第六十二話 正しさが、二つある日
62話です。
朝。
畑はいつも通り動いている。
水路の音。
鍬の音。
短い指示。
何も変わらない。
――見た目は。
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板の前に、
二つの視線がある。
線を引く役:抽選
その下。
※見直し検討
小さな文字。
消されていない。
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「……今日も抽選?」
誰かが聞く。
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「そのはず」
ミラが答える。
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「……そのはず、か」
小さな苦笑。
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午前。
抽選が行われる。
静かに。
紙を折る音だけ。
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選ばれたのは、
効率派と呼ばれ始めた側の男。
空気が、
わずかに揺れる。
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「……あ」
誰かの声。
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男は、
少しだけ胸を張る。
だが、
すぐに抑える。
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判断は、早い。
「水、二区画だけ増」
「理由:乾き早い」
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効率派が頷く。
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抽選派の一人が、
小さく言う。
「……攻めるね」
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男は、
聞こえないふりをする。
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昼前。
結果が出始める。
水を増やした区画は、
確かに良い。
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「……ほらな」
小さな声。
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別の声。
「……でも、
昨日なら維持だった」
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どちらも、
間違っていない。
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集まりが開かれる。
今回は、
自然に二列になる。
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「……どう思う?」
誰かが聞く。
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「良かった」
効率派の声。
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「……怖い」
抽選派の声。
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「怖い?」
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「外れたら、
戻せない」
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沈黙。
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男が、
少しだけ強く言う。
「でも、
進まないと」
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セラが、
静かに口を開く。
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「……止まるのも、
進むのも」
「どっちも、
教育」
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誰も、反論しない。
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午後。
もう一つの判断。
倉の開放時間。
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効率派の男。
「……少し短く」
理由:人手不足。
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抽選派から、
小さな声。
「……余裕、
なくなる」
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男は、
一瞬だけ迷う。
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だが、
決める。
「短縮」
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夕方。
作業は終わる。
数字は良い。
効率は上がった。
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それでも。
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逃がす場所で、
誰かが言う。
「……今日、
ちょっと息苦しかった」
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別の声。
「……でも、
前より回ってる」
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二つの正しさが、
並ぶ。
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ロウが、
板を見る。
小さく、
書き足す。
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正しさA:安定
正しさB:前進
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子どもが読む。
「……どっちが先生?」
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ロウは、
少しだけ笑う。
「どっちでもない」
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「先生は?」
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「……混ぜなかった」
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夜。
集まり。
二つの輪が、
少しだけ近づく。
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「……次、どうする?」
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「抽選、続ける?」
「見直す?」
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誰も、結論を出さない。
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だが、
一人が言う。
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「……次は、
二人でやらない?」
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空気が止まる。
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「二人?」
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「安定役と、
前進役」
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ロウの目が、
わずかに動く。
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翌朝。
板の下に、
新しい案が書かれる。
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線を引く役
・二名制 検討
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農村は、
気づいた。
正しさが二つある時、
一つに絞る必要はない。
だが――
二つ並べると、
緊張は倍になる。
誤字脱字はお許しください。




