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『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革農村編〜』  作者: くろめがね


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63/66

第六十三話 決められなかった日

63話です。

朝。


空が、重い。


風が止まっている。


誰も言わないが、

全員が気づいている。



「……水、

 落ちてない?」


ミラが言う。



水路を見る。


昨日より、

明らかに細い。



「……上流?」


誰かが呟く。



板の前。


二名制が初めて動く。



安定役:セラ

前進役:若い男



「……増やす?」

「いや、維持」


意見が割れる。



「理由は?」



「今動くと、

 全体が崩れる」


セラ。



「止まったら、

 全部止まる」


男。



沈黙。



「……どっち?」


誰かが聞く。



答えが、出ない。



午前。


水位が、さらに下がる。


畑の端が、乾き始める。



「……早く」


声が出る。



二人は、

板の前で立ち尽くす。



「……決めて」



「……」



時間が、過ぎる。



初めて。


誰も指示を出さない時間が生まれる。



昼。


叫び声。



「止まった!」


上流から、

人が走ってくる。



「水門、

 崩れてる!」



ざわめきが、爆発する。



「……誰が判断する!?」



全員が、

二人を見る。



安定役。

前進役。



二人とも、

言葉が出ない。



理由は単純だ。



安定役:

壊れる可能性を恐れる。


前進役:

情報が足りない。



そして――


先生がいない。



「……俺、行く!」


若い男が叫ぶ。



「待って!」


セラが止める。



「状況、分からない!」



言い合い。


初めて。



「だから、

 止まるんだよ!」


男が怒鳴る。



「突っ込んで

 壊したら終わり!」


セラも声を上げる。



静まり返る畑。



その瞬間。


ロウが、

板を蹴飛ばした。



乾いた音。


全員が固まる。



「……もういい」


ロウが言う。



「二人で決めるって

 言ったな?」



誰も動けない。



ロウは、水路へ走る。



「持てる奴、来い!」


叫び。



数人が反射的に動く。


派閥も、役も関係ない。



崩れた水門。


泥。

崩れた石。

濁った水。



「止めるな!」


ロウが言う。



「流せ!」



「でも!」



「止めたら

 全部腐る!」



土嚢を投げる。

石を積む。

体で押さえる。



水が、

一気に戻る。



だが。


畑の一部が、

流される。



夕方。


全員、泥だらけ。



板は、

地面に倒れている。



セラが、

震える声で言う。


「……判断、

 間違った?」



ロウは、

首を振る。



「違う」



「判断が

 出なかった」



沈黙。



若い男が、

地面を見る。



「……俺、

 待った」



「俺も」


セラ。



「二人だから、

 止まった」



ロウが、

板を拾い上げる。


泥を払う。



新しく書く。



二名制

→ 安全

→ 遅い



さらに書く。



緊急時

→ 一人決定



空気が、

変わる。



夜。


逃がす場所。


誰も笑わない。



子どもが、

小さく言う。


「……先生、

 怒るかな」



ロウは、

少しだけ空を見る。



「……怒らない」



「……じゃあ?」



「観察する」



畑の端。


流された区画。



だが。


水は、戻った。



農村は、

初めて理解した。



教育も。

内政も。

制度も。



決断が遅れた瞬間、

全部壊れる。


誤字脱字はお許しください。

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