第六十六話 最初の生徒
66話です。
朝。
村の入り口に、
一人の少年が立っていた。
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痩せている。
背も低い。
服は擦り切れている。
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だが、
目だけが妙に落ち着いている。
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「……ここか」
少年が呟く。
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畑で作業していた若い男が、
手を止める。
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「誰だ?」
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少年は答える。
「隣村」
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「……用は?」
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少年は、
少しだけ迷ってから言う。
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「授業を受けに来た」
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空気が、
止まる。
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「……何?」
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「水の授業」
少年は言う。
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「水路の計算」
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「倉の管理」
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「……人の回し方」
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完全な沈黙。
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若い男が叫ぶ。
「ロウ!」
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数分後。
板の前。
村の人間が、
少年を囲んでいる。
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セラが聞く。
「……誰に聞いた?」
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少年は答える。
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「都市」
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ざわめき。
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「都市の市場で」
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「この村は
変な授業をしてるって」
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ロウの目が、
わずかに細くなる。
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「……誰が言ってた?」
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少年は、
少し考えてから言う。
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「白い服の人」
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空気が凍る。
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教会。
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セラが、
静かに言う。
「……罠」
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ロウは、
否定しない。
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「可能性は高い」
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少年が言う。
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「でも」
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「授業は本当だろ?」
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その言葉が、
焚き火の火みたいに落ちる。
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「……何を知りたい?」
ロウが聞く。
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少年は即答する。
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「水を止める方法」
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沈黙。
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「うちの村」
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「水門、
壊れた」
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ロウの拳が、
わずかに握られる。
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セラが聞く。
「……税は?」
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少年は笑う。
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「三十日」
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村の空気が、
爆発する。
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「同じだ」
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ロウは、
ゆっくり板を立てる。
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第一授業
・水
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少年を見る。
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「金は?」
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少年は、
小さな袋を出す。
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銅貨。
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たった、
三枚。
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「……これだけ」
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誰かが笑う。
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「安すぎる」
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ロウは、
首を振る。
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「違う」
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銅貨を板の前に置く。
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「最初の授業料だ」
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静寂。
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ロウは、
少年に言う。
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「畑に来い」
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「授業は」
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「泥の上でやる」
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少年は頷く。
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その瞬間。
村の誰かが、
小さく呟いた。
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「……始まった」
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農村は、
初めての生徒を得た。
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だが。
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ロウは、
ちゃんと分かっている。
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この少年は、
ただの生徒じゃない。
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教会の目だ。
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つまり。
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この授業は。
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戦争の始まりだ。
誤字脱字はお許しください。




