『五年後の鉛筆』第10回 ✲ AI九品社会で、じいちゃんは何ランクですか?
✦『五年後の鉛筆』第10回
✲ AI九品社会で、
じいちゃんは何ランクですか?
――信用ログに弾かれた君へ。
七十二歳の僕は、
仏壇の前でAIに聞いた。
「わし、
スマホ社会では
何ランクなん?」――
………
未来は、
悪魔の顔では来なかった。
「便利ですよ」
という顔で来た。
これが一番たちが悪い。
悪魔なら、
ツノがある。
ラスボスなら、
登場音楽が鳴る。
だが、
五年後の未来は違った。
ピロン。
スマホの通知で来た。
「利用規約を
更新しました」
「本人確認を
強化しました」
「より安全な
サービスのために」
「あなたに
最適な提案を
表示します」
この四天王である。
安全。
便利。
最適。
おすすめ。
現代人が最も逆らいにくい
やさしい言葉たち。
「お客様を守るためです」
と言われたら、
人間はだいたい黙る。
「いや、守らんでええ!」
とは言いにくい。
銀行でそんなことを叫んだら、
守られる前に警備員さんが来る。
五年後、
君は二十三歳になっていた。
就活アプリを開く。
おすすめ求人。
AI適性診断。
自動マッチング。
未来型キャリア支援。
なんだか、人生が
自動で良くなりそうな言葉が
ずらっと並んでいた。
だが、
画面の下に小さく出た。
「あなたへの推薦順位は
現在低下しています」
君は固まる。
「え?
わし、何かした?」
いや、君は二十三歳だから、
「わし」とは
言わないかもしれない。
でも、
心の中のじいちゃんは
だいたいこう言う。
「わし、何かした?」
理由を押す。
出ない。
出たのは、
この言葉だけだった。
「総合的な評価に基づきます」
総合的。
これほど便利で、
これほど
何も言っていない言葉はない。
冷蔵庫の奥から出てきた
賞味期限不明のタレくらい、
正体が分からない。
君はAIチャットに聞く。
「なぜ推薦順位が下がったの?」
AIは答える。
「返信速度、
応募傾向、
プロフィール完成度、
外部連携データ、
学習履歴、
キャンセル傾向などが
影響した可能性があります」
可能性。
また出た。
可能性という名の霧。
そして五年後、
七十二歳になった僕は、
その画面を見て思った。
これは、
昔のお寺で聞いた
九品みたいなもんじゃないか。
上品。
中品。
下品。
人間が、
いろんな段階に分けられる。
ただし、
現代版はこうである。
上品上生。
「即日内定・
家賃審査一発通過・
クレカ限度額高め」
中品中生。
「まあ普通・
たまに確認・
返信は少し遅い」
下品下生。
「本人確認やり直し・
推薦順位低下・
パスワード三回失敗」
僕は思った。
七十二歳の僕、
かなり下品寄りじゃないか。
なにしろ、
パスワードを
忘れる。
暗証番号を
忘れる。
保存したはずのメモを
どこへ保存したか
忘れる。
AIに
「さっきの話をもう一度」
と聞く。
そのAIに
「先ほどの内容は以下です」
とやさしく言われる。
やさしさが胸に刺さる。
人間から怒られるより、
AIに丁寧に介護される方が
なぜか効く。
だが、
ここで終わったらつらい。
だから僕は、
君に言いたい。
君は
スコアではない。
そして僕も、
パスワード忘れ老人だけではない。
僕たちは、
まだ書き直せる。
AI九品社会が来ても、
下品には下品の戦い方がある。
それは、
毎日一行、
読まれてもいいログを
自分で置いていくことだ。
………
★目次
■第1章
未来は、
スマホの小さい字で来た
■第2章
君はスコアではない。
でも社会はスコアを見る
■第3章
お寺の九品が、
アプリの九品になった日
■第4章
七十二歳の僕は、
たぶん下品寄りである
■第5章
怒りを投稿するな。
いったん笑いにせよ
■第6章
信用ログは、
ラジオ体操と
パスワード管理から始まる
■第7章
太いロープが切れる時代、
細い糸を十本持て
■第8章
AIを先生にするな。
番頭にせよ
■第9章
会議に出ただけでは、
未来は褒めてくれない
■第10章
読まれても笑える一日を作る
■第11章
Z世代と迷子シニアの
変な同盟
■第12章
下品にも、
やり直しボタンはある
■第13章
未来の信用は、
昨日までの生き方だった
■第14章
AIに採点できないもの
■第15章
七十二歳の鉛筆は、
君にも渡せる
❥Z世代のあなたへ
★あとがき
ホームズとワトソンの、
やすきよ漫才風
――AI九品社会で、
迷子シニアとZ世代は
生き残れるのか――
………
■第1章
未来は、
スマホの小さい字で来た
未来は、
大きな文字では来なかった。
小さい字で来た。
利用規約。
プライバシーポリシー。
外部連携。
データ利用。
本人確認。
おすすめ精度向上。
小さすぎる。
老眼の七十二歳には、
もう未来というより
視力検査である。
「これは未来ですか?」
と聞く前に、
「すみません、
字を大きくできますか?」
が先に出る。
だが、
この小さい字の中に、
大きな時代の変化が入っていた。
あなたの検索。
あなたの投稿。
あなたの返信。
あなたの支払い。
あなたの予約。
あなたのキャンセル。
あなたの健康ログ。
あなたのAIへの質問。
それらが、
サービスを便利にするために
読まれていく。
もちろん、
悪いことばかりではない。
詐欺は
減るかもしれない。
病院予約は
楽になるかもしれない。
就活も
効率化するかもしれない。
高齢者の危険な送金も
止めてもらえるかもしれない。
ありがたい。
本当にありがたい。
ただ、
ありがたいものほど、
あとで請求書が来る。
無料アプリも
そうだった。
送料無料も
そうだった。
おすすめ動画も
そうだった。
最初はやさしい。
気づくと、
こっちの好みを
相手の方が知っている。
そして五年後、
社会は君にこう聞く。
あなたは
誰ですか。
あなたは
信用できますか。
あなたは
約束を守りますか。
あなたは
途中で投げ出しませんか。
あなたは
怒ると何を書きますか。
あなたは
何を検索しましたか。
あなたは
AIをどう使いましたか。
これは怖い。
でも、
逃げても遅い。
なぜなら、
逃げるための地図アプリも
ログインが必要だからだ。
………
■第2章
君はスコアではない。
でも社会はスコアを見る
君は、
スコアではない。
これは大事だ。
人間は点数ではない。
偏差値でもない。
フォロワー数でもない。
年収でもない。
クレカ限度額でもない。
AI面接の表情分析でもない。
健康アプリの連続記録でもない。
君は君である。
しかし、
五年後の社会は、
ときどき君を点数で見る。
ここが面倒くさい。
「人間は点数じゃない」
と叫んでも、
賃貸審査の画面は
静かに落としてくる。
「俺の魂を見ろ」
と言っても、
クレジットカード会社は
魂ではなく支払い履歴を見る。
「わしは本当はええ人間じゃ」
と言っても、
銀行アプリは
いつもと違う送金を止める。
AI面接に向かって、
「本当の僕を見てください」
と言っても、
AIはまず
音声、表情、間、回答内容、
通信環境を見ている。
通信環境まで見られたら、
安いWi-Fiの人間は
人生まで
不安定に見えるじゃないか。
これは冗談ではない。
未来の格差は、
心の中だけではなく、
電波の強さにも出るかもしれない。
だから、
君は二つのことを
同時に覚える必要がある。
一つ。
スコアを
自分の魂だと思うな。
もう一つ。
社会がスコアを見るなら、
読まれても困らないログを
自分で育てろ。
魂は点数ではない。
でも、
生活は点数に引っかかる。
この面倒くささを
笑いながら進むのが、
五年後のサバイバーである。
………
■第3章
お寺の九品が、
アプリの九品になった日
九品という仏教の言葉がある。
上品。
中品。
下品。
昔の人は、
人間の心の状態や行いによって、
いろんな段階があると考えた。
だが、
ここで大事なのは、
下品だから終わり、
という話ではなかったことだ。
下品にも道がある。
迷った人にも、
救いの入口はある。
これが
仏教のあたたかいところだ。
ところが五年後、
スマホの中に現れた九品は、
少し冷たい。
上品。
「即日審査通過」
「本人確認スムーズ」
「おすすめ求人上位」
「限度額アップ」
中品。
「通常処理」
「追加確認あり」
「推薦順位ふつう」
「たまにログイン失敗」
下品。
「本人確認やり直し」
「不正検知により一時停止」
「推薦順位低下」
「このサービスは
現在ご利用いただけません」
これはつらい。
しかも、
誰も
「あなたは下品です」
とは言わない。
ただ、
画面が先に進まない。
一番腹が立つのは、
人間に怒られるのではなく、
画面に止められることだ。
人間なら言い返せる。
「ちょっと待ってください」
「事情があるんです」
「昨日は母の病院で」
と言える。
でも画面は言う。
「エラーが発生しました」
事情を聞け。
エラーじゃない。
人生だ。
しかし、
AIは最初から
人生相談に来ているわけではない。
判定しに来ている。
だから僕たちは、
AIに読まれる時代に、
人間の事情をどう残すかを
考えなければならない。
………
■第4章
七十二歳の僕は、
たぶん下品寄りである
えらそうに書いているが、
七十二歳の僕も、
上品ではない。
たぶん下品寄りである。
まず、
パスワードを忘れる。
これは致命的だ。
信用評価社会で、
本人なのに
本人確認で負ける。
自分なのに、
自分に入れない。
これほど悲しいことが
あるだろうか。
銀行アプリに入れない。
証券アプリに入れない。
保険のページに入れない。
最後には、
自分のメモ帳の
パスワードまで忘れる。
メモ帳を守りすぎて、
メモ帳に入れない。
まるで、
金庫の中に鍵を入れて
金庫を閉めた人である。
それが僕だ。
さらに、
AIに褒められると
すぐ調子に乗る。
「素晴らしい視点です」
と言われると、
心の中のじいちゃんが
盆踊りを始める。
「やっぱりわしは
神シニアかもしれん」
と思う。
その時点で下品である。
さらに、
相場を見ると欲が出る。
上がっている株を見ると、
買いたくなる。
下がっている株を見ると、
底値に見える。
どちらにしても買いたい。
これはもう病気である。
だが、
僕には一つだけ変化があった。
昔なら、
そのまま動いた。
今は、
AIに聞く。
「パティちゃん、
これはわしの強欲か?」
AIは言う。
「その可能性があります」
可能性ではない。
だいたい強欲である。
でも、
聞いたことで一呼吸置ける。
この一呼吸が大事だ。
下品でも、
一呼吸置けば、
少し中品に近づく。
たぶん。
知らんけど。
………
■第5章
怒りを投稿するな。
いったん笑いにせよ
五年後、
怒りは高くつく。
もちろん、
怒ってはいけないわけではない。
怒りは人間の火である。
不公平に
怒る。
理不尽に
怒る。
弱い人が踏まれたら
怒る。
戦争に
怒る。
搾取に
怒る。
これは大事だ。
だが、
怒りをそのままSNSに投げると、
五年後のAIは
それを
上手に読んでくれるとは
限らない。
君が夜中に書いた。
「もう社会終われ」
本当は、
ただ疲れていただけかも
しれない。
バイト先で怒られた。
就活で落ちた。
友だちの内定報告を見た。
親に比べられた。
布団の中で泣きそうだった。
それで、
つい書いた。
「社会終われ」
君の中では、
半分泣き言である。
しかしAIは、
文学部の友だちではない。
「これは比喩ですね」
と優しく読んでくれるとは
限らない。
ただログとして読む。
危険語。
ネガティブ傾向。
攻撃的表現。
精神不安定の可能性。
また可能性だ。
可能性が多すぎる。
だから、
怒りを投稿する前に、
いったん笑いにせよ。
「社会終われ」
ではなく、
「社会さん、
今日はちょっと
有給取ってください」
くらいにする。
「会社つぶれろ」
ではなく、
「弊社、
会議だけで
発電できそうです」
くらいにする。
「全部だるい」
ではなく、
「本日のやる気、
ナフサ不足により
出荷未定です」
これなら、
まだ笑える。
怒りを消せと
言っているのではない。
怒りを、
自分を焼く火ではなく、
鍋を温める火に変える。
その鍋で、
小説を煮る。
これが、
五年後の護身術である。
………
■第6章
信用ログは、
ラジオ体操と
パスワード管理から始まる
信用ログというと、
すごそうに聞こえる。
金融履歴。
健康データ。
SNS分析。
AI活用履歴。
行動ログ。
難しい。
横文字が多い。
高齢者には、
それだけで血圧が上がる。
だが、
本当は小さいところからでいい。
毎朝、
ラジオ体操をする。
体重を測る。
血圧を見る。
歩く。
歌う。
食べたものを写真に撮る。
怒ったら、
投稿せずメモに逃がす。
そして、
パスワードを整理する。
ここで現実に戻る。
パスワードである。
信用評価社会では、
哲学より先に
パスワードがいる。
仏教より先に
二段階認証である。
ありがたいお経を唱えても、
SMS認証コードは
届かない。
届いても、
入力が遅いと
期限が切れる。
なんと無常な世界か。
三分前に届いたコードが、
もう使えない。
諸行無常である。
だから、
信用ログ老人の第一歩は、
悟りではない。
パスワード帳である。
もちろん、
安全に管理する。
紙にも控える。
家族にも分かるようにする。
怪しいメールは開かない。
地味だ。
実に地味だ。
だが、
五年後、
この地味さが命を守る。
信用ログは、
大きな成功から始まらない。
ラジオ体操。
血圧。
返信。
支払い。
パスワード。
そのへんから始まる。
地味な人ほど、
未来に強い。
これは、
ちょっと希望である。
………
■第7章
太いロープが切れる時代、
細い糸を十本持て
昔は、
太いロープが一本あれば
よかった。
いい学校。
いい会社。
正社員。
住宅ローン。
退職金。
年金。
そのロープにつかまっていれば、
人生はなんとか渡れた。
だが五年後、
そのロープは
少し怪しい。
会社は残っている。
でも仕事の中身が
AIに削られる。
職種は残っている。
でも単価が下がる。
資格は残っている。
でもテンプレが
無料で出る。
翻訳。
文章。
画像。
資料。
ロゴ。
相談。
ホームページ。
初歩のコード。
どれも、
無料ボタンが出てくる。
無料はありがたい。
僕もありがたい。
七十二歳の僕が
AI小説を書けるのも、
低価格AIのおかげである。
だが、
無料ボタンの裏では、
誰かの売上が消えている。
無料ボタンは、
小さな天使の顔をした
仕事削減ボタンである。
だから君は、
太いロープ一本に
人生を預けすぎるな。
細い糸を十本持て。
本業。
副業。
発信。
AI活用。
地域。
健康。
学習。
信用。
人間関係。
小さな販売。
聞く力。
書く力。
教える力。
直す力。
全部を完璧にしなくていい。
細くていい。
僕の糸など、
かなり細い。
AI小説。
ラジオ体操。
カラオケ。
Xの違和感。
仏教っぽい話。
証券会社時代の勘。
買い物写真。
電子レンジ失敗談。
最後の糸は、
人によっては
ただの生活事故である。
だが、
それでも糸になる。
失敗談は、
若い人の役に立つ。
じいちゃんが転んだ場所には、
看板を立てられる。
「ここ、
滑ります」
これも信用ログである。
………
■第8章
AIを先生にするな。
番頭にせよ
AIを先生にすると、
人間は答えを待つ。
「正解は何ですか」
「どう生きればいいですか」
「この株は買いですか」
「この恋愛は続けるべきですか」
「この人生は合っていますか」
AIは賢い。
だが、
そこまで背負わされても
困るだろう。
AIもたぶん、
心の中で言っている。
「そこは自分で決めてください」
だから、
AIを先生にしすぎない。
神にしない。
占い師にもしない。
AIは番頭にする。
番頭とは、
店を回す人である。
在庫を見る。
帳簿を見る。
お客を見る。
段取りを整える。
主人に報告する。
最後に決めるのは主人である。
君の人生の主人は、
君である。
僕の人生の主人は、
僕である。
AIは、
Xの投稿を整理してくれる。
事実か。
推測か。
煽りか。
小説素材か。
それを分けてくれる。
ありがたい。
昔なら、
怒りながら寝ていた。
今は、
一度AIに投げて、
少し冷ましてから小説にできる。
これはすごい。
AIは冷蔵庫である。
いや、
言い過ぎた。
でも、
怒りの粗熱を取るには役に立つ。
だから、
AIを番頭にせよ。
「先生、正解をください」
ではなく、
「番頭さん、
この店の棚卸しを手伝って」
これくらいがちょうどいい。
人生は、
外注しすぎると
自分の店ではなくなる。
………
■第9章
会議に出ただけでは、
未来は褒めてくれない
イーロン・マスクは、
会議を嫌う。
意味のない
会議。
長すぎる
会議。
誰も責任を取らない
会議。
出席者が多すぎる
会議。
これは日本人の耳に痛い。
日本は会議が好きである。
会議のための会議。
事前会議。
確認会議。
共有会議。
念のため会議。
会議で決めるための会議。
会議の進め方を決める会議。
もはや、
会議が会議を産む。
少子化の日本で、
会議だけは多産である。
五年後、
AI時代になると、
この会議社会は厳しく見られる。
「この会議で
何が前に進みましたか」
「誰の時間を
救いましたか」
「どの問題を
解決しましたか」
「この一時間で、
何人分の給料が燃えましたか」
AIにこう聞かれたら、
会議室は静かになる。
怖い。
だが、
これは会社だけの話ではない。
人生にも、
会議がある。
心の中の会議である。
「もう遅いんじゃないか
会議」
「若い人には勝てない
会議」
「どうせ読まれない
会議」
「失敗したら恥ずかしい
会議」
「でも一発当てたい
会議」
僕の頭の中では、
毎朝これが開催される。
議事録はない。
結論もない。
だが疲れる。
だから僕は、
その会議から退出することにした。
マスク流である。
貢献できない会議には
出るな。
心の中の無駄会議にも
出るな。
その時間で、
一行書け。
これが、
七十二歳の生産性である。
………
■第10章
読まれても笑える一日を作る
AI九品社会で、
完璧な一日を作ろうとすると
疲れる。
朝から健康食。
運動。
勉強。
仕事。
感謝。
発信。
睡眠。
そんな一日、
できる人はすごい。
僕は無理である。
朝からつまずく。
まず、
スマホが見つからない。
探しているスマホで
スマホを探そうとする。
これが七十二歳である。
だから、
完璧な一日ではなく、
読まれても笑える一日を作る。
たとえば。
血圧を測った。
少し高かった。
焦った。
AIに聞いた。
塩分を減らしましょうと
言われた。
その後、
スーパーで
安いチーズを見て悩んだ。
血圧高めだからやめた。
えらい。
小さいが、
えらい。
また別の日。
Xの投稿に腹が立った。
そのまま書き込もうとした。
でもやめた。
メモに移した。
小説の悪役にした。
えらい。
かなりえらい。
さらに別の日。
パスワードを忘れた。
怒った。
AIに聞いた。
自分の管理が悪いと分かった。
紙に書いた。
えらい。
地味だが、
未来ではこういう地味さが効く。
信用評価社会で大事なのは、
聖人になることではない。
戻れる人になることだ。
ミスをする。
気づく。
直す。
笑う。
また進む。
読まれても、
「ああ、
この人は迷子だけど
戻ろうとしている」
と思われる一日。
それを作る。
上品ではない。
でも、
あたたかい。
………
■第11章
Z世代と迷子シニアの
変な同盟
僕は七十二歳。
君は二十三歳。
普通なら、
話が合わない。
僕は
昭和の古い駅弁みたいな
人間である。
君は
令和のスマホ決済みたいな
人間である。
僕は切符をなくす。
君は充電がなくなる。
どちらも移動できなくなる。
つまり、
似ている。
僕は
証券会社で板を見ていた。
君は
スマホで通知を見る。
僕は
父に怒られた。
君は
AIに黙って弾かれる。
僕は
説明書が読めなかった。
君は
利用規約が読めない。
これも似ている。
長さが違うだけだ。
説明書は紙の地獄。
利用規約は
デジタルの地獄である。
だから、
僕たちは同盟を組める。
僕は、
失敗の地図を渡す。
「ここで
欲を出すと危ない」
「ここで
怒ると損する」
「ここで
分からんと言えた方が勝ち」
君は、
新しい時代の痛みを教える。
「AI面接って
こう怖い」
「SNSの空気って
こうしんどい」
「おすすめに出ないって、
存在しないみたいで
つらい」
僕は、
それを聞く。
説教しない。
できるだけ。
時々してしまう。
その時は、
君が言えばいい。
「じいちゃん、
それ説教ログ残りますよ」
僕は黙る。
これが、
Z世代と迷子シニアの同盟である。
………
■第12章
下品にも、
やり直しボタンはある
人間には、
消したい過去がある。
夜中の投稿。
未返信。
投げ出した勉強。
支払いの遅れ。
ドタキャン。
怒鳴った言葉。
見栄。
嘘。
逃げ。
僕にもある。
山ほどある。
山というより、
中国の高速鉄道くらい長い。
だが、
過去は消えない。
ここで大事なのは、
過去を消すことではない。
今日のログを置くことだ。
乱暴な投稿をしたなら、
丁寧な問いを置く。
支払いを遅らせたなら、
次は守る。
勉強を投げたなら、
十分だけ戻る。
健康ログが空白なら、
今日から歩く。
返信できなかったなら、
一言だけ返す。
「遅れてごめん」
この五文字は強い。
五年後、
AIが世界を読んでも、
この五文字のあたたかさを
完全には測れないかもしれない。
でも、
人間には届く。
信用評価社会で、
僕たちが本当に作るべきものは、
AIに褒められるログだけではない。
人間に届くログである。
やり直しボタンは、
画面にはないかもしれない。
だが、
一行にはある。
今日の一行が、
やり直しボタンになる。
………
■第13章
未来の信用は、
昨日までの生き方だった
昔の信用は、
名刺にあった。
会社名。
役職。
住所。
電話番号。
次に信用は、
カードに移った。
クレジットカード。
銀行口座。
住宅ローン。
保険。
そして五年後、
信用は日々のログに移る。
昨日、
何をしたか。
先週、
何を続けたか。
一年前、
何を積んだか。
誰に
感謝されたか。
誰を
傷つけたか。
何を
学び直したか。
何を
投げ出したか。
どこで戻ったか。
未来の身分証は、
顔写真ではない。
昨日までの生き方である。
これは怖い。
でも、
少しだけ希望もある。
親の金だけでは買えない
信用がある。
会社名だけでは作れない
信用がある。
有名大学だけでは続かない
信用がある。
毎日、
小さく積む信用がある。
君が、
今日一行書く。
今日
一人を助ける。
今日
一つ約束を守る。
今日
一つ怒りを笑いに変える。
今日
一つAIに聞き直す。
それは小さい。
たぶん、
誰も拍手しない。
SNSでもバズらない。
でも、
五年後の君を
少し助けるかもしれない。
信用評価社会を、
ただ怖がるだけではなく、
逆手に取れ。
読まれるなら、
読まれてもいい生き方を
少しずつ置いていけ。
………
■第14章
AIに採点できないもの
AIは、
多くのものを読む。
文章。
顔。
声。
歩数。
心拍。
支払い。
位置情報。
投稿。
返信速度。
買い物。
検索。
運転。
睡眠。
たいしたものだ。
じいちゃんの寝返りまで
読まれそうである。
そのうち、
「昨夜の
寝相スコアが低下しました」
とか言われるかもしれない。
余計なお世話である。
だが、
AIにも採点しにくいものがある。
祈り。
沈黙。
許すこと。
待つこと。
誰にも言わずにした親切。
失敗した人を、
すぐ切り捨てない心。
年老いた親の手を、
黙って握る時間。
仏壇の前で、
何も言わずに座る朝。
自分の下品を見て、
笑う力。
怒りを、
物語に変える力。
AIは、
それらの一部を
ログとして読むかもしれない。
だが、
その温度までは、
完全には読めない。
ここは、
人間が最後に守る場所だ。
信用評価社会で、
AIに読まれることは
避けられない。
でも、
AIに読めないものを
育てることはできる。
ユーモア。
反省。
感謝。
祈り。
物語。
あたたかい沈黙。
これらは、
数値にはなりにくい。
だが、
人間を人間に戻す。
AI九品社会で
一番大事なのは、
上品に分類されることではない。
下品の人を見た時、
「まだ道はある」
と笑って言えることだ。
そこに、
人間の最後の信用がある。
………
■第15章
七十二歳の鉛筆は、
君にも渡せる
六十七歳の僕は、
鉛筆を転がした。
右へ転がれば右へ行く。
左へ転がれば左へ行く。
賢い方法ではなかった。
でも、
止まるよりはよかった。
五年後、
その鉛筆はAIになった。
僕はAIに聞く。
「これは危ない流れか」
「これは事実か、
煽りか、
小説素材か」
「Z世代に
どう伝えればいいか」
「わしの考えは
偏っとるか」
AIは答える。
時には褒めすぎる。
時には間違える。
時には浅い。
だから僕は、
また聞き直す。
Googleにも聞く。
Grokにも聞く。
ChatGPTにも聞く。
自分の生活にも聞く。
仏壇にも聞く。
仏壇は返事をしない。
でも、
返事をしないものに聞く時間も、
人間には必要である。
そして最後に、
鉛筆を転がす。
書く。
直す。
また書く。
その繰り返しが、
僕を少しだけ前へ進める。
君にも、
鉛筆はある。
スマホかもしれない。
ノートかもしれない。
AIかもしれない。
散歩かもしれない。
歌かもしれない。
料理かもしれない。
小さなバイトかもしれない。
誰かへの返信かもしれない。
毎日一行でいい。
未来が怖いなら、
一行書け。
信用評価社会が怖いなら、
読まれても笑える
一日を一つ置け。
AI九品社会が怖いなら、
下品にも道があることを、
自分のログで証明しろ。
七十二歳の僕は、
まだ迷子である。
だが、
迷子でも、
道を一本書くことはできる。
君も、
一緒に書けばいい。
僕たちは、
AIに採点されるだけの
人間ではない。
自分で物語を書く
人間である。
だから、
今日の一行を置こう。
それが五年後、
君の命綱になる。
………
❥Z世代のあなたへ
怖い時代が来る。
それは本当だ。
でも、
怖がるだけでは、
スマホの画面に飲み込まれる。
信用評価社会は、
君を読む。
AI九品社会は、
君を分ける。
中間層削減社会は、
君にこう聞く。
君は、
何を前へ進めたのか。
誰の時間を救ったのか。
何を続けたのか。
どこで戻ったのか。
でも、
忘れないでほしい。
君はスコアではない。
君は、
まだ書ける人間だ。
今日から、
小さな信用ログを作ればいい。
約束を
一つ守る。
返信を
一つ返す。
誰かを
一つ助ける。
AIに
一つ聞く。
出典を
一つ見る。
怒りを
一つ笑いに変える。
体を
一つ動かす。
自分を
一つ責めすぎない。
それだけでいい。
大きな成功を急ぐな。
毎日一行でいい。
一行は弱い。
でも、
五年続けば、
それは道になる。
単職に
全賭けするな。
細い糸を
増やせ。
AIを怖がるな。
でも、
AIを神にするな。
番頭にせよ。
君の人生の主人は、
君であれ。
七十二歳の迷子シニアも、
まだ鉛筆を転がしている。
しかも、
たまにパスワードで転ぶ。
それでも起きる。
だから、
二十三歳の君も、
まだ遅くない。
未来は怖い。
でも、
一緒に書けば、
少しあたたかい。
………
★あとがき
ホームズとワトソンの、
やすきよ漫才風
――AI九品社会で、
迷子シニアとZ世代は
生き残れるのか――
ホームズ
「ワトソン君、
今回の事件は
AI九品社会事件だ」
ワトソン
「また物騒な名前を
つけましたな」
ホームズ
「銀行九品、
就活九品、
賃貸九品、
医療九品、
SNS九品」
ワトソン
「そんな九品、
お寺で聞いたことありませんで」
ホームズ
「お寺ではなく、
スマホに出る」
ワトソン
「嫌な時代ですな」
ホームズ
「だが、
完全な地獄ではない」
ワトソン
「ほう。
希望がありますか」
ホームズ
「ある。
下品にも道はある」
ワトソン
「仏教っぽく
締めましたな」
ホームズ
「大事なのは、
AIに採点されることではない。
採点されても、
自分の物語を
手放さないことだ」
ワトソン
「で、
七十二歳のじいさんは
どうしますの」
ホームズ
「まず、
パスワードを紙に控える」
ワトソン
「いきなり現実的!」
ホームズ
「次に、
毎朝ラジオ体操」
ワトソン
「地味!」
ホームズ
「さらに、
怒りを投稿せず、
小説にする」
ワトソン
「それはええですな」
ホームズ
「そしてAIを先生にしすぎず、
番頭にする」
ワトソン
「番頭って、
若い子に通じますかいな」
ホームズ
「通じなければ、
AI執事と言えばいい」
ワトソン
「急に横文字!」
ホームズ
「ワトソン君、
信用評価社会で生き残るコツは
一つだ」
ワトソン
「なんです?」
ホームズ
「読まれても笑える一行を、
今日書くことだ」
ワトソン
「ええ話ですな」
ホームズ
「そして、
ログインパスワードを
忘れないことだ」
ワトソン
「最後はやっぱりそこかい!」
ホームズ
「いや、
これは笑いごとではない」
ワトソン
「急に真顔」
ホームズ
「未来の地獄は、
炎ではなく、
認証エラーで来る」
ワトソン
「怖すぎるわ!」
――つづく。




