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お荷物と言われた俺、気づいたらパーティ全員を最強にしていた件〜負けヒロインたちが俺のそばでだけ無双するんですが〜  作者: あおしぃ


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第11話「誰も帰ってこないダンジョンに、なぜ俺たちが」

 廃坑ダンジョン最深部の告示が取り下げられてから、三日が経った。


 「取り下げ」は正確には「一時停止」だ。第四のパーティが消息を絶ったことで、ギルドは依頼の受付を保留にした。理由の調査が終われば、再開するか、依頼そのものを廃止するかを判断するという通達がナハトから来ていた。


 俺たちは普通の依頼を続けていた。


 Aランクになって受けられる依頼の幅が広がった。魔物の規模が大きくなり、ダンジョンの階層が深くなり、報酬が上がった。五人の動きは依頼のたびに少し変わっていく。言葉が減って、動きが増える。阿吽の呼吸、という言葉を俺は今まで使ったことがなかったが、最近少し意味が分かる気がしていた。


 ただ、廃坑ダンジョンのことは、五人の頭の中に残っていた。


 誰も口にしなかったが、俺には分かった。


 リナが時々、掲示板の前で立ち止まる。クロエが地図帳を開いて廃坑の周辺地形を確認している。ミアが盾の整備を以前より丁寧にやっている。フィンが廃坑について過去に情報を集めた冒険者がいないか、独自に調べているらしかった。


 全員が準備している。


 言葉がないだけで、決意はある。


 ただ、それだけではない、と俺は思っていた。


 リナが掲示板の前で立ち止まるのは、前に進みたいからだ。前のパーティで「強すぎる」と言われた。全力を出せなかった。その抑圧が、まだどこかに残っている。廃坑でそれが解放されるかどうかは分からない。ただ、リナはその場所へ向かおうとしている。


 クロエが地図帳を開くのは、分析したいからだ。詠唱が失敗し続けた一ヶ月間、自分のどこが壊れているのかを分析し続けた人間の癖だ。今も、分からないものがあると調べずにいられない。廃坑の深層が「分からない場所」である以上、クロエは調べ続ける。


 ミアが盾の整備を丁寧にやっているのは、守れなかった記憶があるからだ。詳しくは聞いていない。ただ、盾を磨くとき、ミアはいつも少し遠くを見ている。あの目は、過去を見ている目だ。廃坑に行くことで、その記憶に何かが変わるのかどうか、今の俺には分からない。


 フィンが情報を集めているのは、元パーティのリーダーのせいだけではない。情報を集めることが、フィンにとっての「信頼できる手段」だからだ。裏切られた経験のある人間が、人を信じる代わりに情報を信じる。廃坑で何があったかを知ることが、フィンの中の何かを変えるかもしれない。


 全員が、前に進もうとしている。


 理由はそれぞれ違う。でも、向いている方向は同じだ。


---


 三日目の夜、食堂で飯を食っているとき、クロエが口を開いた。


 「廃坑ダンジョンについて、調べてきました」


 全員が顔を上げた。


 「過去に入ったパーティは六組。うち三組は中層で引き返した。一組は深層手前で撤退した。一組は深層に到達して戻ってきたが、全員が精神的に不安定な状態で、詳しいことを話せなかった。今回の第四組は、深層に入って消息を絶った」


 「深層に到達して戻ってきた組が一組あるんですね」


 「はい。ただ、その情報はほとんど残っていません。五年前のことで、メンバーの一人が今もギルドにいるという話だけ分かりました」


 「その人に話を聞けますか」


 「ナハトさんに確認しています。明日、返事が来る予定です」


 俺は頷いた。


 「廃坑の構造について分かっていることは」


 「入口から三層に分かれています。上層、中層、深層です。上層と中層は比較的情報があります。問題は深層で——深層以降は誰も正確な地図を持ち帰っていない」


 「フィンさん、独自の情報はありますか」


 フィンが「二つある」と言った。


 「廃坑は元々、百年前に採掘されていた鉱山だ。採掘が終わって放棄された後、魔物が住み着いた。ただ、放棄された理由が採掘の枯渇だけじゃない、という話がある」


 「他の理由は」


 「採掘中に、何かを掘り当てた。それが何かは分からない。ただ、発見した直後に採掘が終わっている」


 「二つ目は」


 「消息を絶った第四パーティのメンバーに、俺の元パーティのリーダーが含まれている」


 全員がフィンを見た。


 「……情報を売ったリーダーですか」とクロエが聞いた。


 「そうだ」


 俺はフィンを見た。フィンの顔は変わっていなかった。表情が読めない。ただ、水を飲む手が、いつもより少し力が入っていた。


 「フィンさん」


 「なんだ」


 「それは、行く理由になりますか。それとも、行かない理由になりますか」


 フィンが少し間を置いた。


 「……分からない。ただ、行かない理由には、たぶんならない」


 「そうですか」


 「俺は、あの人間に何かをしたいわけじゃない。ただ——消息を絶ったということは、生きている可能性がある。生きているなら、情報が取れる。あの廃坑で何があったか、俺は知りたい」


 「知りたい、ということは、行く理由です」


 フィンが「そうだな」と言った。短かったが、確かだった。


---


 翌朝、ナハトから返事が来た。


 朝食のとき、フィンが珍しく先に話を切り出した。


 「昨夜、廃坑に入ったことがある冒険者の話を聞いてきた」


 「独自に調べていたんですか」


 「ギルドの古い記録係に聞いた。六年前に中層まで行ったことがある老人だ。深層の手前で引き返したと言っていた」


 「何が理由で引き返しましたか」


 「匂いが変わった、と言っていた。中層まではただの廃坑の匂いだった。深層の手前で、匂いが変わった。腐敗でも、血でもない。何か別の匂いだった、と」


 「具体的には」


 「分からないと言っていた。ただ、生き物の匂いではなかった、とだけ」


 全員がフィンを見ていた。フィンが「それだけだ」と言った。


 「ありがとうございます。有益な情報です」


 「役に立つかどうかは分からない」


 「分からなくても、情報は多い方がいい。ありがとうございます」


 フィンが「どういたしまして、とは言わない」と言った。ただ、少しだけ口元が動いた。




 深層から帰還した唯一のメンバー——ギルドの備品管理係として働いている男性、エリック・タンと話せる手配ができた、とのことだった。


 五人でギルドの裏の倉庫に行った。


 エリックは五十代に見えた。背が低く、髪が白い。元冒険者の動きは残っていたが、今は物を運ぶ仕事をしているらしかった。俺たちを見て、少し目を細めた。


 「あなたたちが、廃坑に行こうとしているパーティですか」


 「検討しています」と俺は言った。


 「ナハトさんから聞きました。Aランクになったばかりの五人組だと」


 「そうです」


 「正直に言いますが——俺は止める立場じゃない。ただ、知っておいてほしいことがある」


 「聞かせてください」


 エリックが椅子に座った。俺たちも座った。


 「五年前、俺たちは六人で深層に入った。入った瞬間に分かった。何かが違う、と。魔物の質が違う。上層と中層のものとは、種類が違う。動き方が違う。それだけじゃなくて——」


 エリックが少し止まった。


 「雰囲気が違う。上層と中層は、ただの廃坑だった。魔物がいるだけで、場所としては普通だった。でも深層は、違う。何かがいる。魔物じゃない何かが、あの場所を管理している気がした」


 「管理している、というのは」


 「俺の感覚です。証明はできない。ただ、六人全員が同じことを感じた。俺たちがそこにいる理由を、何かが問いかけてくるような感覚だった」


 「それで、どうしましたか」


 「逃げた。全員で走って逃げた。帰れた。ただ」


 エリックが手を膝の上に置いた。


 「全員が、その後しばらく夢を見た。毎晩、廃坑の深層に立っている夢を。何かに問いかけられている夢を。俺はそれが三ヶ月続いた。他のメンバーはもっと長かった人もいる」


 部屋が静かになった。


 「今は」とクロエが聞いた。


 「今は大丈夫です。ただ、あの場所に戻りたいとは思わない」


 俺はエリックを見た。


 「一つだけ聞いてもいいですか」


 「どうぞ」


 「あなたたちが帰れた理由は何だと思いますか」


 エリックが少し考えた。


 「……逃げることにためらいがなかったから、だと思います。他のパーティは、たぶん戦おうとした。俺たちは戦えないと判断して、すぐ逃げた。それだけだと思います」


 「その判断をしたのは誰ですか」


 「俺です。俺が先に逃げ出した。みんながついてきた」


 「その判断は正しかったと思いますか」


 エリックが少し笑った。


 「少なくとも、俺は今ここにいるので」


 俺は頷いた。


 「ありがとうございます」


 「一つだけ、言っていいですか」


 「どうぞ」


 「あなたたちには、荷物持ちがいる」


 俺が答えようとすると、エリックが手を上げた。


 「からかっているんじゃない。俺たちのパーティには、荷物の管理をする人間がいなかった。六人全員が戦士か魔法使いだった。深層に入ったとき、補給が尽きていた。逃げることができたのは、体力がまだ残っていたからです。補給があったなら、もう少し深く入れたかもしれない」


 「補給が整っていれば、深層のさらに先まで行けた可能性がある、ということですか」


 「俺はそう思っています。証明はできない。ただ、あのとき、あと一時間体力があったら——という感覚は、今でも残っています」


 エリックが俺を見た。


 「荷物持ちがいるパーティは、俺が今まで見た中で、あなたたちだけです」


 リナが「荷物持ちって、セルさんのことですよね」と言った。


 「そうですね」と俺は答えた。


 エリックがリナを見た。


 「あなたたちの荷物持ちは、いつも荷物の重心を確認していますか」


 「毎回します」とリナが言った。「私の分も」


 「それが、深層で生死を分けることになるかもしれない」


 リナが少し固まった。


 「……そこまで大事なんですか」


 「体が疲れてくると、荷物の僅かなずれが動きの妨げになる。俺たちがあの日逃げられたのは、走れたからです。走れたのは、体力があったからです。補給も、荷物の配置も、全部繋がっている」


 エリックが席を立った。


 「以上です。これ以上は、俺には分からない。行くかどうかはあなたたちが決めることです」


 俺はエリックに一礼した。


 「ありがとうございました」


 「……帰ってきてください」


 エリックが静かに言った。


 「俺たちが帰れたのは、運もあった。ただ、準備をしていたパーティの方が、帰れる確率は上がる。それだけは言えます」


---


 倉庫を出て、五人で立っていた。


 しばらく誰も何も言わなかった。


 「どうしますか」とリナが言った。


 「まだ告示は再開していないので、今すぐ決める必要はありません」


 「でも、決めておきたい気がします」


 「そうですか」


 「私は行きます。もう決めています」


 リナが俺を見た。真剣な目だった。


 「理由は」


 「消息を絶ったパーティがいる。第四のパーティが戻ってきていない。放っておけない、というのは理由にならないですか」


 「理由になります」


 「あなたは?」


 「断る理由がなければ行きます。みなさんが行くなら、断る理由はないです」


 リナが「そういう言い方は嫌いです」と言った。


 「何がですか」


 「あなたが行きたいかどうかを聞いているんです」


 俺は少し考えた。


 「行きたいです」


 「理由は」


 「エリックさんが言っていたことを聞いて、補給が尽きていたから帰れたと分かりました。補給を整えれば、もう少し深くまで行ける可能性があります。それを試したいと思っています」


 「荷物持ちとして、ということですか」


 「そうです」


 リナが少し息を吐いた。


 「……もっと個人的な理由を言ってください」


 「個人的な理由、というのは」


 「あなたがその場所に行きたい理由です。補給の計算じゃなくて」


 俺は少し考えた。


 「消えたパーティに、フィンさんの元パーティのリーダーがいます。俺は直接は関係ない。ただ、フィンさんが行くと言ったとき、俺は後ろで補給をしたいと思いました。それが一番正確な理由だと思います」


 リナが俺を見た。


 「……そういう人なんですよね、あなたは」


 「そうですか」


 「いつも、最後はそこに行き着く」


 「そこ、というのは」


 「仲間の後ろにいたい、ということです」


 俺は少し考えた。


 「そうかもしれません」


 「それでいいです」とリナが言った。「それがあなたです」


---


 その夜、ギルドを出るときにガードがいた。


 出口の前で、腕を組んで立っていた。


 「話があるか」と言った。


 「どうぞ」


 「廃坑ダンジョンに行くつもりだろう」


 「検討しています」


 「俺も連れていけ」


 全員が止まった。


 「ガードさんが、ですか」


 「銀の牙は今、次の依頼に向けて再編中だ。俺は少し時間がある」


 「それが理由ですか」


 「違う」


 ガードが俺を見た。


 「第四のパーティに、俺が推薦した冒険者が一人いた。俺の判断で送り込んだ。その人間が今、消息を絶っている」


 「それは、責任を感じているということですか」


 「感じている」


 「行って、どうするつもりですか」


 「帰ってくる」ガードが短く言った。「推薦した人間が帰ってこないまま終わるのは、俺の仕事の終わり方じゃない」


 俺はガードを見た。


 嘘をつかない人間の目だった。今日もそれは変わっていない。


 「五人で相談します。答えは明日でいいですか」


 「待つ」


 ガードが歩いていった。


 五人で顔を見合わせた。


 「どうしますか」とミアが言った。


 「ガードさんが来ることで、足手まといになる可能性はありません。Sランクです。ただ、今まで五人で動いていた。六人になると、補給の計算が変わります」


 「変わると、どうなるんですか」


 「荷物が増えます。ただ、それは俺が対応します。問題はないです」


 「セルさんの問題はない、は信用できるので」とミアが言った。


 「みなさんの意見を聞かせてください」


 リナが「私はいいです」と言った。


 クロエが「理論的には、Sランクが加わることで戦力が上がります。合理的です」と言った。


 ミアが「……ガードさんが一緒なら、少し安心かもしれません。すごく強そうなので」と言った。


 フィンが一番最後に言った。


 「……俺は反対しない」


 全員が頷いた。


 「分かりました。明日、ガードさんに伝えます」


---


 その夜、宿に戻って荷物を確認した。


 現在の五人分の補給を計算して、六人になった場合の計算をやり直した。水、食料、薬液、包帯。深層まで行くとして、往復でどのくらい必要か。エリックさんの話から、深層の手前で六人が補給を必要とする状況を想定した。


 数字を並べた。


 いける、と思った。


 ただし、深層より先の計算はできない。情報がない。エリックさんも帰ってきているし、第四のパーティが消息を絶ったということは、深層のさらに先に何かある。何があるかが分からないと、補給の計算はそこで止まる。


 「分からないものは、行って分かるしかない」


 俺は手帳に書いた。


 一週間前の俺には書けなかった言葉だと思った。行くあてがなかった人間には、分からないところへ行く理由がない。


 今は違う。


 五人、もしくは六人で、分からないところへ行く。帰ってくる。それだけだ。


 全員の補給計算をもう一度確認して、手帳を閉じた。


 明日、ガードに返事をする。


 その前に、ナハトに相談する必要がある。廃坑の告示が再開されたとき、推薦状を出してほしい。今の段階でそれを頼んでおく。


 準備できることは、早めにしておく。


 それが後方支援の仕事だ。

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