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お荷物と言われた俺、気づいたらパーティ全員を最強にしていた件〜負けヒロインたちが俺のそばでだけ無双するんですが〜  作者: あおしぃ


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第12話「ダンジョン中層、仕掛けトラップ、そしてガードは俺を見ていた」

 廃坑ダンジョンの依頼告示が再開したのは、十一話から四日後だった。


 ナハトからの内部通達で先に知らされた。「正式な告示は明日の朝。受付は先着順。ただし、推薦状を持つパーティが優先される」とのことだった。


 俺はナハトに前日に推薦状を頼んでいた。準備できることは早めにしておく。それが後方支援の仕事だ。


 「明日、受付します」と五人に伝えた。


 リナが「準備はできています」と言った。クロエが「地図帳の最新版を整理しました」と言った。ミアが「盾の整備、三回やりました」と言った。フィンが「上層と中層の情報は全部頭に入っている」と言った。


 「ガードさんは」と俺は聞いた。


 「昨日、装備を全部確認した」とガードが言った。


 六人が揃っていた。


---


 朝の受付が終わると、俺たちの他に二組が同じ依頼を受けていた。どちらも熟練のAランク以上だ。話した感じでは、中層までの探索が目標らしかった。深層まで行くつもりのパーティは、俺たちだけだった。


 「そこまで行くのか」と一方のパーティリーダーが言った。


 「行けるところまで行きます」と俺は言った。


 「第四パーティのこともあるだろう。深層は今、何があるか分からない」


 「そうですね。分からないので、行って確認します」


 リーダーが俺を見た。それからリナを見た。それから荷物袋を三つ背負っている俺を見た。


 「……荷物持ちが一緒なのか」


 「そうです」


 「変わったパーティだな」


 「そうですか」


 リーダーが「まあ、気をつけて」と言って、自分のパーティのところへ戻った。


---


 廃坑の入口は、王都から二時間の場所にあった。


 石造りのアーチ型の入口で、中から冷たい空気が漏れていた。岩の匂い、土の匂い、それと何か別の匂いが混じっていた。何かとは言えないが、鉱山特有のものだと思った。


 入口の前で、俺は全員の荷物を確認した。


 一人ずつ、重心の位置、紐の締め方、緊急時の取り出しやすさを確認して直した。六人分かかった。ガードが自分の番になったとき、少し固まった。


 「荷物を見てもいいですか」


 「……俺のも、か」


 「全員確認します」


 ガードが荷物を差し出した。中を見た。整然としていた。ガードは元から荷物の管理をある程度やっていたらしい。ただ、一箇所だけ直した。剣の予備の砥石が、一番奥に入っていた。緊急時に取り出すのが難しい位置だ。手前に移した。


 「砥石を前に出しました。万が一のとき、取り出しやすい方がいいので」


 ガードが自分の荷物を見た。


 「……それだけで変わるか」


 「変わります。重心も少し前になりました」


 ガードが荷物を背負って、少し動いた。


 「……確かに」


 何も言わなかった。ただ、少し頷いた。


 俺は次の人の確認に移った。


---


 上層は想定通りだった。


 フィンが先行して全ての魔物の配置を把握してきた。リナとガードが前衛で処理して、クロエが支援魔法をかけて、ミアが後衛を守った。俺は補給と地形の管理をした。


 上層を抜けるのに一時間かかった。


 中層に入ったところで、フィンが止まった。


 「罠がある」


 「どこですか」


 「三歩先、左の壁の石が浮いている。踏むか、触れると何かが起動する。石の下に金属の反応がある。古いトラップだ」


 「処理できますか」


 「金属線を切れば止まる。ただ、処理中は動けない。その間の警戒が必要だ」


 俺は地形を確認した。中層の廊下は狭い。フィンが処理している間、前後から来られると困る。


 「ガードさん、前方をお願いできますか。リナさんは後方。クロエさんはフィンさんの横で詠唱の準備だけしておいてください。ミアさん、クロエさんの前に立ってください」


 全員が動いた。フィンが処理を始めた。


 俺は荷物の紐を少し調整した。廊下が狭いので、荷物が壁に当たらないようにする必要がある。左右の余裕を計算して、重心を少し内側に移した。


 二分で処理が終わった。


 「終わった」とフィンが言った。「先に進める」


 全員が前に進んだ。


 ガードが俺の隣に並んで歩いた。


 「今、何をしていた」


 「荷物の重心調整です。廊下が狭いので」


 「処理が終わる前からやっていたな」


 「そうです。処理中に何か起きたとき、すぐ動けるようにしておきたかったので」


 ガードが少し間を置いた。


 「……先を読んでいるのか」


 「状況の変化を想定しているだけです。先を読むというより、起きる前に準備するというか」


 「それを、毎回やっているのか」


 「毎回です」


 ガードが黙った。しばらく歩いてから、また言った。


 「三年間、気づかなかった」


 「そうですね」


 「俺は、お前が何をしているか、一度も確認しなかった」


 「確認する必要がある、と思わなかっただけだと思います」


 「……それが問題だったということは、今は分かっている」


 俺はガードを見た。今日で何度目かの「間違いを認めている顔」だった。ガードはそれを繰り返している。繰り返すことで、自分の中で何かを整理しているのかもしれない。


 「俺には分かりません。ただ、今ここにいて、一緒に動いているので、それで十分だと思っています」


 ガードが少し止まった。


 「お前は、俺を恨んでいないのか」


 「恨んでいません。ただ——」


 「ただ?」


 「ガードさんが、補給を必要としているときに俺が近くにいれば、補給します。ガードさんが荷物で困っているときに俺が近くにいれば、直します。それだけです」


 「それは、恨んでいない証拠か」


 「俺にとっての、一緒にいる証拠です」


 ガードが俺を見た。それから前を向いた。


 「……そうか」


 それだけ言って、歩き続けた。


---


 中層の半分を進んだところで、異変があった。


 フィンが急に止まった。


 「……待て」


 全員が止まった。


 「何ですか」と俺が聞いた。


 「匂いが、変わった」


 エリックが言っていた言葉と同じだった。中層の手前で匂いが変わった、と。


 「どんな匂いですか」


 「……分からない。ただ、さっきまでと違う。生き物の匂いじゃない」


 ガードが周囲を見た。リナが剣の柄に手をかけた。クロエが眼鏡を外した。ミアが盾を構えた。


 俺は荷物を確認した。


 このダンジョンに入ってから十数回、荷物の重心を調整してきた。意識してやっている部分と、無意識にやっている部分が混ざっている。


 今この瞬間も、右肩の荷物が少しずれているのを感じていた。直そうとして、手を止めた。


 待って。


 これは、いつものずれとは違う。


 荷物の重さが、変わっていない。なのに重心がずれた感覚がある。荷物の外側から、何かが引っ張るような感覚だった。


 「少し待ってください」


 「何だ」とガードが聞いた。


 「今、荷物に何かを感じています。うまく言えないですが、外側から何かが当たっているような」


 「魔力か」


 「分かりません。ただ、いつもとは違います」


 フィンが「俺も感じた。さっきから左の壁が気になる」と言った。


 俺は左の壁を見た。何もない、ように見えた。ただ、石の並び方が、他の場所と微妙に違う。


 「フィンさん、壁を近くで確認してもらえますか」


 フィンが壁に近づいた。一分ほど確認した。


 「……石の裏に空洞がある。相当広い」


 「隠し通路、ということですか」


 「たぶん。ただし、今は開く方法が分からない」


 俺は地図を確認した。ここは中層の中盤だ。エリックの話では、深層の手前で匂いが変わったと言っていた。ここはまだ中層の中盤のはずなのに、匂いが変わっている。


 「先を急ぐより、ここで情報を集めた方がいいですか」とクロエが言った。「理論的には、今日は中層の把握を優先すべきかもしれません」


 「そうですね」と俺は言った。「今日はここまでにして、戻ります」


 「もう少し進まなくていいのか」とガードが言った。


 「情報を持ち帰る方が、次に生きます。今日無理をする必要はないです」


 ガードが少し考えた。


 「……分かった」


 リナが「物足りないですが、そうですね」と言った。


 俺たちは来た道を戻り始めた。


---


 入口まで戻ったとき、他の二組がまだ上層にいた。俺たちが中層まで進んで戻ってきたことを伝えると、一組のリーダーが「中層まで行ったのか」と驚いた。


 「はい」


 「何があった」


 「中盤で匂いの変化と隠し通路の可能性を確認しました。今日はそこまでにして戻りました」


 「隠し通路」


 「まだ開け方が分かりません。調べてきます」


 リーダーが俺を見た。


 「あんたたちは、本当に変わったパーティだな」


 「そうですか」


 「普通、中層まで行ったら深層まで押しきろうとする。戻るという判断ができる冒険者は少ない」


 「今日の目的は情報収集でした。目的は達成したので」


 「……荷物持ちが判断したのか」


 「俺が判断しましたが、全員が同意しました」


 リーダーが「荷物持ちが指示を出して、全員が動く」と呟いた。それから「そういうパーティか」と言って、自分のメンバーのところへ戻った。


 帰り道、ガードが俺の隣を歩いた。


 「一つ聞いていいか」


 「どうぞ」


 「今日、中層で俺が前方を確認していたとき、お前は俺の後ろで何をしていたか知っているか」


 「補給の管理と地形の確認をしていました」


 「それだけか」


 「あとは、全員の荷物と動きを確認していました」


 「全員の、というのは俺も含めてか」


 「そうです」


 ガードが少し間を置いた。


 「……ガルト——銀の牙のメンバーが言っていた。セルがいると、なぜか動きやすい、と。三年間ずっとそう言っていた。俺は測定できないから無視した」


 「そうでしたね」


 「今日、少し分かった気がした」


 「何が分かりましたか」


 「お前がいると、後ろが気にならない」


 俺はガードを見た。


 「後ろが気にならない、とは」


 「前衛は前に集中したい。でも、後ろのことを完全に無視はできない。補給が尽きていないか、味方が追い詰められていないか、常に頭の端にある。それが、今日は消えていた」


 「そうですか」


 「お前が後ろにいるから、後ろのことを考えなくていいと、体が判断していた」


 俺は少し考えた。


 「それが、測定できないものです」


 ガードが「そうだな」と言った。短かったが、三年間の答えを認めた声だった。


---


 王都に戻って、ナハトに報告をした。


 「中層中盤で匂いの変化と隠し通路の可能性を確認しました。次回、開け方を調べます」


 「記録します」とナハトが言った。「第四のパーティはどこまで行ったと思いますか」


 「中層は通過していると思います。深層に入って、消えている。今日確認した隠し通路が関係しているかもしれません」


 「根拠は」


 「匂いが、中層の中盤で変わりました。エリックさんは深層の手前で変わったと言っていました。中層の中盤と深層の手前——ここが繋がっているとしたら、隠し通路がその経路かもしれません」


 ナハトが手帳に書いた。


 「……よく気づきました」


 「フィンさんが匂いに気づいて、俺が荷物のずれを感じました。二人の情報を合わせた結果です」


 「荷物のずれ、というのは」


 「説明が難しいですが——何かが外側から引っ張るような感覚でした。今まで感じたことのないずれ方でした」


 ナハトが少し考えた。


 「……それは、あなたのスキルが何かに反応した可能性があります」


 「スキルが、反応する、ということがあるんですか」


 「後方全域支援・神域は、半径五十メートル以内に影響します。あなたのスキルが、その範囲の中にある何かを感知した可能性があります」


 「隠し通路の中に、何かがいると」


 「いるか、あるいは——何かの力が働いているか」


 部屋が静かになった。


 「次回はどうしますか」とナハトが聞いた。


 「隠し通路の開け方を調べます。フィンさんの情報と、クロエさんの魔法分析を使えば、何か分かるかもしれません」


 「焦らないでください」


 「焦っていません。ただ、第四のパーティのことは、早い方がいいと思っています」


 「生存の可能性があると思っていますか」


 俺は少し考えた。


 「分かりません。ただ、分からないなら、確認に行く方がいいと思っています」


 ナハトが「そうですね」と言って、手帳を閉じた。


 「次回の準備を整えてください。隠し通路の情報が出たら、すぐ出発できるように」


 「承知しました」


 廊下に出ると、六人が待っていた。


 「次はどうしますか」とリナが言った。


 「隠し通路の開け方を調べます。フィンさんとクロエさんにお願いしたいことがあります」


 「何だ」とフィンが言った。


 「隠し通路の石の特徴を、もう一度教えてください。クロエさんと一緒に分析したいです」


 フィンとクロエが頷いた。


 ガードが「俺は」と言った。


 「ガードさんには、深層に入ったときの陣形を一緒に考えてほしいです。Sランクが前衛にいると、俺の補給設計が変わります」


 ガードが「分かった」と言った。


 六人が動き始めた。


 俺は手帳を開いた。


 今日確認したこと、次回の準備リスト、各自へのお願い事項を書いた。


 それから最後に一行書き加えた。


 「ガードが言った——後ろのことを考えなくていいと、体が判断していた」


 測定できないものを、ガードが自分の言葉で言った。


 三年かかったが、今日言えた。


 それで十分だと、俺は思った。

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