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兎村から前線基地へ

 次は、一週間後の5月10日(金)、午後10時の投稿の予定です。

 聖戦の起点となる兎村に、予定通り7月22日──聖戦対策会議の10日後──に到着したが、凄いハードスケジュールだった。主な出来事は、山猫村での帆船会議、大船との面談、フグ村の代替わりの儀への出席の3つだけだが、同時にそれらの根回しに七村連合と北部大連合の有力村を飛び回らねばならなかった。


 兎村に着いて、兎村駐留部隊長のマエユキさんに会った。マエユキさんは、猪村の先鋭の一人で、暫くの間──ヒノカワ様の隠し子が村長を務められるようになるまで──兎村長の代わりをする事になっている。


「現状、偵察隊を含め50名の戦士が兎村先行駐留隊として集結しています。また、地勢の確認等の作戦準備は終了しています。倉庫を作る場所も木の伐採までは終わり、仮の柵も設置済みです。

 戦士が寝泊まりする場所や食糧も短期間なら何とでもなります」


 マエユキさんの現状報告だ。


 聖戦の第一段階は、この兎村周りを掃討し尽くして安全圏を作る。それで、海への経路確保と食糧確保の効率増加の一石二鳥を図る目論見だ。

 この作戦で叩き潰す妖魔の巣は5つ。その後、主戦場となるヤマハラ半島の根本に最初の前線基地を整備する。その第一段階を開始する準備は済んでいるようだ。


「それでは、猪村に言霊して主力部隊に来てもらいましょう。

 恐らく、猪村にはかなりの戦士が集結しているはずです。明日、一度猪村に行く用事があるので、状況も直接確認しましょう」


 予定では、猪村連合だけで100名強、それに北部大連合から、鉄の武器持ちの先鋭が20名程到着しているはずだ。それで、作戦開始に十分な戦力になるはずだ。


「分かりました。直ぐに伝令を走らせます。これから本格的に聖戦が始まると思うと、胸が熱くなります」


「ワシの方は、戦力が集まるまでに出来るだけ多くの小屋を作りましょう」


 それから6日間で、ワシは整地と小屋造りを進め、予定通り10軒の倉庫兼小屋を作り終えた。大船との面談の為の中座があった割には順調だ。


 7月28日から、集まった約200名の戦士達と殲滅戦を開始し、8月9日には、予定の5箇所の殲滅を終えた。暑い盛りに皆頑張ってくれた。

 そして、此処からが、今回の聖戦の行方を占う前線基地造りだ。平均一月程度で対応できねば、苦しくなる。

 前回の大戦では、建設開始から実際に作戦拠点として活用するまでに2ヶ月半掛かっている。近くの白ヘビ村と女狐村の強力なバックアップがあった上で2ヶ月半だ。


 前線基地が5つ必要になる今回、その速度だと基地建設だけで1年を越える。話にならない。もっともっと早く作らねばならない。


 今回は、前線基地に城壁や堀を作る気はない。その分は、早く作れるだろう。一方、兵站が長い上に弱いのが気掛かりだ。

 奥地に作る前線基地の中には、兎村から何十kmも離れた場所もある。兵站の負担はどれ程だろうか。更に、兎村の男手も少ない。兎村人だけでは、一つ目の基地すら維持できないだろう。


 そして、既に兵站線に過剰な負担が掛かり始めている。実は、兎村に集まっている人は、既に300人を超えている。

 元々の兎村人が50人程度

 猪村連合の戦士が150人程度

 北部大連合からの戦士が50人程度

 他村からの女性参加者が30人程度

 狩りや漁の為に集めた要員が50人程度


 一月分の備蓄は確保出来ているが、食料は既に減少傾向にある。それを早めに何とかせねばならない。

 事情を良く知らない無責任な戦士の中には、『戦士以外は帰って貰えば良い』などと言っているがそうはいかない。

 女性参加者は、炊き出しの手伝いもしているため誤解している者も居るが、作戦の遂行と連合の将来を考えると帰す訳にはいかない。何故なら、ハヤドリと雌鷹隊、魔術士見習い、少女書記団だからだ。特に、少女書記団を帰村させたら、直ぐに作戦が破綻する。長距離で、正確な情報を伝える手段は、現状、彼女らが作る木簡しかない。若衆に伝言ゲームをさせたら、どんな事態になるか、想像もつかない。

 魔術士見習いも、連合の将来を考えると外す訳にはいかない。治癒術士であるハヤドリなど、言わずもがなだ。


 実は、これら多数の人員を収容するため、土壁の小屋も増やさざるえなく、作戦の合間合間に追加で作っている。倉庫と合わせて既に25だ。


 兎に角、再度計画を練り直さねばならぬ、ワシは小屋に幹部達を集めて話をした。


 実は、兎村は、海に恵まれている。東の方は低湿地帯で8㎞も進むと湾がある。この湾は、西の内海の一部であり、西の内海の対岸にマワリ川村連合がある。

 西の方も4㎞も進むと南北数十kmもある巨大な猪村湾(前世の大村湾に対応する)に出る。そして、猪村湾を北西に進むと猪村に着く。

 さらに、丘陵を南に6㎞進んでも海に出れる。そこからは、上手くいけばワタリ村に渡れるはずだ。

 村周りの地形も悪くない。兎村のすぐ北に、東の海に繋がる川があり、水は十分確保出来る。村の西には、小山があり、見張り台をおけば、東西の海岸線まで見渡せる。

 輸送計画の見直しには、海へのアクセスの強化が早道だ。


「前線基地の前に、東西の海岸に船着き場を整備する事にしたい。そうしないと、この人数を前に進める訳にはいかなくなる」


 ワシは、まずズバリを主題を切り出した。それに、マエユキさんが即答した。


「漁師らが、提案していた事ですよね。ここは海から遠く、幾ら健脚でも一刻は掛かる。魚を持ち帰ろうとすると、往復の時間分、漁を出来る時間が限られてくる。それよりは、漁師だけでも、海沿いに住んだ方が良い。そういう事ですよね」


「その通りだ。ついでに干物にする為の設備と倉庫も設置しよう。漁と兎村への輸送も役割分担が出来ればなお良い」


 特に、東の海へは、兎村近くから川が流れている。潮の満ち引きの影響も受けるほど、標高差が少ない川だ。満潮時なら、それほど苦労せず、丸木舟で川を遡って、兎村近くまで来れる。西側にも海に繋がる川があるが、此方は兎村からは小高い丘の向こうにあり、一番近い場所でも兎村から2㎞ほど離れている。

 どちらにせよ、河口に漁労と輸送の拠点が作れれば、この聖戦の食料事情は大いに改善するだろう。


「確か、西側には、河口に丁度良い丘があります。東も、少し支流に入れば、良い丘があったはずです」


「それなら、そこに、倉庫用も合わせて、それぞれ3つの小屋を作ってしまおう。兎に角、寝泊まり出来る場所を整備して、漁労の効率を上げないと、この先非常に苦しくなる」


「寝泊まり出来る場所が増えれば、漁労だけでなく、採取や狩りの効率も上がります。

 特に、東側は、次に作る前線基地への物資の輸送拠点にも出来る。また、西側もあそこに倉庫があれば、猪村からの食料の輸送の効率が格段に上がります。そう考えると、確かに、真っ先に対応すべき事ですね」


 その後、戦士を含めた大人数を二手に分けて、拠点の整備作業を行った。2日目には、東側の小屋が、4日目には、西側の小屋を作り終えた。

 まだ、柵も無いし、そもそも窮屈で住み辛いが、東西に50名ずつの作業班を残して、他は本題の前線基地建設に向かう事にした。

 西側の小屋を作り終えた8月13日、兎村の食料備蓄は約1月分しかない。このまま、食料備蓄が減る一方なら、8月末には、一度部隊を解散して各村に帰村させる必要が出てくる。打った手で、食料備蓄の状況が改善してくれれば良いのだが……


次は、夏の原野の伐採です。


R4.11.11 猪村が面する内海の名称を猪村湾とした。

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