第6話「俺たちのパーティに、初めて全員が揃った夜」
ガードが「また来る」と言った翌日、本当に来た。
朝の九時だ。俺たちがギルドで次の依頼を確認していたとき、入口からガードが入ってきた。後ろに銀の牙の残りメンバーが二人いた。いずれも強い。一目で分かる。Sランクパーティの構成員の立ち姿は、体の重心の取り方が違う。
ガードが俺を見た。
「昨日言った通り来た」
「そうですね。何ですか」
「お前のスキルが神域だと知れ渡っている。昨日の今日でもう広まっている」
「そうですか」
「王都の上の人間が動く前に、俺たちと話し合いをしたい」
ガードが言った「話し合い」というのは、恫喝に近い意図がある可能性もある。昨日の様子からすると、純粋に困惑していて交渉に来た可能性もある。どちらか今の段階では分からなかった。
「話し合いには応じますが」と俺は言った。「その前に、俺は今日の依頼があります。終わってから、でいいですか」
「……いつ終わる」
「夕方には戻ります」
「待つ」
「ギルドの前で待つのは暑いと思うので、夕方にギルドの食堂で話しましょう。そのまま飯も食べましょう」
ガードが少し止まった。
「飯?」
「話し合いは飯を食いながらの方が、少し落ち着いてできると思うので」
ガードが俺を見た。リナを見た。クロエを見た。何かを言いたそうだったが、結局「……分かった」と言った。
銀の牙の三人がギルドの外に出ていった。
リナが「なんで飯の話になるんですか」と言った。
「腹が減った状態で話をすると、判断が鈍くなるので」
「それだけですか」
「あとは、飯を食っている人間は怒鳴りにくいので」
クロエが「……理にかなっています」と言った。
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その日の依頼は順調に終わった。
帰り道、採石場の近くを通ったとき、俺は二人の人間を見た。
岩の陰に座っていた。一人は小柄な女性で、大きな盾を膝に立てて、その陰に収まるように座っていた。もう一人は細身の男性で、壁に背をもたせかけて目を閉じていた。二人とも冒険者の装備だ。体力的に疲れているというより、精神的に疲れている様子だった。
「どうかしましたか」
俺は声をかけた。
小柄な女性が顔を上げた。丸顔、茶色い巻き毛。大きな盾を持っているが、その盾の大きさに比べて体が小さかった。
「す、すみません……邪魔でしたか」
「邪魔ではないです。ただ、ここはあまり人が来ないので、何かあったのかと思いました」
「な、なんでもないです。少し休んでいただけです」
細身の男性が目を開けた。灰色に近い金髪が目にかかっていた。俺を見て、すぐに周囲を確認した。危機察知の動作だ。斥候か、あるいはそういった仕事に慣れた人間だろうと思った。
「あんたたちは」
「冒険者です。今日の依頼の帰りです」
男性が俺を見た。それからリナを見た。クロエを見た。また俺を見た。
「……Fランクか」
「そうです」
「なぜFランクが三人いる」
「それぞれ理由があって、最近再登録しました」
男性が少し間を置いた。
「あんたたちが今日採石場で依頼をこなしたのを見た。強かった。Fランクじゃなかった」
「そうですか」
「なぜFランクでいる」
「今のところFランクで受けられる依頼で十分なので」
男性がまた俺を見た。何かを測るような目だった。信用しているわけでも、していないわけでもない。ただ確認している。
小柄な女性が「あの」と言った。
「今夜、泊まるところがないんですが、王都のギルドで宿泊手続きをしてもらえますか。手続きの仕方が分からなくて」
「できますよ。一緒に行きますか」
「い、いいんですか。すみません……」
「謝らなくていいです。腹が減っていますか」
女性が少し止まった。
「……少し」
「今夜、ギルドの食堂で飯を食うので、よければ来てください。断る理由がないので、一緒に食べましょう」
リナが「また増えた」と呟いた。
クロエが「そうですね」と言った。
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小柄な女性の名前はミア・シールド。盾役だった。前のパーティでは「守ろうとするたびに足手まとい」と言われ続けたらしい。細身の男性の名前はフィン・グレイ。斥候だった。前のパーティのリーダーに情報を売られて、依頼先の組織に追われたことがある。
二人とも、それ以上のことは最初は話さなかった。
俺も詳しくは聞かなかった。今夜の飯の後で話したいなら話すだろうし、話したくなければそれでいい。荷物の管理をするのに、全員の事情を知る必要はない。
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夕方、ギルドの食堂に戻ると、ガードが来ていた。
銀の牙の二人と一緒に、端の席に座っていた。食堂はそれほど混んでいない。夕食には少し早い時間だ。
俺はカウンターで料理を注文した。
「何人分ですか」と厨房の担当が聞いた。
「七人分お願いします」
「七人ですか」と担当が少し驚いた顔をした。
「今夜は多いので。全員に出してください」
「どんな組み合わせですか」
「今日の一番多い定食で」
俺はガードたちのテーブルに近づいた。
「来ていただいてありがとうございます。今夜は七人になりました。同じ席にしてもいいですか」
ガードが俺を見た。
「七人?」
「今日、二人増えました」
「今日また増やしたのか」
「断る理由がなかったので」
ガードが少し何かを言いたそうにしたが、止めた。銀の牙の二人も、俺たちを見ていた。
全員で大きなテーブルを囲んだ。
ガード、銀の牙の二人。俺、リナ、クロエ、ミア、フィン。
七人がテーブルについた。最初は静かだった。
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料理が来た。
パンと、スープと、焼いた肉と、野菜の付け合わせ。特別なものではない。ギルドの食堂の定食だ。ただ量が多くて、温かかった。
最初に動いたのはミアだった。
スープを一口飲んで、目が少し丸くなった。
「……おいしい」
小さな声だった。誰に言ったわけでもなく、ただ出た言葉だ。
「そうですか」と俺は言った。
ミアが俺を見て、少し赤くなった。
「す、すみません……独り言で」
「謝らなくていいです。旨いものを食べたら旨いと言っていい」
ミアがまた少し赤くなった。それからもう一口スープを飲んだ。今度は少し速かった。腹が減っていたのだろう。
「ミアさん」
「は、はい」
「補給食はいつ食べましたか」
「……昨日の昼です」
「一日以上食べていない、ということですか」
「すみません……」
「謝らなくていいです。ただ、腹が減った状態で動くと体が持たないので、今後は食事が取れないときは言ってください。俺が補給食を出します」
ミアが俺を見た。
「いいんですか」
「断る理由がないので」
ミアが俺を見たまま、しばらく動かなかった。それからまたスープに向かった。今度はもっと速かった。
リナが俺を見た。「どこで拾ってくるんですか、こういう人を」という目だった。俺は「たまたまいたので」という目を返した。リナが「もう」という顔をして、肉を切った。
フィンは食べながら、ずっと周囲を確認していた。
出口の位置、入口の位置、テーブルの配置。食堂に来てから、視線が一度もフィンから見て危険な方向を向いていない。俺はそれを確認していた。
「フィンさん」
「……なんだ」
「出口から一番近い席を使ってください」
フィンが少し止まった。
「今の席でいい」
「今の席より、あちらの方が出口が近いです。ここより二歩分、早く出られます」
フィンが俺を見た。
「……なぜそれを言う」
「あなたが出口を気にしているのが分かったので」
「……」
「事情は聞きません。ただ、出口が近い方が落ち着けると思うので」
フィンが少し間を置いた。
「今の席で十分だ」
「そうですか」
「……ただ」
「はい」
「そういうことを言う人間は初めてだ」
俺は何も言わなかった。フィンが視線を食事に戻した。それ以上は言わなかったが、出口の方を確認する頻度が、少し減った気がした。
クロエが俺を見ていた。
目線で「どうやってそれに気づくんですか」と言っていた気がした。俺は「観察していれば分かります」という目を返した。クロエが「そういう人なんですね」という顔をして、スープを飲んだ。
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食事が進むにつれて、空気が変わっていった。
最初は固かった。それぞれが他の人間を測っていた。でも料理が一皿、二皿と続くうちに、少しずつ声が出てきた。
ミアがリナに「剣は重くないですか」と聞いた。
「重いけど慣れた。盾の方が重くないですか」
「重いです。でも、重い方が安心できて」
「それ分かる気がします」
リナとミアが話していた。似ていないようで、重いものを持って戦うという感覚が共鳴したのかもしれない。
クロエとフィンは最初は話さなかった。でも、クロエが「情報収集の仕事は、魔法の補助は必要ですか」と聞いて、フィンが「場合による」と答えたことで、少し言葉が続いた。「場合というのは」「俺が先行するとき、後ろからの援護があると効率が上がる」「詠唱時間は十二秒ですが」「長い」「そうですね、練習中です」。そういう話だった。戦術の話で、感情が入っていなかった。でも、フィンが答えを返していた。それだけで十分だった。
ガードは黙って食べていた。
銀の牙の二人と、時々短い言葉を交わしていたが、こちらのテーブルには混ざってこなかった。それでよかった。今夜は無理に話す必要はない。
ただ、ガードが時々こちらを見ていることは、俺には分かっていた。
目が合うたびに逸らす。視線を料理に戻す。また少し経つと、こちらを見る。
何を見ているのか、俺には測れなかった。銀の牙にいたとき、こういう食卓がなかったわけではない。依頼が終わった後、五人でギルドの食堂を使うことはあった。ただそれは、報告と次の依頼の確認を兼ねた席だった。
今夜のこのテーブルは、そういう席ではない。
俺にも正確には言えない。ただ、違う。確かに違う何かがある。
食事が終わりかけた頃、俺はガードに話しかけた。
「話し合いをしますか」
「……する」
「何を話したいですか」
ガードがしばらく黙った。
「お前のスキルを、銀の牙に提供してもらいたい」
「断ります」
「理由は」
「銀の牙は俺を解雇しました。その判断を撤回するつもりはないとおっしゃっていましたよね」
「撤回してもいい」
「それは銀の牙の話です。俺はここにいます」
ガードが俺を見た。
「ここ、というのは」
俺はテーブルを見た。リナが話しているのが見えた。ミアが少し笑ったのが見えた。クロエとフィンが戦術の話を続けていた。
「ここです」
ガードがテーブルを見た。俺が見ているものを、同じ目で見た。
何秒か、ガードは何も言わなかった。
「……なんだここは」
小さな声だった。独り言のようだったが、俺には聞こえた。
「何ですか」
「いや」ガードが首を振った。「……また来る」
昨日と同じ言葉だった。でも、昨日とは少し違う響きだった。昨日は「確認しに来る」という言い方に聞こえた。今日は——何かを整理しに来る、という感じに聞こえた。
ガードが立ち上がった。銀の牙の二人が続いた。
三人がギルドを出ていった。
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残った五人でしばらく座っていた。
フィンがコップを持ったまま、ふと言った。
「あの男は、また来るのか」
「来ると言っていました」
「何をしに来るんだ」
「分かりません。ただ、彼は嘘をつかない人間なので、来ると言ったら来ます」
「……そうか」
フィンがコップを置いた。
「俺は、明日も依頼に出る。一緒でいいか」
「断る理由がないので」
「俺は荷物持ちじゃない。戦えるわけじゃない」
「斥候ですよね。情報を取ってきてもらえれば、俺の地形把握の精度が上がります」
フィンが俺を見た。
「……役に立つと言っているのか」
「今夜の食事代くらいは働いてもらいます」
フィンが「……そうか」と言った。それ以上は言わなかったが、椅子を引いて少しだけ前傾みになった気がした。
ミアが「あの、私も」と言った。
「私も来ていいですか。盾役です。あまり役に立てないかもしれないですが」
「前に出たいですか」
「……出たいです。でも、前のパーティでは出るなと言われていたので」
「ここでは出てもいいです。俺が後ろから補給します」
ミアが少し止まった。
「守れなかったとき、怒りますか」
「守れなかったときのことは、そのときに考えます。今の段階では判断できないので」
「怒らないですか」
「たぶん怒らないですが、保証はできません。ただ、怒るとしたら守れなかったことに対してではなく、守ろうとしなかったことに対してだと思います」
ミアが俺を見た。長く見ていた。
「……来ます」
「よかったです」
リナが「また増えた」と言った。
クロエが「これで五人ですね」と言った。
「そうですね」
「パーティ名はありますか」
「今のところないですね」
「そうですか」
クロエが眼鏡を磨いた。
「つけた方がいいと思いますが」
「案がありますか」
「……今は特にないですが、理論的には名前があった方が認識されやすいので」
「考えておきます」
リナが「あなたが考えないでしょ、どうせ」と言った。
「そうですね。誰かが決めてくれれば、断る理由がないので従います」
全員が少し笑った。笑い方はそれぞれ違った。リナは短く、クロエは静かに、ミアはくすくすと、フィンは声を出さずに口元だけ動いた。
でも、同じタイミングで、同じことで笑った。
それが少し、不思議だった。
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食堂を出るとき、ギルドの掲示板に新しい告示が張り出されていた。
赤い縁取りがある紙だ。緊急または重要な依頼に使われる色だ。
俺は立ち止まって読んだ。
『Sランク討伐依頼——王都東部、廃坑ダンジョン最深部調査。過去三パーティが撤退。報酬:最高位。受諾条件:Bランク以上のパーティ、もしくはギルドマスターの推薦状を持つ者』
リナが隣に来て読んだ。
「……Sランク討伐」
「そうですね」
「私たちはまだFランクです」
「そうですね」
「関係ないですよね」
「今はそうです」
リナが俺を見た。
「今は、ということは」
「ランクは上がります。断る理由がなければ、いずれ」
リナが告示を見た。また俺を見た。
「……本気ですか」
「分かりません。ただ」
「ただ?」
「過去三パーティが撤退した、ということは、帰ってきています。帰ってきているということは、戻れる可能性があるということです」
リナが「……この人は」と呟いた。
クロエが「セルさんらしいですね」と言った。
フィンが「俺は行かん」と言った。ただし「今は」とは付け加えなかった。
ミアが「こわ……でも」と言って、止まった。
「でも?」とリナが聞いた。
「全員一緒なら、少し違う気がして」
誰も何も言わなかった。
俺は告示に目を戻した。
廃坑ダンジョン最深部。過去三パーティが撤退。
今すぐ受ける話ではない。ただ、存在は確認した。手帳に一行書いた。
「いつか行くかもしれない場所」
今夜はそれだけでよかった。
ギルドを出て、宿への道を歩いた。
一週間前の夜を少し思い出した。あの夜は一人で王都を歩いていた。荷物は着替えと地図帳と手帳だけだった。行くあてがなかった。リナに声をかけて、翌朝ギルドに行った。そこからクロエが来て、ミアが来て、フィンが来た。
一週間で五人になった。
俺は何かをしたわけではない。断る理由がなかっただけだ。ただ、その結果として、今夜は七人分の食事代を払った。
手帳を開いた。
支出欄に七人分の定食代を書いた。
隣に小さく「今夜は悪くなかった」と書いた。
いつもは書かない言葉だった。




