52話 任せたぞ、我が森の獣達よ。
『皆、とうとう今日という日が来た』
我は謁見の間へ集った獣達を見る。
手前には眷族達七頭。
防衛する眷属達を除いた獣達だ。
その後ろに各眷族の種族、そして各派閥の獣の群れ達。
『我らは人間に隠れ、暮らし、力を蓄えて来た。全ては何時の日にか、人間達が我らの森に侵入し、森を削り、獣を駆逐する未来に抗うために。そして今日、また別の方法で我らは人間に抗う。抑止力だ。我らの森に手を出せば、我らが襲い、滅びの運命を辿ることになると知らしめるために』
何度も考えた。
人間と不干渉であれぬのか。
人間と友好的な関係を築き、共に過ごせぬか。
不可能だ。
我の記憶と知識が、その可能性を否定した。
『故に、あえて言おう。此度の件、我らが侵略者であると。全ては我らを縛り、操り、傀儡とする英雄の宝具が、とある縄張りに存在するからだ』
これが存在する限り、共存などとても出来ぬ。
『それがある限り我らは安心して夜を過ごせぬ。何時、それが使われているのか。隣にいる獣は傀儡ではないか。我がもう、人間の玩具として弄ばれておるのでは無いか。我は不安が尽きぬ』
我だけであればなんとかしよう。
だが、我だけの問題ではない。
『我は我が庇護下にある獣が、人間の家畜に堕ちるのをとても容認できぬ。その様なも物が存在していて、我らは安心して夜を過ごせるか?』
多くの獣達がその意見を否定する様に吠えた。
『故にお主達に我が命ずる。その悪しき宝具を手に入れ、破壊せよ。それがある限り、我らの森に真の平穏は訪れぬ。我らの森の獣達の未来を、お主達に託す』
『『『『はっ!』』』』
『では行くが良い、我が眷族達よ。此度の侵攻、神話の一面となろう』
任せたぞ、我が森の獣達よ。
「ジェシム王太子、準備が整いました」
豪奢に飾られた部屋で男の声が響く。
「ネメリーは元気か」
明るくも暗い声で返事が返る。
「ネメリー様は元気で御座います」
「ネメリーに会いに行こう」
男は兜の様にそれを片手に抱え、兜を被る。
「では行きましょう」
「ネメ、ネメリーはどこだ」
男は高揚していた。
「ネメリー様は今お休みです」
「そうか、ネメリーが心配だ」
「ネメリー様はあちらです」
連れられたのは大きなベットの一室だ。
「これで、余はネメリーと共に・・・。」
「はい、ジェシム王子。共にネメリー様の元へ向かいましょう」
男の影が、不自然に揺らぐ。
「エルフの王ハイエルフからの手紙よ。至急皇帝陛下へお渡しせよ」
そこは帝国の王都、アマネリア。
その真ん中に座する大きな宮殿の門番に、エルフが紙を持って訴えている。
「ハイエルフ?誠か?」
「私はハイエルフの名代、サシャ・ディーフィル。宮廷魔術師筆頭よ。名代の信の証としてハイエルフの杖を借り受けているわ」
「・・・暫し待たれよ」
出来るなら、早急に、高官の者を連れて来て欲しいわね。
「お待たせした」
「・・・あなたは?」
名乗りなさいよ。
「私は帝国騎士エルマー・メロー。要件は聞いた。ハイエルフの名代の者よ。手紙を預かろう」
一人の騎士が現れた。
でも、雰囲気がおかしい。
何故一介の騎士が現れるの。
「・・・貴方に本当に任せて良いの?」
「私は近衛騎士ファーラ殿の師弟の関係である。私はファーラ殿に直接お渡ししよう」
「・・・ダメ、信用できない。それならそのファーラさんを直接連れて来て」
「ファーラ殿は今お忙しい。一時私が預かる」
「ダメ、本当に緊急なの。この手紙が皇帝へ渡らなければ帝国に危機が訪れるわ」
「陛下をつけろ、エルフ。帝国の危機かどうかは私が見てから判断する」
なんでアンタが見るの!?
それにこのエルフを下に見てる感覚。
今の帝国は、これが普通なの?
「貴方じゃ話にならないわ。ファーラさんを連れて来て」
「・・・貴様、帝国に居て帝国騎士の命に従わぬか」
「こっちはハイエルフの名代、宮廷魔術師筆頭よ?貴方よりはしっかりとした肩書を持ってるわ。今すぐ上の者をお呼びなさい。それとも、何か隠したい物があるの?」
「・・・。皆、この者を捉えよ」
「「はっ!」」
「ちょ、正気!?」
「帝国騎士に従わぬ種族など、奴隷に落ちても文句は言えぬ。捕まえろ」
冗談じゃ無いわ。
「─雨の内側、幾多の私が映り、水泡に帰す──水泡内影」
私の姿がシャボン玉の様に膨らんで弾ける。
「「なっ!?」」
「っ、賊が出たぞ!エルフだ!捕まえよ!!」
「─忠告だけしとくわ。ここに来る動物達の言うことを聞いてあげて。でないと、明日にも帝国は滅ぶわよ」
このまま帝国に捕まって彼らの巻き添いになるなんてごめんだわ。
でも、交渉は失敗ね。
狐ちゃんに連絡しましょう。




