第七話『白昼堂々』
あの事件をピア達が起こし、
二週間が経った。
彼女の屋敷にて婚約者として過ごし始めた
ダリアルだったが、護身術の授業と称して
御者から顔以外をボコボコにされたり、
ピアとお茶したり、とパーティー前の
生活とほぼ変わらなかった。
だが、今までと違うのは
とにかくピアから溺愛されているという事。
この屋敷の若き主人である彼女は
ダリアルが可愛くて仕方がないらしく、
事あるごとにちょっかいをかけてくる。
「ダリアル様ったら……
どうして逃げようとなさるの?」
「俺達まだ婚約したばっかですし、って
イヤーッ! 服を脱がさないでッ!」
食べ物は「あーん」して食べさせてくるし、
なんならダリアルは今、美貌の令嬢ピアに
押し倒されている。
……お茶してただけなのに、「菓子を
食べているダリアル様のお姿が可愛すぎる」という
謎の理由で突然押し倒されたのだ。
ここは室内とはいえ、現時刻は真っ昼間。
(黒の森では外にいると賊から
狙撃されたりするので室内が基本)
必死に抵抗しようとするが、
身体が全く動かない。
御者もだが、護身術やその他諸々を
極めているピアをお坊っちゃまだった
ダリアルがどうこうなんて出来る訳がない。
むしろこちらが抵抗すればするほど
彼女は燃え上がっているような。
「ダリアル様は私がお嫌なの……?」
「そうじゃない!
そうじゃないんです!」
押し倒したダリアルに跨がったピアは、
瞳を潤わせて首をこてんと傾げる。
うぅ、可愛い……いや騙されるな俺!
この人は俺を押し倒して
食べようとしてるんだぞでも可愛い……!
健全な青年ダリアル君としては、
ピアが嫌いなのではなく。
白の都時代に叩き込まれた常識として、
婚前交渉はよろしくないと思っているのだ。
「け、結婚したら!
ピア嬢のお好きにしてください!」
「……結婚したら?」
「はい! なので、あの、今はご勘弁を……!」
ダリアルは必死すぎて気付かなかった。
「結婚」と彼の口から聞き、言質を取ったピアが
(計画通り……)と笑ったのを。
「お~い、“黒妃”様が今すぐ来いって……
えっ、何してんの?」
「ハョッ」
終わった……。
ピア達を呼びに来た御者の目に映ったのは、
押し倒されて服をひん剥かれかけた
ダリアルと、ニコニコしながら馬乗りに
なっているピアという光景。
ピアを可愛がっているらしい
御者は、とにかくダリアルに厳しい。
護身術の訓練で散々体験させられているのだ、
もしかしたら殺されるかもしれない……!
なんて事を思っていたが、
目を丸くしていた御者の口から飛び出たのは
想像の数倍はひどい言葉だった。
「すっげぇ楽しそう! 混~ぜて!」
「!?」
「ウフフ、ダリアル様は
「結婚したら好きにしてくれていい」って
仰ってくれたのよ。
だから、私達が結婚したら
混ざっても良いわ。」
「言質取ったんスね~、えらい!
初夜には絶対呼んでね!」
「!?!?」
流石黒の民、倫理観が
真っ黒に腐り落ちている。
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「どうしてです、“白王”様!
何故あの毒婦に正義の鉄槌を
下さないのです!」
白の都、王城の最上階にて。
王太子はあの事件以降、手鏡を見て
溜め息を漏らすばかりの父、国王から
“白王”への謁見許可を貰った後、
彼の前に跪いていた。
抑えてはいるが、激しい怒りで
どうしても言葉が強くなる。
このような態度は本来不敬ではあるが、
“白王”は全く気にせず、己の子孫を
静かに見ていた。
「許可を頂けたならば、今すぐ
白の都一丸となって黒の森へ攻め入り、
あの大罪人共に裁きを与えられるのです!」
『許可しない。』
「ですが……ッ!」
『……何度言えば分かるんだい?
私は、許可しない。』
言い募る王太子に向けられたのは、
驚くほどに温度、いや色の無い目だった。
“白王”は王太子がどれだけ理由を説明しても
一切の許可を出そうとしない。
『そもそも君達が我が儘を言わず、
ピア・シュバリー嬢を大切に扱って
大人しく婚約を結んでいれば、こうは
ならなかったのだよ。』
「我が儘など……!」
『“気に入らない”という幼稚な理由で
寮から出る事を禁じ、学園では
話しかけられない限り存在を無視。
他の令嬢を婚約者として据える為に、
婚約発表の場である卒業パーティー直前まで
候補らしい事もせず、彼女を放置した。』
「相手は穢れた黒の民なのですから
その措置は当然でしょう!
貴方様から受け継いだ白き血を、
私の代で汚せと仰るのか!」
“白王”から指摘された傲慢を省みる事もなく、
王太子は声を荒げる。
白こそ至高、黒はなによりも下劣という
彼らの秩序とは、選別と差別の上に築かれている。
そんな子孫を見て何を思ったのか、
“白王”は緩やかにかぶりを振ると
王太子へ淡々と言い放った。
『別に混ざっても構わないから、
シュバリー嬢を婚約者候補として呼んだのだ。
この白の王家は、君の代でおしまいにする
予定だったのだから。』
「は……い?」
『君には先に“事実”を教えておこう。
私と妃の仕事を、邪魔されては困るからね。』




