53話 我が伝説はここから始まろう。
『─報、我が主よ、遠くに竜が飛んだ』
『そうか、良く知らせたのじゃ。皆にも知らせよ』
『─是』
我は今狸が作った砦の頂上に鷲獅子と共に森を見下ろしていた。
「ピィー!」
うぬ、子竜よ。
派手に頼むぞ。
お主の雪が、我らがここにいると知らしめるのだ。
「ピィ!」
『主様!』
『オウ』
『我が主人、敵が来たと知らせが入り参上した』
鷲獅子が皆に伝え、集まって来た。
うむ、仕事が早くて何よりじゃ。
『皆、遠くに竜が飛び、人間の侵攻が始まった。我が感じた物でも、恐らく人間は万を越えよう。だが、案ずるな。我がここにいる』
『『『『はっ!』』』』
「ピィ!」
『そして、お主等がいる。我が眷族達よ。我が森で日々争い、鍛えられたお主達の力、ここで我に見せてみよ!!』
『『『『はっ!』』』』
『まずは子竜と我が派手に行くとしよう。一応、森に侵入することへの忠告もしてやろう。それで引くなり、遠回りして時間をかけるのであれば問題はない。が、その可能性は低いと思え。後の指揮は鹿に任せる』
『はっ!』
さて、人間よ。
貴様らはこの戦いで我をどう語る。
悪しき獣か、神の如き獣か。
我が伝説はここから始まろう。
空を悠々と飛ぶドラゴンが、先頭から羽ばたきを強くし空に止まる。
それを皮切りに波の様に慌ただしく止まるドラゴンの群れ。
その上に跨る人間に浮かぶ表情が戸惑いに変わる。
「何が起こっている!!」
「分かりません!竜が、恐れている!?」
「閣下、見てください!我らの知らぬ異様な森が!!」
竜に跨る人間の眼下には白い森が一面と広がっている。
何時からこの森が出来たかは、人間には分からない。
分かったのは、竜が恐る何かがこの先にあると言う事。
「閣下、引き返しますか?」
「出来るわけないだろう。我らには一刻も猶予がない。先頭の竜にメギ草を使え。無理矢理にでも進行させろ」
「そ、それでは先頭の者が・・・」
「一個人より全隊だ。この作戦には竜王国の未来がかかっている。足を止めるわけにはいかぬのだ」
「はっ、はっ!」
翼を羽ばたかせ命令を受けた部下は飛んでいく。
「何時の間にこの様な森が、最悪迂回し、いや、このまま森を突っ切る」
覚悟を決めた将軍が竜に指示し森を越えようとした時、良い知れ用のない圧を感じさせる声が何処からともなく聞こえた。
『人間よ、何故この森を通る』
「っ!?」
「「「「グルォオオ!!!」」」」
声と共にドラゴン達が騒ぎ出す。
「閣下!この声は!?」
「・・・構わず行け」
「っ、はっ!」
「人ならざる者であればどの道[神馬の手綱]でどうにでもなる。戦闘になろうと竜騎士一万を相手にできる存在などいやし無い。構わず突き進むのみ」
先頭の竜は謎の存在を無視し森の上空へ入る。
それに続くように後ろの竜は後に続く。
『それが貴様等人間の答えか。我が森の頭上をその様な群れを成し、越える等不遜が過ぎるぞ』
竜と人の群れの上に雪が降る。
「雪・・・?」
「天変地異か!?」
「─っあれは──」
先頭の竜の進行方向のはるか先の上。
降り頻る雪がその存在を避ける。
その体は象ほど大きく、透明な鹿の角をこちらに向け、整った顔立ちの獣はこちらを睨みつける。
あれは、なんだ。
『我が森の空を冒し、侵入した人間共よ。その勇気だけを評価し美しい我を見る事を許す。そして己の犯したその罪を償え、氷結地獄』
竜と人の群れの中心から発生した吹き荒れる吹雪。
それは群れの半分を覆い、吹雪の檻に閉じ込めた。
竜は寒さに体を強張らせ、速度を落とし、凍る体のまま地に落ちていく。
「なん、だこれは」
「閣下!被害甚大!竜騎士の半数が地に落ち、全隊混乱状態!」
「っ、すぐ立て直せ!地に落ちた者は放って行く!今は何よりもこの森から離れ──」
「いた、いたいたいたいたいたいた──」
「─ジェシム王太子っ──」
「ネメリネメリネメリィイイイィイイイィ!!!」
混沌は何方にも訪れる。
「ネメリネメリネメリィイイイィイイイィ!!!」
なんじゃ!?
『鷲獅子!他の竜は任せる!我は突っ込んでくるあの竜の相手をする!!』
『肯─竜は我らの餌。任されよう』
それを聞き、我は突っ込んでくる竜に意識を向ける。
『氷城壁』!!
っ、なんじゃ、すばしっこいのぉ!!
一枚、二枚と置いてみてもそれ等を潜る様に突破してくる。
「ネメリィイイイ!!!」
さっきから誰の事を言ってるんじゃ!
『氷結魔弾!!』
『氷結地獄』を消し、『氷結魔弾』の大量の弾幕を張る、がそれすらも避けられる。
どういう動きしておるんじゃこの竜は!!!
弾幕を直角に動く様に避ける竜を見て我は目を疑う。
そして一度我は中断し、竜は我の真正面に相対する。
「ネメリー、生きてたんだね」
『さっきから五月蝿いぞ、人間。その名も貴様の顔も我は知らぬ』
「ネメリー、僕頑張ったんだよ。頑張ったけど、父も母も殺されて」
『なんじゃ、さっきから貴様なんの話をしている!!!』
「ネメリーはその時どこにいたの?ねぇネメリー、僕を置いて行くのか?ねぇ、ネメリネメリネメリィイイイィイイイイ!!!!」
相対した竜の目は我を見ず、いや、その目には何も映っていない。
叫ぶ人間の目も、我を見ている様で、我を見ていない。
『気色が悪い、氷塊砲撃!』
三つの巨大な氷塊を我は狂った竜騎士へ飛ばす。
この様な者に好かれるネメリーとやら奴は可哀想じゃの!
それともネメリーとやらがこの様にしたのか、どっちにしろ我は関わりとう無いの!!
我は何度か見た動きの癖を掴み、『氷塊砲撃』を我が思う避ける先に誘導してやる。
「ネメ──」
『氷眼魅!!』
氷結の魔眼で竜を見、体の先から凍らせる。
「ネメリー、ネメリー、ネメリー!」
『氷結地獄!!!』
再度吹雪を展開し、雪の牢獄に竜を縛った。
『随分と手を焼かされたぞ、人間。永遠に凍てつけ、氷極大光線!!!』
「ネメ、リ──」
竜ごと中に人を閉じ込めた氷塊が出来、地に落ちていく。




