54話 妾達は〜〜〜!?
はぁ、やっと終わったのじゃ。
それにしても、強くなったと思えば次から次へと厄介な敵が出てくるのはなんでなのじゃ。
竜の群れを見れば鷲獅子に落とされ、鹿にトドメを刺されておる。
熊は狸と一緒に物を投げておるのか?
砦の高い所から届くかどうかと思っておったが、すごい命中率じゃ。
あれならば問題ないであろう。
『鹿よ、後の残党処理を任せる。我は侵攻組に合流、こそはしないが様子を見てくる』
『お任せあれ、我が主人。全て狩って見せましょう』
『・・・。服が違い、身分の高そうな者がおれば生捕りにせよ。出来ればで良い』
『承知致した』
『では我は行く』
─シャン
暁に染まり、宵が降りる。
『そこの、そこの』
─シャン
微睡み、揺蕩う。
「ぅん?」
『少し、探し物を、手伝ってくださいまし』
─シャン
見える世界は桃と紫が代わる代わる世界を照らす。
「ああ・・・良いぞ」
『それはようござんす。して、どこまで探せるでありんすか?
─シャン
映る人影、女は男が思う美女が映る。
「どこまで」
『わっちの望む物は、宝物庫にありんす』
紅が刺した唇は三日月を描く。
「宝物庫・・・。」
『行ってくれるでありんすか?』
鳴く様な声で男の耳を囁く。
「ああ、いいぞ。何を持ってくれば良い」
『宝物庫にある手綱を取ってきて欲しいでありんす』
男の声に迷いはない。
「分かった」
男は確かな足取りで城へ入る。
『行った?』
世界の裏側で狼は声を出す。
『でありんす。では作戦通りここで暴れてもらうでありんす』
『貴方のその技、掛かる側は本当堪ったもんじゃないわね』
『わっち等はぬし等の様な直接的な暴力が弱くありんす。わっち等はわっち等で戦う術を編み出す必要があったでありんす』
『おい!それよかもう良いだろう!?俺達行くぜ!?』
鼻息を荒くした二つの群れが今か今かと足をバタつかせていた。
『おうよ!二本角!一番角はワシに任しときや!』
『交渉はサシャはんから失敗を受けておる今、話す事はござんせん。存分に暴れてくれなんし』
『はぁ、妾達がせっかく準備したのに、無駄になるなんて、残念ですわ』
孔雀は悲しそうに俯いている。
『孔雀はん、まだ使い道があるでありんす。無駄ではござんせん』
『!やったですわ!!』
『それじゃ、私達がここにいると存分に主張すれば良いのね。皆、私に続きなさい』
「アオォーーン!!!」
フェンリルの遠吠えが帝都の隅々にまで響き渡る。
「なんだ!?狼!?」
「おい!デカイぞ!!」
「「「「アオォーーン!!!」」」」
続く狼達の遠吠えは城にいる兵士の背中を震わせた。
「なんで狼がこんなに・・・」
『ほんじゃワシ等も行くでぇ!!!』
それを合図にサイの群れが城の壁に突撃し、破壊する。
『俺等も行くぞ野郎どもォ!!!』
その穴に二角獣が侵入し、中で兵士を片っ端から吹き飛ばしていく。
「なんだこいつ等!?」
「近衛と冒険者を連れてこい!魔物が暴れて──グハッ─」
『ではわっち等はこのまま中に侵入し、先に宝物庫へ向かった兵士の後を追うでありんす。ぬし達はここで暴れなんし。孔雀はんは外から来るギレーヌはんと合流するでありんす。では』
『了解ですわ!って、それじゃ今ギレーヌ殿がここに来るまで妾達は、妾達は!?』
『私達はこのまま城の正門で派手に暴れさせてもらうわ!城の破壊はサイと後から来るギレーヌに任せるわよ!』
『うぉおおおお!突撃突撃突撃やぁああ!!!』
『俺等も好きにさせてもらうぜ!』
「ピョォオオ!?」
『妾達は〜〜〜!?』
孔雀の悲鳴は兵士達の悲鳴に消えていく。
不思議な彩りをした世界から光が戻る。
『あら、結界が解けたわね』
「なんだ!?象が急に!?」
帝都の門の入り口の近くで待機していたギレーヌが、近くの門番達に見つかった。
「で、でけぇっ!?」
「門よりデカいぞ!!」
「アオォーーン!」
帝都の中からエレナの遠吠えが響く。
『エレナちゃんの合図があったって事はもう暴れて良いってことね。それじゃ、アタシ達も始めるわよぉ!』
「「「「パォオオ!」」」」
「ぼ、冒険者を─」
『オラァアアアアアアア!!!!』
ギレーヌはその有り余る怪力で城壁に突進をし、轟音と共に壁は砕け散る。
冒険者ギルドの入り口が急に慌ただしくなる。
「何事だ!?」
「城の外から巨大な、30メートルはある様な象が現れ、外壁を破壊し侵入しています!」
「30メートル・・・?そんなバカな」
「そして城の内部に巨大な白銀の狼、恐らくフェンリルとシルバーウルフの群れが兵士を襲い暴れています!!」
報告を聞いた男は一瞬理解できず目を丸くし、怒りに変え怒鳴った。
「どういう事だ!?何故そんなところまで侵入を許している!!それにフェンリルだと!?Sランクの危険区域にいる魔物がどうしてこんなところにいる!?門の見張りは何をやっていた!!!」
「分かりません!き、急に城内に現れたとしか!」
「そんな馬鹿な事があってたまるか!!いや、落ち着け。あったんだな?そんな馬鹿げた事が」
男は慌てて、報告するしかない部下の青褪めた顔を見て冷静になった。
「は、はい。もう既に城の中は阿鼻叫喚で多くの兵士がやられております」
「フェンリルともなれば生半可な冒険者じゃ相手にならねぇ。今Aランク以上の冒険者はいないか!誰でも良い!」
「もう既に事態を聞きつけたSランクの[深界の鬼人]ムネークが巨大な象へ向かって行きました!他に残るAランク冒険者は現在捜索中です!」
「すぐに招集し対処させろ!このままでは帝都が落ちる可能性すらある!」
「は、はい!」
青褪めた部下は慌てて部屋を出て行き、男は椅子に深く、強く座った。
「一体、何がどうなっているッ!!」
帝都、城内ではさらなる混沌が広がっていた。
「状況を報告せよ!」
「はっ!城内に多数の魔物が出現し、現在至る所で散漫的な戦闘が発生。帝都の外壁には巨大な象が現れ外壁を破壊し、暴れ回っていると情報が入っております!」
「何故その様な事になるまで見過ごした!!見張と門番は何をやっている!!」
「急に現れたとしか報告にはございません!」
「そんなバカな事があってたまるか!」
「出現した魔物の中にフェンリルと思しき姿も確認されています!」
「さっさと近衛に相手させよ!所詮犬畜生であろう!?」
「す、既に対応しておりますが、結果はまだ、」
「何をやっておる!それでも近衛か!!」
「奴ら一体一体の強さが異常に強く、対処に時間がかかっております!」
「早急に事態の終息に力を注げ!最悪、宝具の準備もせよ!」
「は、はっ!」
(何故、何故この様な事に!!ここで戦力を削られるわけにはいかぬというのに!!!
畜生風情が!!!)
「なんだこりゃ、見た事ねぇ魔物だな」
角を生やした鬼がギレーヌを見上げた。
『あら、人間、とは少し違うのかしら?』
「なんだぁ?喋るのか?これまたおかしな魔物だな」
鬼は身の丈以上の金棒を担いでいた。
『ごめんなさいね。何言っているかはアタシには分からないの。忠告だけするわ。アタシ達の邪魔をしなければ見逃してあげる』
ギレーヌはこれまでの人間とは違う雰囲気を持つ人間への警戒心を強くする。
「嫌だね。こんな面白そうな祭り、乗らねぇわけねぇだろ!!」
みなぎる闘志が可視化する様に、人間の体を赤く染める。
『ダメそうね。アナタも何かを守る獣なのかもしれないけど、アタシ達も譲れない物があるの。アタシ達の為に、そこを退いてもらうわ』
残念そうにギレーヌは人間へ言った。
「はっ!獣風情が随分人間らし─」
『死んだらごめんなさいね』
いつの間にか振り上げられた鼻は、寸分違わず人間の体を薙ぎ払い、吹き飛ばす。
人間の体は建物を何度も突き破り、止まった。
『あまり、殺したくないの。でも、アナタ強そうだから、ごめんなさいね』
人間の赤く纏ったオーラは溶け、二度と起き上がる事はなかった。




