86 継承の儀式
俺たちの目の前に現れた人物はメイドだった。
しかしメイドにしては若い。
見た目は俺たちと同じ10代ぐらいだ。
両者、しばらく沈黙する。
しかしその沈黙を破ったのは俺ではなくメイドだった。
「私は十二賢人NO.2のミサ=テルヤマ。女神トルスマンの命令のもと、あなたとそこの黒龍を処断します」
そう言うと彼女は俺にむかって走ってきた。
俺は足の裏から『変形刃』を出してメイドを倒そうとしたが『変形刃』が発動しない。
俺は仕方なく刀を取り出してメイドに立ち向かう。
するとメイドは刀を警戒したのか、俺から距離を取った。
女神様、現在使用可能なスキルは?
《使用可能なのは裏スキルと特殊能力のみです》
ということは実際に使えるのは『伸縮刃』だけか……
使える武器がひとつしかないのはなかなかキツイな。
しかも今回は相手の攻撃方法がまったくわからないときた。
さて……どうする……?
そうやって膠着している二人をファブリスはじっと眺めていた。
どうしよう!? 止めないと!
でもなんかアイツの後ろ姿、どっかで見たことあるな。
いつだったかな……
その時、後ろの家の扉がガチャリと開いた。
「おばさん!」
「一体なにが……!」
家から飛び出してきた人物はエルフリーデだった。
(何だいあの刀は。魔力が溢れ出ておる。それからその相手も……)
エルフリーデは二人から強大な魔力を感じていた。
そしていままで見てきたどんな魔物よりも強いと確信していた。
(あんな二人がここで暴れたら街がひとつ吹き飛ぶ! どうにかして止めないと……。でもアタシはもう……)
エルフリーデはファブリスを一瞥した。
(この子、アタシの眷属だったよね? しかも『龍神の剣』を持つ正当な後継者。仕方ない。この子に継承させよう)
「龍之介」
「なに?」
いきなり話しかけてきたエルフリーデにファブリスは曖昧に返事をする。
するとエルフリーデが片手でファブリスの顔を押さえつけた。
「なにを……?」
しかしエルフリーデはそれを無視して儀式を始める。
「魔法名Elfurie203。Legitimus meus heres,hanc potestatem iuro possidere si recte potentem potero tractare」
エルフリーデが呪文のような言葉を発した。
それと同時にファブリスは自分のからだに何かが流れ込んでいくのを感じていた。
『はやく起きな』『起きろ!』『起きてください!』
脳内に様々な人の声が響く。
それからたくさんの声が聞こえたが最後に聞こえたのはルーナの声だった。
『はやく起きろよ、バカ』
「……っ!」
(思い、出した……)
彼の脳内でいままでのことが鮮明に再生される。
はじめてルーナと出会ったときのことや、ドラグーンからの追放、新たな国づくりまで何から何まで。
そして彼女を守るために龍神になろうとしたことも。
そう、すべてはそこからだったのだ。
彼はルーナを守れるほどの男になるために旅に出、記憶を失った。
あの世界の女神によって。
次の瞬間、ルーナとファブリス、メイドのからだが光に包まれた。
そして女神が口元に微笑を浮かべながら呟く。
『千年越しの悪夢』のお目覚めです、と。




