第六十五話 三十日で、奇跡を作れ
65話です。
夜。
誰も寝ていない。
焚き火の周りに、
村のほとんどが集まっている。
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「……三十日」
誰かが呟く。
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「無理だ」
すぐに返る。
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「水門壊れてる」
「収穫減ってる」
「税は増える」
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沈黙。
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「……払えない」
その言葉が、
空気を完全に止める。
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払えない村は、
どうなるか。
全員知っている。
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水の権利。
土地の管理。
人の移動。
全部、
教会の管轄になる。
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セラが言う。
「……つまり」
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「村が、終わる」
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その時。
ロウが、
ゆっくり板を立てる。
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三十日
・税
・収穫減
・水門修復
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さらに書く。
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方法
・?
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沈黙。
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「……ない」
若い男が言う。
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「ある」
ロウが答える。
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全員が見る。
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「先生は」
ロウが言う。
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「畑で稼ぐなって言った」
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ざわめき。
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「……農村だぞ?」
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「だからだ」
ロウは続ける。
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「先生は言った」
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「農業は、生きる方法だ。
金を作る方法じゃない」
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「……じゃあ?」
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ロウが、
新しい板を立てる。
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金を作る場所
→ 都市
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「売る」
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「何を?」
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ロウは、
畑を見る。
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「知識だ」
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静寂。
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「……は?」
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「魚の保存」
「水の配分」
「倉の管理」
「役の回し方」
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「全部、
先生の授業だ」
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「それを?」
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「売る」
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爆笑が起きる。
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「誰が買うんだ!」
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ロウが、
静かに言う。
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「困ってる村」
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空気が止まる。
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「……他の村?」
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「水門は、
どこも壊れる」
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「税は、
どこも重い」
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「教会は、
どこも来る」
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ロウは言う。
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「俺たちは」
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「全部、
一回乗り越えてる」
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焚き火の音。
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「……つまり」
セラが言う。
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「先生の授業を
売る?」
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ロウは頷く。
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「農産物じゃない」
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「教育」
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沈黙。
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「……三十日で?」
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「やる」
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若い男が立ち上がる。
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「俺、行く」
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「どこへ?」
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「隣村」
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別の声。
「俺は港」
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「俺は都市」
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ざわめきが、
熱に変わる。
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「待て」
セラが言う。
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「誰が教える?」
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全員、
ロウを見る。
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ロウは、
首を振る。
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「違う」
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「俺じゃない」
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「ここにいる全員だ」
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沈黙。
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「先生は」
ロウが言う。
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「俺たちに
授業したんじゃない」
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「俺たちを
授業にした」
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焚き火が弾ける。
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「……つまり」
若い女が言う。
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「私たちが」
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「先生?」
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ロウが答える。
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「そうだ」
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板に書く。
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計画
・村 → 教育村
・授業 → 売る
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そして、
最後に書く。
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期限
→ 三十日
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夜が、
燃える。
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農村は、
初めて理解した。
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農業で、
勝てない。
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だが。
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教育なら、
世界を変えられる。
本当は農業が強い社会が正しいのかもしれないと思うと、歪んでます。




