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第六話『赤っ恥』




「どうなっているんだッ!!!!」



白の都、王族達が暮らす王城にて、

純白の王太子は無数の書類が並ぶ机を

力一杯叩きつけた。

本来ならば怒りの感情を制御せずに

表に出すなどご法度ではあるが、

そんな事は言っていられない。

まだ“軽症”で済んでいる大臣や役人、

兵士と共に事態の終息に奔走している。



「大罪人、ピア・シュバリーと

ダリアル・ワイティを即刻捕まえよ!」


「王太子殿下、それについては

我らが“白王”様より『許可出来ない』と

言われているではありませんか。」


「何故だ!

あの二人のせいで、白の都は

機能不全に陥りかけているのだぞ!」



ピア達により“白”を回収された

貴族達の混乱はしばらく止まらなかった。

今まで王家によって統率、そして

それに文句を言わず統率されてきた貴族達。

そんな彼らが感情の赴くままに

他人へ怒号を浴びせ、甲高い悲鳴が飛び交う。


会場をなんとか落ち着かせようする

王太子の声も届かない。

結局、会場の外にいた兵士達や

屋敷で待機していた各々の家族達まで

駆り出されて騒動は何とか収まった。

……ように、見えた。



「しかも、パーティー会場での

どさくさに紛れ、キュー男爵家の令息が

起こした婦女暴行に始まり……。」


「はい、各貴族内にて男女問わず、

婚約者や伴侶がいるにも関わらず

浮気や不倫を行う者が多数出ております。


一部貴族では脱税の兆候も見られており……

あのワイティ公爵家ですら、

怪しい金の動きがあるようです。」



男爵家の長男が、ドレスが引き裂かれてしまい

(乱闘に巻き込まれた)途方に暮れていた

由緒あるワイド伯爵家の令嬢を、

親切に助けるフリをして部屋に連れ込み

卑劣にも襲ったのだ。

会場での騒動が落ち着いた後に

見回っていた兵が、部屋に一人残された

令嬢を発見、事件が発覚する。


婚約者がいる身でありながら他の令嬢を

襲ったなど白の貴族では許されない。

令息は捕まってすぐに裁判を受け、

即日死刑となった。

死刑になった令息の婚約者は他の者と

婚約する訳にもいかず、黒の森へ

捨てられたそうだ。


そして令息に傷つけられた伯爵令嬢の

心は壊れ、自死を選んだという。

ワイド伯爵は怒り、キュー男爵家への

経済制裁や悪質な噂を流すなどの攻撃を始めた。

そこから飛び火し、多くの貴族が巻き込まれ

いまだに騒動は落ち着いていない。


貴族内のあちこちから、こんなにも

醜い事件ばかりが報告として上がってくる。

使用人に手を出した、親の金を盗んだ、

違法な薬物を使った……。

まるで白の都が、黒の森になったかのようだ。


被害を受けなかった貴族達は、

人が変わったかのような振る舞いをする

彼らを黒の民を見る時のように見下した。

自分を律せなくなった彼らは

そんな他の貴族達に敵対し、傷害事件や

殺人にまで発展するケースも出てきている。



「国王陛下から「薄汚れた髪」と言われた

母は部屋に籠って出てこない。

公務も溜まる一方だ……!」


「そもそも、ピア・シュバリーは

何の為にあのような事をしたのでしょう。

我々を黒に染めたようですが。」



白の貴族達は、ピア・シュバリー達の手により

〖黒に染められた〗と考えていた。

実際には〖白を抜かれた〗だけなのだが、

今の時点の彼らがそれを知るよしもない。



「ダリアル・ワイティの手に持った

インクの瓶が鍵でしょうな……。


あの瓶は式の開始前、兵の持ち物検査によって

事前にあらためられており、その時は開けても

何も起きなかったと記録が残っています。」


「私も先程、その記録は確かめた。

そんな怪しい物を会場に持ち込めたのは、

ピア・シュバリーが“白王”様からの

許可証を取り出し、兵に見せたからだろう?


一度、“白王”様にも詳しい話を伺う必要がある。

今すぐ父に取り次いで……」


「し、失礼いたします!」



“白王”はもう白の都の政治には

関わっておらず、口も出さない。

王城の最上階にて、静かに子孫達を

見守っているだけの存在である。

それでも誰よりも清く、誰よりも白い存在。

白の民にとって最上位に位置する絶対的な王。


何故その“白王”は、黒の民から小娘を

連れて来て王太子妃候補にし、

混乱を巻き起こした大罪人を庇うのだろうか。


父である国王に、“白王”との面会を

頼もうとした王太子の元へ、

息を切らした役人の一人が駆け込んで来た。

品が無いと思わず顔をしかめるが、

王太子の目に入った役人の顔は

一目で分かるほど絶望に染まっている。

明らかにただ事ではない。



「何事だ、簡潔に説明せよ。」


「は、はい!

殿下の婚約者、ピュア・シハロク侯爵令嬢について

お耳に入れたい事が……!」


「何?」



髪も目も黒に変わってしまったからか

ピュア・シハロク侯爵令嬢は王城には上がらず、

屋敷にて臥せっていたはず。

現在はもはやピュアよりピアの方が

白い部分が多いのだが、婚約した以上

もう彼女としか結婚が出来ない。


正直関わりたくもないのだが、仕方ないので

嫌々ながら手紙や見舞いの品は送っている。

それの返事や礼の手紙は問題なく

返ってきていたはずなのに、

急に大きな病にでもかかったのだろうか。



「ピュア・シハロク侯爵令嬢が……

純潔を、失ったそうです。」


「……は?」


「見舞いに来ていたザリブ侯爵令息と、

一線を越えてしまったと……!」



王太子は手に持っていた書類を

全て落とした。


ピュアが寝込んでいる時、毎日のように

見舞いに来ていた幼馴染みのザリブ侯爵令息。

彼は元々ピュアに好意を抱いていたらしく、

王太子からの冷たい手紙に啜り泣くピュアを

慰め、優しい言葉を囁き、そして……。

ベッドで睦み合っている姿を部屋に

入ってきたメイドが見つけてしまい、

発覚したのだそう。


ピュアは王太子妃として決まっている為

乱暴な扱いはされなかったが、

令息の方は怒り狂ったシハロク侯爵に

散々痛めつけられ、瀕死の状態だという。

裁判行きが決められているが、

それまで持つかは分からないらしい。


王太子は言葉を失った。

まさか婚約者に裏切られるなどと

思いもしなかったのだ。


何が不満だったのか。

黒の民と見間違うような姿になりながらも

偉大な王家へ嫁げるというのに?

この私が、雑巾よりも汚れた小娘と

夫婦になってやるというのに?


勿論、醜い姿を晒さないように

外に出る事などさせず、城の中で公務を

させてやりながら、自分のような純白に近しい

世継ぎが出来るまで王太子妃として

子を産ませ続けてやるつもりだったのに!


……これが狙いだったのか、ピア・シュバリー。

私の妃になれないからと、ここまで

卑劣な手を使うとは!!!!


王太子はピアへの怒りで持ち直したらしく

落とした書類を乱暴に拾い集めると、

父である国王の元へ急いだ。

一刻も早く、あの悪女と犬に

白の民の恐ろしさを知らしめる為に。








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