第17話「守護者が問いかける——後方の者よ、なぜそこにいる」
守護者が通してくれた先は、また廊下だった。
ただし、今度の廊下は短かった。五十メートルほど進むと、また広い空間に出た。
最初に入った円形の空間より、さらに大きい。天井がない。正確には、天井があるはずの場所が暗くて見えない。空間の中央に、守護者が待っていた。
同じ守護者ではなかった。
大きさが違う。さっきの守護者の二倍以上ある。体長十メートル近い。四本腕は同じだが、その腕の一本が、岩ではなく光のようなものでできていた。
「また、ですか」とリナが言った。
「そうですね」
「戦えますか」
俺は守護者を見た。大きな守護者は動いていなかった。こちらを見ていた。ただ、さっきの守護者と違うのは、攻撃の気配がないことだ。
「待ってください」と俺は言った。
全員が止まった。
大きな守護者が、こちらを向いた。四つではなく、六つの目がある。その全部が俺を見ていた。
「来たか、後方の者よ」
声が、空間全体に響いた。
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「名前があるんですか」とリナが守護者に言った。
守護者が答えなかった。俺を見ていた。
「俺に話しかけているんですか」と俺は言った。
「そうだ」
「俺は後方にいる荷物持ちです」
「知っている」
「なぜ俺に話しかけるんですか」
「お前だけが、俺の問いに答えられるから」
クロエが「守護者が問いに答えることを求めている。戦闘ではなく、対話の場である可能性があります」と言った。
「そうですね」と俺は言った。「話を聞きます」
守護者が、また沈黙した。
それから言った。
「後方の者よ。お前は前に出ない。剣を持たない。魔法を使わない。なのになぜ、ここまで来た」
「仲間を帰すためです」
「仲間のために来た、ということか」
「そうです」
「なぜ、仲間を帰すために、お前が来る必要がある」
俺は少し考えた。
「仲間が帰るためには、補給が必要です。補給を管理するのが俺の仕事なので、俺が来る必要があります」
「それだけか」
「それだけです」
守護者が沈黙した。長い沈黙だった。
「お前は、自分が何者か分かっているか」
「荷物持ちです」
「それだけか」
「それだけです」
守護者がまた沈黙した。
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リナが俺の隣に来た。
「守護者に何か言われていますか」
「問いかけられています」
「何を聞かれているんですか」
「なぜここにいるか、と」
「答えましたか」
「仲間を帰すためです、と言いました」
「他には」
「他はまだ聞かれていません」
リナが守護者を見た。守護者はまだ俺を見ていた。
「……私が答えてもいいですか」
「どういう意味ですか」
「セルさんがここにいる理由を、私が言ってもいいかということです」
俺はリナを見た。
「構いません」
リナが守護者を向いた。
「聞こえますか」
守護者が、リナを見た。
「聞こえる」
「セルさんがここにいるのは、補給の管理だけじゃないです」
「ならば何のためか」
「私たちを、信じているからだと思います」
守護者が黙った。リナが続けた。
「私は前のパーティで、全力を出すことが迷惑だと言われました。クロエさんは詠唱が失敗するようになって、魔法使いを諦めかけていました。ミアさんは守ろうとするたびに足手まといと言われていました。フィンさんは信頼した人間に裏切られていました。全員、どこかで折れていました」
「それがどうした」
「セルさんは、最初から全員を信じていました。全力を出していいと言いました。詠唱を続けていいと言いました。前に出ていいと言いました。全員が帰ってくると、最初から思っていた」
「だから後方にいると」
「そうです。前に出る必要がなかったんです。全員が前に出られるように、後ろで支えていた。それがセルさんの、ここにいる理由だと思います」
守護者が、長い沈黙に入った。
俺はリナを見た。
「そうですか」
「違いますか」
「……違わないと思います」
「でしょう」
リナが前を向いた。守護者を見た。
「どうですか」
守護者は何も言わなかった。
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ガードが俺の隣に来た。
「俺も言っていいか」
「どうぞ」
ガードが守護者を向いた。
「三年間、俺はこの男を測定できないと言って解雇した。数字に出ない仕事は、あってもなくても同じだと言った」
守護者が「それがどうした」と言った。
「それが間違いだった、と今は分かっている。荷物一つで封印の扉が開いた。補給食を作りながら戦場を管理していた。全員が最大限に動けるように、後ろから全部整えていた」
「それを、お前は三年間気づかなかったのか」
「気づかなかった。測定できないから無視した」
「今は気づいているか」
「気づいている」
「なぜ気づいた」
ガードが少し間を置いた。
「……こいつが補給食を出してきたから」
「それだけか」
「戦場で、旨い補給食を出してきた。三年間毎回やっていた、と言った。俺は一度も確認しなかった。確認する必要があると思わなかった。それが全部間違いだったと分かった」
守護者が沈黙した。
「後方の者よ」と守護者が言った。今度は俺に向かって。
「はい」
「お前を解雇した者が、今ここにいる。それでもともにいるか」
「ともにいます」
「なぜか」
「腹が減った人間に食わせるのが仕事なので、ガードさんも対象です。それだけです」
ガードが俺を見た。
守護者が低い声で言った。
「……それだけ、か」
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クロエが前に出た。
「一つだけ聞いてもいいですか」
守護者が「許す」と言った。
「あなたは何のためにここにいるんですか」
守護者が少し間を置いた。
「百年前、この場所に何かが封じられた。俺はそれを守るために作られた」
「作られた、ということは、誰かが作ったんですか」
「そうだ」
「何を守っているんですか」
「力だ」
「力、というのは」
「この場所に眠る、古い力だ。その力は、正しい者にしか渡せない」
「正しい者、というのは誰ですか」
守護者が俺を見た。
「後方の者よ。俺の問いに答えられる者だ」
クロエが俺を見た。俺はクロエを見た。
「俺が正しい者ということですか」
「そうかもしれない。まだ決めていない」
「もう一つ問いがあるんですか」
「そうだ」
俺は少し考えた。
「聞かせてください」
守護者が、またしばらく沈黙した。それから言った。
「後方の者よ。お前は何のために後ろにいる。仲間のためか。仕事のためか。それとも他の理由があるか」
俺は少し考えた。
一週間前の夜を思い出した。王都を一人で歩いていた。行くあてがなかった。リナを拾って、翌朝ギルドに行った。Fランクからやり直した。クロエが来て、ミアが来て、フィンが来た。ガードが来た。
なぜ後方にいるのか。
問われたことがなかった。考えたこともなかった。ただ、荷物の管理をしていた。補給を計算していた。地形を把握していた。それだけをしていた。
「俺が答える前に」と俺は言った。「全員に聞いていいですか」
「許す」
俺は全員を見た。
「みなさんは、なぜ俺が後ろにいると思いますか」
全員が少し驚いた顔をした。
リナが最初に言った。「仲間を信じているからだと思います。全員が前に出られると、最初から思っていたから」
ガードが「補給食を出し続けるためだ。三年間、毎回そうだった」と言った。
クロエが「全員が最大限に動けるように、後ろで全部整えていた。それが仕事だから」と言った。
ミアが「守ってもらっているから、私たちが前に出られる。そのためにいると思います」と言った。
フィンが「……俺には分からない。ただ、この場所にいることは間違いじゃないと思っている」と言った。元リーダーが「フィンのそばにいてくれる人がいる。それだけ分かった」と言った。
全員が言った。
俺は全員を見た。それから守護者を見た。
「正確には、全員が帰ってきてほしいからです」
「それだけか」
「それだけです。全員が帰ってきたら、俺の補給食の計算が全部合っていたということになる。それが俺の仕事の完成です」
「仲間のためではなく、計算のためか」
「計算が合う、ということは、全員が帰ってきた、ということです。結果は同じです」
守護者が長い沈黙に入った。
空間が静かになった。
守護者の六つの目が、ゆっくりと閉じた。
それから開いた。
「通れ」
守護者の後ろの壁が、光とともに開いた。
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全員で通路に入った。
通路の先は、また違う空気だった。重さがない。深層の魔力密度が、ここだけ消えていた。
「何が違うんですか」とミアが言った。
「ここだけ、魔力がない」とクロエが言った。「逆に言えば、ここは外の空気に近い。なぜそうなっているのかは分かりません」
「これが守護者が守っていた場所ですか」とリナが言った。
「たぶんそうだと思います」と俺は言った。
通路の突き当たりに、小さな台座があった。台座の上に、何も置いていない。ただ、台座の表面がわずかに光っていた。
「何ですか、これは」とミアが言った。
「分かりません」
「守護者が守っていた力、ということですか」
「そうかもしれません」
「触ってみますか」とリナが言った。
「どうしましょうか」と俺は全員に聞いた。
「台座の周囲に罠はない」とフィンが言った。「俺が確認した」
「クロエさん、魔力の性質は分かりますか」
「調べてみます」
クロエが分析魔法をかけた。三十秒待った。
「……これは」
クロエが少し止まった。
「何ですか」
「この力は、攻撃型でも防御型でも、魔法型でもない。強いて言えば——支援型です。それも、非常に広範囲に影響するタイプの」
全員がクロエを見た。
「支援型」と俺は言った。
「はい。あなたのスキルと、同じ系統です」
誰も何も言わなかった。
「触れてみてください」とクロエが言った。「何かが変わるかもしれません。変わらないかもしれません。ただ、守護者があなたを通した。この台座は、あなたに触れてほしいと思っています」
俺は台座を見た。
荷物袋を下ろした。台座の前に置いた。
それから、手を伸ばした。
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台座の表面に触れた。
何かが、俺の中を通った。
温かい、というより——整う感覚だった。荷物の重心を正しい位置に戻すとき、これだという感覚があるが、それと似ていた。ただ、規模が全然違った。
体の中で何かが変わった。
同時に、全員が少し動いた。気づいていないかもしれないが、俺には分かった。リナが一歩前に踏み込む姿勢になった。クロエが手を上げた。ミアが盾を少し前に出した。フィンが周囲を確認する動作をした。ガードが剣の柄に手をかけた。元リーダーが、しっかりと壁から背を離した。
全員が、少し軽くなったように見えた。
「……今、何かを感じましたか」と俺は全員に聞いた。
「体が軽くなった気がします」とリナが言った。
「魔力の通りが良くなりました」とクロエが言った。「スキルが強化されたようです」
ミアが「盾が、軽く感じます」と言った。フィンが「周囲の把握が、さっきより精確になった」と言った。ガードが「……体の重さが、深層に入る前に戻った気がする」と言った。
「……何か感じましたか」とクロエが俺に聞いた。
「分かりません。整った、という感覚がありました」
「スキルが変化した可能性があります。後で鑑定を受けてください」
「分かりました」
「それより」とリナが言った。「今、荷物袋を下ろしたのに、なんで置いたんですか」
「距離が近い方が、さっきのように何か動くかと思いました」
「……さっきの封印の扉のことを、まだ考えているんですか」
「参考になるので」
リナが「もう」と言って笑った。
元リーダーが「……この人は本当に、いつも荷物のことを考えているんですか」と言った。
「そうです」とフィンが言った。
「フィンの仲間は、やっぱり変わっている」
「そうですね」とフィンが言った。少し口元が動いていた。
「帰りましょう」と俺は言った。「全員、体力の確認をしてください。今日の補給の残量を伝えます」
全員が頷いた。
七人で、来た道を戻った。
廊下を歩きながら、俺は手帳を開いた。
「守護者に問いかけられた。なぜ後方にいるか」
「全員が答えてくれた」
「台座に触れた。全員の体が軽くなった」
書いた。それから少し考えて、一行加えた。
「俺が後方にいる理由——全員が帰ってきたとき、計算が合う」
書いてから、少し読み返した。
一週間前には書けなかった言葉だ。一週間前は、行くあてがなかった。補給の計算をする相手がいなかった。
今は七人分の計算がある。
それが俺の居場所だ。
ガードが横に来た。
「一つ聞いていいか」
「どうぞ」
「守護者の前で、俺が言ったことは正確だったか」
「何を言ったか、ですか」
「補給食を出してきたから、間違いに気づいた、と言った。それは正確か」
俺は少し考えた。
「正確だと思います」
「間違いを認める理由が、補給食でよかったのか」
「理由は何でもいいと思っています。気づいたことが大事なので」
ガードが「……そういうことを言う人間だな、お前は」と言った。
「そうですか」
「三年前も、そういう人間だったか」
「たぶん、そうでした」
「俺が気づかなかっただけか」
「そうかもしれません」
ガードが少し黙った。
「次の依頼が終わったら、俺はどうする」
「どうするか、というのは」
「銀の牙に戻るか、ここに残るか」
「ガードさんが決めることです」
「お前は何と言う」
俺は少し考えた。
「断る理由がないなら、残ってください」
「……それだけか」
「腹が減ったとき、補給食を出します」
ガードが「そうか」と言った。少し前を向いた。
「考える」
「どうぞ」
七人で、廃坑を出た。
夕方の光が、入口から差し込んでいた。




