聖戦の開始
今回は説明ばかりです。読み飛ばしても、話自体は繋がります。
7月12日に終了した聖戦対策会議では、幾つもの作戦を並行して行う事が決まった。
一つ目は、兎村の無人地帯の事前掃討作戦だ。基本、ワシが率いる。また、ハヤドリが治癒術士としてこの作戦に専従する。ハヤドリだけでは対応困難な場合は、応援を集める。具体的には、猪村のメイさん、熊村のスミレ坂とシカハミさんの名前が挙がっている。
突然、怪我人が溢れかえるような事態が起きた場合は、一時作戦を中断してワシとヒノカワ様が、戦士の回復に専念する。
この作戦の第一段階において、北部大連合からは、打撃部隊と若長隊が参加する。その他の戦力は猪村連合が用意する。合わせて200人程度だ。この戦力で、まずは兎村から直接攻撃できる範囲を掃討する。
それより先に前進するには、前線基地の整備が必要で、その整備を行うのが二つ目の作戦だ。
この二つ目の作戦は、前線基地建設や地勢の事前偵察を主眼としており、これも基本ワシが担当する。また、三つ目の作戦を担当する猪村のセンカワ村長がバックアップする。
最初に、兎村周りに物資の集積拠点の整備が必要だが、そこは時間短縮のため、ワシが土壁で小屋を10作ってしまう。小屋だけでは、物資の集積拠点として不十分で、守りを固める為の柵や見晴台、その他諸々も作る必要がある。そこも、まずは猪村連合から人手を出す。
このように、猪村連合の負担は、大きい。そのような大きな負担を続けられはしないので、他の村からも順次応援を派遣する事になっている。戦士と合わせて、村毎の実力に応じて村毎に3人から5人の男手を1年通して提供する事で話は付いている。
ただし、人を集める為には、食料他の物資が必要だ。食料も無いのに人を集めたら、食料を確保する為の狩りと採取に奔走されて仕事にならないし、最悪の場合餓死者が出る。だから、拠点の物資の集積状況に応じて、兎村から伝令を出して、人員の派遣をコントロールする事になっている。
この拠点への物資の集積つまり物資の輸送が三つ目の作戦だ。
三つ目の物資の輸送作戦
ワシは、兎村の聖戦を成功させる為に最も重要なのがこの作戦だと考えている。
何と言っても、多数の人員を投入する作戦は、大量の物資も必要だ。今年の大戦でも大問題だった。だが、作戦起点として有力村を含む複数の村があり、それらの村の人手が使える分、まだマシだった。
しかし、兎村の聖戦では作戦起点が兎村一村しかない。更に、兎村の男手も少ない。輸送の人員自体を外部から連れてくる必要がある。輸送の人員自体にも食料が必要だ。その為、更に物資が必要になり……と、どんどん悪循環に陥る可能性がある。
何と言っても、馬も居ない。荷車も無い。車があっても走らせる平坦な道が無い。ハッキリ言って、地上では人が背負うしかない。まあここでは、基本全て人力なので、男は皆かなり体力がある。栄養状態さえよければ、前世の男など目ではない。
しかし、それでも、30㎏以上の荷物を村から村に運べるのは、それなりに限られてくる。平坦な道が無いので、輸送速度も限られる。一日に40㎞も50㎞も進める訳は無い。そして、輸送する要員もそれなりに食う。つまりだ、食料は、遠くから集めようとしても無理という事だ。
聖戦対策会議では、この対策として二つの方策を取る事とした。
一つは現地調達。兎村付近での狩りや漁、採取で食料をかき集める。そのため、各村から特に上手い者を集める事にした。
もう一つは、海上輸送だ。ここの舟は前世に比べれば効率が悪いが、それでも人が背負って運ぶよりはマシだ。舟による輸送隊を作るため、各村自慢の準構造船を合計7隻確保する事が出来た。丸木舟もそれなりの数を集められる見込みだ。
これらの方策で、十分な物資が集積出来れば良い。ただ、不確実な事に戦士の命を賭ける訳にはいかない。その為の安全弁として、物資の余裕が乏しくなった場合は、作戦を中断して一旦戦士を各村に戻すという取り決めになった。
だから、作戦の進行速度自体がこの物資の集積作戦に制約させる事になる。
これら聖戦本体の作戦の他にも協力し合う作戦がある。島の縦貫作戦と若長隊を中核とした殲滅作戦だ。
島の縦貫作戦は、シカ村のリュウエンさんを主力として進める。聖戦に援軍を得られる村を少しでも増やす事を目論んでいる。
但し、この作戦は、基本戦場に近い村々(10から20村程度)が戦士や物資を用意する。そして、戦力確保の調整や交渉も、近隣の村長が分担して行うため、経路に近い村以外は余り負担にならない。それ以外の村は、リュウエンさんと共に戦う事に慣れた先鋭を派遣するのみだ。
実は、北部大連合としてやらねばならないオカカワ村(トンビ村から南東約101㎞)連合内の打通戦が大戦の影響で中断した状況だ。だから、まずはそれを終わらせる。それから、島の南端を目指して順次有力村を繋いでいく予定だ。
ます、オカカワ村から東約48㎞の海岸にあるスケオジ村、同じくオカカワ村から南南東約65㎞の海岸にあるタミサキ村だ。ただ、島には南北に長い内海があり東側だけ縦貫しても効果が今一だ。タミサキ村まで繋げたら、今度は島の西側に移動して作戦を進めるが、その対象と経路については今後詰める予定だ。
若長隊を中核とした殲滅作戦は、戦士の技量の向上を目的にしている。
この何ヶ月かテンヤ村長がワシやリュウエンさん抜きで幾つかの妖魔の巣を殲滅した。その結果、明確になった事がある。時間と圧倒的な戦士数と後方の治癒術士を揃えれば、最小限の戦死者で妖魔の巣を磨り潰せる。これまでは、1月以上の期間、100名以上の戦士を投入し続けるのは難事だった。だが、何十もの村が関われば、そう大した問題ではない。
各村の村長の息子達で作る若長隊の内、それなりの技量の者を継続的に鍛えるには、丁度良い課題だ。なお、この作戦の特に最後の殲滅戦にはスミレ坂も参加する事になった。
このように、複数の作戦を並行して進めるため、全体としては余りにも複雑だ。目論見通りに進むか、危ぶまれる点が多い。そのため、これらの作戦の調整のため、3月に一回は有力村が集まった調整会議を開く事になっている。
次は、兎村から前線基地へです。




