↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お荷物と言われた俺、気づいたらパーティ全員を最強にしていた件〜負けヒロインたちが俺のそばでだけ無双するんですが〜  作者: あおしぃ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
13/18

第13話「深層の手前で、リナは立ち止まった」

 隠し通路の開け方が分かったのは、三日後だった。


 クロエが石の構造を魔法で分析して、フィンが触れるべき位置を特定した。特定の石を決まった順序で押すと、壁が開く仕組みだった。百年前の採掘技術で作られた機構らしく、魔法的な仕掛けではなく純粋に物理的な構造だった。


 「複雑ですが、シンプルです」とクロエが言った。「理論的には、正しい順序を覚えれば誰でも開けられます」


 「開け方を全員で共有しておきましょう。俺が倒れたときのために」


 「縁起でもないことを言わないでください」とリナが言った。


 「万が一の想定です。後方支援の仕事です」


 リナが「……分かりました」と言って、手帳にメモを取った。全員が取った。ガードも取った。


 翌日、六人でダンジョンへ向かった。


---


 上層と中層は、前回より速かった。


 フィンが道順を完全に把握していて、クロエが魔物の位置を魔法で確認した。リナとガードが前衛で処理して、ミアが後衛を守った。俺は補給と重心管理をした。


 中層の中盤で、隠し通路を開けた。


 クロエが順序通りに石を押すと、壁の一部が内側に引っ込んだ。空洞が現れた。幅二メートル、高さ一メートル半ほどの通路だ。中からは、冷たい空気と、ほんの少し違う匂いが来た。


 「これが深層への経路ですか」とミアが言った。


 「たぶん。ただ、深層が通常の経路と繋がっているかどうかは分かりません。今から確認します」


 通路に入った。


 百メートルほど進むと、開けた空間に出た。


 そこは、通常の深層の入口だった。六人全員で確認した。深層の入口に、隠し通路が繋がっていた。第四のパーティは、通常経路から深層に入ったはずだ。隠し通路がショートカットになっていた。


 「消えたパーティも、ここから来たはずですか」とクロエが言った。


 「それは分かりません。ただ、この通路を使えば深層に早く着きます。体力を温存できます」


 「行きますか」とリナが言った。


 「今日は、深層の入口から少しだけ入って、様子を確認して戻ります。全力で行くのは次回以降にします」


 リナが「物足りないですね」と言った。でも頷いた。


---


 深層の入口を五十メートルほど進んだとき、変わった。


 空気の質が変わった。中層とも上層とも違う。もっと濃い、もっと重い。魔力が高密度で空間に充満しているような感覚だった。


 全員が自然に足を遅くした。


 「ここです」とフィンが言った。「五年前、エリックさんたちが感じた匂いの変化は、これだと思います」


 「あなたは来たことがないのに分かるんですか」とミアが聞いた。


 「あの老人の話と一致している。ここが境界だ」


 俺は荷物を確認した。


 やはり、引っ張るような感覚があった。外側からではなく、今度は内側から。何かが俺の方に引き寄せられているような。


 「今日はここまでにして戻ります」


 「もう少し行けませんか」とリナが言った。


 「今日は確認だけです。五十メートル入った。情報は取れました。今日の目的は達成しました」


 「……分かりました」


 六人で引き返した。


---


 翌日、全員で情報を整理した。


 クロエが深層の魔力密度を計算した。上層の三十倍以上の魔力が充満しているという結果が出た。「これは、誰かが意図的に魔力を集めているか、もともとそういう性質の場所だということです」と言った。


 フィンが「採掘中に何かを掘り当てた、という話があった。その何かが魔力の源だとしたら」と言った。


 「それが守護者、ということですか」とミアが言った。


 「守護者、という言葉は使っていない。ただ、何かがあの場所を管理している可能性は高い」


 ガードが「Sランクの俺でも、あの密度の魔力の中では動きが落ちる可能性がある」と言った。「体に影響が出るかどうかは、実際に入ってみないと分からないが」


 俺は全員の話を聞きながら、補給の計算をやり直した。


 魔力密度が高い場所では、疲労が加速する可能性がある。通常の計算より多めに補給を用意する必要がある。深層に入る時間を三時間と想定して、必要な水と食料と薬液の量を計算した。


 「明後日、深層に本格的に入ります」と俺は言った。「今日と明日で補給を揃えます」


 全員が頷いた。


 「フィンさん」


 「なんだ」


 「消息を絶ったパーティのリーダー——今も生きている可能性はありますか」


 フィンが少し間を置いた。


 「……分からない。ただ、第四のパーティが消えて三週間が経つ。三週間、補給なしで深層にいた場合、生存している可能性は低い」


 「それでも、確認したいですか」


 「したい」


 フィンの声は平静だった。感情的ではなかった。ただ、確かだった。


 「分かりました。確認しに行きます」


 フィンが俺を見た。


 「……なぜそんなに簡単に言えるんだ」


 「断る理由がないので」


 「理由はそれだけか」


 俺は少し考えた。


 「フィンさんが確認したいと言ったので、俺は後ろで補給をします。それだけです」


 フィンが「そうか」と言って、前を向いた。


---


 明後日の朝、六人で廃坑に入った。


 上層と中層を通過して、隠し通路で深層の入口まで来た。入口の前で、全員の荷物を確認した。今日の補給は通常の一・五倍だ。荷物が重い。ただ、重心を正確に整えれば、重さは動きの妨げにはならない。六人分確認して、全部整えた。


 入口の前で少し止まった。


 「準備はいいですか」と全員に聞いた。


 「いい」とガードが言った。クロエが頷いた。ミアが「行けます」と言った。フィンが「問題ない」と言った。


 リナが少し間を置いた。


 「……行けます」


 「リナさん」


 「何ですか」


 「何かありますか」


 リナが前を向いた。


 「ありません。行きましょう」


 俺は何も言わなかった。


 ただ、「行けます」という返事が、いつもと少し違ったことは分かっていた。いつものリナなら「行きます」と即答する。今日は「行けます」と少し遅れて言った。「行ける」と自分に言い聞かせている響きがあった。


 気にはなった。ただ、聞いて答えてもらえなかった以上、今は動くしかない。深層に入れば、何が起きているかが分かる。


 六人で入口を抜けた。


---


 深層に入った。


 五十メートルより先は、初めてだった。


 空気が重かった。足が少しだけ重くなる感覚がある。体が感じる疲労が、通常より早いかもしれない。俺は補給のタイミングを早めに取ることにした。


 百メートル進んだとき、魔物が出た。


 上層や中層とは種類が違った。体が大きく、動きが速い。何より、目が違った。知性がある目だった。ただの魔物ではなく、何か別の意思を持った生物のように見えた。


 ガードとリナが前衛に出た。


 ガードが一体を引きつけた。リナが別の一体に向かった。


 リナの剣が走った。


 当たった。ただ、倒れなかった。


 魔物が反撃した。速かった。リナが受けた。剣で受けたが、勢いで後退した。


 「リナさん」と俺は言った。「全力で」


 「……」


 「全力で行っていいです」


 リナが止まった。


 魔物が追ってきた。リナが剣を構えた。手が少し震えていた。


 「リナさん」


 「……怖い」


 「何が」


 「全力で行って、また迷惑をかけたら——」


 俺は少し考えた。


 今この場面で、長い言葉は使えない。あと数秒で魔物が来る。リナが動けなければ、ガードが二体を相手にしなければならない。それはガードには可能だが、リナに問題がある。


 一つだけ、正確なことを言う。


 「今の俺たちに、リナさんの全力が迷惑になる余地はありません」


 リナが俺を見た。


 「根拠は」


 「全員が正しい位置にいます。クロエさんが後方から支援できます。ミアさんが後衛を守っています。フィンさんが全員の位置を把握しています。俺が補給を管理しています。ガードさんが一体を引きつけています。誰もリナさんの全力の邪魔をする位置にいません」


 リナが全員を見た。


 クロエが頷いた。ミアが「行って」と言った。フィンが「俺は後ろを見る」と言った。ガードが引きつけながら「行け」と言った。


 リナが前を向いた。


 剣を上げた。


 走った。


 今まで見た中で、最も速かった。


 魔物との距離が一瞬で消えた。剣が振り下ろされた。魔物が倒れた。


 声がなかった。ただ、静かに倒れた。


 リナが止まった。息が荒い。手が震えている。でも、目が澄んでいた。


---


 俺はリナのところへ行った。


 補給食と水を出した。


 「座ってください。少し休みます」


 「……大丈夫です」


 「座ってください」


 リナが座った。水を飲んだ。


 しばらく黙っていた。


 「怖かったです」


 「そうですか」


 「全力を出すのが、こんなに怖いとは思わなかった。今まで全力を出してきたと思っていたけど、本当の全力じゃなかった」


 「今日は本当の全力でしたか」


 「……たぶん、そうです。初めて、怖いと思いながら出しました」


 俺はリナを見た。


 「今日、出して、どうでしたか」


 リナが少し考えた。


 「……誰も迷惑そうじゃなかった」


 「そうですね」


 「みんな、普通に動いていた」


 「そうですね」


 「……バカみたい。ずっと我慢していたのに、普通だった」


 「我慢していたことは、バカじゃないと思います。ただ、ここでは出せます」


 リナが俺を見た。


 「ここでは、というのは」


 「このパーティでは、という意味です」


 リナが少し下を向いた。それから顔を上げた。目が赤かった。泣いているのか、深層の魔力で目が充血しているのか、判断できなかった。


 「……ありがとうございます」


 「いえ」


 「今日、一緒に来てくれて」


 「断る理由がなかったので」


 リナが「もう、そういうことを言わないでください」と言った。声が少し笑っていた。


 「分かりました。いたいと思っているので、来ました」


 リナが「そうです、それです」と言った。今度は確かに笑っていた。


 クロエが俺たちの様子を見ていた。遠くから、静かに。眼鏡を磨いていた。目が少し赤い気がしたが、今は指摘しないことにした。


 ミアが「……リナさん、すごかったです」と言った。「わたしは盾を持っていても、あんなに速く動けない」


 「ミアさんは盾で全員を守っていました。それが今日の動きを可能にしていました」


 ミアが「わたしが」と言って、少し止まった。


 「そうです。ミアさんが後衛を守ってくれたから、リナさんが前に集中できました」


 ミアが盾を見た。小さな手で、大きな盾の縁を持っていた。


 「守れた、ということですか」


 「守れました」


 ミアが少し息を吐いた。それから「じゃあ、明日も守ります」と言った。昨日までの「守れますか」ではなかった。


---


 深層を二百メートル進んで、今日は引き返した。


 帰り道、ガードが俺に並んだ。


 「リナに何を言ったんだ」


 「全力が迷惑になる余地はない、と言いました」


 「それだけで、あの速さになったのか」


 「あの速さはリナさんの力です。俺は状況を説明しただけです」


 ガードが少し間を置いた。


 「……お前は、戦士に怖いと言わせる」


 「怖いと思うことは、おかしくないので」


 「俺は、怖いと言ったことがない」


 「そうですか」


 「怖いと言う必要がなかった、と思っていた。ただ——」


 「ただ?」


 「今日のリナを見て、怖いと言える方が強いかもしれない、と思った」


 俺はガードを見た。


 「ガードさんにも、怖いものがありますか」


 ガードが少し間を置いた。


 「ある」


 「何が怖いですか」


 「……仲間を守れないことが、怖い」


 俺は少し考えた。


 「それは、推薦したメンバーが消息を絶ったことと関係がありますか」


 「……そうかもしれない」


 「守れなかった、と思っているんですか」


 「思っている」


 「ガードさん」


 「なんだ」


 「それも、今日のリナと同じかもしれません。怖いと言える方が、前に進めます」


 ガードが黙った。長く黙った。


 廊下の向こうで、リナが振り返った。


 「二人とも、何をしてるんですか。遅いですよ」


 「今行きます」と俺は言った。


 ガードが前を向いた。歩き始めた。


 「……明日も来るか」


 「断る理由がなければ」


 ガードが「そうか」と言った。


 一歩、前に踏み出した。


 俺はその一歩を見た。


 ガードは三年間、何も怖くないように振る舞っていた。怖いと言う必要がなかった、と言った。それは正確には「怖いと言う機会がなかった」かもしれない。あるいは「怖いと言ったとき、聞いてくれる人間がいなかった」かもしれない。


 俺には判断できなかった。


 ただ、今日ガードが「仲間を守れないことが怖い」と言ったのは聞こえた。それを聞いた人間がここにいる。それだけでいい。


 手帳を開いた。


 「リナ——怖いと言いながら、全力を出した。全力が誰の迷惑にもならなかった。本人が気づいた」


 「ガード——仲間を守れないことが怖いと言った。それが前に踏み出す理由になった」


 二行書いた。


 それから一行加えた。


 「明日も来る」


 フィンが後ろから「遅い」と言った。


 「今行きます」と俺は言って、歩き始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。