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39話 きっと美しいに違いない。

「ウキキ!」


『ここか、案内ご苦労であった。猿』


「ウキキ!」


『我が主人、ここから先は我らが』


『うむ、他の獣を離れさせよ。殺すでないぞ』


『はっ』


我は今狼と共に荒れた大地に来ておる。


我が森とし再生させる為じゃ。


手順はこうじゃ。


まず我らがその大地に荘厳且つ優美に向かう。


『氷雪絨毯(ホワイトカーペット)』を前面に展開。


そこに狼が一糸乱れぬ動きで先に歩む。


そしてその後ろを我が歩み、更に後ろを巨狼が警戒する。


“さんどいっち”という奴じゃ。


そして大地につけば狼がその地にいる獣を一時追い出す。


我はその間に力を溜める。


巨狼は変わらず我の側で護衛をしながら全体の指揮を取る。


遠吠えを合図に我は力を行使、森と泉を産む。


うぬ、完璧な“すけじゅーる”じゃな!


勿論、時たまにイレギュラーも起こる。


「ガァアアアアアアア!!!」


ほう、随分大きな熊じゃ。


あの熊は我の森の熊ではないの。


「グルルルル」


『良い、下がれ』


『はっ』


狼も随分聞き分けが良くなった。


この一年、我の事を更に理解し、我のする動きに適した動きができる様になった。


正に王と忠臣の如き関係である。


それはそうと、我を見て威嚇とは、胆力が凄まじいか、余程の馬鹿か。


我は力を溜めながら熊の前までゆっくり歩む。


『氷雪絨毯(ホワイトカーペット)』を展開しながら、[世界樹の権能]を発動させ、氷の草花を発芽させる。


言葉は渡さぬ。


我の姿勢で語る。


荘厳且つ優美な姿勢で熊を威圧するのじゃ。


「が、ガァルァアアァ!」


ふむ、目に畏れを抱いたが、認められぬってところかの。


その心は何処から来るか。


誇りか、プライドか。


下らぬ。


我はこの死んだ大地を先程見渡した。


土の中にいる僅かな虫を食う獣ばかり。


その獣達に威圧し搾取しておるのがこの熊じゃ。


確かにそれも獣の秩序であろう。


だが、美しくない。


獣の強者とは、弱者を虐げ、搾取だけではならぬ。


その程度で得た誇りに等なんの意味もない。


真に強き獣は、与えよ。


貴様は強者ではない。


搾取するばかりで、与える余裕のない獣が、上に立つな。


我は熊を睨み、右の前足を強く地に叩きつける。


「ッガァル・・・」


去れ。


貴様に等もう用はない。


ここはもう我の森だ。


我の秩序が支配する。


「ガァ・・・」


熊は我の前から去って行きおった。


『我が主人、お見事です』


『うぬ、だが彼奴もまたこの大地に住んでいた獣よ。追い立てる程ではなかったかもしれぬな』


『我が主人による御業でこの貧しき大地が草木で蘇るのです。もしあの熊がその恩寵の賜るならばまたこの地に戻り、主人の秩序の元争い、誇りを持つでしょう』


『だと良いがな。我の森の獣達は少し、強くなりすぎてしまい、他の森の獣に必要以上に恐れられておる気がするのじゃ』


『でしたら一つ提案がございます』


『ほう、聞かせよ』


『主人の秩序の元、我らの子供達は順調に成長し、数が多く増えました。これは他の種族であっても同じ。故に若い獣達を森の外側に置き、他の森の獣達と争いながら成長をみれば良いかと』


『ふむ、確かに一理ある。が、それもまた問題もあろう』


『・・・問題ですか』


『分からぬか?』


『・・・私には』


『いや、良い。これは我の立場にならぬと分からぬ事よ。お主らは強くなれれば良いからな。我もそう思っておる』


『強くなれれば・・・?』


『良い、忘れろ。要らぬ話をした』


『はっ!』


我が思ったのは中央に集まる獣達が強くなりすぎてしまい、外の獣との差が開くというものだ。


この差が広がり過ぎれば、中央へ挑む獣が少なくなり、隙がなくなる。


獣達にとっては当たり前のことであろう。


森の奥に潜む獣が強くあるのは当たり前であるからだ。


だが、付け入る隙が無さすぎるというのもまた、問題だ。


希望がない。


ただその一点が、我の思う問題だ。


我に近づく事が到底叶わぬならば、争いの頻度を下げ、飯を食える程度に争うのみの負け犬が生まれ兼ぬ。


難しい問題よ。


森全体の事を考えれば、その調整に頭を悩ませねばならぬ。


五年に一度の進化の秘宝。


これを調整する必要があろう。


「アオォーーン!」


狼の遠吠えが大地に響いた。


『我が主人、獣は皆離れました。』


『であればここからは我の出番よの。後ろを頼むぞ』


『はっ!』


『では、始める』


「ヒュゥイーーー!」


我は角に内なる力を溜め、一歩踏み出すごとに角を揺らす。


─ゴォン


振るたびに重い鐘の音が鳴り、ミシミシと我の周りから白い木草花が芽生える。


そしてまた一歩踏み出し、角が揺れ、重い鐘の音が鳴り、白い木草花が芽生える。


我はこれを一日中続ける。


集中力もかなり持っていくのじゃ。


故に狼達の護衛が必要となる。


まだ我の森ではない森であればここまではかからぬ。


が、何もない死んだ大地を甦らせるとなれば、その難易度は計り知れぬ。


だが、やって見せよう。


元が何か分からぬ死骸を食う獣達を見て我は悲しんだ。


もはや伝説の獣になる為だけの動機では無くなった。


獣の王として、森に住まう獣達が己の秩序を守りながら、健やかに育つ様、我は力を振るう。


迷いはなかった。


そしてまた一歩踏み出す。


いつの間にか月が出ておる。


丸い月の下、荘厳且つ優美な我が、眷族の狼達に囲まれ、森を作るその様は美しいだろうか。


きっと美しいに違いない。

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