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雑務最強の男、ダンジョン下層にて

「死ぬかと思ったぜ……」

「まさかトラップがあるなんてね」


 俺たちは水から上がると、周囲の安全を確認して焚き火を開始した。

 濡れた服を乾かさなくてはパフォーマンスに支障が出る。


「……よろいのなかに、みずがはいった。きもちわるい……」


 モモですらこの有様だ。


「すまない。俺がもう少し気をつけていれば」

「そんなことはないわ。魔力で感知できないトラップなんてほとんどないんだし」


 それについては俺も不思議に思っていた。


 ダンジョンというのは長い年月放置されているものが多く、例外もあるが、遺跡の形を取ることが多い。

 そのため、魔力式のトラップ以外は仮にあったとしても劣化により発動しないはずなのだ。


 このダンジョンも地下に埋まっていた関係で長い年月が経過しているはず。

 にも関わらず、ここまで綺麗にトラップがタイミング良く発動するとは考えづらかった。


「何かを踏んだとかでもないと思うんだがなぁ。警戒はしていたからな」


 また、バドルットの言うことも確かだ。


 魔力式であればトラップの作動を魔力機構でどうにかする。

 しかし、今回は魔力感知で引っかからない普通のトラップだ。

 であれば、なんらかのスイッチなどがなければ作動はしないはず。


「考えられるのは部屋全体が何らかのトラップ用機構だったこと。あるいは……」


 これはかなり想像が入った予測の一つだが……


「何らかのモンスターによって手動でトラップが起動されたか、だ」

「モンスターがトラップを起動するなんてあるのか?」

「ああ」


 例えば、ホブゴブリンのような知能の高いモンスターは道具を使う。

 その延長で、簡単なトラップを利用することも確認されていた。


 つまり、モンスターがトラップを起動するというのは、そこまでおかしいことではないのだ。


「しかし、あの場所にモンスターなんて居なかっただろ?」

「可能性はいくつかある。例えば魔力ですらできない完全擬態が可能なモンスターが居た可能性。その能力が強い分、直接の戦闘力が低いのであればトラップを使ったのも納得できる」

「なるほど」

「もう一つは遠隔からこちらの位置を探知できるモンスターが居た可能性。正確にこちらの位置を確認できるのなら、遠くからトラップを作動できるからな」


 だが、どちらにしても相手はよほど知能の高いモンスターだ。

 一筋縄では行かないだろう。


「とにかく、まずはダンジョンを脱出しよう。安全の確保が第一だ」

「そうね」

「どんくらい俺たちは落ちたんだ?」

「三十階層くらいの場所にいると思う。モンスターの強さもまだわからないから、かなりの注意が必要だ」


 確認する余裕はなかったが、それくらいは最低でも落ちただろう。

 正確ではないが、暫定三十階層に居るとして行動する。


 相応に強力なモンスターが出てくることも考えなければならない。


「服を乾かしたらできる限り早く動こう。あまり留まっているとモンスターに見つかるかもしれない」


 俺は【在庫管理】でバドルットの魔力を回復しつつ、出発の準備を整えるのだった。


*


「おかしいな」


 俺たちが三十階層を歩き始めてからかなりの時間が経った。

 その間に出てきたモンスターは数体。

 強力ではあったが、数は少ないようで倒し切ることはできた。


 しかし、どの道を通っても一向に上の階にも下の階にも行けないのだ。


「実際の道が地図とあわない」


 見落としがないか同じ道を通るのもこれで三度目だ。

 もちろん、それまでに簡易的な地図を作りながら進んでいる。


 しかし、地図と実際の道が一致しないのだ。


「さっき書いたときはここに壁はなかったはずなんだが……」


 地図を書き間違えたという可能性もあるが、二度目ならまだしも三度目に通る道でそんな大きなミスを犯すとは考えづらい。


 俺はそのなかったはずの壁にそっと触れてみる。


「ひぁっ!?」

「……ん? 誰かなんか言ったか?」

「いや、何も言ってないけれど」


 何か小さな声が聞こえた気がするが、気のせいか。

 他の階層のモンスターの鳴き声かもしれない。


「それに、さっきはこっちの道はなかった気がするんだよな……」

「とにかく、まだ行ってないならこっちを進んでみましょう」

「そうだな」


 そう言って俺は地図を記録しながらみんなと先に進む。


 しかし、それでも結果は変わらず同じところをぐるぐる回るだけだった。

 明らかに地図とあっていないのだ。


「やっぱりおかしいぞ。さっきまでこんなところに壁はなかったはずだ」


 ドンッ。


 俺は思わず地図とあわない壁を叩く。


「イタッ」

「……? 誰か何か言ったか?」

「いや、言ってないぞ」


 もしかしたら、壁自体が動くトラップなのかもしれない。

 魔力は感知できないが、さきほどの落とし穴を考えれば他に魔力式ではないトラップがあっても不思議ではないからな。


「仕方ない。壁を壊してみよう」


 ダンジョンの壁や床は基本的に壊れることはない。

 ダンジョン全体が魔力による保護があるからだと言われている。


 しかし、この壁がトラップなのであれば、保護の対象外の可能性がある。


「【在庫管理】、爆発石」


 俺は衝撃を与えると爆発する石を取り出す。

 ギリギリ握って投げられるサイズの岩片だ。


 このサイズでも中程度の爆破魔術と同等かそれ以上の威力を出せる。

 小回りがきかず戦闘では扱いづらいが、逃げの局面などでは使えるので持ってきた代物だった。


「今からこの石を投げて爆発させるから、みんな下がってくれ」


 そう言って俺はバドルットやセシリアを後ろに下げる。

 みんながしっかりと下がったのを確認して前を向くと……


「ん? なんか壁も一緒に下がってないか?」


 何故か壁が後ろに下がっているように見える。


「確かに、さっきより後ろにあるように見えるな」

「まぁいいか、じゃあ投げるぞ」


 サササ。


 どう見ても、壁が後ろに下がった。


「……は?」

「オイ、今間違いなく動いたぞ!」

「まさか……?」


 俺はあえてそのまま投擲モーションに入る。


 ササササササササ!


 壁が猛烈な勢いで下がった。


「確定だな。あの壁はモンスターだ!」


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