29話 我の大切な思い出よ。
「ピィ!」
『はぅ!で、殿下、まだ会議終わってません!』
『ふはは、我以外に子竜がその様に懐くのは初めて見たぞ』
『あ、主人さま、まだ会議途中で申し訳無いです!』
『よい、もう終わったのだ。それにもし叱るならお主ではなく子竜の方よ』
「ピィ!?」
『い、いえ!殿下は何も悪くないです!』
『では誰も悪く無いの。我はお主が悪く無いといい、お主は子竜が悪く無いと言う。では誰も悪く無いの』
『そ、それは、私が、えっと!』
『それともお主を虐めとる様に見える我が悪いかの?』
『それは、ちが、ちが!あぅ』
「ピィ!!」
『我が主人よ。狸殿が可愛いのは分かりますが、あまり虐めすぎては眷族としての威厳を失いかねません』
『ふふふ、確かにそうじゃ狼よ。すまぬな狸、詫びに隣の食堂で“でざーと”を用意しておる。子竜と食べて参れ』
「ピィ!?」
『え!ホ、ホントですか!?』
『ああ、もう用意してある。のう、猿よ』
『はい我が主人、勿論用意しております』
『だそうだ』
『あ、ありがとうございます!』
『ピィ!』
『では行くが良い』
『は、はい!』
「ぴぃ!」
『う、うん。行こ!』
仲睦まじく去って行く二頭を見て我嬉しく思う。
初めて我から離れ、友と遊びに行く子竜を見て我は目が少し暖かくなった。
恐らく子竜自身は我から離れて行動している事に気づいておらぬ。
だがきっと大丈夫であろう。
子竜と出会ってもうすぐ3ヶ月ほどか。
まだまだ短いが、二頭一緒に濃い時間を過ごしたものだ。
我の大切な思い出よ。
『鹿よ』
『─ここに』
『随伴せよ』
『御身の御心のままに』
『では皆の者、お互い親睦を深め、情報を共有するが良い。出来れば皆ある程度良好な関係を築く事を期待しておる。ではな』
『『『『はっ!』』』』
我と鹿は謁見の間を歩いておった。
『先ほどの謁見の儀、どうであったか聞いても良いか』
『・・・正直申すと、あまり現実感が無く、夢現の様な体験であったと』
『ふふふ、夢現か。それは何か、我の存在は現実味がないか』
『ッ、平にご容赦を』
『良い、此度はお主を虐める為に歩いておるのではない。むしろ逆だ』
『逆、と申しますと』
我は一度足を止め、鹿をまっすぐ見る。
『鹿よ、大義であった』
『はっ、勿体なきお言葉』
『猿から聞いたぞ、我の不調時に指揮を執ったと』
『出来る者が我しかおらぬかったので』
『ふふ、そうか』
謙遜な態度を崩さぬ鹿に我は気分を良くした。
決して自分を下げている訳ではなく、本心でそう思っておる様だった。
うぬ、先ずは鹿から聞くとしよう。
『一つ聞きたいことがある』
『幾らでも』
『うぬ、だがここだと都合が悪い。少し付いて参れ』
『はっ』
我と鹿は氷天城の一階向かった。
『こ、こんな場所が』
『美しかろう?』
『んッ、申し訳、なく。柄にも無く見惚れ、』
『良い、我もあの桜を見て数刻見惚れたものよ』
『な、なるほど。主人程美しい獣でもその様に思われるか』
『うぬ、あと一歩で我の美しさに届きえよう』
我は本心で思う。
この桜は木の幹全てが我の角と同質の物になっておる。
急激に成長しているのを見るに、あの日、我の内なる力が想定より持ってかれた訳は、恐らく此奴の所為だ。
全く、美しくなければ氷像にして刻んでやったわ。
『聞いても?』
『良い』
『この木は桜というので?』
『ああ、元はもっと普通の木の幹だったはずだがの』
『主人の力を多分に吸ったか』
『その様じゃの、さて、この桜について語り合うのも悪くないが、少し聞きたい事があったのだ』
『何でも』
『人間について知っておるか?』
『・・・我らに他所から合流した同胞が遥か西で見たとしか』
『遥か西か』
『行かれるので?』
『まだ分からぬ』
『重ねて聞いても』
『良い』
『主人は何故人間にそこまで拘る?』
『うぬ、言わぬ』
『了解した』
『・・・もし見かけたら気を付けよ。出会い、戦闘になったならば全て殺しておけ』
『・・・何故そこまで?』
『奴らは情報の大切さを知っておる。お主等にも直に分かる事だ』
『はっ!』
『一人でも逃せば、次はその倍を連れてき、そして倍に増えて行くのが奴らよ』
『そこまでの獣か』
『獣と思うな、奴らは人間だ。戦う事があれば一人とて返さず、戦闘のあった痕跡を消しておけ。捕まえられれば我の元に連れて来い。
鹿よ、お主はこの森の最大の防衛だ。期待するぞ』
『はっ!この命に変えてでも我が主人の縄張りを荒らす不届な輩は一頭足りとて足を踏み入れさせぬ』
『うぬ、良い答えだ。少し時間が残ったな。何か聞きたいことでもあるか?』
『・・・宜しければ、主人のこれまで戦った獣について聞いてみたく』
『ほう、では我と我の桜を肴に、我の話を聞かせよう。と言っても我が戦った獣の数はお主より圧倒的に少ないと思うがの。それでも良いか?』
『・・・主人よ、我はこれ以上の贅沢を許されれば、他の眷族に恨まれ兼ねぬ』
『ふふ、そうか。ではあの泉へ行くとしよう。肴があるのに飲み物を用意出来ぬとあれば格好がつかぬ。付いて参れ。あそこで飲める水は格別じゃ』
『はっ、御意に』
それから我は餓鬼の王と番の竜の話を多少盛って話した。
どうやら気に入ってくれた様だ。
眼に尊敬の念が膨らんでおるのを感じ、我も気分を良くする。
一頭は象にも迫る大きさのそれはそれは美しい獣。
隣に伴うは歴戦の大鹿。
気を抜けば夢現に思える不思議な場所で、大層綺麗な桜の側、二頭は泉の水を飲む。
うぬ、なんと美しい一面よ!
これでさらに伝説の獣へ近付いたの!
我等は大変、美しい!!!




