27話 王様、すっごく綺麗だったな。
「ピィ・・・。」
大丈夫じゃ、最後は成功したではないか。
「ピィピィ」
でもでは無い。
大丈夫だ。
もし失敗しても我がしっかりと“かばー”して見せよう。
「ピィ?」
うぬ、だが我は失敗しないと思うておる。
何故ならお主の頑張りを常に一番見続けていたのは我だ。
その我が大丈夫だと言うておる。
「ピィ」
うぬ、お主ならやれる。
拙くとも、不恰好でも良い。
お主が頑張っていると言う姿勢が、きっと皆に伝わるはずだ。
それで十分よ。
「ピィ!ピィ!」
うむ、頑張れ。お主はもう立派な竜よ!
天を突き刺す氷の城。
見てるだけで冷たく、体が冷えそうなのに決して寒くは無かった。
優しい空気を感じる。
なんだろう、この感覚。
どこか懐かしい様な、心が浮つく。
遠い故郷へ旅立った様な感じだ。
そうだ、故郷だ。
でも、私の故郷ってどこだろう。
隣で一緒に城へ入る獅子の父は、入り口で足を止めた。
何時も無愛想で、私が遊びに行くと嫌な顔をする父だ。
私は沢山いる子供の中の一人なんだろうけど、少しは遊んでほしい。
そんな父は時たまに何処か遠いところを眺めるように空を見ていた。
その時の顔と同じ顔を父はしていた。
くたびれ、やさぐれていた父の顔が何時もより格好良く見える。
そんな父を見て、何故か私も胸を張って城の中へ歩き出す。
ここで一体何が始まるのか、父と母達に聞いてみたが皆んな分からなかった。
ただ、お見えになるらしい。
何が見えるのだろう。
美味しい物あるといいな。
ここで食べるご飯はとても美味しそうだ。
そうして周りを見渡せば、何時も狩りにしている牛を見つけた。
私は父を見た。
牛さんいるよって父の足を舐めて伝えてみる。
父は牛さんへ一瞬見て、すぐ前を向いて歩き出した。
どうしたんだろう。
取り敢えず家族みんなでついて行く。
段々騒がしくなる。
主に我慢が効かない子供達の鳴き声だ。
私もその声を聞いてると一緒になって鳴きたくなる。
でも、父の雰囲気がそんな私を縫い留めていた。
父の顔が何時になく真剣だ。
邪魔するのが嫌になって落ち着く。
まだお見えにならないのかな。
そう考えた時、入り口の扉が閉まり光が消えた。
同時に獣達の声も静まり返った。
理由は私にもわかる。
感じるのだ。
私の本能が、恐れ、いや、畏れている。
何も聞こえない。
こんなにも獣がいるのに皆んな息を殺して、その存在がどう動くのか、どこから来るのか、目と本能で探る。
そして、雪が降った。
城の中で雪が降る。
同時に壁の上の方に付けられた燭台が何処からともなく部屋全体に灯っていく。
氷が反射して部屋全体が明るい。
「ピィーーーー!!!」
上から部屋全体を響かせる鳴き声が聞こえた。
幼い竜だ。
部屋全体に雪を降らすように飛んでいる。
まだ拙そうではあったけど、精一杯飛んでいた。
白く綺麗な竜だ。
あの竜がお見えになるって事なのかな。
いや、気配を探ってもあの竜では無い。
でも、上からの気配だった。
皆んな立ち上がって氷の天井を眺める。
──カタ、カタ
空から聞こえた。
ゆっくりこちらを見ながら降りてくる。
階段も何も無いのに、降りてくるのだ。
段々その御姿が見えてくる。
薄青い体、光る透明な角、白く平たい二本の尾。
顔はまだ遠くて見辛い。
その獣の周囲に美しい氷の結晶を幾つか浮かせていた。
雪の中をゆっくりと降りてくる。
大きい、象くらいある。
そしてこの部屋で一番高いところにこちらへ向かって立った。
顔もお見せくださった。
獣の顔だ。
狼のようで、でも鹿のような、でもどれとも違う顔立ち。
私達全く違う種にも、大変美しく見えた。
「ヒュゥイ!」
その獣は一つ鳴いた。
私達は思わず頭を伏せる。
雪の降る天井に緑と黄色と青の波を彩って行く。
全部が綺麗だった。
『我が森の掟を伝える
一つ、狩りは構わず行って良いが、特定の種を狙い続けるような真似をするな
二つ、子を殺す事を許さぬ
三つ、他の森から来た獣は迎えよ
四つ、竜、餓鬼、人間を見たら接触せず、我に知らせよ
五つ、森を荒らすような獣がいれば我に知らせよ
以上だ』
じゃあ牛さんばっかりはダメなんだ。
でも、今は木の実とキノコの方が美味しいからいいかな。
竜は聞いた事あるけど、人間ってなんだろう。
『今日は良く我の元へ集った、獣達よ。
我はこの森の王として、君臨した事を皆に知らせる為に集まってもらった。
そして王となった我はこの森の秩序を守る義務がある。
貴様らには何も納めよとは言わぬ。
ただ、子は殺す事を禁ずる。
それ以外ならばある程度は許そう』
静かな気配を放ちながら、森の王は言う。
『そして、これは我からの獣達への願いだ。
己の種族に誇りを持て。鋭い牙が無くとも、爪が無くとも、角がなくとも、体が小さくとも、自らが優れている所を見出し、それを誇りに生きよ。我は強く、勇ましく、誇り高い獣が好きだ。我が真に認めた獣は、我が直接名を授けよう』
名前、いいな。
名前欲しい。
『では外に我の料理人が馳走を大量に用意しておる。群れの長と眷族は後に三階へ上がれ。ではこれにて解散とする。今日は皆よう来た。またいつの日かこの場で会える事を祈っておる』
王様はそう言うとまた空を登って行く。
─パキ、パキ
氷だ。
氷を踏み締めてたんだ。
ずっとキラキラしてる。
王様が見えなくなると扉が開き、私達は扉の方へ向かって行く、父を残して。
父は最後どんな顔をしていたのだろう。
ただ、これからは何か変わる気がする。
王様、すっごく綺麗だったな。




