90 千年越しの悪夢②
俺の耳に叫び声のような、なにかが聞こえる。
なんだ……?
俺はゆっくりと起き上がった。
まわりは綺麗なほど何もない、漆黒の闇。
その闇のなかにポツンと俺以外に佇む者がいた。
「敵影を確認。個体ルーナ=枢木と断定。攻撃を開始します」
その人物は赤い髪に、赤い瞳、そして俺と同じ顔を持っていた。
その人物(以下、ドッペルゲンガー)は血のように赤く染まった刀を片手に俺に迫ってくる。
「魔力の供給が十分ではありません。魔法、スキルの使用を制限します」
どうやら話を聞いてる限り相手は魔法もスキルも使えないようだ。
俺は適当にスキルを発動する。
が、スキルがどれも発動しない。
しかし俺には考えている時間は一切なかった。
俺のドッペルゲンガーが俺に襲ってきたからだ。
俺も刀を抜きドッペルゲンガーに立ち向かっていった。
誰もが終わりだ、と思った。
しかしいくら経っても何も起こらない。
ファブリスは少女の上に浮かんでいる魔法陣が時々ブレていることに気づいた。
(まだ猶予はあるかもしれない。ならばやることはひとつ……!)
彼は一直線に少女に向かって飛び出した。
だがその手には剣はない。
「『龍神の加護システム』起動!」
《起動、確認しました。》
ファブリスのからだが青く光る。
そして前よりも大きい蒼い翼が現れる。
メイドが再び彼のことを襲おうとするが翼から飛び出したいくつもの光線によって妨害されてしまった。
ファブリスは少女のところまでたどり着くと少女の肩をがっしりと掴んだ。
そして二人のまわりに結界を張る。
「魔法名Nam lucet cras40。Parcentes inferiores, interiores hostium copias diruere et impedire」
ファブリスの口から無意識にその呪文が語られる。
その魔法名の意味は「光輝く明日のために」である。
蒼い翼から植物の蔓のようなものが現れる。
その蔓は少女のからだのなかに次々に入っていった。
ファブリスは一瞬、蔓が少女を脅かすものだと思って慌てたが蔓からはなぜか殺意は感じられなかった。
むしろこの少女を助けようとしているような風にも見えた。
ファブリスは蔓が少女のなかに入っていくのを見ながら懸命に声をかけ続けた。
この声は必ず少女に届く。
そう信じて。
俺は息を切らしながら刀を構えていた。
もうどのくらい時が経ったことだろう。
そう思わせるほど激しい戦いだった。
二人の瞳がなにかを捉えたようにギラリと光る。
それと同時に二人は前に飛び出していた。
ドッペルゲンガーが俺に刀を振り下ろす。
それを俺は刀で受けてめてから胴に斬りかかった。
その攻撃をドッペルゲンガーが刀で落として再び俺に襲い掛かってくる。
二人はその口からなにも発さなかった。
雄たけびも、相手の刀がからだに当たったときの呻き声さえも。
俺はドッペルゲンガーの振り下ろした刀を一歩下がってかわしながら刀を振りかぶる。
そしてドッペルゲンガーが空振りしたところを襲い掛かった。
しかし横に移動され、逆にこちらが危険な状態になってしまった。
ダメだ……避けられない!
赤い刃はもう俺に迫ってきていた。
俺は恐怖のあまり目を瞑る。
と、その時。
いきなり上のほうから植物の蔓のようなものが降りてきた。
そしてドッペルゲンガーに絡まって動きを封じる。
「ぉおおおおおおおおおおおお!!!」
俺はそれをチャンスと刀を片手にドッペルゲンガーに向かっていった。
すると刃がライトエフェクトを光らせながらドッペルゲンガーの胸を突き破った。
俺はそのままの勢いのまま、明るく光っている場所に飛び出した。




