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22話 この気高き獣は、今から私たちの主人だ。

吹き荒れる吹雪の様な魔力が解き放たれ、見た事がない、私程度の語彙では表すことが出来ない巨大な城が生まれた。


そしてその魔力の余波は、我が主人の縄張りの外縁部にも届き、全てが凍っていく。


その圧倒的で破壊的な魔力を全身で感じ、思わず我が主人が初めて私達の前に姿を現した時を思い出す。


それは異常とも思える程、森が静かだった。


いや、実際異常が起きていた。


全ての獣が息を殺し、こちらに向かってくる存在を伺う。


普段私達と生息圏を争い合う鹿も今は私と共に息を殺してその存在が過ぎ去るのを待っている。


全ての獣が一歩たりとも動けず、その存在以外が時を止めている様だった。


感じたことの無い気配だった。


竜であれば体を突き刺す気配だ。


熊であるなら荒々しい気配だ。


鷲獅子(グリフォン)であれば吹き荒れる様な気配だ。


全ての気配は荒々しく凄まじい暴力の気配を纏っていた。


だが、今私達の隣を過ぎる存在はそのどれにも当てはまらない。


全てが静かだ。


でも、静かなのに、気配を感じる。


それも今まで見たどの獣よりも強く、圧倒的な気配を。


何か来る。


ナニがいる。


─パキパキ


まず最初に感じたのは周囲の温度が下がった事だ。


だが、寒過ぎるわけではない。


そして何かが固まっていく様な音がする。


石が割れる音ではない。


聞き馴染まない、固まっていく音だ。


遅れて気づく。


私の隣の草が白く染まっていくのだ。


なに、これ。


こんな現象は今まで見た事がなかった。


そしてその姿を私達の前へ堂々と現した。


私は群れの事、自分の事もその瞬間忘れ去っていた。


綺麗。


ただその二文字が脳に焼き付けられた。


なんと言えばいいのだろう。


綺麗だ。


白く染まっていく地面をゆっくりと進むその御姿はとても優しく美しい。


振り撒くのは近寄り難くも側にいるだけで優越感に浸れる様な圧倒的な存在感。


そしてその御姿はどこをとっても吸い込まれる様な完璧な造形。


種族が違うというのに、その全てが自分より圧倒的に優れた上位の存在だと感じてしまう。


御顔は私達にも似通ってる所を感じるけど、違う。


違うのに、少し似ているだけで内なる自分が舞い上がっているのがわかる。


群れのみんなを見れば同じ様に思っていそうだった。


ただ、同族ではない。


それは間違いなかったから、私は群れの長としてその存在に直ぐには声をかけなかった。


まだ迷っている。


敵か、味方か。


縄張りを犯しに来たのか。


そこでようやく私は冷静になれた。


隣の私の親友はまだ惚けている様だったけど。


そして遅れて気付いた。


その存在の前に幼い竜が歩いていた。


後ろの存在を真似して胸を張って歩いている。


幼い竜も良い気配をしていたけど、立派な父を真似て胸を張ってる様で愛らしかった。


突然、後ろの存在がこちらを見たのを感じた。


今私を見て・・・?


いや、こちらを一辺に見渡している様だ。


だ、だろうね。


あんな存在に睨まれたら、うん、生きていけない。


多分身動きすら出来ないし、私群れの長辞めちゃう。


というか寧ろ食べられても──いやいや、何考えてるの私!


こんな意味わかんない理由で死んだら、森でゴブリンを引きつけて私たちを逃してくれた父と母に顔向けできない!


本当に顔向けできない!


私は父と母に群れを託された気高き狼。


死ぬ時は群れのために誇りを掲げて立派に果てるの。


父と母がそうだった様に。


いつか私達は数を増やしてあのゴブリン共を絶滅させてやる。


私達は今そのために生きてるの。


こんな所で死ねないわ。


そう考えた時、その存在は私達全体が見える様に立ってしばらくずっと見渡した。


隠れているはずの私達を全て把握している様だった。


一通り見渡した後、その存在はどこからともなく氷の像を出現させた。


何、あれ。


よくよく見るとその像の中にいる獣が見た事があった。


あの憎きゴブリンの長だ。


あれが姿を現したのは最後の最後。


私達が疲弊しながら削り切り、王手をかけた瞬間現れた、ゴブリンの王だ。


謎の剣の能力に抗えず、私たちは逃げることしか出来なかった。


あの時の屈辱を一時も忘れたことは無い。


その王が、凍って死んでいた。


私は無意識に遠吠えをして、この森にいる狼達に知らせた。


私達の敵は、滅んだのだと。


そして私に続く様に皆が遠吠えで知らせる。


もう迷いは無かった。


私はかつて無く重い前脚を踏み出した。


答えは決まっている。


あの存在に認めてもらうことだ。


でも、誇りは捨てない。


私は気高き狼だから。


前に姿勢を低くして脚を進める。


ゆっくりだ。


私達を舐める様なら一撃加えて見せるつもりだ。


それで死ねるなら本望だ。


最後まで気高く在れたのだから。


ゆっくり脚を進める。


その存在はじっと私を見る。


私の一挙手一投足、見過ごさない様に。


目に焼き付ける様に見ていた。


見てくれていた。


この獣も、私達と同じだ。


気高く、誇り高い。


他の獣には理解されない、私たちのプライド。


それを目の前の存在は理解して、尊重してくれていた。


自分より弱い私たちに。


ああもう、なんで同族じゃ無いの。


同族ならばすぐ求愛出来たのに。


そして私はその獣の前に立ち、目をしばらく合わせて、伏せた。


格付けが終わったのを理解した獣は、美しい氷とミノタウロスを私達にくれた。


もう決まっていた。


匂いを辿り、住処をこの獣の近くへ移そう。


この気高き獣は、今から私たちの主人だ。

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