雑務最強の男、フレアドラゴンとの戦い
「壁が逃げるぞ! 追うんだ!」
あの壁がモンスターであれば、ここで逃したら見つからなくなる可能性がある。
目視できている内に仕留めなくては!
「曲がった!」
壁は道に沿って逃げ、角で曲がった!
俺たちはそれを追って曲がり……
「なっ!?」
ガラガラ、ズシン!
曲がった直後、背後から壁が落ちてきて退路を断たれる。
それだけではない。
「グギャアアアァァァァ!!!!」
「ドラゴン!?」
眼前に立ちふさがっていたのは強力なドラゴン種のモンスターだった!
「まさか、ボス部屋に誘い込まれたのか!?」
基本的に、ボス部屋は一階層丸々使われることが多い。
しかし、このように迷宮の奥にボス部屋が用意されていることも稀に存在していた。
……どうやら、俺たちはボス部屋へと誘いこまれてしまったようだ。
「壁のモンスターは一度後回しだ! まずはドラゴンを倒すぞ!」
「おう!」
見たところ、この翼がなく赤い鱗のドラゴンはおそらくフレアドラゴンだ。
気をつけるべきは炎ブレス。
金属を溶かすとさえ言われる高温ブレスに気を使わなくてはいけない。
「フレアドラゴンだ! 炎のブレスが強力で、炎系の魔術は通用しづらい。それ以外の魔術を使え!」
「分かったぜ」
「全身が硬い鱗に覆われている! 鱗がないのはお腹とアゴの下だけだ」
「分かったわ」
俺は特徴を簡潔に伝えていく。
ただ、それでもフレアドラゴンを倒すのは厳しいだろう。
この部屋はボス部屋としては小さい部類だ。
これでは炎ブレスを避けきるのは難しい。
「グォォォ!」
手始めにドラゴンは鋭い爪を振り下ろしてくる。
炎ブレスに注意が必要な相手だが、だからといって他の攻撃が弱いわけではない。
そもそも、グレートタウロスでさえ凄まじかったのに、全身で比べればフレアドラゴンはその三倍近くの巨躯を誇る。
その威力も段違いだ。
「……とめる」
それをモモが受け止めた。
鈍い音が響いたが、両手でモモはドラゴンの腕を止めていた。
しかし、モモの腕は震えている。
すぐにダウンすることはなくとも、持久戦になればモモが不利であることは明らかだった。
「エレキショット!」
バドルットがその隙に雷魔術で攻撃を試みる。
「グギャァァァス!!!」
が、ドラゴンがモモから手を離して腕を一振りすれば、雷魔術は最初から存在しなかったように消されてしまう。
当たっているはずなのに、全くダメージを感じさせない。
「なっ、硬すぎる!」
その間に、セシリアはドラゴンの懐まで潜り込んでいた。
伝えたとおり、アゴの下の鱗がない場所を狙って一撃を繰り出す。
しかし、それでも刃は通らなかった。
鱗がない場所ですら、弱点になりえないというのか。
「グォァァァ!!!」
「ッ!」
「セシリア!!」
体勢を崩したセシリアをドラゴンの爪が襲った。
その一撃は力のこもっていない、対処のための軽い一撃だろう。
それでも……
「大丈夫か、セシリア!」
「脚をやられたわ……」
こちらまで吹き飛ばされ、着地の際に脚を負傷してしまった。
セシリアのアサシンとしての機動力はもはや期待できないだろう。
「グギャァァァアア!!!」
ドラゴンがおもむろに上体を起こし、口を開けた。
まずい……!
「ブレスが来るぞ!」
「グォオオァァァァ!!!!」
「……たてになる」
それを見て、モモが前に出てくれた。
灼熱のブレスを迷宮遺物の全身鎧で受ける。
俺たちはなんとかその後ろに隠れ、ブレスをやり過ごした。
それでも、その熱は火傷しそうなほどだ。
「グルゥゥゥ……」
ブレスが止む。
そこでモモがガクリと膝をついた。
「だめ……もういじできない」
ガシャンガシャンと鎧は変形し、元の四角いキューブへと戻ってしまった。
モモに怪我はないようだが、あの様子ではもはや次は受けきれない。
どうする?
どうすればこの危機を乗り越えられる?
頭をフル回転させる俺だったが、無情にもドラゴンは再度口を開いて吠えた。
「グギャァァァアア!!!」
「嘘だろ……」
「ブレスだと……」
それは明らかに先程の炎ブレスと同じモーション。
次はモモがブレスを耐えられる状況ではない。
まさか、こんなにも連続で炎ブレスが使えたとは!
「グォオオァァァァ!!!!」
ドラゴンの口からは灼熱のブレス。
迫りくる炎を前に、俺は時が止まったかのような感覚を覚えていた。
背後は壁。
逃げる場所はない。
もはや、終わりか……




