絶体絶命、【在庫管理】と炎ブレス
いや、こんなところで諦めるわけにはいかない。
俺にはアイリスを助けるという使命がある!
こんなところで、死ぬわけにはいかない。
俺は、迫りくる炎に向かって走り出す!
「【在庫管理】、炎を収納しろおおおおお!!」
もはや、一か八かの賭けだった。
【在庫管理】は異空間に物を収納できるスキル。
しかし、炎のように形がない物を収納しようと思ったことがなかった。
それに、これはただの炎ではなくフレアドラゴンのブレスだ。
収納できるとは思えない。
だが、これしか道はないのだ!
「うおおぉぉぉ!」
前に出た俺の身体に容赦ない高熱のブレスが襲いかかる。
だが、俺は即座に【在庫管理】によってその炎を収納していった!
身体に触れたものならば収納できる。
それは、例え炎だろうと例外ではなかった……!
「くっ……」
それでも、全身に当たる炎の一部は収納が間に合わずに身体を焼いていく。
しかし、本来ならば一瞬で黒焦げになるほどの威力なのだ。
それだけで済んでいるのならば、問題ない……!
「はぁ……はぁ……」
「グギャァァ!!」
ブレスが止んだ。
ドラゴンは一体何が起こったのか理解できず、警戒して後ろに下がった。
「マグナ……一体何をしたの!?」
「説明はあとだ! セシリア、モモ、俺に魔力を管理する権限をくれ!」
「ええ、分かったわ」
「……へいき」
焼かれた箇所がチリチリと痛む。
だが、気にしている暇はない。
「バドルット! 全力で風の魔術をドラゴンに叩き込んでくれ!!」
それと同時に、セシリアとモモ、そして俺の魔力をすべて【在庫管理】によってバドルットに譲渡する。
これでバドルットの魔力は最大以上……!
「サイクロン・テンペスト!!!」
バドルットが凄まじい威力の風の魔術を放つ。
だが、それだけではフレアドラゴンは倒しきれない。
だから、これを加えるんだ!
「お前自身の炎で焼かれろ!! 【在庫管理】、炎ブレス!!」
俺が放ったのは先程収納した炎ブレスそのものだった。
当然、フレアドラゴンをフレアドラゴンの炎ブレスだけで倒し切ることは出来ない。
そして、バドルットの風の魔術だけでも倒し切ることは出来ない。
しかし、その二つが合わさればどうか?
「グガァァァァァァァァアアアァァァ!!!!???」
フレアドラゴンは炎の竜巻の中で苦しみ、もがいていた。
風の魔術は炎ブレスに多くの風を取り込み、さらにその火力を増させていた。
さらに、その炎は風により拡散されて全身を焼いている。
「ダメ押しだ!」
「グギャァァアアァァァア!!!???」
さらに俺は【在庫管理】によって油の入った瓶を投げつける。
それでなくとも凄まじい火力だった炎は、灼熱となってフレアドラゴンを苦しめた。
……フレアドラゴンは確かに炎に強い。
だが、この灼熱の嵐はその上からフレアドラゴンを焼き尽くす。
「グギィアァ…………」
ズシンと巨躯が倒れた。
静寂が訪れる。
「はぁ……はぁ……やったのか……?」
「やったぜ……」
「ドラゴンを……倒したの……?」
満身創痍。
俺の身体には至るところに火傷が見える。
バドルットは魔力を振り絞ったせいで既に座り込んでいた。
セシリアも脚を怪我してしまっているし、モモも怪我はないとはいえもはや鎧は使えない。
しかし、俺たちは生きている。
フレアドラゴンという強大なモンスター相手になんとか勝利を収めたのだ!
「まさか、フレアドラゴンが狩れちまうとはなぁ」
「ああ、俺も驚いている」
「ブレスを消してくれたマグナのおかげよ」
ドラゴン種は総じて強力なモンスターであり、討伐の際には多くの人員が動員される。
フレアドラゴンもその例に漏れず、討伐にはパーティーの垣根を超えたレイドモンスターとして数十人が動員されるのが常だ。
それはSランクパーティーであっても変わらない。
そんな強敵をたった四人で狩った。
これは本当に信じられないことだった。
「それにしても、あのブレスを止めたのはどうやったんだ? 収納とか言ってたけど【在庫管理】ってそんなことまでできんのかよ?」
「いや、たまたま土壇場でやったらできただけだ。それに、収納が間に合わなくて火傷もしてしまっている」
「それでもスゲースキルじゃねぇかよ!」
それは確かだ。
敵の攻撃を収納できるとなれば、かなりの防御力と言っていいだろう。
とはいえ、今回は危機に瀕して極限まで集中力が高まっている状態だった。
それでも火傷を負っているのだから、普段からできるとは思わないほうが良い。
ただ、利用できるようであれば、こういった使い方についても研究しないとな。
「ま、とにかく休もうぜ。もう魔力がすっからかんだ」
「ああ、やす……」
待て。
そもそもなんで俺たちはドラゴンと戦うことになったのか。
死闘を経て意識から抜け落ちていた。
……そうだ。
俺たちは壁に化けていたモンスターを追ってここまでやってきたんだ。
まずい!
ここにはまだモンスターが居る……!
「すごいわね。フレアドラゴンを倒してしまうなんて」
突如、女性の声がして俺たちはそちらを見る。
そこに居たのは、占い師のような黒い服を着た怪しい女性であった。
女性はそっとこちらに歩いてくる。
「あなたたちじゃフレアドラゴンは倒せないと思ったけれど、中々やるじゃない」
「誰だ! どうしてここに居る!」
「あなたたちが私のことを追ってきたのを忘れたの?」
そう言うと女性は淡い光に包まれ、そのまま壁に姿を変えた。
また、壁から女性へと戻る。
まさか、こいつがモンスターか……!
「ふふふ……」
ゆっくりと歩いてくる女性。
しかし、俺たちはすでに力を使い果たしてしまっている。
く……フレアドラゴンとの戦いに気を取られすぎていた。
このモンスターは最初からこれが狙いだったに違いない。
フレアドラゴンをぶつけ死ぬならそれで良し。
そうでなくても満身創痍となったところを堂々と狩れば良いのだ。
してやられた!
「うふふふ……」
モンスターは両手を上に掲げた。
魔術を放ってくるに違いない……!
クソ、フレアドラゴンを倒したっていうのに、ここで終わりなのか……!




