雑務最強の男、グレートタウロスと戦闘を行う
ボス部屋は明らかに他の階層と構造が違うのでひと目で分かる。
俺たちは警戒を強めた。
「あれは……グレートタウロスか」
ボス部屋の中央に見えたのはグレートタウロス……人型の牛のモンスターだ。
身長は三メートルほどにもなり、茶色くツヤのある毛並みで筋骨隆々の肉体は強靭さを感じさせる。
頭からは立派な角が前に突き出しているのも特徴だ。
さらに目を引くのが手に持った大斧。
バトルアックスと言えるその斧は、グレートタウロスでなければ持てないほど重く破壊力がある。
決して切れ味が良かったりするわけではないが、金属塊をその腕力で振り回せば人は十分死に至るだろう。
「中々厄介なのが出てきたな。モモでも何発も受けるのは難しい相手だ」
「そうね……私が弱点となる部分を狙うにしても、スタミナも多いから持久戦になりがちね」
グレートタウロスはこの前倒したキマイラと比べると純粋なタフネスで上回る。
ただ純粋に体と力が強く物理的な攻撃をしてくるだけだが、そういったもののほうが意外と厄介だったりするものだ。
しかし、俺には考えが一つあった。
「グレートタウロスは激しく動くものを優先して狙う性質がある。それを利用しよう」
「え? そんな性質があるの?」
「ああ、これは多くの牛系モンスターに共通する特徴であることは調べた」
牛系下位モンスターであるダッシュブルなどは動くものを狙うことはよく知られている話だ。
そこで、他の牛系モンスターでもこれが通用するのか個人的に調べていた。
一度だけしてグレートタウロスで試したことはないので不確定ではあるが、おそらく同じ特性を持っている。
「俺も知らない未知の特性がある可能性もあるから確実とは言えないが、きっと大きく動けばやつの攻撃の囮になれるはずだ」
「なるほどな」
「それともう一つ、グレートタウロスは角を狙うと怒る性質がある」
これは図鑑に載っていることだが、グレートタウロスは角を誇りにしているので角を狙われると激昂するのだ。
「つまり、角は狙わないようにってことだな。分かったぜ」
「違う。むしろ最初に角を狙って怒らせるんだ」
「なんでだよ?」
「実は、作戦があるんだ」
俺はみんなにその作戦を話し始めるのだった……
*
「ウィンドカッター!」
バドルットが正確なコントロールでグレートタウロスに向かって風の刃を放つ。
これが戦いの開始の合図だ。
「ブ……ブモオオオオオォォォ!!!!!」
風の刃は見事にグレートタウロスの角に命中し、ほんの少しの傷をつけた。
グレートタウロスはそれに怒り狂い、こちらをにらみつける。
「こっちだ!」
そこで走り出したのは俺だ。
俺の役目はわざと部屋の隅に向かって走っていくこと。
逆に、仲間にはできる限り動かないように言ってある。
「ブモォォォォ!!!!」
グレートタウロスはそれに気づくとターゲットを俺にしたようだ。
狙い通り。
振り返れば、斧を構えて猛スピードで走ってくるグレートタウロスが見える。
中々の迫力だな。
そんなことを思っていれば、ついに部屋の角に到達してしまう。
逃げ場はどこにもない。
俺はそこで【在庫管理】からロードリスの作った魔術銃を取り出す。
「水の魔術缶……食らえっ!」
魔術銃の引き金を引くと、俗にウォーターボールと言われる魔術が発射される。
これは水の球を飛ばすだけの低級の魔術だが、今はこれが理想だ。
「ブモォッ」
グレートタウロスは一瞬警戒の姿勢を見せる。
しかし、水の球はグレートタウロスまで届くことすらなく、俺とグレータウロスの間の地面に落ちた。
それを見て、グレートタウロスはスピードを上げた
チャンスだと思ったのだろう。
「三……ニ……一……」
俺はタイミングを図る。
グレートタウロスの突進が当たるまであと数秒、今がタイミングだ!
「バドルット、頼んだ!」
「おうともよ! アクア・フローズン!」
バドルットの魔術により、さきほど俺が濡らしておいた地面が凍りつく。
なお、バドルットは直接氷を生み出す魔術も使うことができる。
しかし、それは正確には水の魔術を凍らせるという手順を取っていた。
つまり、普通の魔術より消耗が大きいのだ。
また、すでに存在している水を凍らせるほうがより素早く行える。
このようなタイミングをピッタリあわせないといけないときは事前に水を用意したほうが良いと言えた。
今回のように何階層まであるかわからないようなダンジョンを探索するのであれば、魔術師の消耗というのは一番避けなくてはならない。
「ブモォォォ!?」
ドシン。
グレートタウロスは全速力で突進をしていたがために、突然現れた氷に対処することができない。
ものの見事に体勢を崩してうつ伏せになるように氷に倒れ込んで滑っていた。
「セシリア、今だ!」
「任せなさい」
ここで天井から飛び込んできたのはセシリアだ。
実は、セシリアには既にこの角の天井近くで待機してもらっていた。
それというのも、この瞬間こそがグレートタウロスの弱点を狙えるタイミングだからだ。
「食らえッ!」
セシリアの剣がグレートタウロスの首の後を貫く。
全身が筋肉質で剣すらものともしないグレートタウロスだが、この首の裏だけは剣が通りやすい上にダメージも大きい。
とはいえ、グレートタウロスは三メートル近い巨躯なのでふつう狙えない。
仮に狙えたとしても、動き回るグレートタウロスに飛び込むような動きになるので危険が大きいのだ。
今のように倒れ込んでいるときにだけ有効な一手と言える。
「ブモォォォ!!」
痛みに暴れるグレートタウロスだが、すでにセシリアは飛び退いている。
その上、周囲は凍っていて思うように動けていない。
「モモ、隙を見て飛び込むんだ!」
そんな暴れるグレートタウロスに突っ込んだのはモモだ。
モモの鎧は氷だろうがものともせずに動くことができると事前に聞いていた。
実際、普通の地面と変わらないように氷の上も走っている。
そのままモモはグレートタウロスに懇親のタックルを当て、グレートタウロスを壁に弾き飛ばした。
普通の状態のグレートタウロスならここまで派手に飛ばされることはなかっただろう。
しかし、すでに首にダメージを負って正常な判断を失い、氷の上で暴れている状態なら話は別だ。
「ブ……ブモォ……」
グレートタウロスは壁に激突してそのまま気絶した。
首の傷は致命傷なので、放っておいてもそのうち死ぬだろう。
討伐完了だ。
「嘘だろ? グレートタウロスってこんなに簡単に倒せるもんなのかよ」
「わざと怒らせて突進を誘発し、氷で滑らせて隙を作る作戦……モンスターのことを知り尽くしていないとできない神業ね」
「それほどでもないさ。必要だったから覚えただけだ」
前のパーティーでは俺はかなり気を遣って戦闘に参加していた。
直接的な戦闘力がない分、サポーターとして役に立たなくてはならない。
その仕事を果たすのに、モンスターの知識は必要不可欠だったというだけだ。
さらに言えば、俺はアイリスを救う方法を探すためにモンスター図鑑を読み込んだ。
モンスター図鑑は世に出回っているもので何種類かあるのだが、できる限り多くを集めて知識を叩き込んでいる。
モンスター図鑑には限られた情報しか載っていないが、それはモンスターの性質や特徴を予想するのに大いに役に立っていた。
「怪我したやつはいないか? 居なかったら、調査を続けよう」




