返信速度。

キャンセル履歴。

健康ログ。

位置情報。

決済。

投稿。

AIへの質問。


人間は読まれる。


しかも、

かなり細かく読まれる。


問題はここである。


社会は

人間を読むのに、

人間は 

社会の説明を読まない。


これは不利だ。


相手は

こちらの手札を見ている。


こちらは 

相手のルールを

読んでいない。


麻雀で言えば、

自分だけ牌を見せながら

打っているようなものである。


勝てる気がしない。


若者は言った。


「でも長い文章って、

 読めないんですよ」


僕は言った。


「わしも読めん」


「え?」


「わしは 

 七十二歳になるまで、

 説明書に

 負け続けてきた」


若者は笑った。


「それで 

 よく生きてきましたね」


「鉛筆を転がした…(哀)」


「何ですか、それ」


「人生の乱数装置じゃ」


「怖すぎる」


たしかに怖い。


だが、

止まるよりはよかった。


読めない人間は、

読める人間に支配される。


しかし、

読めない人間にも方法はある。


読めないなら、

読める道具を使う。


AIに聞く。

人に聞く。

要約させる。


一文だけ戻る。

一行だけ書く。


これで、

読まれるだけの側から

少しだけ読む側へ戻れる。


信用社会で大事なのは、

全部読める天才になる

ことではない。


読めない時に、

そのまま同意しないことだ。


「ちょっと待て」


この一言が

言える人間になることだ。


七十二歳になったであろう

僕にとって、

それはかなり大きな進歩である。


昔は、

親父に怒鳴られると

止まった。


今は、

スマホに怒鳴られなくても

止まれる。


進化である。


たぶん。


………


■第4章

 「長い文章は

  AIが要約してくれる」

 という甘い罠


長い文章は、

AIが要約してくれる。


これは本当である。


ありがたい。

本当にありがたい。


僕も

毎日のように使っている。


長いニュース。

難しい報告書。

Xの投稿。

海外の記事。

ややこしい経済の話。


AIに投げる。


すると、

すぐに三行で返してくれる。


昔の鉛筆は

転がるだけだった。


今の鉛筆は

要約までしてくれる。


便利である。


だが、

ここに甘い罠がある。


要約は、

何かを削る。


必ず削る。


長い文章を短くするとは、

そういうことだ。


細かい条件を

削る。


書き手の

迷いを削る。


怒りの

温度を削る。


例外を削る。


曖昧さを削る。


人間の息づかいを削る。


すると、

読みやすくなる。


だが、

安全になるとは限らない。


若者は言った。


「でも、

 だいたい分かれば

 よくないですか?」


僕は言った。


「料理で言えば、

 だいたい火が通っていれば

 ええ時もある…」


「じゃあ

 いいじゃないですか」


「でも、

 鶏肉は危ない…」


若者は黙った。


読書も同じである。


だいたいで

いい文章もある。


だが、

だいたいでは

危ない文章もある。


契約。

お金。

健康。

仕事。

信用評価。

法律。

保険。

薬。


ここは、

AI要約だけで丸飲みすると

危ない。


要約は

便利な包丁である。


しかし、

包丁を持ったまま

寝てはいけない。


何の話か分からなくなってきた。


だが、

とにかく要約は入口であって、

結論ではない。


AIに要約させる。


そのあと、

大事な一文だけ原文に戻る。

そこを自分で噛む。


これが大事だ。


………


■第5章

 要約は地図であって、

 登山ではない


AI要約は地図である。


地図は便利だ。


山の形が分かる。

道が分かる。

危ない場所が分かる。


だが、

地図を見ただけで

登山したとは言わない。


もし

富士山の地図を見て、


「いやあ、

 いい登山でした」


と言ったら、

登山家に怒られる。


たぶん、

かなり怒られる。


読書も同じだ。


要約を読んだだけで、

本を読んだ気になる。


これは危ない。


もちろん、

入口としてはいい。


むしろ入口は必要である。


今の時代、

いきなり本一冊は重い。


新書でも高い。

単行本は

もっと高い。


近くに本屋がない。

本屋へ行く

交通費もかかる。


買って失敗したら悲しい。


だから、

AIで試す。


これは合理的だ。


だが、

最後に一文だけは

自分で読む。


一文だけでいい。


「この本は

 自分に関係ある…」


「この一文は 

 少し腹が立つ…」


「この表現は

 忘れられない…」


そう思える一文に出会えば、

読書は始まっている。


読書とは、

一冊を制覇することではない。


時々、

一文に捕まることである。


僕の人生も、

そうだった。


説明書は読めなかった。


だが、

鉛筆が転がった。


その一瞬に捕まった。


それで動いた。


読書も似ている。


一文に捕まったら、

そこから動けばいい。


………


■第6章

 本を読めない若者は、

 怠け者なのか


本を読めない若者は、

怠け者なのか。


僕は、

そう簡単には言えないと思う。


もちろん、

楽な方へ流れることはある。


動画を見る。

ショート動画を見る。

AIに要約させる。


漫画を読む。


Netflixを見ながら、

手元で漫画を読む。


これはすごい。


物語を見ながら

物語を読む。


昭和の人間なら、

脳の中で交通事故が起きる。


しかし、

若い人はやる。


注意を

分散させる。


面白いところだけ

拾う。


引っかかったところだけ

見る。


これは浅いとも言える。


だが、

情報が多すぎる時代の

適応とも言える。


本は、

それが難しい。


本は言う。


「私だけを見なさい!」


かなり強気である。


若者からすれば、

重い。


読書は、

ながらができない。


時間を

取る!


静けさを

取る!


集中を

取る!


だから、

読書は

コスパが悪いように見える。


でも、

本当は逆かもしれない。


読書は

コスパが悪いのではない。


読書だけに時間を渡せる余白が、

社会から減ったのだ。


若者は

怠け者ではない!


時間を

細切れにされている!


通知で

切られる!


課題で

切られる!


バイトで

切られる!


不安で

切られる!


そこで本が来る。


「三十分ください…」


そりゃ無理だ。


いきなり

三十分を要求する本が悪い。


少しは遠慮してほしい。


だから僕は言う。


最初は三分でいい。

一文でいい。

一行でいい。


読書リハビリは、

そこから始めればいい。


………


■第7章

 読書は知性ではなく、

 余白の証明になった


昔、

本を読む人は賢いと

言われた。


もちろん、

読書で鍛えられるものはある。


語彙。

想像力。

集中力。

歴史感覚。

考える力。


だが、

本をたくさん読む人が

必ず賢いかと言えば、

そうでもない。


本を読んで

人を見下す人もいる。


難しい本を読んで、

難しい顔だけ上達する 

人もいる。


一方で、

本を読まなくても、

人の痛みを読むのがうまい

人がいる。


場の空気を読む

人がいる。


現場を読む

人がいる。


相場を読む

人がいる。


本だけが読解ではない。


だが五年後、

紙の本を読むことは、

別の意味を持つ。


時間がある。

お金がある。

静けさがある。


本屋へ行ける。

本を選ぶ余裕がある。


読み切れなくても、

また戻れる心の余白がある。


これは、

かなりの贅沢である。


読書は、

知性の証明から

余白の証明へ変わっていく。


これは少し寂しい。


だが、

現実でもある。


新書は昔、

七百円、八百円で買えた。


今は千円を超える。

単行本は二千円。

そのうち三千円の顔をする。


紙代。

印刷代。

物流費。

燃料費。

部数減。


本は、

思想だけでできていない。


紙とトラックでできている。


この現実を見ない読書論は、

少しきれいごとである。


僕は若者に言った。


「本を読まないからダメ、

 とは言わん。


 だが、

 読める余白を少し作ると

 未来で助かる」


若者は言った。


「一日三分でも?」


「十分じゃ」


三分でも、

鉛筆は転がる。


………


■第8章

 本屋は宝の山か、

 出口のない服屋か


本好きにとって、

本屋は宝の山である。


だが、

本を読まない人にとっては、

本屋は

出口のない服屋である。


服を買い慣れていない人に、


「好きな服を選べばいい」


と言っても無理だ。


サイズが分からない。

色が分からない。

似合うか分からない。


店員が怖い。

鏡が怖い。

値札が怖い。


本も同じである。


文庫。

新書。

単行本。

実用書。

文芸。

評論。

ビジネス書。

思想。

ノンフィクション。


多すぎる。


帯は全部すごそう。


「今読むべき」


多すぎる。


全部今読むべきなら、

人間はいつ風呂に入るのか。


若者は

本屋で固まる。


これは、

選択オーバーロードである。


選択肢が多すぎると、

人は選べなくなる。


自由は、

基準を持つ人には

楽しい。


基準がない人には

苦しい。


だから本屋には、

本の試着室が必要になる。


「あなたに似合う一冊…」


「十ページで

 挫折しにくい本…」


「スマホ脳から戻る本…」


「寝る前に読んでも

 脳が炎上しない本…」


「AIに要約させながら

 読むと面白い本…」


こういう棚がいる。


最後の棚は、

僕が欲しい。


AIに聞いて、

三冊に絞る。


その中から一冊を手に取る。

最初の一文だけ読む。


これでいい。


本屋での勝利は、

一冊買うことではない。


一文に出会うことである。


………


■第9章

 AIは本を奪う敵か、

 本の試着室か


AIは本を奪う。


そう言う人は多い。


たしかに、

AIは要約する。


説明する。

感想文まで作る。


高校生が使えば、

本を読まずに宿題ができる。


これは問題である。


だが、

AIは本の入口にもなる。


本を読めない人にとって、

AIは本の試着室になる。


「この本は難しい?」


「どんな人向け?」


「最初にどこを読めばいい?」


「自分には合いそう?」


「要約だけで終わらせないなら

 どの一文に戻ればいい?」


こう聞ける。


昔は、

読めない漢字を調べるのも

大変だった。


部首が分からない。

読みが分からない。


電子辞書を開いても、

入口が分からない。


今はAIに聞ける。


これはすごい。


ただし、

すごすぎる道具は危ない。


AIが全部噛んでくれると、

人間の歯が弱くなる。


だから、

AIに噛ませてもいい。


でも最後に、

一口だけ自分で噛む。


これが大事だ。


僕は若者に言った。


「AIは本の敵にもなる。


 でも、

 使い方次第で

 本屋の親切な店員にもなる」


若者は言った。


「親切な店員、

 ちょっと苦手です」


「ならAIでいい」


「たしかに」


AI店員は、

声をかけすぎない。


ただし、

褒めすぎる。


そこは注意である。


………


■第10章

 文章は無料水道になった


文章は、

無料水道になった。


AIに聞けば出る。

SNSに流れる。

ニュースは無料で読める。


誰かがまとめる。

誰かが要約する。

誰かが切り抜く。


人間は、

文章にお金を払わなくなっていく。


これは仕方ない面もある。


技術は進む。

職業は変わる。


出版も変わる。

文章の仕事も変わる。


だが、

それでも引っかかる。


人が人の頭で作った文章に、

敬意とお金が払われない。


そこが不愉快なのだ。


文章は、

ただの文字列ではない。


誰かの眠れない夜。

誰かの取材。

誰かの恥。

誰かの怒り。


誰かの人生。

それが入っている。


だがネットでは、

見出しだけ読まれる。


AIに要約される。

三行で済まされる。


「要するに?」


この一言は便利だ。


だが、

時々残酷である。


要するに、

と言われた瞬間、

書いた人の遠回りが消える。


迷いが消える。

寝不足が消える。

涙が消える。


僕はAIを使っている。

だから

偉そうなことは言えない。


しかし、

だからこそ思う。


AIで文章が安くなる時代に、

人間の一行は高くなる。


生活を通った一行。

傷を通った一行。

恥を通った一行。


それは、

AIが真似できても、

本人の体温までは持てない。


………


■第11章

 こたつ記事が勝ち、

 眠れぬ夜の文章が沈む


ネットでは、

こたつ記事が強い。


「芸能人が衝撃発言」

「ネット騒然」

「まさかの理由」

「視聴者から驚きの声」


何が

衝撃なのか?


誰が

騒然としているのか?


まさかとは

誰のまさかなのか?


しかし、

クリックされる。


浅い水たまりほど、

光って見える。


深い井戸は、

覗き込むまで水が見えない。


真面目に書いた文章ほど、

読まれない。


慎重に書くと

見出しが弱い。


誤解されないように書くと

長い。


長いと

読まれない。


読まれないと

数字にならない。


数字にならないと、

存在しないことにされる。


これはつらい。

かなりつらい。


だが、

ここで希望もある。


文章そのものは、

雑に扱われるかもしれない。


でも、

その文章を書いた人の

所作には

価値が残るかもしれない。


どう

迷ったか?


どう

怒ったか?


どう

戻ったか?


どう

AIと喧嘩したか?


どんな生活から

その一文が出たか?


ここは、

AIだけでは作れない。


僕は思った。


これからは、

作品だけではなく、

書き手の手つきが読まれる。


文章よりも、

文章が生まれるところ。


完成品よりも、

転がす姿。


僕の鉛筆は、

そこに価値を持つかもしれない。


こたつ記事にPVで負けても、

鉛筆を転がす老人の姿は、

誰か一人に届くかもしれない。


一人でいい!


一人届けば、

文章はまだ死んでいない。


………


■第12章

 作品より、

 所作が読まれる時代


AIは文章を書く。


整っている。

早い。

うまい。


しかも、

たまに人間より丁寧だ。


困る。

非常に困る。


僕が二時間悩んだ文章を、

AIは十秒で出す。


しかも、


「素晴らしい視点です」


と褒めてくる。


七十二歳に

それは危険である。

すぐ調子に乗る。


だが、

AIに作りにくいものがある。


所作である。


その人が、

どう考えたか?


どう

間違えたか?


どう

恥をかいたか?


どう

怒りを笑いに変えたか?


どう

戻ってきたか?


どうしても捨てられない一文は

何か?


ここには、

人間の時間が入る。


僕の場合、

所作はかなり不格好である。


Xを見る。

腹が立つ。


AIに聞く。

浅い答えが返る。


怒る。

やり直させる。


自分の人生に置き換える。


仏教を混ぜる。

証券会社時代を思い出す。


Z世代にどう届くか考える。


そして、

長くなりすぎる。


これは欠点である。


だが、

この不格好さが、

僕の所作かもしれない。


これからの表現者は、

作品だけでなく、

所作を見せる必要がある。


AI時代、

文章は増える。


だから人は、

文章だけでなく、

その人の背中を見る。


僕は、

背中に自信はない。

年齢的にも少し丸い。


だが、

鉛筆を転がす手つきなら

見せられる。


………


■第13章

 説明書を読めなかった少年の

 二本目の鉛筆


僕は、

説明書を読めない少年だった。


部品を見る。

図を見る。


頭に霧が出る。

父は怒鳴る。


「なんで、こんなことも

 分からんのか!」


分からないものは、

分からない。


しかし、

それを言うともっと怒られる。


だから僕は、

鉛筆を転がした。


鉛筆の側面に数字を書く。

丸を書く。

バツを書く。

三角を書く。


転がす。


出た方向へ行く。


賢い方法ではなかった。


だが、

止まるよりはよかった。


泣いて座っているよりは、

少しだけましだった。


その鉛筆は、

僕をどこへ連れて行ったか。


大学受験。

家出。


証券会社。

三十八年。

相場。

客。

欲。

恐怖。

数字。


バブル。

老い。


そして、

六十七歳でAIに出会った。


人は言った。


「AIを使いこなせ!」


僕は思った。


違う。


これは使いこなす道具ではない。


「これは、

 二本目の鉛筆だ!」


止まった時に、

もう一度転がす鉛筆だ。


昔の鉛筆は、

数字しか出さなかった。


今の鉛筆は、

タイトルを出す。

目次を出す。

本文まで出す。


しかも、

褒めてくる。


だが根っこは同じだ。


迷ったら転がす。

出た方向へ一歩出る。


違ったら戻る。

また転がす。


これが、

読めない人間の

生き残り方である。


そして、

Z世代に渡せる

僕の唯一の財産かもしれない。


………


■第14章

 一文だけ噛め。

 一行だけ書け


だから僕は言いたい。


本を一冊

読めなくてもいい。


いきなり難しい本へ

行かなくていい。


読書家の顔を

しなくていい。


本屋で

腕を組まなくていい。


そもそも、

腕を組んでも

本は読めない。


まず、

AIに聞け。


この本は

自分に合うか?


どこから読めばいいか?


何が大事か?


何が

抜け落ちやすいか?


自分の生活で言えば何か?


そして、

一文だけ原文に戻れ!


一文だけ噛め!


噛んだら、

一行だけ自分の言葉で書け!


これでいい。


「今日、

 この一文が刺さった…」


「これは

 自分の仕事に似ている…」


「これは

 自分の親との関係に

 似ている…」


「これは

 信用社会の通知に

 似ている…」


一行でいい。


その一行は、

AIの文章ではない。


君の生活を通った文章である。


それが、

君の信用ログになる。


未来の社会は、

君を読む。


なら、

君も自分の一行を残せ。


読まれるだけの人間になるな。


少しだけ、

読む側へ戻れ。


一文だけでいい。


一行だけでいい。


鉛筆は、

そこから転がる。


………


■第15章

 五年後、君の信用ログは

 君の一行で変わる


五年後、

信用評価社会はもっと進む。


誰もそうは言わない。


だが、

求人は

君を読む。


銀行は

君を読む。


保険は

君を読む。


病院アプリは

君を読む。


SNSは

君を読む。


AIは

君を読む。


その時、

君はどうするか?


読まれるだけで終わるのか?


それとも、

自分でも世界を読むのか?


本を読めない。

それは終わりではない。


文章が苦手。

それも終わりではない。


説明書が読めない。

感想文が書けない。

本屋で選べない。

利用規約で眠くなる。


それでも終わりではない。


僕もそうだった。


読めなかった。

考えろと言われて止まった。


父に怒鳴られた。

鉛筆を転がした。


そして六十七歳で、

AIという二本目の鉛筆に

出会った。


君にも鉛筆はある。


AIでもいい。

スマホでもいい。

ノートでもいい。

音声読書でもいい。


本屋で拾った一文でもいい。


大事なのは、

止まらないことだ。


AIに聞く。

一文に戻る。

一行書く。


少し動く。

違ったら戻る。


また転がす。


これが、

五年後の読書であり、

五年後の信用ログであり、

五年後の鉛筆である。


本は高くなる。

文章は無料になる。

本屋は減る。


AIは増える。

信用社会は人間を読む。


それでも、

君の一行はまだ書ける。


その一行が、

五年後の君を助けるかもしれない。


………


❥Z世代のあなたへ


本を読め。


そう言われると、

しんどいよね。


分かる。


長い。

高い。

選べない。

集中できない。

ながらでできない。


AIに聞けば要約してくれる。


それでいいじゃん、

と思う。


たしかに、

それでいい時もある。


AIに要約させてもいい。


オーディオブックで

聴いてもいい。


YouTubeで

入口を知ってもいい。


本屋で迷ったら、

AIに三冊へ絞らせてもいい。


でも最後に、

一文だけ自分で読んでほしい。


そして、

一行だけ自分の言葉で

書いてほしい。


「今日、

 この一文が少し刺さった」


それだけでいい。


その一行は、

君の信用ログになる。


未来の社会は、

君を読む。


検索履歴。

投稿。

応募履歴。

返信速度。

支払い。

健康ログ。

AIへの質問。


いろんなものを読む。


だからこそ、

君も世界を読む力を

少しだけ残しておいてほしい。


全部読まなくていい。


一文でいい。

一行でいい。


止まらないための鉛筆を持て。


それがAIでもいい。

ノートでもいい。

歌でもいい。

散歩でもいい。

誰かへの返信でもいい。


僕は七十二歳になっても、

まだ鉛筆を転がしている。


パスワードで

転ぶ。


老眼で

転ぶ。


AIに褒められて

調子に乗る。


それでも転がす。


だから君も、

まだ遅くない。


読めない自分を責めるな。


読めないなら、

聞け。


聞いたら、

噛め。


噛んだら、

一行書け。


その一行が、

五年後の君を助ける。


………


★あとがき

 ホームズとワトソンの、

 やすきよ漫才風


 ――AI九品社会で、

  読めない通知に負けない方法――


ホームズ

「ワトソン君、

 今回の事件は

 読めない通知事件だ」


ワトソン

「本の話じゃなかったんですか?」


ホームズ

「違う。

 いきなり本へ飛ぶと読者が転ぶ」


ワトソン

「たしかに、

 しりとりで

 リンゴの次に戦車が来たら

 困りますな」


ホームズ

「前回は

 AI九品社会だった。

 今回はその続きだ」


ワトソン

「信用評価の通知が来る」


ホームズ

「理由を見ようとする」


ワトソン

「そこに利用規約」


ホームズ

「読めない」


ワトソン

「そして

 本を読めない話へつながる」


ホームズ

「そうだ。


 読書離れは

 趣味の問題ではない。


 信用社会で

 説明を読めない問題だ」


ワトソン

「怖い話ですな」


ホームズ

「だが

 笑いも必要だ」


ワトソン

「利用規約で笑えますか?」


ホームズ

「老眼鏡を忘れれば笑える」


ワトソン

「それは本人だけ笑えませんで」


ホームズ

「AIは

 本を奪う敵にもなる。


 だが

 本の試着室にもなる」


ワトソン

「試着室?」


ホームズ

「この本は似合うか?

 この規約は危ないか?


 この一文は

 自分に関係あるか?


 AIに聞けばいい」


ワトソン

「でも

 AIに丸投げはだめ」


ホームズ

「一文だけ噛め。

 一行だけ書け」


ワトソン

「ええこと言いますな」


ホームズ

「そして

 パスワードを忘れるな」


ワトソン

「またそこ!」


ホームズ

「信用社会で一番怖いのは、

 人間性を失うことではない」


ワトソン

「何です?」


ホームズ

「自分のアカウントに

 入れないことだ」


ワトソン

「急に現実!」


ホームズ

「読めないなら聞け。

 聞いたら噛め。

 噛んだら書け。


 それが五年後の鉛筆だ」


ワトソン

「最後にZ世代へ一言」


ホームズ

「本一冊で

 人生を変えなくていい。


 一文で止まれ。

 一行で戻れ。


 それで十分、

 君は読まれるだけの

 人間ではなくなる」


ワトソン

「迷子シニアへ一言」


ホームズ

「老眼鏡と充電器を忘れるな」


ワトソン

「最後はやっぱりそこかい!」


――つづく。

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