60話 わっちの大好きな主
刀身が切先から全て黒で染まり、鍔は複雑な装飾が施され、柄もまた黒で染まっておる。
美しく無い、わけでは無い。
格好良く無い、わけでも無い。
なんじゃ、この気配。
『狐よ、それは何処で手に入れた?』
『これはあの国の皇帝が持っていた宝具でありんす』
『皇帝じゃと?』
『そうでありんす。これを持ち、何かしようとした所でエレナはんに殺されたでありんす』
妙じゃな。
彼奴が皇帝ではなかったのか。
あの眼は我に似た眼を持っておると思うたが。
まぁ、我の知らぬ所だ。
彼奴に渡した氷の結晶も眷族化する物では無い。
ただ我の魔力を込めた美しい氷の結晶よ。
『これを貰っても良いのか?』
『勿論でありんす』
『ではありがたく貰おう。感謝する、狐よ』
『わっちこそ、この素敵な棒を頂き嬉しうありんす』
ふむ、改めて目の前に剣を置いてみれば、尚更良く分からぬ。
美しい。
装飾も良い。
だが、なんじゃろうなぁ。
元は何であったのだろうな。
『皇帝はこれをどう使おうとしていたのだ?』
それを聞いた狐は先の棒を咥える。
狐は煙を吹き出し、その時の光景を煙の中で再現しよった。
うむ、器用な物よ。
『手に持ち、掲げ、名を叫ぼうとしていた所でエレナはんに……』
『そうか。名を呼び、使う宝具なのやもしれぬな』
魔力を通そうにも、通る気配は無く、それどころか我の魔力を弾く。
うむ、妙な剣じゃ。
取り敢えず鞄に入れとくか。
─キュイン
これで宝具は二つ、神馬の手綱と妙な剣じゃな。
手綱は一度破壊を試みたのだが、ビクともせんかったのだ。
どうもこれの“るーつ”になったその物を、世界が忘れねば破壊できぬらしい。
良く分からぬが、人間達が忘れるまではそのままという事だそうだ。
ウリ達がそう言っておったのだ。
ならばきっとそうなのであろう。
取り敢えず我が魔力をしかと込め、氷漬けにして鞄の中に放り込んである。
これで大丈夫であろう。
『ウリ達の言う様に宝具という物は“るーつ”その物がその宝具の力になり、人間が忘れなければ効果は残ったままであるならば、この剣も何処かの誰かが未だに覚えておるやも知れぬな』
『その人間が使い方を知っていると言う事でありんすか』
『恐らくはな。聞いてみたい所ではあるが、人間の持つ宝具という物は危険だ。使えぬ様にした方が良いであろう。そして我の手元にあればその内人間は忘れる。であるなら、何時か宝具は消えよう。神馬の手綱諸共な』
『それが最善でありんす』
『うむ』
それから我は狐に鞄の中にある妙な物を見てもらい、共に使い方を模索したのだ。
狐も珍しい道具を持っており、我にも見せてくれたりして大変楽しめたのじゃ!
狐とまた見せ合いっこする約束をし、今日は一日それで終わったのじゃ。
なんとも充実した一日よ!!
わっち等は獣達の中では弱者でありんした。
爪を持ち牙をも持つが、力は強過ぎる訳でもなく、群れの狩りも得意では無く、皆ハグれていきんす。
わっち等は化かし、草木に紛れ、罠に嵌める。
それでようやく、他の獣達と生存圏を争えりんす。
きっと周りの獣達はわっち等狐を、化かし、罠に嵌める姑息な獣だと思っておりんす。
でも、わっちは狐である事を誇りに思っておりんす。
確かに罠に嵌める事でしか狩りは上手くいきんせん。
でも、それでわっちよりも力が強く、狩りが上手な獣達と戦えるのであれば、それはわっちの力でありんす。
正しく力を振るい、他獣を圧倒するのもそれは獣達の中では誇れるべきでありんしょう。
群れを率い、指揮をこなし、戦う群れのリーダーも誇れるでありんしょう。
わっちは、弱獣であっても、その獣達と戦う力を持つ事に誇りを持ってありんす。
姑息でも良いでありんす。
それがわっちの力でありんす。
それを誇りだと思える様にしてくれたのが主でありんす。
わっちが主と会ったのは森の中、わっちが傷を負い歩けぬフリをし、寄って来る獣を待っている時でありんす。
周りを白く染め上げながら、現れた主。
わっちはその時に初めて美という物を知りんした。
それと同時に、わっちはわっちを穢れていると主を見て自己嫌悪に陥ったでありんす。
それでも、これがわっちの力。
騙すなら、最後まで騙しきり、この美しい獣をわっちの物にするでありんす。
そう心を奮い立たせ、わっちは主が罠に嵌るその時まで待ちんした。
そして主は、わっちの罠の前で待ち、待ち続けたでありんす。
尾を振り、か弱く媚びてもみせた。
それを主は、わっちの眼を見続けるだけで待ったでありんす。
主は、気付いておりんす。
わっちが罠を仕掛け、嵌めようとしている事に。
やがてわっちは耐え切れず、初めて心に芽生えた恥をその美しい獣から隠す様に去ろうとしたでありんす。
そこを、主は尾を使い、わっちの尾に絡め、引き留めたでありんした。
あの時は今でも顔に熱が集まりんす。
わっちの眼を見続け、美しい氷の結晶をわっちにくれ、離れて行きんした。
あの時から、主はわっちの焦がれる獣で、今も楽しそうに道具を漁る主が、わっちは大好きでありんす。




