47話 我には到底、容認できぬ。
それから我と子竜、そして狐はサシャから人間の言葉を学んだ。
こう、何かを共に学ぶ感覚は初めてであったが故、大変面白かったの。
独特な喋り方をする狐は、学んでおらぬのに人間の言葉でも似た様な“あれんじ”をして上手に喋りおる。
ぐぬぬ、負けぬぞ。
言葉だけでなく、人間の文字も共に学んだ。
そして我はこの森の周りにどれほどの縄張りがあり、どういう関係なのかを学んだ。
人間の縄張りを国というそうじゃ。
そして分かったのが東以外は全て人族の縄張りだという事。
どの国も離れてはおるが我が森は今囲まれておるらしい。
やはり人族は恐ろしい。
森を切り開き、生活圏を広げ、他の獣と中々共存せぬ。
そして謎に群れが複数に別れ、各地に散らばるのじゃ。
そこに森の秩序は通用せぬ。
あるのは人間の家畜という未来のみ。
それに適応し、順応した獣だけが人間の群れの中でも種を存続出来る。
ただ、存続出来るだけ。
そこに誇りはない。
美しくない。
醜い家畜に成り下がる。
我が森の獣達がだ。
我には到底、容認できぬ。
『この喜劇の物語我は大好きじゃ!』
「ふふ、気に入って頂き私も嬉しいです」
『うぬ、この話の主の生き汚なさが良い!一見泥に塗れ、同族を騙し、己の夢に執着する執念。美しくはない。だが、その全てを幸福に、笑顔に変えようとする信念、素晴らしい!恐らくこの者は最後まで胸を張って生き、笑って死んだのであろう!サシャ、そうであろう?』
「私には分かりかねます。私が生きている時にはこの世におりませんでしたので」
『ぬぅ、そうか。では次の話を聞かせてくれ』
「ではこれはとある勇者の物語です」
『ほう!勇者!詳しく話せ!』
「その少年は貧しい村で過ごしており──」
我はサシャの話、物語に夢中になって聞いておった。
胸をワクワクさせる大冒険。
人の愛。
巨大な敵に挑む勇気、強さ。
同族の死を悲しみ慈しむ心。
人間は我ら獣にはやはり恐ろしい。
だが、奴等は恐ろしいだけではない。
ワクワクする、新しい物を生み出すのはいつだって彼らだ。
それが物語であり、物であり、人であり様々だ。
獣には分からぬだろう。
だが、我らの眷族には、我が森に住まう獣にはきっと分かる。
分かって欲しい。
故に、我はこの先の未来を考え、決めた。
「そこの神官、しばらく余の城で過ごせ。手配する。理由は分かるな?」
「・・・。はい」
ここはエルフの国、王の住まう木で出来た大きな城。
そこで、調査から戻ってきた俺達3人が、高台に立つ上位の存在からの話を聞いていた。
「カイナとエヴィルはまた余と共に森へ向かう。準備せよ」
「「はっ!」」
「王よ、一つお伺いしたい事が」
王の側に立つ二人のエルフ騎士の圧が強まる。
「話せ」
神官が顔を青くしながら聞いた。
「教会にはなんと報告しましょう?全く連絡がないとなれば別で調査する者が現れるかも知れません」
「では定期的に手紙を貴様が書け、神官。幸い精霊達はこの件では黙秘している。表立って大きく動かなければ、教会にバレずに事を為せよう。そして、言うまでもない事ではあったが、改めて釘を刺す。この件について一切口外を禁ずる。二人もだ」
「「「はっ!」」」
「では森へ向かう者を改めてこちらで決め、行くとする。ナージャ、手配と余の装備を頼む」
宰相の立場を持つエルフが、王に改めて伺う。
「・・・。本当に行かれるので?」
「我が国の宮廷魔導師筆頭が待っている。これだけでは弱いか?」
「少し弱くあるかと。森の王がどの様な存在か分かりません。大きな竜であり王を餌に呼んだ可能性は?」
「その様な存在が食い出のない余等人族をわざわざ食うわけ無かろう。悪しき存在ならば精霊も騒ぐ。此度の件、精霊が答えを握っている。もし本当に神獣であれば余が直接行かねばならぬ」
「畏まりました。では手配します」
「行く先は王の森だ。なるべく刺激せぬ様多くは連れてくな」
「はっ!」
「では皆行け」
俺達は静かに準備して王と共にまた森へ向かった。
「なるほど、異様な雰囲気である」
「普段の森を知り、住めば住むほどこの違和感は大きいかと」
「道理だ。では行こう」
俺達はしばらく進み、辺りの警戒を続ける。
特にあの日してやられた様に俺は上を見ていた。
「来た!総員構え!」
姿は見えなかったが、木が揺れた。
「バレタ!バレタ!」
「マヌケ!カエレ!」
「ヨクキタ!イラッシャイマセ!」
「・・・本当にエルフ語を喋るのだな」
前回よりはまだ少し流暢に喋っていた。
「余の家臣が一人こちらで世話になっていると聞く!」
「オウサマ、キタ?」
「いかにも!余がエルフの王、ハイエルフ、スーニャ・ヴァン・ヴィクトリアである!森の者達よ、余の事はスーニャと呼ぶがいい!!」
「スーニャ!ナマエ?」
「ナマエ!イイナ!」
「オボエタ!マッテ!」
「オムカエ!クル!」
「ココデ!マテ!」
そして地鳴り響く。
遠い、はずなのに腹の底までに響く音がする。
俺は思わず迫り来る圧に仕舞った剣を再度抜こうとした。
「者ども、武器から手を離せ」
「し、しかし!」
「森の者達を刺激したくない。離せ」
「は、はっ」
地鳴りだけだった音に混ざり、木々を薙ぎ倒される音も混ざる。
そして自分の立つ足場が揺れ始め、木々を薙ぎ倒し、それは俺たちの前に姿を現した。
「パォオオ!!!」
「で、デカいっ!!」
通常の象よりも明らかに大きな象が体を堂々と現した。
牙は大きく伸び歪曲し、太く鋭い。
白く分厚そうな体毛を見に纏い、横にも大きい。
全長は周辺の木を更に頭一つ高い場所にある。
竜よりも大きな体躯など、この世に存在するとは思えなかった。
『あら、主ちゃんから聞いてたから、どれだけ怖くて恐ろしいのかと思ってたけど、案外小さく可愛らしいのね』
!?
なんだ、!?
何処から!?
「っ、其方がこの森の王か!?」
我らの王が勇ましく問う姿を見て落ち着きを取り戻す。
「ウキキ!」
『ふふ、いいえ。違うわエルフの王様。アタシは主ちゃんの眷族、象の王ギレーヌ・フィレントって言うの。いい名前でしょ?』
「この者が、眷族・・・」
何処からどう見ても一つの森の主として暴虐の限りを働いてもおかしくない存在だった。
そんな存在を眷族にする主・・・。
俺たちは一体何と向き合っているんだ・・・。




