42話 我は悪く無い。
『では象よ、任せたぞ』
『はぁ〜い。皆んな散らばって〜!』
「「「「パォオ!」」」」
今日は象の側付き最後の任の日だ。
象は死んだ大地をその体躯で踏み締め、地ならしの如く進んでいく。
この地に住まう数少ない獣達がその迫力に圧倒され我先にと逃げて行く。
『もう一年経ったのね。長かったような、短かったような』
『我もそう思う。お主達象には色々教った事が多くあったのじゃ。感謝するぞ』
『アタシ達で学べる事くらいで良ければいくらでも教えるわ。・・・寂しくなるわね』
『寂しくする暇なぞ無い程に争う日々が続く故、安心するが良い。じゃがどうしてもという時は、我の城の門を叩け。相手してやらぬ事もない』
『ふふ、ええ、そうさせてもらうわ』
それから我らは互いに無言が続いた。
象達が獣達を追い立て、死んだ大地には獣が居なくなる。
『では、始める。これが最後の護衛じゃ、“ギレーヌ”。任せたぞ』
『っ、ギレーヌ・・・。ええ、任せてちょうだい』
象は目を一度瞑り、我の後ろに続く。
我は荘厳且つ優美に死んだ大地を歩み、角を揺らし、鐘を鳴らす。
白き木草花達が芽生える。
我は象を引き連れ、大地を踏み、森を産む。
正しく神話の一面よ。
我、美しい!!!
その様を、その大地の外から様々な獣が見ていた。
ぬ?
感じた事のない視線を感じる。
獣、では無い。
なんじゃ、この気配。
『ギレーヌ、何かいるやもしれぬ』
『っ、任せてちょうだい。何がなんでも守るわ』
『いや、敵意は無い。こちらを見ているだけの様じゃ』
『場所とか、何か分かる?』
『ぬぅ、すまぬ。我は今こちらで手一杯じゃ。途中で辞めればまた明日になるやもしれぬ』
『分かったわ、アタシ達に任せて』
「パォオオオオ!!!」
「「「「!?」」」」
我は変わらず荘厳且つ優美に脚を進め、角を揺らす。
ギレーヌの合図で散らばった象達が周りを見ながら警戒する。
獣では無い視線に意識を飛ばせばこの豊穣の儀が失敗するやもしれぬ。
止まるわけにはいかぬのだ。
象の警戒度が高まればその視線と気配は消えた。
逃げたか。
だが、これで集中出来る。
そして豊穣の儀を無事終え、謁見の間で改めてギレーヌに名を渡す。
名を──ギレーヌ・フィレント。
象の王、ギレーヌ・フィレントとなった。
そして狐へと側付きの任を渡す。
だが我は何処かあの視線を気にしていた。
あの視線、一体なんであったのだろうな。
気のせいじゃったのか、はたまたなんであったか。
我には分からぬまま、その時を忘れて行く。
「まさか、あの様なモノが生まれるなんて」
それは木々の上を枝伝いに移動する。
「見た事ない。あの様な事出来るはずがない。あれは神か?」
凄まじい速度で移動し、一人呟く。
「森が慌しいと聞いていたが、慌しい所では無い。急がねば」
乱れる呼吸を無視し、体に鞭を入れる。
「あの方に報告しなければ」
更にそれは駆け出した。
うぬ、今日も良い朝じゃ!
「ピィ!」
我は子竜と共に朝を迎え、顔を洗う。
最近また一段と大きくなった子竜だが、寝相は変わらず我の口に尻尾を捩じ込んでくる。
一度食う様にもぐもぐしてやれば丸一日尻尾を抱えて生活しておった。
お主が悪いのだ。
我は悪く無い。
その尻尾癖を治すんじゃな!
そうやって子竜と尻尾を絡め戯れていれば我の部屋の扉が叩かれた。
緊急事態か。
予定を組んでいない時にこの部屋の扉が叩かれる事はない。
つまり、何かが起きた。
『主よ、わっちでありんす』
『良い、入れ』
『失礼するでありんす』
上品に扉を開け、艶めかしく尾を揺らし入ってくる狐の長。
その仕草は少し子竜に早すぎるぞ狐。
だがふざけている暇はなさそうだ。
狐の顔がいつに無く真剣じゃの。
『何があったのじゃ』
狐は緊張した面持ちで綺麗な口を開く。
『森の獣が人間を見つけたでありんす』




