46話 我はこの世で最も美しき獣よ!
『改めて詫びよう。すまぬかったの』
「い、いえ、全く支障ございません」
「ぴぃ、ぴぃ」
私は謎の声に再び謝罪を頂き、恐縮する。
そもそも私達が勝手に森に侵入した事、この森にとって重要な事を望まぬとも同胞が見てしまったのが発端。
そして、相手はこちらの言葉を理解し、エルフ族の文明にも興味があるというわ。
ここは、立場が逆転した今、流れを掴むべき。
欲は、搔きすぎないほどに。
『姿を偽ったのはこちらの都合じゃ。何か、報いる事は出来るか』
「でしたら、御身の姿の拝謁は叶えられますでしょうか」
『うぬ、暫し待て』
「では一度退出を願えますか、人間、いや、エルフ様。しばらくこちらの準備が御座います故」
「ええ、分かりました。思えば、まだ名をお伝えしておりませんでした」
『おお、名があるか。聞こう』
「では改めて、私の名はサシャ・ディーフィルと申します。エルフの国の立場的には宮廷魔導師筆頭という肩書きで御座います」
『サシャ。うぬ、覚えたぞ』
「名を覚えて頂き恐悦至極で御座います。では、一度失礼いたします」
『うぬ。では猿、任せた』
「お任せください、我が主人。サシャ様、こちらへ」
私は案内させられるまま部屋を出た
カイナからの情報では青い狼の様な姿だった。
竜と何を間違えたのかと思ったけど、王の都合だったらしい。
取り敢えず、足掛かりは得た。
再び扉が開くのが待ち遠しい。
サシャはもう中で待っているそうだ。
子竜は雪を降らし疲れ、堅苦しい話について行けず部屋に戻り寝ている。
少し試してみたが、やはりまだ子竜には早かったの。
まさか話の途中で眠りこけるとは、愛い奴じゃ。
サシャと言ったか。
我の感じた雰囲気や姿勢は、始めこそ緊張しておったが、強気に己を出す強かさも感じた。
ここまでの道中での話も聞くに悪いエルフでは無さそうだ。
人並み以上の勇気を持ち、グリフォンへ礼を言う優しさ、我が最初に出会う人族として申し分無い。
故に、姿を見せよう。
荘厳且つ優美に。
謁見の間で先ほどと同じ位置にサシャがおった。
我はこの謁見の間を改造した三階の入り口から、いつもの様に降りる。
もうこれ以外でこの間に入る方法をそもそも知らぬ。
そして我は荘厳且つ優美に降りるのじゃ。
ゆっくりと前に脚を出し、空間を凍らす。
我の創る氷の輝きは狸達の意匠も取り入れ、より美しく煌めく。
我が玉座に立つまでは顔を上げ、我が玉体を注視する事を許そう。
我を見て、見惚れぬ者などいないからな!
我はこの世で最も美しき獣よ!
しかとその目に焼き付けよ!!
美しい。
それ以外の言葉が出ない。
脳が、それ以外の言葉を生み出さなかった。
多種多様な言葉で飾るのも、不敬だ。
神獣。
それだけが緩慢になった脳から思い起され、目の前の存在と強く結びつく。
涙を流している事にすら気付かず、王に声を掛けられ、ようやく気付いた。
『我を見、涙する事は恥じる事ではないが、拭う物はいよう。せっかく美しいお主の顔が勿体無い。狐、任せる』
─コン
動物が鳴くような声と、太鼓を叩く様な音が重なり、響く。
時が戻る。
体のみがそう感じる様な異様な感覚。
感動は消えてない。
胸が熱く、焼ける感覚は残っている。
ただ、流した涙も何もかも、なかった様に消えた。
何がおこ─それどころではない。
なぜ私はまだ立っている。
私は慌てて跪く。
「──し、失礼を」
『良い、お主ら人族は立っていようと座っていようと我にとってはさして変わらぬ。その姿勢こそが評価されるべきではあるが』
私は長い耳まで熱く、赤くなっているのを感じながら返事を返す。
「お恥ずかしい限りで御座います。神獣様、私の我儘を聞き入れて頂き感謝の極みで御座います」
『うぬ、良い。お主にはこれからも世話になるやもしれぬからな。お主次第ではあるが』
「私に出来る事が有るのであれば、何でもお申し付けください」
ここで死ねと言われたら死ねると言う確信がある程、私の心は今、神獣様に囚われていた。
『お主は我が眷族ではない。そこまでは求めてはおらぬ。ただ何個か聞いてもらいたい願いがある』
「お聞きします」
『まず、人族の言葉を知りたい』
私は今の状況と照らし合わせて、疑問を口にする。
「、?今、会話が成り立っている様に思えますが」
『今そうなっておるのはそこの猿が我にお主の言葉を訳しているからだの』
今のこの会話が成り立っているのはあの流暢にエルフ後を喋る猿のおかげだったのか。
「なるほど、であればお教え致しましょう。私の知るだけの言語のみでよければ」
『うぬ、それで問題ない。次にお主らの人族の縄張りついてじゃ』
「私の知る範囲でよければ」
『出来る事なら我の森の周りにどれほど人の縄張りがあるか知りたい。こちらは火急の我ら獣の森の問題であったのじゃ。よろしく頼む』
「お任せください」
これは早急に伝えなければならない事もある。
私個人としても、エルフ全体としてもお聞かせしたい。
『そして最後に、お主の知る童話や伝説、英雄の話を聞いてみたい』
「・・・昔話、という事でしょうか?」
『うぬ、神話などもあると良いの。ただこれは我の趣味の様な物。先の二つが最優先である。任せて良いか』
そう語る神獣様の目は、更に輝きを放っていた。
不敬だけど、可愛らしく思ってしまった。
「御身の御心のままに」
『助かる。では一度休むが良い。食事は用意しておる。猿、任せたぞ』
「はい我が主人、お任せください」
『では我は子竜の様子を見てくるとしよう。サシャよ、今日はゆるりと休むが良い』
「寛大なお心遣い感謝いたします」
『うむ、ではな』
私は今日という日を未来永劫忘れる事はないでしょう。
私は、この方にならなんでも出来そうな程、思い焦がれていた。




