↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お荷物と言われた俺、気づいたらパーティ全員を最強にしていた件〜負けヒロインたちが俺のそばでだけ無双するんですが〜  作者: あおしぃ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/18

第7話「俺たちを潰しに来るなら、先に飯を食ってからにしてくれ」

 翌朝、ギルドの掲示板の前で、銀の牙と鉢合わせた。


 俺たちが依頼票を見ていると、ガードが後ろから来た。銀の牙の二人も一緒だ。ガードが俺の隣に立って、同じ依頼票を見た。


 「それを受けるのか」


 俺が見ていたのは、廃村の魔物清掃依頼だった。中規模のゴブリンの巣が廃村に形成されていて、周辺農家への被害が続いている。推定体数は三十体以上。Fランクで受けられるが、実質的にはBランク以上向けの内容だ。


 「受けようと思っています」


 「俺たちが先に受ける」


 「そうですか」


 「お前たちには無理だ」


 「そうかもしれません」


 ガードが少し止まった。反論を想定していたらしかった。


 「……それだけか」


 「事実かどうかは、やってみれば分かります。ガードさんたちが先に受けてもいいですが、昨日今日で俺たちの状況は変わっているので、参考程度にしてください」


 ガードが俺を見た。


 「何が変わったんだ」


 「人数です。昨日より二人増えました」


 ガードが俺たちを見た。リナ、クロエ、ミア、フィン。昨日の食堂にいたメンバーだ。ミアが小さくなっている。フィンが壁際に立っている。クロエが眼鏡を磨いている。リナがガードをまっすぐ見返していた。


 「……Fランクが五人か」


 「そうです」


 「それで三十体以上のゴブリンを相手にするつもりか」


 「地形整理と補給で対応できると思っています」


 ガードが俺を見た。何かを言いかけて、止めた。依頼票を引き抜いた。


 「俺たちが先に行く。ついてくるな」


 「承知しました。では後から行きます」


 「なぜ後から来る」


 「断る理由がないので」


 ガードが「……」という顔をして、出口に向かった。


---


 廃村は王都から二時間の場所だった。


 道中、フィンが先行して情報を取ってきた。


 「銀の牙は正面から入ろうとしている。廃村の東門から直進するルートだ」


 「それは」


 「ゴブリンの巣の密度が一番高い場所を正面から通ることになる。包囲される可能性がある」


 「そうですね。フィンさん、巣の配置を全部教えてもらえますか」


 フィンが地図に書き込んでくれた。主な巣が三箇所、見張りが配置されている場所が六箇所、逃げ道になりそうな経路が二つ。俺が自分で確認するより精度が高い。


 「これだけ詳しく把握できるんですか」


 「草と土の匂いで、ゴブリンがいる場所は分かる。足跡も読んだ」


 「ありがとうございます。これで計算が変わります」


 フィンが少し間を置いた。


 「……役に立ったか」


 「かなり。一時間分の時間を節約できました」


 フィンが前を向いた。表情は変わらなかったが、歩くときの重心が少し前になった気がした。


 俺はフィンの地図をもとに、動線を設計した。


 正面からは入らない。西の低い塀を越えて、巣の少ない北側から入る。リナが東の巣を崩し、クロエが南の巣を凍らせる。ミアは俺の前に立って、後ろから来るゴブリンを止める。フィンは見張りを把握して、全員に位置を伝え続ける。


 計画を五人で確認した。


 「ミアさん」


 「は、はい」


 「俺の前に立ってもらいます。後ろからゴブリンが来たとき、止めてほしい」


 「……私が、ですか」


 「盾役です。そのための盾だと思います」


 ミアが盾を持つ手を見た。


 「前に出ていいんですか」


 「出てほしいです」


 「……怒りませんか」


 「守れた場合は怒りません。守れなかった場合も、今は保証できないと昨日言いました」


 「そうでした」


 「ただ、ミアさんが盾を持って前に出ようとしているのを怒る理由が、俺には見当たりません」


 ミアが少し俺を見た。


 「……分かりました」


---


 廃村に着くと、銀の牙がすでに東門の前にいた。


 ガードが地図を見ていた。二人のメンバーが装備を整えていた。俺たちを見て、ガードが「来たか」と言った。


 「邪魔はしません。別のルートから入ります」


 「勝手にしろ」


 俺たちは西の塀に回った。


 低い塀を越えて、北側から入る。フィンが先行して、見張りのゴブリンの位置を把握した。「今は三体。二十秒後に東に向く」と伝えてきた。俺は「では十五秒後に動きます」と答えた。


 十五秒後に入った。見張りは東を向いていた。


 北側の小道を進んだ。フィンが「左に五体、右に二体、後ろから四体来る」と告げた。俺は「後ろをミアさん、左をリナさん、右はクロエさんで」と指示した。


 後ろを振り返ると、ミアが盾を構えていた。


 四体のゴブリンが小道を駆けてきた。


 ミアが、一歩前に出た。


 ——この一歩を、俺は後ろで見ていた。


 ミアの足が地面を踏んだ瞬間、重心の取り方が変わった。前のパーティでは「出るな」と言われ続けた人間の、初めて前に出た一歩だ。迷いがあった。それでも、踏んだ。


 ゴブリンの先頭が盾にぶつかった。吹き飛んだ。ミアは動かなかった。足が地面から離れなかった。二体目が来た。盾の角を使って流した。三体目が飛びかかってきた。ミアが盾を傾けて上から叩き落とした。四体目が横から来ようとした瞬間、リナが東側の処理を終えて戻ってきて一閃した。


 「東、完了」とリナが言った。


 「南、完了」とクロエが言った。


 「後方、完了」とミアが言った。


 「見張り、全部把握中」とフィンが言った。


 俺は残りの数を確認した。


 「あと七体。巣の中にいます。クロエさん、入口に一発入れられますか」


 「十二秒、待ってください」


 「リナさん、クロエさんの前に立ってください。ミアさん、後ろをお願いします」


 詠唱が始まった。


 十二秒後、巣の入口が凍った。


 三十七体のゴブリンのうち、三十五体を処理した。二体は逃げた。依頼書の「討伐もしくは追い払い」という条件を満たした。


 「終わりました」とリナが言った。


 「お疲れさまでした」


---


 東側では、銀の牙が苦戦していた。


 正面から入って、ゴブリンの密集地帯に当たったらしかった。三人で対応はしていたが、包囲されかけていた。囲まれると数の不利が出る。Sランクであっても、三十体以上を三人で捌くのは時間がかかる。


 俺たちが合流したとき、銀の牙はゴブリンを十五体ほど残していた。


 「手伝いますか」と俺は言った。


 ガードが俺を見た。


 「……いい」


 「そうですか」


 「俺たちで終わらせる」


 「分かりました」


 俺たちは廃村の西側に下がって待った。


 二十分後、銀の牙が処理を終えた。三人とも傷がある。装備の消耗が激しい。補給を取っていないのが見てとれた。


 ガードが俺のところへ来た。


 「終わった」


 「お疲れさまでした。怪我は」


 「問題ない」


 「補給食を持っています。よければ」


 ガードが止まった。


 「……俺たちへの補給か」


 「断る理由がないので」


 ガードが俺を見た。銀の牙の二人を見た。どちらも疲弊していた。


 「……もらう」


 「どうぞ」


 俺は補給食を三人分出した。水も渡した。銀の牙の三人が受け取って、食べた。


 ガードが食べながら、俺を見た。


 「お前たちは、なぜ終わっているんだ」


 「フィンさんが事前に巣の配置を全部把握してくれたので、効率よく動けました」


 「斥候が地図を作った、ということか」


 「はい」


 「うちは事前に情報を取らなかった」


 「なぜですか」


 ガードが少し間を置いた。


 「……俺たちはSランクだ。ゴブリン程度、正面から行けると思っていた」


 「そうですか」


 「お前がいたとき、事前の情報収集をしていたのはお前だったのか」


 「していました。地形把握と、魔物の習性と、出没パターンの確認は、出発前にやっていました」


 ガードが黙った。補給食を食べた。水を飲んだ。


 「……お前は、なんで俺たちに補給食を渡すんだ」


 「腹が減った人間がいたので」


 「俺たちはお前を解雇した」


 「そうですね」


 「恨んでいないのか」


 「恨んでいません。ただ、腹が減っているかどうかと、恨んでいるかどうかは別の話なので」


 ガードがまた黙った。


 銀の牙の一人が「ガード」と呼んだ。ガードが立ち上がった。


 「……礼を言う」


 「いいえ」


 「次はない」


 「そうですか」


 ガードが歩いていった。


 俺はその背中を見ながら、少し考えた。


 ガードが「次はない」と言った。礼を言った後に「次はない」という言い方は、矛盾しているように聞こえた。ただガードの言い方からすると、「次は補給食を受け取らない」という意味ではなかった気がした。


 「次は俺たちの方が先に終わらせる」という意味に聞こえた。


 プライドが残っている。それはそれで、ガードらしかった。


---


 ギルドに戻って報告を出すと、ナハトが待っていた。


 「今日の依頼も確認しました。フィン・グレイが事前に巣の配置を全部把握した件です」


 「そうです」


 「事前情報の精度が、熟練の斥候以上でした。どうやったんですか」


 「本人に聞いていただけますか。俺より正確に話せると思います」


 ナハトが頷いた。


 「それともう一つ。ミア・シールドの防御記録も見ました。今日初めて前衛として行動したそうですね」


 「そうです」


 「四体を単独で止めた。その後も後衛を守りきった。これはBランク相当の防御力です」


 「そうですか」


 「あなたは驚かないんですか」


 「ミアさんは強いと思っていたので」


 ナハトが俺を見た。


 「なぜそう思っていたんですか」


 「重い盾を正しく持てる人間は、体幹が正しくできています。それだけの基礎がある人間が戦えない理由はないと思っていました」


 「……荷物を見て、そこまで分かるんですか」


 「盾も荷物の一種です」


 ナハトが手帳に書き込んだ。


 「一つ報告があります。今日の結果をもとに、あなたたちのパーティをCランクに推薦します。ギルドとして正式な手続きを取ります」


 「ありがとうございます」


 「感想はそれだけですか」


 「十分です。Cランクになれば受けられる依頼が増えます」


 ナハトが「そうですね」と言って、また手帳に何かを書いた。


 「それと——」


 ナハトが少し声を落とした。


 「銀の牙のことですが」


 「はい」


 「今日で四件目の失敗になります。Sランクパーティとして、これは記録上でも異例の数字です。上の組織が動き始めています」


 「上の組織、というのは」


 「王国の冒険者評議会です。Sランクパーティが続けて失敗すると、原因究明が入ります。その過程で、あなたのスキルのことも調査対象になる可能性があります」


 「そうですか」


 「あなたを守る手段をギルドとして考えています。ただ、今すぐどうということではない。ただ知っておいてほしかった」


 「分かりました。ありがとうございます」


 「もう一つ」


 「はい」


 「今日、あなたが銀の牙に補給食を渡したと聞きました」


 「はい」


 「理由は」


 「腹が減っていたので」


 ナハトが少し間を置いた。


 「……評議会の調査が入ったとき、あなたのスキルの詳細が公開される可能性があります。神域のスキルを持つ人間を、王国の組織が放っておくとは思えない」


 「どういう展開が考えられますか」


 「最も穏やかな展開は、王国付きの冒険者への任命打診です。最も穏やかでない展開は、強制的な所属変更です」


 「どちらを想定すればいいですか」


 「今の段階では分かりません。ただ、あなたが銀の牙に補給食を渡したという話は、評議会への報告には含めません」


 「なぜですか」


 「解雇した相手にも補給食を渡す人間が、王国の管理下に入ったとき何をするか、俺には想像がつかない。記録するのは俺の手帳の中だけで十分です」


 「ありがとうございます」


 「礼はいいです。ただ」


 「はい」


 「これからしばらく、依頼を選ぶときは俺に一声かけてください。守れる範囲で守ります」


 ナハトが手帳を閉じた。


 部屋を出ると、廊下に四人が待っていた。


 「Cランクになりました」と俺は言った。


 リナが「早い」と言った。クロエが「理論上は想定通りです」と言った。ミアが「え、わたしも」と言った。フィンが「当然だ」と言った。


 「受けられる依頼が増えます。明日から選択肢が広がります」


 「何か受けたい依頼がありますか」とクロエが聞いた。


 「今のところは特に」


 「では私が選びます」


 「どうぞ」


 「理論的に、今の五人の構成で最も効率がいい依頼の種類を考えてあります」


 「そうですか。聞かせてください」


 クロエが「では食堂で」と言って歩き始めた。


 リナが「また食堂」と言った。


 「飯を食いながらの方が判断がしやすいので」と俺は言った。


 「あなたって、なんでも飯につなげますね」


 「腹が減った状態で作戦会議をしても精度が下がるので」


 「……それ、一回言いましたよね」


 「二回言いました。大事なことなので」


 リナが「もう」と言って、でも少し笑って食堂に向かった。


 俺は最後に一度だけ掲示板を見た。


 赤い縁取りの告示が、まだ張り出されていた。


 廃坑ダンジョン最深部。Bランク以上、もしくはギルドマスターの推薦状。


 今日、Cランクになった。


 あと一段階だ、と思った。


 あと一段階上がれば、ギルドマスターの判断次第で行ける。


 ナハトが「記録している」と言っていた。


 何を記録しているのか。何を考えているのか。


 俺には今の段階では分からなかった。ただ、ナハトが「あなたを守る手段を考えている」と言ったことは、確かだった。


 それだけは、覚えておこうと思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。