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雑務最強の男の過去

 あれは八年前のこと。


 俺は早くに両親を亡くし、妹のアイリスとたった二人で生活を送っていた。

 ここからかなり東の方にある小さめの街だ。


 もちろん、お金を稼がなくては生活ができないから、俺はある程度危険な仕事をしなくてはならなかった。

 その仕事とは、モンスター討伐の手伝いだ。

 このときは冒険者というわけではなくあくまで手伝いという形ではあったが、やっていることはほぼ変わらない。

 俺はこのときから【在庫管理】を使えたから雇ってもらいやすかったんだ。


 両親を亡くした俺にとって唯一の肉親はアイリスだけだったし、俺は必死に努力をしてお金を稼いだ。

 危険ではあったが、その分なんとか生活できるだけのお金は稼げていた。


 そんなある日、俺はモンスター討伐の手伝いで街から西の方に遠征することになる。

 その場所は遠く、街から片道一週間ほどはかかるだろう。


 アイリスが居るのに家を空けるのは嫌だったが、一度断れば次の仕事が来づらくなる。

 生活をするためにも、俺はこの仕事を受けるしかなかった。


 その遠征は過酷なものだったけれど、無事に目的のモンスターを倒して帰路につくことになる。

 俺はこのときは仕事を無事に終えた解放感と、遠征で入るお金を想像して心を踊らせていた。


 この遠征は割と大きな仕事だったらしく、日割りで考えても普段のニ倍以上の給料をもらえることになっていたんだ。

 家を空けてしまった分、アイリスに良い食事でもご馳走してあげたかった。



 ……しかし、それは叶わなかった。


 なぜなら、帰還した俺たちが見たのは”すべてが凍りついた街”だったからだ。


 薄く氷のようなものが地面や建物を覆っており、不気味で冷たい風が吹いていた。

 街中には氷漬けになった人々が彫像のように佇んでいる。


 俺は急いで家に戻った。

 だが、そこで見たのは氷漬けになったアイリスの姿だった。


 呼びかけても当然返事はなく、時が止まったように固まっている。

 いや、時が止まったようにと言ったが、実際に時が止まっているのかもしれない。


 なぜなら、横を見れば暖炉の火すらも凍っていたからだ。

 火ですら氷に覆われ、動きを止めている。

 これが普通の氷ではないことにここで気がついた。


 火をおこして近づけてみても氷が溶ける様子はない。

 試しに刃物で削ろうとしても刃物の方が欠けてしまう。

 アイリスを覆う氷を壊す手段が俺にはもはや思いつかなかった。


 ……そして、俺はアイリスを助けるために様々な情報を集めることにする。

 一体この現象はなんなのか。

 どうすれば氷を溶かせるのか。


 そうしてたどり着いたのが太陽鳥サンファナスの”太陽の冠羽”だった。

 太陽の冠羽はあらゆるものを溶かす力を持っている。

 あの氷を溶かせるのは太陽の冠羽だけなんだ。


 ……


「……うう、泣かせるじゃぁねぇか! 大変だったんだなぁ、マグナ! オレも太陽の冠羽を探すのに協力するぜ」

「私も、できることなら協力するわ」


 話を終えると、バドルットが目に涙を浮かべながら肩に手を置いてきた。

 セシリアもまた優しく声をかけてくれる。


「なるほどねぇ……それで、その氷の原因は分かったのかい?」

「それは未だに分かっていないんだ。街が凍りつくこの現象は向こうの方で”氷の魔女の呪い”と呼ばれているが、原因は誰も知らない」

「ふーむ……」

「図鑑にも載っていない未確認モンスターの可能性が高いと俺は思っているが、原因がなんだとしても、とにかく俺はアイリスを助けたい」


 あの氷は完全に時間を止めたように街を覆っている。

 数年経ってから訪れたこともあるが、アイリスの姿は全く変わっていなかった。


 だからこそ、氷さえ溶かせればきっとアイリスは助かるはずなんだ!


「事情は分かったよ。ボクも暇なときに情報を集めてみよう」

「みんな、ありがとう……」


 みんなは俺に温かい言葉をかけてくれる。

 その言葉が俺の胸にしみた。


 実を言えば前のパーティーに居たときにドルトンたちにもこの話はしていたのだ。

 しかし、太陽の冠羽を買い取らせてくれるという約束をしただけで、協力などはしてくれなかった。


「何にしても、まずは目の前の未開ダンジョンに期待しよう」

「そうだな」

「それじゃ、次のクエストについて話すよ~」


 俺は目の前のクエストに頭を切り替える。

 ロードリスは依頼主から貰った情報やクエスト期間について話し始めた。


「調査期間は最大で二ヶ月。ただし、分かってると思うけど調査開始は早めにね」


 ……このようなダンジョン調査のクエストは迅速さが求められている。

 なぜならば、ダンジョンからはモンスターが出てくる可能性があるからだ。


 当たり前だが、ダンジョン内部で生み出されたモンスターも外に出ることができる。

 それが弱いモンスターであればいいが、強力なモンスターであれば近隣の村が壊滅的な被害を受けることも否めない。


 そのため、人里の近くで未開のダンジョンが見つかったときにはいち早く入って調査をする必要があるのだ。


 もちろん、今回のクエストはそういう調査も含めて依頼されているだろう。


「依頼主としては小さい領地なのもあってダンジョンから出るモンスターの危険を懸念しているみたいでね~。ダンジョン内で見つけたアイテムはボクたちが貰える代わりに調査をしっかりと頼みたいとのことだ」

「おお、それは探索のしがいがあるな!」

「大変だろうけど、三日以内に準備を整えてそこに向かって出発してもらいたいんだ~。平気かな?」

「私は大丈夫よ。ただ……」


 そう言ってセシリアは俺の方を見る。

 おそらく、準備が一番多い俺のことを気遣ってくれているのだろう。


「一日もあれば準備はできる。必要な道具の仕入先は怠っていないからな」

「さすがね」

「素早く調査を行う必要もあるし、少数精鋭で次もキミたち四人で行ってもらうから準備は怠らないようにね~」


 こうして、俺たちはアブラス領の未開ダンジョンへと行くことになったのだった。


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