9話 我、生まれて一ヶ月ほどで子育て始めるのだ。
─ピキ
うぬ、ヒビが入っておるが、まだ出てこぬな。
分かるぞ、まだ見ぬ子竜よ。
最初が硬いのよな。
だが己の力のみで出てくるが良い。
我もそうして出てきたものだ。
─ピキピキ
うむ、あと少しよ。
他の卵は、ダメそうだ。
だが卵は総じて栄養価が高いものよな。
それが竜の卵ときた。
きっと栄養たっぷりに違いない。
持ち帰ろう。
─キュイン
さて、彼奴はどれほど進んだかの。
ぬ?
─パキ
尻尾を出してゆらゆらさせておる。
此奴は尻尾癖が悪そうだ。
さぁ、割れてるところもあるのだ。
出てくるが良い。
─パキン!
「ぴぃぁ!」
ほう、我ほどではないが、美しいの。
真っ白い体毛に小さな翼。
長い尻尾は少し青いか。
胸にだけ赤い模様があるの。
前脚と後ろ脚もしっかりある。
そして顔は鋭い目つきだ。
まだ幼い可愛らしさが残るが良い面の竜になろう。
そして柔らかそうな嘴、くちばし?
お主竜ではないのか?
「ぴぃぴぃ!」
大きく口を開けておるの。
少し見るぞ。
ふむ、奥に牙の様なものがある。
つまり、獣の中では此奴竜に分類されよう。
だが、お主親とは全く似ておらぬな。
あの地の竜が卵を間違えたのか?
それとも我が内なる力の余波に影響されたか。
まぁ分からぬが、良い。
ほれ、最初は自分の卵の殻を食うのだ。
「ぴぃ!ぴぃ!」
─パキパキ
うぬ、それで良い。
最初に自分の力で食をする事できっと強い獣になるであろう。
己の力で食い、そして寝るが良い。
「ぴぃ・・・」
寝たか、では拠点へ戻るとしよう。
首あたりが涎まみれになるが、我慢せよ。
我、生まれて一ヶ月ほどで子育て始めるのだ。
我自身は飯の問題などどうにでもなるが、此奴はそうも行かなそうだ。
恐らく我ほど知性がまだない。
自我も薄そうだ。
本能に従い食欲を求め、そして寝よる。
だとするのならば、しばらくは面倒を見てやろう。
此奴の親を殺したのは我だ。
そして右も左も分からぬ赤子を野晒しで捨てれば、伝説の獣へなど到底辿り着けぬ。
我が責任を持って育てよう。
「ぴぃぴぃ!」
うぬ、もう少し待っておれ。
焼いてほぐしておるからな。
もうじきだ。
ほれ、焼き魚だ。
食うが良い。
「ぴぃ!」
うぬ、愛いやつよ。
・・・しばらく面倒見るだけだ。
ぬぅ、体が熱い。
目が開けられぬ。
頭も少し痛むか。
体もか。
痛いは痛いが、直接的な痛みではない。
内から来る、鈍痛の様なものだ。
それが全身に来ておる。
まずい。
あの戦から餓鬼共の姿は随分少なくなったが、いないわけではない。
子竜が危うい。
だが、意識が体につながらん。
熱と痛みだけ伝えてくる。
何もない事を願うぞ。
もし子竜に何かあれば、我は決して許さぬ。
我自身も含めてだ。
ああ、意識がまた沈む。
はよ、起きたいぞ。
「ヒュウ?」
起きたか?
少し、眩しいぞ。
「ヒュイ・・・」
誰の声だ。
「ぴぃ!」
!
子竜!
無事か!
「ヒュュイ!」
無事そうだ。
だが何か、お主随分小さくなったか?
「ぴぃぴぃ」
うぬ、今日も愛いぞ。
前脚を出して撫でようとするが前脚の平のみで子竜を覆い尽くしてしまった。
おかしいぞ。
子竜はこんなに小さくはない。
─ガサ
「ヒュイ!?」
なんだ!?
立ち上がり顔を上げて見れば木の葉に頭をぶつけてしもうた。
─ブルブル
思わず頭を振りかぶる。
─バキバキバキ!
「ヒュァ!?」
角に引っかかった木が倒れよった!
我、急に成長期を終えたのか!?
「ぴぃぴぃ!」
とてつもなくデカくなっておる!!!




