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お荷物と言われた俺、気づいたらパーティ全員を最強にしていた件〜負けヒロインたちが俺のそばでだけ無双するんですが〜  作者: あおしぃ


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第16話「守護者との戦いで、セルは補給食を作っていた」

 扉の向こうは、別の世界だった。


 廊下が続いていたが、石の色が違った。黒みがかった岩で、表面に模様のようなものが刻まれている。天井が高い。三十メートル以上あるかもしれない。そして空気が、深層とも違う密度を持っていた。魔力が、圧力のように感じられる。


 「重い」とリナが言った。


 「空気が、ですか」


 「体が、です。少しだけ」


 「補給を早めに取ります。今日は三十分おきに休憩を入れます」


 「いつもより短い」


 「ここの魔力密度は想定より高いです。体力の消耗が早い可能性があります」


 ガードが「俺も感じる」と言った。「体が重い、というより——感覚が鈍る」


 「魔力過多の症状です」とクロエが言った。「長時間いると判断力が落ちることがあります。定期的に換気をした方がいい。ただし、この深さでは換気できないので——補給で対処するしかない」


 「そうですね。補給食に、魔力干渉を和らげる効果のある薬草を混ぜてあります。今日から三十分おきに食べてください」


 「そこまで考えていたんですか」とミアが言った。


 「昨夜計算しました」


 全員が頷いた。


 フィンが先行して廊下を確認した。


 五分後に戻ってきた。


 「百メートル先に開けた場所がある。大きい空間だ。そこに人間の匂いが強くなっている」


 「他の匂いは」


 「別の匂いも強くなっている。生き物だが、これまでの魔物とは違う種類だ」


 「守護者、ということですか」


 「分からない。ただ、あの空間に何かがいる」


 俺は補給の最終確認をした。


 「行きます」


---


 開けた空間は、巨大だった。


 直径五十メートル以上ある円形の空間だ。天井は見えない。中央に、石の台座がある。台座の上に、何かが座っていた。


 最初は石像だと思った。


 動いた。


 体長四メートル。人型に近いが、四本腕がある。目が四つある。体が岩のような素材でできているが、動く。ゆっくりと、こちらを向いた。


 全員が武器を構えた。


 「待て」とフィンが言った。「左の壁の陰に人間がいる」


 全員が左を見た。


 壁際に、人間が一人いた。倒れているというより、座り込んでいた。意識があるのか分からない。装備は傷んでいて、顔色が悪い。


 「生きていますか」とミアが言った。


 「匂いからすると、生きている」とフィンが言った。「ただ、衰弱している」


 「フィンさんの元リーダーですか」


 フィンが少し間を置いた。


 「……そうだ」


 中央の石像が動き始めた。


 「後のことは後で。今はあれに集中します」


---


 守護者が動き始めた瞬間、俺は全員に指示を出した。


 「ガードさんとリナさんが正面を引きつけてください。クロエさんは側面から支援魔法。ミアさんは壁際の人間の前に立って守ってください。フィンさんは上から全体を把握して、位置を伝えてください。俺は後方で補給を管理します」


 全員が動いた。


 ガードが前に出た。守護者の右腕が振り下ろされた。ガードが剣で受けた。弾かれた。ガードが五メートル後退したが、倒れなかった。


 「硬い」とガードが言った。「剣が効いていない」


 「クロエさん、弱点を分析できますか」


 「やってみます」


 クロエが詠唱を始めた。分析魔法だ。三十秒かかる。その間、ガードとリナが守護者を引きつけた。


 引きつける、というのは言葉で言うほど簡単ではない。守護者の四本の腕が全方位に動く。その全部を読みながら、倒れずにいる必要がある。ガードは剣で受け、リナは跳んで避けた。二人が阿吽の呼吸で動いていた。前半では一緒に動いたことがなかった二人が、今日初めて並んで戦っていた。


 「呼吸が合っています」とフィンが言った。


 「そうですか」と俺は言った。


 「ガードとリナが、同じタイミングで動いている。自然に連携している」


 「二人の重心の取り方が似ているので、動きのリズムが合いやすいと思っていました」


 「そこまで見ていたのか」


 「荷物の整理をしながら確認していました」


 クロエの分析が完了した。


 「下段に隙間があります。守護者の岩の素材は上半身が硬く、下半身との接合部分が柔らかい。下から攻撃を入れれば、動きを止められます」


 「リナさん」


 「聞こえています」とリナが言った。跳んで避けながら答えた。


 「下段に入れられますか」


 「入れます。ただし、上を引きつけてほしい」


 「ガードさん、お願いします」


 ガードが「分かった」と言って、守護者の正面から攻めた。守護者の視線がガードに向いた。


 リナが走った。一気に近づいて、下段に入った。剣が、守護者の下部に刺さった。守護者が動きを止めた。一秒だけ。


 「クロエさん、今です」


 「——零点結氷」


 守護者の下半身が凍った。動きが止まった。


 「ミアさん、後ろの人間を守りながら壁際まで下がってください」


 ミアが「はい」と言って動いた。壁際の人間の前に盾を構えながら、二人まとめて下がった。一度も止まらなかった。迷わなかった。前に出ることを恐れていたミアが、今日は自分から盾を構えて前に出た。


 フィンが「右上から何かが来る」と告げた。


 守護者の上部から、岩のような塊が飛んできた。俺は右に跳んだ。荷物が壁に当たった。ずれた。直した。


 「当たりましたか」とリナが言った。


 「荷物が壁に当たりました。中身は確認中です」


 「人間の話をしています」


 「俺のことであれば問題ありません」


 リナが「もう」と言いながら別の攻撃に向かった。


---


 凍結が解けるまで、三分あった。


 俺はその間に補給食を作った。


 荷物袋から乾燥食材を取り出した。水を少量使って、素早く戻した。火はない。だから、昨夜のうちに一部を煮て固めておいた。軟らかい固形食だ。食べやすくて、素早く栄養になる。三週間補給なしでいた人間のことを想定して作った。


 全員に水と食料を渡した。三十分経っていなかったが、今日の消耗は早い。


 「食べながら動いてください」と言った。


 「食べながら戦えますか」とガードが言った。


 「できる範囲でいいです。少し口に入れるだけでいい」


 ガードが「……お前は本当に」と言って、補給食を受け取った。それを口に入れながら、守護者の様子を確認した。


 「旨いな」とガードが言った。


 「そうですか」


 「戦闘中に旨い食い物が出てきたのは、初めてだ」


 「補給食が旨くないと、食べる気にならないので」


 ガードが「そういうことを、当たり前のようにやっているんだな」と言った。


 「そういう仕事なので」


 「……三年間、毎回か」


 「毎回です」


 ガードが「そうか」と言って、守護者の方を向いた。


 ミアが壁際で、壁際の人間に水を飲ませていた。人間が少し動いた。意識が戻りかけているらしかった。


 「大丈夫ですか」とミアが言った。


 人間が目を開けた。


 フィンを見た。


 フィンが壁際に立っていた。二人の目が合った。


 「……フィン」と人間が言った。かすれた声だった。


 「久しぶりだ」とフィンが言った。感情がない声だった。


 「すまない」


 「今は話すな」とフィンが言った。「体力を使うな。後で話す」


 人間が目を閉じた。


 凍結が解け始めた。


---


 守護者が動き始めた。


 今度は違う動きだった。四本の腕を同時に動かして、全方位に攻撃しようとしていた。ガードとリナが正面で受けながら、少しずつ後退した。


 「下段の隙間、まだありますか」


 「ある」とリナが言った。「でも近づけない。今は全方位に腕が来ている」


 「フィンさん、隙間を作れますか」


 「何秒必要だ」


 「リナさん、何秒ですか」


 「一秒半あれば入れます」


 「一秒半、腕が止まる隙間があれば」


 フィンが「作れる。ただし、一度しか使えない方法だ」と言った。


 「それで十分です」


 フィンが動いた。廊下の暗い部分から、守護者の目に向けて何かを投げた。砂か、細かい石か、俺には見えなかった。守護者の四つの目が、一瞬だけ反応した。


 四本の腕が、止まった。


 「今です」とフィンが言った。


 リナが走った。


 一秒半で、下段に入った。剣が深く刺さった。守護者が動きを止めた。


 「クロエさん」


 「——第二凍結」


 今度は、守護者全体が凍った。


 完全凍結だった。


---


 静かになった。


 全員が息を整えていた。


 守護者は凍ったまま動かなかった。完全凍結はしばらく持続する。それが解ければまた動き始めるかもしれないが、今は静かだった。


 俺は全員に補給食を配った。


 今度は全員がしっかり食べた。


 壁際の人間がまた目を開けた。ミアが水を渡した。少しずつ飲んでいた。


 フィンがその人間の前に立った。


 二人が見つめ合った。しばらく、誰も何も言わなかった。


 俺は少し距離を置いて、補給食の準備をした。二人の時間の邪魔をしないために。


 「生きていたか」


 「……ああ」


 「何があった」


 「守護者に、止められた。戦えなかった。逃げようとしたが、扉が開かなかった。ここで三週間、待っていた」


 「なぜ死ななかった」


 「水が壁から滲み出ていた。それだけで持ちこたえた。それと——」


 人間が少し間を置いた。


 「扉が開くと思っていた。誰かが来ると思っていた。もし来るとすれば、フィン、お前しかいないと思っていた」


 「なぜ俺が来ると思った」


 「……俺がお前に何をしたか、俺が一番分かっている。それでも来るとしたら、お前しかいないと思った」


 「俺を信用していたのか」


 「信用ではない。ただ、フィンなら確認しに来ると思っていた。見捨てたまま終わらせない人間だと」


 フィンが少し黙った。


 「分かっているか、俺が何をしたかを」と人間が言った。「俺はお前の情報を売った」


 「分かっている」


 「それでも来たのか」


 「確認したかったので来た」


 「何を確認しに」


 フィンが少し間を置いた。


 「……お前が生きているかどうかを、だ」


 人間が目を閉じた。


 何も言わなかった。しばらくして、小さく「……ありがとう」と言った。


 フィンが「礼は言うな」と言った。「まだ何も終わっていない」


 俺はフィンの隣に来て、補給食を人間に差し出した。


 「食べられますか」


 人間が目を開けた。俺を見た。


 「……誰だ」


 「セルといいます。荷物持ちです。腹が減っていますか」


 人間が俺を見た。フィンを見た。また俺を見た。


 「……この人は何だ」


 「セルさんは、荷物持ちです」とフィンが言った。


 「荷物持ちが、なんでここにいる」


 「腹が減った人間に食わせるのが仕事なので」


 人間がしばらく黙った。それから、小さく「……ありがとう」と言って、補給食を受け取った。


---


 守護者の凍結が、少し解け始めた。


 ひびが入った。


 「動き始めるかもしれません」と俺は言った。


 全員が守護者を見た。


 ひびが広がった。凍結が解ける。また戦わなければならない。体力は消耗している。ただ、補給は取った。問題ない。


 ところが。


 守護者が動かなかった。


 凍結が解けたのに、動かなかった。


 全員が見ていた。


 守護者が、こちらを向いた。四つの目が、ゆっくりと動いた。全員を見て——俺を見た。


 「後方の者よ」


 声があった。岩が動くような低い声だった。言葉として聞こえていたが、口が動いているわけではなかった。声が、空間全体から来ていた。


 「なぜそこにいる」


 全員が静かになった。


 守護者が俺を見ていた。戦うつもりはない、という雰囲気があった。少なくとも今は。


 リナが剣を構えたまま言った。「セルさんに話しかけているんですか」


 守護者が答えなかった。


 クロエが「守護者が俺たちに問いかけているのではなく、セルさんに問いかけている」と言った。「スキルが反応しているんですか」


 「分かりません」と俺は言った。


 「後方の者よ」と守護者がまた言った。「なぜそこにいる。前に出ないのか」


 全員が俺を見た。


 俺は守護者を見た。


 「仲間を帰すためです」


 守護者が、沈黙した。


 長い沈黙だった。


 全員が息を飲んでいた。


 守護者の四つの目が、俺を見続けていた。それから、ゆっくりと、後ろを向いた。


 「……通れ」


 それだけ言って、守護者は動かなくなった。


 誰も何も言わなかった。


 俺は荷物を確認した。守護者との戦闘で、少しずれていた。直した。


 「行きます」と俺は言った。「先に進めます」


 リナが「……今のは何でしたか」と言った。


 「守護者に問いかけられました」


 「答えたら通してくれたんですか」


 「そうですね」


 「それだけですか」


 「それだけです」


 リナが「もう」と言って、剣を鞘に収めた。


 クロエが手帳に書き込んでいた。書く量が今日一番多かった。


 フィンの元リーダーが、壁際からゆっくり立ち上がろうとしていた。ミアが手を貸した。「急がなくていいです」と言った。


 「向こうに何があるんですか」と元リーダーが言った。


 「分かりません。これから確認します」


 「守護者が通してくれた、ということは——」


 「行ってみれば分かります」と俺は言った。


 「あなたが荷物持ちですか」


 「そうです」


 「荷物持ちが、守護者に通してもらったんですか」


 「今日はそうでした」


 元リーダーが俺を見た。それからフィンを見た。


 「フィンの仲間は、変わった人間ばかりだな」


 「そうかもしれません」


 「……よろしくお願いします。帰るまで、一緒に連れていってください」


 「断る理由がないので」


 六人と一人で、先に進んだ。

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