↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お荷物と言われた俺、気づいたらパーティ全員を最強にしていた件〜負けヒロインたちが俺のそばでだけ無双するんですが〜  作者: あおしぃ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/18

第10話「俺は何もしていない。なのになぜ、全員が最強になっているんだ」

 Aランク合格の翌日、ナハトに呼ばれた。


 ギルドマスター室に入ると、ナハトの他に二人いた。一人は昨日の試験官だ。もう一人は見たことがない。五十代、整った服装、冒険者ではない。王国の役人の匂いがした。


 「座ってください」


 ナハトが言った。俺は座った。


 「こちらは王国冒険者評議会の副長官、マクレイ氏です」


 男が俺を見た。値踏みするような目だった。悪意があるわけではない。仕事として測っている目だ。


 「セル・ヴァーン氏。昨日のAランク試験の結果は確認しました」


 「ありがとうございます」


 「単刀直入に聞きます。あなたのスキル、後方全域支援神域について、王国として正式に把握したいと考えています」


 「それは、どういう意味ですか」


 「王国付きの冒険者として任命したい。報酬は現在の十倍。身分は王国騎士相当。待遇は最高水準を保証します」


 俺は少し考えた。


 「断ります」


 マクレイが少し目を細めた。


 「理由を聞いてもいいですか」


 「居場所がここにあるので」


 「王国付きになっても、このギルドに籍を置くことは可能ですが」


 「それでも断ります」


 「なぜですか」


 「俺が王国付きになれば、今一緒に動いている四人の仕事が変わります。俺のためにではなく、王国のために動くことになる。それは四人が選ぶことではなく、俺が選ぶことになる。それは違うと思うので」


 マクレイが少し固まった。想定していた答えではなかったらしかった。


 「……四人のために、断ると」


 「俺のためでもあります。ただ、四人の方が大きい」


 ナハトが手帳に何かを書いていた。試験官が少し口元を動かした。笑っているのかどうか、分からなかった。


 マクレイが「検討してもらえますか」と言った。


 「検討する余地はないですが、別の条件があれば聞きます」


 「別の条件、というのは」


 「俺が断れる条件です。王国として何かをやめてほしいことがあれば、聞きます。代わりに俺たちに何かを求めないでください、という交渉は成立しますか」


 マクレイが俺を見た。長く見た。


 「……何をやめてほしいのですか」


 「銀の牙への評議会の調査です。ガード・クロスへの追及をやめてください」


 「なぜそれを」


 「ガードさんは俺を解雇しました。その判断の理由は、今となれば間違いだったと俺も思います。ただ、その間違いを評議会が追及することは、俺は望んでいません。ガードさんは自分で気づいて、自分で認めました。それで十分です」


 部屋が静かになった。


 マクレイが手帳を閉じた。


 「……了解しました。銀の牙への調査は取り下げます。代わりに、王国付きの件は今後も提案を続ける可能性があります」


 「そのときはそのときで」


 「断り続けると」


 「断る理由がある限りは」


 マクレイが立ち上がった。俺に一礼した。それからナハトに何かを耳打ちして、部屋を出た。


 残ったナハトが手帳を閉じた。


 試験官が「よかったですか、銀の牙を助けて」と俺に言った。


 「よかったです。ガードさんは嘘をつかない人間なので、自分で間違いに気づいたなら、自分で正せます。外から追い詰める必要はないと思いました」


 「あなたに解雇されたのに」


 「それと評議会の追及は別の話です」


 試験官が「そうですね」と言って、立ち上がった。「Sランクの試験で、また会いましょう」と言って出ていった。


 ナハトが「よくやりました」と言った。


 「何がですか」


 「全部です。今日のことは、俺の手帳に残します」


---


 部屋を出ると、廊下に四人が待っていた。


 昨日からの流れで、ナハトに呼ばれたことは伝えていた。四人が来るのは想定していた。


 「何でしたか」とリナが聞いた。


 「王国付きの任命の打診でした」


 全員が少し固まった。


 「断りました」


 リナが「断ったんですか」と言った。


 「断る理由があったので」


 「何て言ったんですか」


 「居場所がここにあるので、と言いました。それと、四人の仕事を変えたくなかったので」


 四人が俺を見た。


 「……四人のために、ですか」とミアが言った。


 「俺のためでもあります。ただ、四人の方が大きい」


 しばらく誰も何も言わなかった。廊下が静かだった。


 フィンが「……そうか」と言った。ぶっきらぼうだったが、声が少し違った。


 クロエが「理論的には、あなたがいることで私たちは最大の力を出せます。王国付きになれば、その条件が崩れる可能性がある。合理的な判断だと思います」と言った。眼鏡の奥の目が、少し赤かった。


 ミアが「ありがとうございます」と言った。小さかったが、はっきりしていた。


 リナが何も言わなかった。ただ、俺を見ていた。


 「リナさん」


 「……何ですか」


 「何か言いたいですか」


 「言いたいことは、あります」


 「どうぞ」


 「……言えないです。まだ」


 「そうですか」


 「でも、いつか言います」


 「分かりました」


 リナが前を向いた。


 「行きましょう。今日の依頼を確認しましょう」


 「そうですね」


---


 ギルドの一階に下りると、ガードがいた。


 珍しい時間帯だった。朝の依頼前ではなく、昼の報告後でもない。ただ掲示板の前に立っていた。


 俺が近づくと、ガードが振り返った。


 「話がある」


 「どうぞ」


 「評議会の調査が取り下げられた」


 「そうですか」


 「なぜだ」


 「俺には分かりません」


 ガードが俺を見た。


 「……嘘をついているか」


 「俺は嘘をつかないので」


 「では、関係していないか」


 「それも答えにくいです」


 ガードが少し間を置いた。


 「お前がやったのか」


 俺は少し考えた。


 「直接的には何もしていません。ただ、評議会の人間に会って、話をしました」


 「何を話した」


 「俺の依頼を断るかわりに、銀の牙への追及をやめてほしいとお願いしました」


 ガードが固まった。


 「……お前の依頼とは」


 「王国付きの任命です」


 「それを断って——俺たちを助けた、ということか」


 「調査をやめてもらっただけです」


 ガードが俺を見た。今まで見たことのない顔をしていた。怒っているのか、困惑しているのか、それとも別の感情か。いくつかが混ざっていた。


 「……なぜだ」


 「ガードさんは自分で間違いに気づいて、自分で認めました。外から追い詰められる必要はないと思いました」


 「お前を解雇した人間に、そこまでするのか」


 「解雇されたことと、評議会に追い詰められることは別の話です」


 ガードがしばらく俺を見た。


 「……俺は、お前に何をしてやれる」


 「何もしなくていいです」


 「それでは不公平だ」


 「そうかもしれません。ただ、俺が望んでやったことなので、返してもらう必要はないです」


 「なぜ望んでやった」


 「断る理由がなかったので」


 ガードが少し顔をそらした。


 「……それだけか」


 「いたいと思っているから、やった、というのもあります」


 「いたい、というのは」


 「ここに。この場所に。このパーティと一緒に。その居場所が守られている状態でいたいので、それを守るために動きました。ガードさんへの評議会の追及が続けば、いずれ俺たちのことも引き込まれる可能性がありました。だから俺のためでもあります」


 ガードが俺を見た。


 「……そうか」


 「はい」


 「正直な人間だな、お前は」


 「嘘をつくと計算が合わなくなるので」


 ガードが短く、息を吐いた。笑ったのか溜め息だったのか分からなかった。でも、いつもの固い表情とは違う、少し柔らかい何かがあった。


 「一つだけ、頼んでいいか」


 「どうぞ」


 「銀の牙が次に依頼で詰まったとき、補給食を断らないでくれ」


 「断る理由がないので」


 「……それだけか」


 「腹が減った人間に食わせるのは、俺の仕事なので」


 ガードが頷いた。


 「分かった」


 それだけ言って、ガードは歩いていった。


 俺はその背中を見た。


 一週間前、俺を解雇した人間の背中だ。今日、同じ人間の背中を見て、一週間前とは違う何かを感じていた。


 何かが変わったのか、それとも最初からそういう人間だったのかは、俺には判断できなかった。ただ、ガードは嘘をつかない人間だ。それは変わっていない。


 「セルさん」


 後ろからリナが来た。


 「どうでしたか」


 「話しました。評議会の件は俺が動いたと伝えました」


 「ガードさんはなんて」


 「なぜかと聞きました」


 「なんて答えたんですか」


 「断る理由がなかったので、と言いました」


 「それだけですか」


 「いたいと思っているから、とも言いました」


 リナが少し止まった。


 「……ガードさんに、ですか」


 「そうです」


 「あの人に、そんなことを言えるんですか」


 「嘘をつかない人間には、正確に言った方がいいので」


 リナがしばらく俺を見ていた。


 「……そういうところですよ、あなたは」


 「どういうところですか」


 「なんでもないです。行きましょう」


 リナが歩き始めた。俺はその後ろをついていった。


---


 夕方、全員で食堂にいた。


 今日の依頼の報告を終えて、飯を食っていた。


 リナが「今日は、いい一日でした」と言った。


 「そうですか」


 「Aランクになって、評議会の件も解決して、ガードさんとも話ができて」


 「そうですね」


 「セルさんにとってはどうでしたか」


 俺は少し考えた。


 一週間前の夜を思い出した。宿の部屋で、一人で手帳を開いて、一人分の計算をしていた。銀の牙を解雇された夜、行くあてがなかった。


 今日は、五人で飯を食っている。


 「いい一日でした」と俺は言った。


 「それだけですか」


 「それだけですが、十分です」


 リナが「もう」と言ったが、怒っていなかった。


 クロエが「今日、評議会の人間に何を言ったか、正確に教えてもらえますか。記録したいので」と言った。


 「どうぞ」


 「四人のためだった、というのは本当ですか」


 「本当です。俺のためでもありますが」


 「俺のため、というのは」


 「居場所を守りたかったので」


 クロエが眼鏡を磨いた。


 「……あなたが居場所と思っているなら、私たちにとってもそうです。理論的には」


 「そうですか」


 「そうです」


 ミアが「私も」と言った。フィンが「俺も」と言った。ぶっきらぼうだったが、確かに言った。


 リナが何も言わなかった。ただ、俺を見ていた。それで十分だった。


 俺は手帳を開いた。


 今日の記録を書いた。


 「一週間で五人のパーティになった。Aランクになった。評議会の件は保留になった。ガードさんの件は一段落した」


 それから少し考えて、一行書き加えた。


 「ここが俺の居場所だ」


 いつもは書かない言葉だった。


 書いてから、手帳を閉じた。


---


 食堂を出るとき、掲示板に新しい告示が張り出されていた。


 赤い縁取りの紙ではなかった。黒い縁取りだ。緊急を超えた重大事項に使われる色だ。今まで見たことがなかった。


 内容を読んだ。


 『王都冒険者への緊急通達——廃坑ダンジョン最深部において、第四の調査パーティが消息を絶った。生存者の確認なし。調査依頼を一時停止。詳細は別途通達』


 第四のパーティが消えた。


 六話のとき張り出されていた告示に「過去三パーティが撤退」とあった。撤退ではなく、消息を絶った。帰ってきていない。


 リナが隣に来て、同じ紙を読んだ。


 「……帰ってきていない」


 「そうですね」


 「六話のとき、あなたは『撤退している、つまり帰ってきている』と言っていましたね」


 「言いました」


 「今回は違います」


 「そうですね」


 「……どうするんですか」


 俺は少し考えた。


 告示には「調査依頼を一時停止」とある。受けることはできない。しかし停止は一時的なものだ。また告示が出る可能性がある。


 「今は何もできません」


 「今は、ということは」


 「告示が再開されたとき、判断します」


 「行くつもりですか」


 俺は少し間を置いた。


 「断る理由がなければ」


 リナが俺を見た。


 「四人が全員承知した上で、断る理由がなければ、ということですか」


 「そうです」


 リナがまた告示を見た。黒い縁取り。消息を絶ったパーティ。詳細は別途通達。


 「……私は反対しない」


 「今は判断しなくていいです」


 「分かっています。ただ、言っておきたかった」


 クロエが「理論的には、今の私たちの構成で行けるかどうか、計算してみます」と言った。


 ミアが「こ、こわいですが——みんなが行くなら」と言った。


 フィンが「最深部まで帰ってきた人間がいないなら、俺の情報が一番役に立つ」と言った。


 全員が告示を見ていた。


 俺も告示を見た。


 廃坑ダンジョン最深部。消息を絶ったパーティ。


 一週間前、俺は一人だった。今日、五人になった。Aランクになった。


 次は何がある。


 手帳を開いた。


 「廃坑ダンジョン——いつか行くかもしれない場所」


 六話でそう書いた。今日は書き直した。


 「廃坑ダンジョン——五人全員で判断する場所」


 それが今の俺の答えだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。